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第51話 エド、全裸になる
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ファルクは機嫌よく、アンセルムに話しておくよと言って出て行った。
私はエドと二人きりになった。
「よかったわ。これでエドも安全を確保できた。それにクレイモア伯爵のご当主のアンセルムと話が出来るようになったし」
私は言った。
「よくない。あの男、許せん」
十三歳の少年が悔しがった。
「仕方ないではありませんか」
「仕方ない? 婚約者を裏切っておいて」
「誰が婚約者なのよ?」
「俺だ」
違うでしょ? 弟でしょ?
「いつの間に弟になったんだ。俺の方があのファルクより年上なのに。アンセルムと同い年なのに」
それはどうでもいいので、私はリール公爵家の話をした。
「あの一家相手だと、命懸けなの。あなたのことも、私の弟としてみつかったら、何をされるかわからないわ。クレイモア家に入ってもらった方が安全だと思って。それにアンセルム」
エドがうなずいた。
「アンセルムの小姓になったら、エドウィン王子の話が出来る」
「そうよ。近くにいるってことは大きいわ」
かくして、エドがアンセルムの小姓になることは成功した。
だが、ファルクの婚約者の方は簡単にやめられなかった。
「ティナ、婚約者の君に相応しい衣装を贈りたい」
私にデレデレで大甘のファルクは、ドレスを作りたがり、宝飾品を買いたがり、花やお菓子をプレゼントしたがり、私は大弱りだった。
「君はなんて無欲なんだ! 町娘でも没落貴族の娘でも、もっとドレスや宝石をねだるだろうに、いつも遠慮している」
それから、一生懸命言うのだった。
「遠慮なんか要らない。君に喜んでもらうことが、僕の喜びなんだ。どうか、僕を喜ばせてくれ」
そしてまずいことに、ファルクは自分の恋を話す相手がいなかったので(話してもウザがられるばかりだったので)私の弟に話したがった。
姉が大事にされている話を聞かされたら、喜ぶだろうと考えついたらしい。
エドの忍耐力がどこまで続くか、私は祈るばかりだった。
自分の婚約者ともっとお近づきになりたいとか、ベタベタしたいとか、聞かされたら、エドの反応が怖い。ヤバい。
今日は××した、◯◯をヤリたいとか、そう言う話題は、十三歳の教育上よろしくないので、話さないよう、釘を刺しておこうかしら。
それに私は寝不足になった。
当たり前だ。
私が熟眠すると、エドは十三歳の少年から巨漢に戻ってしまうのである。
特に昼寝が良くない。
とっとと、アンセルムに正体を告白してほしい。
エドをアンセルムのところへ送り込んで三日後、ようやくエドから手紙が来た。
『明日朝、ティナのところへ行くので、エドの姿に変えてくれ』
なるほど。私の部屋なら、誰も来ない。弟が私の部屋を訪問しても誰も何も言わない。
変身しても大丈夫(多分)
問題はエドの格好で、部屋から出て行く時だけね。
私はこっそりファルクのお古の服を手に入れた。
大体サイズは似たようなものだ。
エドの方が相当ゴツいけど、押し込めばなんとかなると思う。
身長はほとんど同じくらいだから。
「姉様、きたよ」
「まあ、ウィル! よく来たわね!」
「じゃあ、しばらく席を外しますね」
侍女はニコニコ笑顔で出て行った。
最初こそ、何処の馬の骨だみたいな顔をしていた彼女だが、後になって没落貴族で苦労されたご令嬢という設定を聞いて、すっかり納得、大変同情してくれてエドにも好意的なのだ。
「ファルクのお古だけど」
「あ、自分で用意したよ。持ってきた。アンセルムのお古だけど」
「じゃあ、解除していい?」
「待って。脱ぐから」
脱ぐの…… まあ、服がダメになるからね。仕方ないか。
「解除して。今日これから、アンセルムとイズレイル先生と会うんだ」
後ろを向くのは、まあ、淑女の嗜みよね。エドの全裸なんか見たくないし。
思い切って解除した。
そして次の瞬間、背中から抱きしめられた。
なんてことを!
「ダメよ!」
思わず、大きな声で……ではなくて、小さな声で思い切り叫んだ。
侍女に見つかるとどうなるか。
不倫?浮気である。ヤバいよ!
「あっ! そうだ!」
自分も解除した。これで見知らぬ金髪の少女と全裸の若者が抱き合っている図になるはず。
でも、背が縮んで……お腹にあったはずのエドの手が胸に回ってしまった。
「どうして変身を解いちゃったの?」
「ファルクに疑われたらいけないでしょ?」
それより手を放してよ。
「疑われて欲しい」
「え? どうして?」
「疑われようと思って来たんだよ。だから町娘の格好に戻って」
は?
は!
そうか! それで、脱いだのか!
「そうだよ。浮気する女なんか、追い出されればいい」
「恐ろしいことを言うわね! ひどいわ。浮気なんかしてないわ」
私は思わず言った。
「何言ってるんだ。俺の方が先約だ! ファルクと仲良くする方が浮気なんだぞ!」
うん? なかなか混乱する問題よね? いや、この状況では考える時間がない!
全裸のエドは真剣だった。
「俺と抱き合えば、立派な浮気だ。すぐに元の栗色の髪の女に戻ってくれ」
「でも……」
「でも、じゃない。どうやって、元のあの家に戻る気だ。あそこにしか魔法陣はないんだぞ? そしてこのままだと、ティナがあのファルクと結婚してしまう!」
私はエドと二人きりになった。
「よかったわ。これでエドも安全を確保できた。それにクレイモア伯爵のご当主のアンセルムと話が出来るようになったし」
私は言った。
「よくない。あの男、許せん」
十三歳の少年が悔しがった。
「仕方ないではありませんか」
「仕方ない? 婚約者を裏切っておいて」
「誰が婚約者なのよ?」
「俺だ」
違うでしょ? 弟でしょ?
「いつの間に弟になったんだ。俺の方があのファルクより年上なのに。アンセルムと同い年なのに」
それはどうでもいいので、私はリール公爵家の話をした。
「あの一家相手だと、命懸けなの。あなたのことも、私の弟としてみつかったら、何をされるかわからないわ。クレイモア家に入ってもらった方が安全だと思って。それにアンセルム」
エドがうなずいた。
「アンセルムの小姓になったら、エドウィン王子の話が出来る」
「そうよ。近くにいるってことは大きいわ」
かくして、エドがアンセルムの小姓になることは成功した。
だが、ファルクの婚約者の方は簡単にやめられなかった。
「ティナ、婚約者の君に相応しい衣装を贈りたい」
私にデレデレで大甘のファルクは、ドレスを作りたがり、宝飾品を買いたがり、花やお菓子をプレゼントしたがり、私は大弱りだった。
「君はなんて無欲なんだ! 町娘でも没落貴族の娘でも、もっとドレスや宝石をねだるだろうに、いつも遠慮している」
それから、一生懸命言うのだった。
「遠慮なんか要らない。君に喜んでもらうことが、僕の喜びなんだ。どうか、僕を喜ばせてくれ」
そしてまずいことに、ファルクは自分の恋を話す相手がいなかったので(話してもウザがられるばかりだったので)私の弟に話したがった。
姉が大事にされている話を聞かされたら、喜ぶだろうと考えついたらしい。
エドの忍耐力がどこまで続くか、私は祈るばかりだった。
自分の婚約者ともっとお近づきになりたいとか、ベタベタしたいとか、聞かされたら、エドの反応が怖い。ヤバい。
今日は××した、◯◯をヤリたいとか、そう言う話題は、十三歳の教育上よろしくないので、話さないよう、釘を刺しておこうかしら。
それに私は寝不足になった。
当たり前だ。
私が熟眠すると、エドは十三歳の少年から巨漢に戻ってしまうのである。
特に昼寝が良くない。
とっとと、アンセルムに正体を告白してほしい。
エドをアンセルムのところへ送り込んで三日後、ようやくエドから手紙が来た。
『明日朝、ティナのところへ行くので、エドの姿に変えてくれ』
なるほど。私の部屋なら、誰も来ない。弟が私の部屋を訪問しても誰も何も言わない。
変身しても大丈夫(多分)
問題はエドの格好で、部屋から出て行く時だけね。
私はこっそりファルクのお古の服を手に入れた。
大体サイズは似たようなものだ。
エドの方が相当ゴツいけど、押し込めばなんとかなると思う。
身長はほとんど同じくらいだから。
「姉様、きたよ」
「まあ、ウィル! よく来たわね!」
「じゃあ、しばらく席を外しますね」
侍女はニコニコ笑顔で出て行った。
最初こそ、何処の馬の骨だみたいな顔をしていた彼女だが、後になって没落貴族で苦労されたご令嬢という設定を聞いて、すっかり納得、大変同情してくれてエドにも好意的なのだ。
「ファルクのお古だけど」
「あ、自分で用意したよ。持ってきた。アンセルムのお古だけど」
「じゃあ、解除していい?」
「待って。脱ぐから」
脱ぐの…… まあ、服がダメになるからね。仕方ないか。
「解除して。今日これから、アンセルムとイズレイル先生と会うんだ」
後ろを向くのは、まあ、淑女の嗜みよね。エドの全裸なんか見たくないし。
思い切って解除した。
そして次の瞬間、背中から抱きしめられた。
なんてことを!
「ダメよ!」
思わず、大きな声で……ではなくて、小さな声で思い切り叫んだ。
侍女に見つかるとどうなるか。
不倫?浮気である。ヤバいよ!
「あっ! そうだ!」
自分も解除した。これで見知らぬ金髪の少女と全裸の若者が抱き合っている図になるはず。
でも、背が縮んで……お腹にあったはずのエドの手が胸に回ってしまった。
「どうして変身を解いちゃったの?」
「ファルクに疑われたらいけないでしょ?」
それより手を放してよ。
「疑われて欲しい」
「え? どうして?」
「疑われようと思って来たんだよ。だから町娘の格好に戻って」
は?
は!
そうか! それで、脱いだのか!
「そうだよ。浮気する女なんか、追い出されればいい」
「恐ろしいことを言うわね! ひどいわ。浮気なんかしてないわ」
私は思わず言った。
「何言ってるんだ。俺の方が先約だ! ファルクと仲良くする方が浮気なんだぞ!」
うん? なかなか混乱する問題よね? いや、この状況では考える時間がない!
全裸のエドは真剣だった。
「俺と抱き合えば、立派な浮気だ。すぐに元の栗色の髪の女に戻ってくれ」
「でも……」
「でも、じゃない。どうやって、元のあの家に戻る気だ。あそこにしか魔法陣はないんだぞ? そしてこのままだと、ティナがあのファルクと結婚してしまう!」
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