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第12話 リオンをかくまう
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泰然自若としてその場を去ったチャールストン卿だったが、実は内心ヒヤヒヤしていたそうだ。
だって、その噂を最初に広めたのは、実は私の姉たちだったのですもの。つまりチャールストン卿の夫人なのだ。
チャールストン卿は、自分はうわさ話になんか関心はなく、今回、介入したのはひとえに自分をまきこむなと警告したかったからだけと言う立場を崩したくなかった。
「だって、名誉警視総監なんですもの。知ってしまったら調査をしなくてはいけなくなるかも知れないでしょ? あなたはこの家に最初からいるのですもの。まあ、見つかったところで、ジョージの家でジェームズの家ではないから、どうにでもできると思うけど、こんなバカげた話には関わりたくないって言うのよ」
レジータ姉様は、旬のサクランボがギッシリ入った果物パイを手土産に、シャーロット姉様の屋敷に遊びに来ていた。
「でも、それは表向きの言い訳。実は、興味津々よ。怒ってもいるのよ。だから乗ってくれたの」
フフッと姉様は笑った。
姉の話によると、今両親は私を捕まえようと躍起になっているらしい。
「本当に何を考えているのかわからない。トマシンに謝らせますからって、あなたが何を謝ると言うの?」
しかし、そんなわけで私は外に出られなくなってしまった。
外と言ってもせいぜい甥や姪たちと、自邸の庭に出るくらいだった。
子どもが外に出たがるので、天気のいい日の午後は付き添いでよく庭に出ていた。
「ねえ! ちょっと! トマシン!」
私は鉄柵の外から、突然声を掛けられて死ぬほど驚いた。
振り向くと、そこにいたのは黒いくせ毛とアイスブルーの瞳の若い男だった。
どこかで見たような……とても印象深いきれいな男……
「まさか……リオン?」
「あ、覚えていてくれた。頼む。お願いがあるんだ。かくまって欲しい」
「えええ?」
「毎日見てた。今日こそ声を掛けようと思っていたんだ。頼む。中に入れてくれ。事情は話すから!」
「だ、ダメよ。ここは私の家じゃないの」
「知っているよ。お姉さまの家だろ? 自分の家には帰れないって言ってたもの」
「私には決められないわ」
「馬車代!」
「え?」
「馬車代貸しただろ? 今度は俺を助けてくれよ」
ガラガラと馬車が一台走っていった。リオンは振り向いて、何か警戒しているようだったが、馬車が行き過ぎてしまうと、振り返って私に言った。
「早く!」
私の手が勝手に動いて、庭師用の背の低い通用口のカギを開けた。
リオンは素早い動きで中に入ると、帽子をさらに深くかぶった。
「はあ。助かった」
「どうしたの?」
「ああ、全部君のせいだよ」
リオンの色の薄い目が私をにらんだ。もっとも、笑いを含んでいたけれど。
いつもそうだ。リオンは私を追い詰めない。その目を見て私はほっとした。
「私があの娼館から逃げたから?」
私は心配になって聞いた。
「そうじゃない。いや、そうかも。とにかく、問題は君が何かしたからじゃない。君が来たばっかりに、今、あの娼館はつぶれかけている。理由は、君がいたことで存在が表沙汰になったので、利用客の皆様が利用を自粛しているからなんだ」
「まあ」
私はマヌケな声を上げた。だって、私はあそこに行きたかったわけじゃないし、存在そのものを知らなかった。
あの娼館を巡って大騒ぎになっているのだって、私のせいじゃない。
私を娼館に連れて行ったから、問題になっているのだ。私の意志は関係ない。
「そ。だから君のせいじゃない。だけど、とにかくあの店は表沙汰になってはまずい人間のたまり場だったのさ」
もしかしてあなたも?
私はリオンのアイスブルーの目を見つめた。
「とにかく建物の中に入って。姉様に紹介するわ」
私は決心した。
この人を助けよう。馬車代を貸してくれたんだもの。
だって、その噂を最初に広めたのは、実は私の姉たちだったのですもの。つまりチャールストン卿の夫人なのだ。
チャールストン卿は、自分はうわさ話になんか関心はなく、今回、介入したのはひとえに自分をまきこむなと警告したかったからだけと言う立場を崩したくなかった。
「だって、名誉警視総監なんですもの。知ってしまったら調査をしなくてはいけなくなるかも知れないでしょ? あなたはこの家に最初からいるのですもの。まあ、見つかったところで、ジョージの家でジェームズの家ではないから、どうにでもできると思うけど、こんなバカげた話には関わりたくないって言うのよ」
レジータ姉様は、旬のサクランボがギッシリ入った果物パイを手土産に、シャーロット姉様の屋敷に遊びに来ていた。
「でも、それは表向きの言い訳。実は、興味津々よ。怒ってもいるのよ。だから乗ってくれたの」
フフッと姉様は笑った。
姉の話によると、今両親は私を捕まえようと躍起になっているらしい。
「本当に何を考えているのかわからない。トマシンに謝らせますからって、あなたが何を謝ると言うの?」
しかし、そんなわけで私は外に出られなくなってしまった。
外と言ってもせいぜい甥や姪たちと、自邸の庭に出るくらいだった。
子どもが外に出たがるので、天気のいい日の午後は付き添いでよく庭に出ていた。
「ねえ! ちょっと! トマシン!」
私は鉄柵の外から、突然声を掛けられて死ぬほど驚いた。
振り向くと、そこにいたのは黒いくせ毛とアイスブルーの瞳の若い男だった。
どこかで見たような……とても印象深いきれいな男……
「まさか……リオン?」
「あ、覚えていてくれた。頼む。お願いがあるんだ。かくまって欲しい」
「えええ?」
「毎日見てた。今日こそ声を掛けようと思っていたんだ。頼む。中に入れてくれ。事情は話すから!」
「だ、ダメよ。ここは私の家じゃないの」
「知っているよ。お姉さまの家だろ? 自分の家には帰れないって言ってたもの」
「私には決められないわ」
「馬車代!」
「え?」
「馬車代貸しただろ? 今度は俺を助けてくれよ」
ガラガラと馬車が一台走っていった。リオンは振り向いて、何か警戒しているようだったが、馬車が行き過ぎてしまうと、振り返って私に言った。
「早く!」
私の手が勝手に動いて、庭師用の背の低い通用口のカギを開けた。
リオンは素早い動きで中に入ると、帽子をさらに深くかぶった。
「はあ。助かった」
「どうしたの?」
「ああ、全部君のせいだよ」
リオンの色の薄い目が私をにらんだ。もっとも、笑いを含んでいたけれど。
いつもそうだ。リオンは私を追い詰めない。その目を見て私はほっとした。
「私があの娼館から逃げたから?」
私は心配になって聞いた。
「そうじゃない。いや、そうかも。とにかく、問題は君が何かしたからじゃない。君が来たばっかりに、今、あの娼館はつぶれかけている。理由は、君がいたことで存在が表沙汰になったので、利用客の皆様が利用を自粛しているからなんだ」
「まあ」
私はマヌケな声を上げた。だって、私はあそこに行きたかったわけじゃないし、存在そのものを知らなかった。
あの娼館を巡って大騒ぎになっているのだって、私のせいじゃない。
私を娼館に連れて行ったから、問題になっているのだ。私の意志は関係ない。
「そ。だから君のせいじゃない。だけど、とにかくあの店は表沙汰になってはまずい人間のたまり場だったのさ」
もしかしてあなたも?
私はリオンのアイスブルーの目を見つめた。
「とにかく建物の中に入って。姉様に紹介するわ」
私は決心した。
この人を助けよう。馬車代を貸してくれたんだもの。
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