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第52話 割と絶体絶命
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エドは真剣だった。
真剣だったが全裸だった。
「あの、話は聞くから、服は着て?」
「ダメだ」
羞恥心のない。
「俺だって、恥ずかしいよ! だけど、どうしてもダメなんだ。なんとかしないと、本当に困ったことになる。だから」
彼は私の頭を自分の肩で抱きしめた。
そしてゴリゴリ頬撫りして、くるりと真正面に回るとキスした。
猛烈に恥ずかしい。
「これで立派な浮気になる」
彼は囁いた。
「ファルクもあなたを許さないだろう。栗色の髪の女に戻って! 追い出されたら、元の姿に戻って、ラビリアと一緒にアルクマールへ戻りなさい。そして俺からの連絡を待って」
「連絡を待つ?」
エドが身をかがめて、頬にキスした。目を見つめて、微笑んだ。
「結婚を約束して? 俺たちはずっと婚約者だった。結婚前にあなたを知る機会があってよかった。決められた通りの結婚じゃなくて、遠回りになってしまったけど、こんな思いがあるんだってわかってよかった。あなたの値打ちがわかってよかった。大事にするよ。こんな人はいない」
大人のエドがじっと私を見つめた。
私は真っ赤になった。
ドキドキしてきて、どう答えたらいいのかわからなくなってしまった。
「目を逸らさないで。返事は?」
しんとした部屋の中に、遠くから侍女のしゃべっている声がかすかに聞こえてきた。近づいてくる。
「でも、ファルクも気の毒なことになってしまったのよ!」
私はハッとして思い出した。本当に困ったことになっている。エドは知らないのだ。
ファルクの『真実の愛』はどう言うわけか、本気だった。
そして、王都中に知れ渡った。美談?として。
半分は、身分にとらわれず真実の愛を抱いた男の話が魅力的だったのだが、残りの半分はリール家への反感から、共感を呼び、有名になった。
リール家は、自分達への反感がどれほどのものなのか認識しているのだろうか。
だが、それとは別に、リール家はクレイモア家に対して、怒り心頭だろう。
ファルクは、リール家の妹娘メアリ嬢との結婚をはっきり断ってしまった。
得体の知れない町娘との真実の愛を口実に。
「ファルクが、ここで私に裏切られてごらんなさい。リール家はザマアミロを叫ぶでしょうし、この話に夢中になっていた王都の市民や周辺の農民たちはなんて思うかしら。クレイモア家に仕える予定のあなたへの悪影響もあると思うのよ!」
エドが顔をしかめた。
「俺はファルクがどうなろうと知らない。って言うかどうでもいい。死ねばいいと思っている。人の婚約者を」
「ファルクのおかげもあるのよ! だって、ファルクが私に声をかけてくれなかったら、アンセルムになんか簡単には近づけなかったわ」
声をかけてくれなかったら……
まずい。エドが余計な部分に反応した。
「たまたま奴が惚れただけだ。それも人もあろうに俺の婚約者に。刀の錆にしてくれるわ」
「聖剣と呼ばれているそうよ?」
私は注意した。
「ちょうどいい。勝負に出よう。俺に勝てるかどうか」
脳筋がもう!
「いい加減に服を着て! ほかの方法を考えないと! クレイモア家が弱体化するような醜聞は避けたいのよ!」
私は叫んだ。
「え? ティナ様の部屋から、男の声が?」
ドタドタとうるさい足音が聞こえてきた。
私は真っ青になった。
みなぎる間男感……どうしてなんだろう。
なんか怖い。怖いよお。
「ダメよ、エド。早く出て。窓から出て!」
私は完全に泡を食って、エドを窓の方へ押しやった。
「言っとくが、今は良くても、もしあいつが手を出したら……」
「アンセルムと相談してよ。兄なんだから」
「ティナ、言っとくが、その格好ダメだぞ? クリスティーナは小柄なんだ。半分、服が脱げかけてる。あんたも半裸だ」
「え?」
「俺は行くぞ」
「服は?」
「両方もらっとく」
エドは、靴だけ履くと全裸のまま二階から飛び降りた。誰も見ていませんように!
「ティナ様!」
一同がどっと押し寄せた頃には、全裸のエドは遁走済みで、私は眠そうにうとうとしていた。内心はドキドキだったけど。
「え?」
「ティナ様! ご無事ですか?」
私はきょときょとした。侍女をはじめ、下男や台所の料理人まで一緒だ。
「え……?」
「先ほど、男の怒鳴り声が聞こえたと」
「ああ。ウィルのこと?」
私はにっこりした。
「アンセルム様の小姓に取り立てていただけたそうです。喜んで叫んでましたわ。私もこれで一安心です」
真剣だったが全裸だった。
「あの、話は聞くから、服は着て?」
「ダメだ」
羞恥心のない。
「俺だって、恥ずかしいよ! だけど、どうしてもダメなんだ。なんとかしないと、本当に困ったことになる。だから」
彼は私の頭を自分の肩で抱きしめた。
そしてゴリゴリ頬撫りして、くるりと真正面に回るとキスした。
猛烈に恥ずかしい。
「これで立派な浮気になる」
彼は囁いた。
「ファルクもあなたを許さないだろう。栗色の髪の女に戻って! 追い出されたら、元の姿に戻って、ラビリアと一緒にアルクマールへ戻りなさい。そして俺からの連絡を待って」
「連絡を待つ?」
エドが身をかがめて、頬にキスした。目を見つめて、微笑んだ。
「結婚を約束して? 俺たちはずっと婚約者だった。結婚前にあなたを知る機会があってよかった。決められた通りの結婚じゃなくて、遠回りになってしまったけど、こんな思いがあるんだってわかってよかった。あなたの値打ちがわかってよかった。大事にするよ。こんな人はいない」
大人のエドがじっと私を見つめた。
私は真っ赤になった。
ドキドキしてきて、どう答えたらいいのかわからなくなってしまった。
「目を逸らさないで。返事は?」
しんとした部屋の中に、遠くから侍女のしゃべっている声がかすかに聞こえてきた。近づいてくる。
「でも、ファルクも気の毒なことになってしまったのよ!」
私はハッとして思い出した。本当に困ったことになっている。エドは知らないのだ。
ファルクの『真実の愛』はどう言うわけか、本気だった。
そして、王都中に知れ渡った。美談?として。
半分は、身分にとらわれず真実の愛を抱いた男の話が魅力的だったのだが、残りの半分はリール家への反感から、共感を呼び、有名になった。
リール家は、自分達への反感がどれほどのものなのか認識しているのだろうか。
だが、それとは別に、リール家はクレイモア家に対して、怒り心頭だろう。
ファルクは、リール家の妹娘メアリ嬢との結婚をはっきり断ってしまった。
得体の知れない町娘との真実の愛を口実に。
「ファルクが、ここで私に裏切られてごらんなさい。リール家はザマアミロを叫ぶでしょうし、この話に夢中になっていた王都の市民や周辺の農民たちはなんて思うかしら。クレイモア家に仕える予定のあなたへの悪影響もあると思うのよ!」
エドが顔をしかめた。
「俺はファルクがどうなろうと知らない。って言うかどうでもいい。死ねばいいと思っている。人の婚約者を」
「ファルクのおかげもあるのよ! だって、ファルクが私に声をかけてくれなかったら、アンセルムになんか簡単には近づけなかったわ」
声をかけてくれなかったら……
まずい。エドが余計な部分に反応した。
「たまたま奴が惚れただけだ。それも人もあろうに俺の婚約者に。刀の錆にしてくれるわ」
「聖剣と呼ばれているそうよ?」
私は注意した。
「ちょうどいい。勝負に出よう。俺に勝てるかどうか」
脳筋がもう!
「いい加減に服を着て! ほかの方法を考えないと! クレイモア家が弱体化するような醜聞は避けたいのよ!」
私は叫んだ。
「え? ティナ様の部屋から、男の声が?」
ドタドタとうるさい足音が聞こえてきた。
私は真っ青になった。
みなぎる間男感……どうしてなんだろう。
なんか怖い。怖いよお。
「ダメよ、エド。早く出て。窓から出て!」
私は完全に泡を食って、エドを窓の方へ押しやった。
「言っとくが、今は良くても、もしあいつが手を出したら……」
「アンセルムと相談してよ。兄なんだから」
「ティナ、言っとくが、その格好ダメだぞ? クリスティーナは小柄なんだ。半分、服が脱げかけてる。あんたも半裸だ」
「え?」
「俺は行くぞ」
「服は?」
「両方もらっとく」
エドは、靴だけ履くと全裸のまま二階から飛び降りた。誰も見ていませんように!
「ティナ様!」
一同がどっと押し寄せた頃には、全裸のエドは遁走済みで、私は眠そうにうとうとしていた。内心はドキドキだったけど。
「え?」
「ティナ様! ご無事ですか?」
私はきょときょとした。侍女をはじめ、下男や台所の料理人まで一緒だ。
「え……?」
「先ほど、男の怒鳴り声が聞こえたと」
「ああ。ウィルのこと?」
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「アンセルム様の小姓に取り立てていただけたそうです。喜んで叫んでましたわ。私もこれで一安心です」
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