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第44話 ファルクとエドと私
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「それはなんですか?」
ファルクは興味なさそうにその灰色の紙を見つめた。
「王太子の直筆だ」
流石に反応があった。
彼はツカツカと兄のところに近寄ると、手紙をつかんだ。
一気に読み下したが、もの問いたげに兄を見た。
「この署名は本物か?」
アンセルムは頷いた。
「王太子とは同じクラスで勉強していた。サインはよく知っている。本物だ。私が保証する」
私は思わずエドの顔を見た。
エドはアンセルムを見つめていた。
「国王の結婚が決まった日付けが書いてある。これは昔に書かれたものではない。最近のものだ」
なるほど。
エドの鳥メールの文面は全員分ほとんど変化がなくて、宛先によっては、個人的な思い出が書かれていたのは、本人だと納得させるためだとわかったが、最新のニュースも書いていた。なぜだろうと思っていたが、そう言う意味があったのか。
「この手紙を受け取って、兄上はどうしたのだ?」
「私は噂をたどって、学校にたどり着いた。イズレイル先生だ」
ファルクは顔を顰めた。
「私は騎士学校にいったから、イズレイル先生のことは知らないが、それで?」
「彼は、王都にいる」
アンセルムは確信を持って言った。その目は希望に満ちていた。
私は、ハンスの料理店へ戻る馬車に乗っていた。
アンセルムは、ファルクにむかって、メアリ避けに、私とファルクの交際はいいプランだと言い出し、ファルクは嬉しそうだった。
「平民との結婚など絶対に認めない。だが、真実の愛ごっこはいい隠れ蓑だ。存分にやれ」
エドと私は顎が外れそうだった。
ファルクは、兄が結婚は認めないつもりだとわかっても、なし崩し的にどうにかするつもりらしい。
馬車のなかで、わたしに向かって大事そうに言った。
「大丈夫だ。安心して。そう簡単にカタがつくような問題じゃない」
馬車の中で私の手をしっかり握りながら、ファルクは囁いた。
ものすごく不安なんですけれども!
でも、言えない。
「少なくとも時間が稼げる。弟君も」
今度は、エドに向かって言った。
「姉君が伯爵家と縁ができればこれ以上の出世はないだろう。姉の幸せを思えば、僕たちの交際を祝福してくれたまえ」
エドは何か言いかけたが、結局、口をつぐんだ。
「君がもう少し頼りになればいいんだが……。リール公爵家が何か仕掛けてくる可能性は高い。君の家を僕の配下の者で警護させよう」
エドの顔は見ない方がいい。今この瞬間は。私はそう思った。
「いえ、せっかくのお申し出ですが……」
あの家の警備だなんてとんでもない。色々とマズイ。
「きっと家を突き止めたりできないと思います」
「甘い」
ファルクは真剣に心配そうだった。
「だけど、どうして私なのですか?」
今の話だと、この美貌の主には、喜んで結婚したがる名家の令嬢たちが大勢いるのじゃない? なぜ、わたしと結婚したがるのだろう?
一挙にファルクが照れた。
「そんなことを言わせたい?」
「あの、いえ、純粋に疑問だっただけで……」
「聞きたいだなんて……そうか……」
嬉しそうに照れないでほしい。特に、横のエドが爆発しそうだから。
「だって、貴族の娘たちと違うのだもの」
貴族らしくない? そんなに平民らしいだなんて思ってなかったわ。
「騎士は、貴族の娘たちには憧れの職業なんだ。しかも、僕は優秀だし家柄はいいし、おまけにこの顔だから」
「その上、正直者ですものね」
言わないでおこうと思ったけれど、つい、言ってしまった。
「ほら、そう言う所も好きなんだよ」
ファルクは頬を崩した。
「率直。でも、バカではない」
さっきバカだって言ってたじゃない。
「違うよ。僕の気持ちに鈍感すぎるからそう言っただけだ」
「違いますよ。私ではあなたの相手にならない。平民ですもの。わかっています」
ファルクは目を爛々と輝かせ始めた。
「こんな気持になるのは初めてだ。僕の気持ちを君に信じさせたい。本気度をわかってほしい。君を陥落させたい」
私とエドは、トボトボと帰り道を辿っていった。
私は猛烈に疲れていた。
なぜかというと、ファルクとアンセルム兄弟とリール公爵家姉妹のやりとりにも疲れたのだけど、そのほかに二人とも老人に化けていたからだ。
絶対にリール家の誰かが付けて来るに違いなかったからだ。
「年取るっていやねえ」
白髪としわだらけの顔で、少し腰を曲げて私は言った。
「どうしてハゲなんだ」
エドは不満そうだった。
月夜の下でも、その禿頭はツヤツヤしていた。
後ろから追い抜いていって、顔を見にくる者がこれで五人目だった。
「あつ、失礼!」
ぶつかりそうになる者までいる。
二人とも、腰を曲げてヨロヨロと歩いているのだが、年寄りのフリをしているのだろうと思うらしい。
顔を覗き込むと、正真正銘しわだらけ、口元は下がっていて、瞼はたるんでいる。顔つきも全くの別人だ。
「ハア? なんですか?」
「いやいや、なんでもありません!」
彼らは物盗りではない。こんな貧しそうな老人に関心はないだろう。
別人だとわかると、さっさとどこかに行ってしまった。
誰もいないことを確かめて家に入ると正直ホッとした。
魔法力もそろそろ限界だったので、ドアを閉めた途端、解除した。
黒髪の若い大男と、長い金髪の華奢な姿に戻った。
「ティナ様、今日のあれは何?」
大男のエドが少年のふりをかなぐり捨てて迫ってきた。あれでも、かわいらしく振る舞っていたのだろう。
「明日! 明日の朝、お願い!」
疲れてもう死にそう。
「眠い……」
ファルクは興味なさそうにその灰色の紙を見つめた。
「王太子の直筆だ」
流石に反応があった。
彼はツカツカと兄のところに近寄ると、手紙をつかんだ。
一気に読み下したが、もの問いたげに兄を見た。
「この署名は本物か?」
アンセルムは頷いた。
「王太子とは同じクラスで勉強していた。サインはよく知っている。本物だ。私が保証する」
私は思わずエドの顔を見た。
エドはアンセルムを見つめていた。
「国王の結婚が決まった日付けが書いてある。これは昔に書かれたものではない。最近のものだ」
なるほど。
エドの鳥メールの文面は全員分ほとんど変化がなくて、宛先によっては、個人的な思い出が書かれていたのは、本人だと納得させるためだとわかったが、最新のニュースも書いていた。なぜだろうと思っていたが、そう言う意味があったのか。
「この手紙を受け取って、兄上はどうしたのだ?」
「私は噂をたどって、学校にたどり着いた。イズレイル先生だ」
ファルクは顔を顰めた。
「私は騎士学校にいったから、イズレイル先生のことは知らないが、それで?」
「彼は、王都にいる」
アンセルムは確信を持って言った。その目は希望に満ちていた。
私は、ハンスの料理店へ戻る馬車に乗っていた。
アンセルムは、ファルクにむかって、メアリ避けに、私とファルクの交際はいいプランだと言い出し、ファルクは嬉しそうだった。
「平民との結婚など絶対に認めない。だが、真実の愛ごっこはいい隠れ蓑だ。存分にやれ」
エドと私は顎が外れそうだった。
ファルクは、兄が結婚は認めないつもりだとわかっても、なし崩し的にどうにかするつもりらしい。
馬車のなかで、わたしに向かって大事そうに言った。
「大丈夫だ。安心して。そう簡単にカタがつくような問題じゃない」
馬車の中で私の手をしっかり握りながら、ファルクは囁いた。
ものすごく不安なんですけれども!
でも、言えない。
「少なくとも時間が稼げる。弟君も」
今度は、エドに向かって言った。
「姉君が伯爵家と縁ができればこれ以上の出世はないだろう。姉の幸せを思えば、僕たちの交際を祝福してくれたまえ」
エドは何か言いかけたが、結局、口をつぐんだ。
「君がもう少し頼りになればいいんだが……。リール公爵家が何か仕掛けてくる可能性は高い。君の家を僕の配下の者で警護させよう」
エドの顔は見ない方がいい。今この瞬間は。私はそう思った。
「いえ、せっかくのお申し出ですが……」
あの家の警備だなんてとんでもない。色々とマズイ。
「きっと家を突き止めたりできないと思います」
「甘い」
ファルクは真剣に心配そうだった。
「だけど、どうして私なのですか?」
今の話だと、この美貌の主には、喜んで結婚したがる名家の令嬢たちが大勢いるのじゃない? なぜ、わたしと結婚したがるのだろう?
一挙にファルクが照れた。
「そんなことを言わせたい?」
「あの、いえ、純粋に疑問だっただけで……」
「聞きたいだなんて……そうか……」
嬉しそうに照れないでほしい。特に、横のエドが爆発しそうだから。
「だって、貴族の娘たちと違うのだもの」
貴族らしくない? そんなに平民らしいだなんて思ってなかったわ。
「騎士は、貴族の娘たちには憧れの職業なんだ。しかも、僕は優秀だし家柄はいいし、おまけにこの顔だから」
「その上、正直者ですものね」
言わないでおこうと思ったけれど、つい、言ってしまった。
「ほら、そう言う所も好きなんだよ」
ファルクは頬を崩した。
「率直。でも、バカではない」
さっきバカだって言ってたじゃない。
「違うよ。僕の気持ちに鈍感すぎるからそう言っただけだ」
「違いますよ。私ではあなたの相手にならない。平民ですもの。わかっています」
ファルクは目を爛々と輝かせ始めた。
「こんな気持になるのは初めてだ。僕の気持ちを君に信じさせたい。本気度をわかってほしい。君を陥落させたい」
私とエドは、トボトボと帰り道を辿っていった。
私は猛烈に疲れていた。
なぜかというと、ファルクとアンセルム兄弟とリール公爵家姉妹のやりとりにも疲れたのだけど、そのほかに二人とも老人に化けていたからだ。
絶対にリール家の誰かが付けて来るに違いなかったからだ。
「年取るっていやねえ」
白髪としわだらけの顔で、少し腰を曲げて私は言った。
「どうしてハゲなんだ」
エドは不満そうだった。
月夜の下でも、その禿頭はツヤツヤしていた。
後ろから追い抜いていって、顔を見にくる者がこれで五人目だった。
「あつ、失礼!」
ぶつかりそうになる者までいる。
二人とも、腰を曲げてヨロヨロと歩いているのだが、年寄りのフリをしているのだろうと思うらしい。
顔を覗き込むと、正真正銘しわだらけ、口元は下がっていて、瞼はたるんでいる。顔つきも全くの別人だ。
「ハア? なんですか?」
「いやいや、なんでもありません!」
彼らは物盗りではない。こんな貧しそうな老人に関心はないだろう。
別人だとわかると、さっさとどこかに行ってしまった。
誰もいないことを確かめて家に入ると正直ホッとした。
魔法力もそろそろ限界だったので、ドアを閉めた途端、解除した。
黒髪の若い大男と、長い金髪の華奢な姿に戻った。
「ティナ様、今日のあれは何?」
大男のエドが少年のふりをかなぐり捨てて迫ってきた。あれでも、かわいらしく振る舞っていたのだろう。
「明日! 明日の朝、お願い!」
疲れてもう死にそう。
「眠い……」
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