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第4話 娼館へ行け
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「噂で聞いたが、奥様はこの家を抜け出して、街のひどい女向けの娼館で男を買っているらしいな」
「えっ?」
メアリがたまげた。
「奥様はずっと家におられましたよ?」
「出し抜かれたんだ」
リチャードが宣言した。
「そんなことはございません」
メアリが必死になって言いだした。
「出し抜くのはお手のものだと、実家に勤めていた侍女が言っていた」
「えっ?」
今度は私が叫んだ。
「カザリンと言う女だ」
カザリン……私は名前を聞いただけで、いやになった。
それを見たリチャードはほくそ笑んだ。
「本当らしいな。辣腕の抜け目のない侍女らしい。引っこ抜いてきた。これからは、上流貴族向けの娼館に行ってもらおう。いい男がそろっている。満足できるぞ」
「だんなさま! どうしてそんなことを?」
メアリが叫んだ。
「一度、俺に離婚歴が付けば、平民の女とでも結婚できるだろう。貴族の令嬢とは名ばかりのあばずれに引っかかったかわいそうな男になるんだ」
「旦那様! 私はずっと見てまいりましたが、本当におとなしい何も知らない令嬢です。ドレスの発注なんか希望されたこともありませんし……」
「お前には失望したよ、メアリ」
リチャードが言った。
「なんで何年も務めてきた家の主人ではなくて、お飾りの評判の悪い常識外れのバカ娘の味方なんかするんだ。バセット伯爵家のカザリンとか言う侍女は、常識のおかしいお嬢様の軌道修正するのに苦労しましたと言っていたぞ」
「カザリンが来るのですか?」
リチャードがニヤリとした。
「ははあ! 本当らしいな! 伯爵家が紹介してきたんだ。まあ、もう娘がいないから不要だということだろうけど、心配だから付けてくれとな。侍女の一人も付けないで嫁入りするのは恥だと思っているらしいな」
「嫌です! カザリンだけは嫌。嘘ばかりついて、私の立場を悪くしたのはカザリンです!」
「お嬢様!」
すると、ひょこッとカザリンが顔を出した。
「おお、着いていたのか」
「お嬢様、ひどい。私は誠心誠意お勤めしましたのに。なんてことをおっしゃるのですか。でも、今日からは私が着いていますから、お嬢様はもう少し安心な娼館に行くことが出来ますわ。旦那様」
カザリンは最上の礼をリチャードに向かって取った。
「少しでも安心な店にご案内しますわ」
「ちょっと! どうしてトマシン様が娼館なんかに行かなくてはいけないのですか?」
「それは娼館通いの実績があれば、旦那様が円満に離婚できるからです。お嬢様の有責で」
私とメアリは、カザリンの顔を見た。
「これまで、散々、旦那様御顔に泥を塗るような真似をされてこられたことは聞いています」
「どんなことですか?」
メアリが尋ねた。
「まあ、知らないとは言わせませんわ。お知り合いやお友達に、侯爵様の悪口を書いて送っているではありませんか。かなりの数の手紙を出しているのに、お屋敷の方が知らないはずがありません」
リチャードの額の縁が赤くなってきていた。
「話をしたこともほとんどないのに、あることないことよく書けるものだ。恥だ。さすがに娼館通いが常習化しているだけある。まだ若いのに、悪辣な娘だ」
全く予想外の展開に、私は本気で不思議そうな顔をしていたらしい。
「こんな奥様なのに……」
メアリが言いかけたが、すかさずカザリンが割って入った。
「本当に昔から、とぼけるのがお上手で」
「えっ?」
メアリがたまげた。
「奥様はずっと家におられましたよ?」
「出し抜かれたんだ」
リチャードが宣言した。
「そんなことはございません」
メアリが必死になって言いだした。
「出し抜くのはお手のものだと、実家に勤めていた侍女が言っていた」
「えっ?」
今度は私が叫んだ。
「カザリンと言う女だ」
カザリン……私は名前を聞いただけで、いやになった。
それを見たリチャードはほくそ笑んだ。
「本当らしいな。辣腕の抜け目のない侍女らしい。引っこ抜いてきた。これからは、上流貴族向けの娼館に行ってもらおう。いい男がそろっている。満足できるぞ」
「だんなさま! どうしてそんなことを?」
メアリが叫んだ。
「一度、俺に離婚歴が付けば、平民の女とでも結婚できるだろう。貴族の令嬢とは名ばかりのあばずれに引っかかったかわいそうな男になるんだ」
「旦那様! 私はずっと見てまいりましたが、本当におとなしい何も知らない令嬢です。ドレスの発注なんか希望されたこともありませんし……」
「お前には失望したよ、メアリ」
リチャードが言った。
「なんで何年も務めてきた家の主人ではなくて、お飾りの評判の悪い常識外れのバカ娘の味方なんかするんだ。バセット伯爵家のカザリンとか言う侍女は、常識のおかしいお嬢様の軌道修正するのに苦労しましたと言っていたぞ」
「カザリンが来るのですか?」
リチャードがニヤリとした。
「ははあ! 本当らしいな! 伯爵家が紹介してきたんだ。まあ、もう娘がいないから不要だということだろうけど、心配だから付けてくれとな。侍女の一人も付けないで嫁入りするのは恥だと思っているらしいな」
「嫌です! カザリンだけは嫌。嘘ばかりついて、私の立場を悪くしたのはカザリンです!」
「お嬢様!」
すると、ひょこッとカザリンが顔を出した。
「おお、着いていたのか」
「お嬢様、ひどい。私は誠心誠意お勤めしましたのに。なんてことをおっしゃるのですか。でも、今日からは私が着いていますから、お嬢様はもう少し安心な娼館に行くことが出来ますわ。旦那様」
カザリンは最上の礼をリチャードに向かって取った。
「少しでも安心な店にご案内しますわ」
「ちょっと! どうしてトマシン様が娼館なんかに行かなくてはいけないのですか?」
「それは娼館通いの実績があれば、旦那様が円満に離婚できるからです。お嬢様の有責で」
私とメアリは、カザリンの顔を見た。
「これまで、散々、旦那様御顔に泥を塗るような真似をされてこられたことは聞いています」
「どんなことですか?」
メアリが尋ねた。
「まあ、知らないとは言わせませんわ。お知り合いやお友達に、侯爵様の悪口を書いて送っているではありませんか。かなりの数の手紙を出しているのに、お屋敷の方が知らないはずがありません」
リチャードの額の縁が赤くなってきていた。
「話をしたこともほとんどないのに、あることないことよく書けるものだ。恥だ。さすがに娼館通いが常習化しているだけある。まだ若いのに、悪辣な娘だ」
全く予想外の展開に、私は本気で不思議そうな顔をしていたらしい。
「こんな奥様なのに……」
メアリが言いかけたが、すかさずカザリンが割って入った。
「本当に昔から、とぼけるのがお上手で」
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