47 / 62
第47話 ファルクに捕まる
しおりを挟む
私は野菜の入った桶につまずいて、盛大にひっくり返して豆をぶちまけながら、懸命に逃げた。
「ダメだ、逃げるな、ティナ!」
だが、ハンスではない、別の男に捕まった。何人かで探していたらしい。
若い騎士らしい男だ。
「ティナ様。ファルク様から厳命されています。絶対にお連れするようにと」
私は髪を振り乱して、その若い男を見つめた。
「ど、どこへ?」
彼はちょっと頬を赤らめて答えた。
「クレイモア家です」
「だ、だめよ」
「なぜですか? あなたはファルク様の想い相手です。危険なのです」
「リール公爵家ですか?」
彼は頷いた。
「もちろんです。私の言うことを聞いていただけますか?」
アルクマールに帰っておけばよかった。
私は捕まって、クレイモアの邸宅に閉じ込められた。
多分、ファルクの部屋なのだろう。趣味なのか壁は武具でいっぱいだった。
「ファルク様は?」
侍女が、侍女よりはるかに貧しい身なりの私を、値踏みしながら答えた。
「夕刻にお戻りになります」
私を傷つけたりしてはいけないと命じられているのだろう。
でなければ、返事ももらえないと思う。
ファルクは昼過ぎに戻ってきた。
誰かが、知らせたのだろう。私を捕獲しましたと。
「見つかったのか。よかった」
そう言う声がして、部屋のドアが開いた。
ファルクの氷の美貌が怖い。
絶対に怒っている。
だが、彼は悲しんでいるようだった。
「そんなにも僕のことが嫌いか?」
私は黙っていた。
それ以前に、どうして好かれると思っているのか、よくわからない。
「どこにいたのだ」
黙秘権行使だ。
「ああ、ティナ……」
彼は、跪いて私の手を取った。
「いけませんわ。高貴な方が……」
私の方が高貴なんだけどね。でも、今は仕方ない。
「あなたがいなくなって、僕がどんな思いをしたか……間抜けだった。家の場所を聞いておけばよかった」
「ファルク様……」
横では侍女がなんでこんな女に入れ上げるんだ、みたいな顔をして控えていた。
「もういい。言い訳は後で聞こう。それより……」
言い訳する気なんかないけどねっ。
「それより、よかった。実はリール家から、招待状が来ていてね」
「なんのでしょうか?」
「ダンスパーティだ」
「ダンスパーティ?」
私は意味がわからなくてファルクの顔を見た。
「君も出席させろと言う内容なんだ」
ファルクが顔を顰めて言った。
「なぜでしょう?」
「恥をかかせたいのさ」
「クレイモア家にですか?」
「むしろ、婚約者にだ」
誰? 婚約者って?
「だから、君だ。ダンスも踊れないと」
私はファルクの顔を見た。
いや、踊れますよ? だけど、あの茶番は、未だに現在進行形なのかしら?
「断ってください……」
「参加するだけでいいんだ。兄は連れていけと言うのだ。見せつけてこいと」
「何を見せつけるのですか?」
「ちゃんと実在する婚約者なのだと」
ファルクは、私を抱きしめた。横で侍女が聞こえるようにため息をついた。
しかし、ファルクは気にしなかった。
「無事に見つかって、よかった。リール家は必死で君を探していたと思う。見つけ次第、殺す気だったんだと思う。死んでしまえば、真実の愛の相手がいなくなる。そうすればメアリ嬢との婚約が可能だ」
わたしはゾッとした。
もうどんなに目立っても、アルクマールのクリスティーナ姫の方が無事だった。
めんどくさいは身を滅ぼす。同じ見つかるなら、ハンスに見つかってよかった。これがリール家の手の者にみつかっていたら、どうなっていたのだろう。
「そのパーティが今晩なんだ」
「今夜? と、突然過ぎます!」
「ドレスだけは適当に作っておいた。ハンスからエプロンのサイズは聞いておいた」
毎回、そんなに精密に同じ格好に変身していた保証はないんだけど、どうしよう。
それにエプロンのサイズって、ウエスト回りしかわからないんじゃないかしら。
侍女が、用意しますと別室へ誘った。
この侍女、大丈夫よね?
「ファルク様、私、せめてこの屋敷の中では安全でしょうか?」
「もちろんだ」
私の視線が侍女に流れていることに気づくと、ファルクは言った。侍女に向かって。
「もちろんだ。君を美しく着付け、この上ない姿に仕立て上げないとクレイモア家の恥になる」
エドのいるあの家に戻らない限り、私はアルクマールに戻れない。
それにエドの変身をどうしたらいいかわからない。途中で解くわけにはいかないのだ。
「ダメだ、逃げるな、ティナ!」
だが、ハンスではない、別の男に捕まった。何人かで探していたらしい。
若い騎士らしい男だ。
「ティナ様。ファルク様から厳命されています。絶対にお連れするようにと」
私は髪を振り乱して、その若い男を見つめた。
「ど、どこへ?」
彼はちょっと頬を赤らめて答えた。
「クレイモア家です」
「だ、だめよ」
「なぜですか? あなたはファルク様の想い相手です。危険なのです」
「リール公爵家ですか?」
彼は頷いた。
「もちろんです。私の言うことを聞いていただけますか?」
アルクマールに帰っておけばよかった。
私は捕まって、クレイモアの邸宅に閉じ込められた。
多分、ファルクの部屋なのだろう。趣味なのか壁は武具でいっぱいだった。
「ファルク様は?」
侍女が、侍女よりはるかに貧しい身なりの私を、値踏みしながら答えた。
「夕刻にお戻りになります」
私を傷つけたりしてはいけないと命じられているのだろう。
でなければ、返事ももらえないと思う。
ファルクは昼過ぎに戻ってきた。
誰かが、知らせたのだろう。私を捕獲しましたと。
「見つかったのか。よかった」
そう言う声がして、部屋のドアが開いた。
ファルクの氷の美貌が怖い。
絶対に怒っている。
だが、彼は悲しんでいるようだった。
「そんなにも僕のことが嫌いか?」
私は黙っていた。
それ以前に、どうして好かれると思っているのか、よくわからない。
「どこにいたのだ」
黙秘権行使だ。
「ああ、ティナ……」
彼は、跪いて私の手を取った。
「いけませんわ。高貴な方が……」
私の方が高貴なんだけどね。でも、今は仕方ない。
「あなたがいなくなって、僕がどんな思いをしたか……間抜けだった。家の場所を聞いておけばよかった」
「ファルク様……」
横では侍女がなんでこんな女に入れ上げるんだ、みたいな顔をして控えていた。
「もういい。言い訳は後で聞こう。それより……」
言い訳する気なんかないけどねっ。
「それより、よかった。実はリール家から、招待状が来ていてね」
「なんのでしょうか?」
「ダンスパーティだ」
「ダンスパーティ?」
私は意味がわからなくてファルクの顔を見た。
「君も出席させろと言う内容なんだ」
ファルクが顔を顰めて言った。
「なぜでしょう?」
「恥をかかせたいのさ」
「クレイモア家にですか?」
「むしろ、婚約者にだ」
誰? 婚約者って?
「だから、君だ。ダンスも踊れないと」
私はファルクの顔を見た。
いや、踊れますよ? だけど、あの茶番は、未だに現在進行形なのかしら?
「断ってください……」
「参加するだけでいいんだ。兄は連れていけと言うのだ。見せつけてこいと」
「何を見せつけるのですか?」
「ちゃんと実在する婚約者なのだと」
ファルクは、私を抱きしめた。横で侍女が聞こえるようにため息をついた。
しかし、ファルクは気にしなかった。
「無事に見つかって、よかった。リール家は必死で君を探していたと思う。見つけ次第、殺す気だったんだと思う。死んでしまえば、真実の愛の相手がいなくなる。そうすればメアリ嬢との婚約が可能だ」
わたしはゾッとした。
もうどんなに目立っても、アルクマールのクリスティーナ姫の方が無事だった。
めんどくさいは身を滅ぼす。同じ見つかるなら、ハンスに見つかってよかった。これがリール家の手の者にみつかっていたら、どうなっていたのだろう。
「そのパーティが今晩なんだ」
「今夜? と、突然過ぎます!」
「ドレスだけは適当に作っておいた。ハンスからエプロンのサイズは聞いておいた」
毎回、そんなに精密に同じ格好に変身していた保証はないんだけど、どうしよう。
それにエプロンのサイズって、ウエスト回りしかわからないんじゃないかしら。
侍女が、用意しますと別室へ誘った。
この侍女、大丈夫よね?
「ファルク様、私、せめてこの屋敷の中では安全でしょうか?」
「もちろんだ」
私の視線が侍女に流れていることに気づくと、ファルクは言った。侍女に向かって。
「もちろんだ。君を美しく着付け、この上ない姿に仕立て上げないとクレイモア家の恥になる」
エドのいるあの家に戻らない限り、私はアルクマールに戻れない。
それにエドの変身をどうしたらいいかわからない。途中で解くわけにはいかないのだ。
2
お気に入りに追加
788
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる