【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
54 / 62

第54話 罠

しおりを挟む
アンセルムとエドと私の奇妙な密会の数日後のある朝だった。私たちは馬車に乗っていた。

「ついに婚約式を教会でできるところまで、こぎ着けた」

ファルクは喜んでいた。

「正式な婚約者として披露できる」

「ごめんなさい、ファルク様」

私は、あやまった。

「私の名前を最初からちゃんと言ってなくて……」

「いいんだよ、そんなこと」

教会に婚約者として、名前を提出すると言われてマルティナ・シュメールだと名乗りなおしたのだ。クリスティーナだって言えなかった。

嘘が嘘を呼んで、私は真実の愛に酔いしれるファルクの目をまともに見ることすら、出来なかった。

「それより、僕の名前はファルクだ。ファルクと呼んで。様はいらない。他人じゃなくなるんだから」

「ファルク……?」

ファルクは笑み崩れた。氷の美貌と言われている彼が。最初に会った時の、なんとなく影がある感じは、最近は薄れて、素直に嬉しそうだ。

そして突然私を抱きしめた。

「ああ、こんな日が来るだなんて。幸せだ」

こんなに罪悪感にられる話ってないわ。

「ファルク様……ファルク」

私たちの運命は、どうしてこうなってしまったのか。

「僕はね、一生に一度しか恋をしないって、有名な占い師に言われたことがあるんだ」

ファルクは言った。私はなんだかドキンとした。

「ファルク、そんなことはありませんわ」

「何言っているの。僕の恋人はあなただけ。一生に一度の恋だ」

ファルクは真面目に怒ったらしい。微笑みながらだったけど。それはそうだ。

「私に何回でも恋をしてくださいな、ファルク」

ファルクはふふっと笑った。

「だけど、その恋は不幸に終わるって言われたんだ。その占い師はアルクマールからきた魔女で、その予言は絶対だって言われていた。だから、臆病になってしまって。でも、あなたを見た途端、わかったんだ。絶対に幸せになれる、それにできるって」

私はまじまじとファルクの顔を見つめた。

その予言は妙だ。なんだか、今の有様を言い当てているかのよう。それに、アルクマールから来た魔女?

ファルクは、私の少し不安そうな表情を、笑い飛ばした。

「魔女なんか信じるものか。不安になることなんかない。僕は騎士団長に任命されたし、お金も十分ある。剣の腕は一流のつもりだ。リール家の意向には逆らったけれど、それがなんなんだ。関係ないよ。関係するのは君の気持ちだけ。本人の気持ちだけだ」

真実の愛は……

その時、ガタンと馬車が傾いて、ウマが大きくいなないた。

「なんだ?」

ファルクが腰の剣に手を置いた。

教会までの道は、人通りこそ少ないが、きちんと整えられた街道だ。馬車が大きく揺れるなんてことはない。

ファルクが顔色を変えた。

「おかしい。待っていてくれ。そっち側によって。静かに中にいて」

突然、わあああという大勢の声がした。

「なんだ。どうかしたのかッ?」

御者の答えはなかった。

馬車の扉を半分開けて半身を乗り出すようにして、ファルクは外を、後ろを見た。

何が見えたのか知らない。

思っていたより、ずっと近くで、大勢の声が響いた。

「女だ! 女だけを狙え!」

「男はクレイモア家の御曹司だ」

「女は訳のわからねえ卑しい身分の女だ」

「殺せと命令されてるんだ」

「男には傷をつけるな!」

声が響いた。

「ティナ!」

ファルクは私の方に振り返って、片手を伸ばした。

だが、その瞬間、反対側のドアが開けられ、誰かの手が伸びてきた。

「ティナ!」

ファルクの声と顔付きが変わったが、彼の手は届かなかった。
私は馬車と併走していた馬上の男に抱きとられた。

「ファルク様!」

「ティナーーー」


土埃つちぼこり喧騒けんそうと、馬のひづめの音がすごかった。

ファルクの声はすぐに聞こえなくなった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

処理中です...