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第62話 伝承者たち
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私たちの子どもに魔法力はなかった。
可愛い男の子で、ゆりかごの中ですやすやと眠っている。
私は大満足だった。
エドはガッカリしたみたいだけど、私は良かったと思っている。
だって、アルクマールでは、魔力持ちは珍しいけどたまには居る、だけど大したことはできないものだということを、みんなが理解していた。
でも、ガレンではどう誤解されるかわからないし。これでいいのだ。
だけど、二人目の子どもが生まれた時、私は観念した。
マズイ。
すごい力だった。
これは城を吹っ飛ばすくらいじゃすまない。
エドは妙な顔をしてたが、彼にも感知能力はわずかだがあるので、何か感じているらしい。
「王女様ですよ」
ニコニコと嬉しそうに乳母の伯爵夫人が赤ん坊を抱いて連れてきた時、私はエドと目混ぜした。
あ……っと思った時には、赤ん坊は伯爵夫人の腕から抜け出て、私の腕の中にいた。
「おばあさまをお願いしましょう。あとラビリアも」
突然大事な王女様を腕から落としたと感違いした伯爵夫人が、ショックのあまり気絶してしまって、大勢がドタバタと王妃の寝室に出入りする様を見ながら私はエドに提案した。
「……そうだね」
続く第三子の王子がこれまたマズかった。
「…………」
彼が歩くことは後回しにして、堂々と宮廷内を浮遊し始めた時、私は、私の乳母をアルクマールから呼び寄せた。私だって、そんなことはしなかったと思う。
「ドアを閉めてもすり抜けてしまったら……あ、大丈夫か」
ドアを通り抜ける気満々ですごい勢いでぶつかったらしく、ゴチンと言うりっぱな音と同時に、赤ん坊が火がついたように泣き出した。
上の子も、魔力を発揮し始めるかもしれない。なんか匂う。
「だから言ったじゃないか」
やつれ果てたおばあさまが言った。
「もう、子どもは三人でいいでしょう。十分だわ」
しかしエドが反論した。
「慣れればいいんだ。みんなが慣れれば!」
無責任じゃないのかしら?
この魔法の蔓延の続きはどうなるのかしら。
いろいろな行事がすんで、ずいぶん日が経った時、騎士団長と正式に会見する時が来た。
「クリスティーナ妃だ」
ファルクに会った時、少し震えた。
「お目にかかれて光栄です」
冷淡に聞こえる声でファルクは挨拶した。
あんなことがあった後だけれど、彼が幸せになりますように。
私が幸せだからか、なぜだか贖罪の気持ちを抱いてしまう。
「殻にこもってしまって、ダンスパーティだのうわついた行事には一切でないのだ」
アンセルムは心配そうだった。
「気が変わるさ、そのうち」
エドはそう言うけれど、しばらくは沈んでいるんじゃないかしら。
「生涯に一度の恋だなんて、始末が悪いな」
「忘れるのに時間がかかるだけだといいんだがな」
おばあさまのデタラメだったって、アンセルムに教えた方がいいのかしら?
エドの魔法力はわずかだったけれど、そのせいで私達はここまで惹かれあったのかもしれない。
「おばあさまの言う意味がわかってきたよ。魔法って簡単に言うけど、取り返しのつかないことを招きかねないな」
エドと私は時々二人で雲隠れする。あの誰にも知られることのない秘密の城にだ。
エドの身代わりは緑のカエルで、私の身代わりはラビリアが嫌々ながら務めてくれる。
古城には誰も入れない。
様子をうかがうおべんちゃら上手な貴族たちやも、知らない間に秘密を集めて回る侍従や侍女もいない。
「仕方ないね。知っている限りの魔法を教えるよ」
おばあさまは、まわりを飛び交う王子や王女を避けながら、魔法の伝承をしてくれる。
「お前達はそう言う運命なのかも知れない」
今では、一番上の王太子も魔力があることがわかってきた。
「私が最後の魔女のはずだったのに。お前たちは出会って結婚してしまった。今じゃ魔法使いの大量生産だ」
おばあさまは、困った様子だったが、私は笑った。
魔法使いだろうが、魔女だろうがどうでもいいの。
可愛い子どもに囲まれて、私たちは幸せだから。
可愛い男の子で、ゆりかごの中ですやすやと眠っている。
私は大満足だった。
エドはガッカリしたみたいだけど、私は良かったと思っている。
だって、アルクマールでは、魔力持ちは珍しいけどたまには居る、だけど大したことはできないものだということを、みんなが理解していた。
でも、ガレンではどう誤解されるかわからないし。これでいいのだ。
だけど、二人目の子どもが生まれた時、私は観念した。
マズイ。
すごい力だった。
これは城を吹っ飛ばすくらいじゃすまない。
エドは妙な顔をしてたが、彼にも感知能力はわずかだがあるので、何か感じているらしい。
「王女様ですよ」
ニコニコと嬉しそうに乳母の伯爵夫人が赤ん坊を抱いて連れてきた時、私はエドと目混ぜした。
あ……っと思った時には、赤ん坊は伯爵夫人の腕から抜け出て、私の腕の中にいた。
「おばあさまをお願いしましょう。あとラビリアも」
突然大事な王女様を腕から落としたと感違いした伯爵夫人が、ショックのあまり気絶してしまって、大勢がドタバタと王妃の寝室に出入りする様を見ながら私はエドに提案した。
「……そうだね」
続く第三子の王子がこれまたマズかった。
「…………」
彼が歩くことは後回しにして、堂々と宮廷内を浮遊し始めた時、私は、私の乳母をアルクマールから呼び寄せた。私だって、そんなことはしなかったと思う。
「ドアを閉めてもすり抜けてしまったら……あ、大丈夫か」
ドアを通り抜ける気満々ですごい勢いでぶつかったらしく、ゴチンと言うりっぱな音と同時に、赤ん坊が火がついたように泣き出した。
上の子も、魔力を発揮し始めるかもしれない。なんか匂う。
「だから言ったじゃないか」
やつれ果てたおばあさまが言った。
「もう、子どもは三人でいいでしょう。十分だわ」
しかしエドが反論した。
「慣れればいいんだ。みんなが慣れれば!」
無責任じゃないのかしら?
この魔法の蔓延の続きはどうなるのかしら。
いろいろな行事がすんで、ずいぶん日が経った時、騎士団長と正式に会見する時が来た。
「クリスティーナ妃だ」
ファルクに会った時、少し震えた。
「お目にかかれて光栄です」
冷淡に聞こえる声でファルクは挨拶した。
あんなことがあった後だけれど、彼が幸せになりますように。
私が幸せだからか、なぜだか贖罪の気持ちを抱いてしまう。
「殻にこもってしまって、ダンスパーティだのうわついた行事には一切でないのだ」
アンセルムは心配そうだった。
「気が変わるさ、そのうち」
エドはそう言うけれど、しばらくは沈んでいるんじゃないかしら。
「生涯に一度の恋だなんて、始末が悪いな」
「忘れるのに時間がかかるだけだといいんだがな」
おばあさまのデタラメだったって、アンセルムに教えた方がいいのかしら?
エドの魔法力はわずかだったけれど、そのせいで私達はここまで惹かれあったのかもしれない。
「おばあさまの言う意味がわかってきたよ。魔法って簡単に言うけど、取り返しのつかないことを招きかねないな」
エドと私は時々二人で雲隠れする。あの誰にも知られることのない秘密の城にだ。
エドの身代わりは緑のカエルで、私の身代わりはラビリアが嫌々ながら務めてくれる。
古城には誰も入れない。
様子をうかがうおべんちゃら上手な貴族たちやも、知らない間に秘密を集めて回る侍従や侍女もいない。
「仕方ないね。知っている限りの魔法を教えるよ」
おばあさまは、まわりを飛び交う王子や王女を避けながら、魔法の伝承をしてくれる。
「お前達はそう言う運命なのかも知れない」
今では、一番上の王太子も魔力があることがわかってきた。
「私が最後の魔女のはずだったのに。お前たちは出会って結婚してしまった。今じゃ魔法使いの大量生産だ」
おばあさまは、困った様子だったが、私は笑った。
魔法使いだろうが、魔女だろうがどうでもいいの。
可愛い子どもに囲まれて、私たちは幸せだから。
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先のコメントは
こういうコメントでも
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