【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
44 / 62

第44話 ファルクとエドと私

しおりを挟む
「それはなんですか?」

ファルクは興味なさそうにその灰色の紙を見つめた。

「王太子の直筆だ」

流石に反応があった。

彼はツカツカと兄のところに近寄ると、手紙をつかんだ。

一気に読み下したが、もの問いたげに兄を見た。

「この署名は本物か?」

アンセルムは頷いた。

「王太子とは同じクラスで勉強していた。サインはよく知っている。本物だ。私が保証する」


私は思わずエドの顔を見た。

エドはアンセルムを見つめていた。

「国王の結婚が決まった日付けが書いてある。これは昔に書かれたものではない。最近のものだ」

なるほど。

エドの鳥メールの文面は全員分ほとんど変化がなくて、宛先によっては、個人的な思い出が書かれていたのは、本人だと納得させるためだとわかったが、最新のニュースも書いていた。なぜだろうと思っていたが、そう言う意味があったのか。

「この手紙を受け取って、兄上はどうしたのだ?」

「私は噂をたどって、学校にたどり着いた。イズレイル先生だ」

ファルクは顔をしかめた。

「私は騎士学校にいったから、イズレイル先生のことは知らないが、それで?」

「彼は、王都にいる」

アンセルムは確信を持って言った。その目は希望に満ちていた。




私は、ハンスの料理店へ戻る馬車に乗っていた。

アンセルムは、ファルクにむかって、メアリけに、私とファルクの交際はいいプランだと言い出し、ファルクは嬉しそうだった。

「平民との結婚など絶対に認めない。だが、真実の愛ごっこはいい隠れみのだ。存分にやれ」

エドと私はあごはずれそうだった。

ファルクは、兄が結婚は認めないつもりだとわかっても、なし崩し的にどうにかするつもりらしい。

馬車のなかで、わたしに向かって大事そうに言った。

「大丈夫だ。安心して。そう簡単にカタがつくような問題じゃない」

馬車の中で私の手をしっかり握りながら、ファルクは囁いた。

ものすごく不安なんですけれども!

でも、言えない。

「少なくとも時間が稼げる。弟君も」

今度は、エドに向かって言った。

「姉君が伯爵家と縁ができればこれ以上の出世はないだろう。姉の幸せを思えば、僕たちの交際を祝福してくれたまえ」

エドは何か言いかけたが、結局、口をつぐんだ。

「君がもう少し頼りになればいいんだが……。リール公爵家が何か仕掛けてくる可能性は高い。君の家を僕の配下の者で警護させよう」

エドの顔は見ない方がいい。今この瞬間は。私はそう思った。

「いえ、せっかくのお申し出ですが……」

あの家の警備だなんてとんでもない。色々とマズイ。

「きっと家を突き止めたりできないと思います」

「甘い」

ファルクは真剣に心配そうだった。

「だけど、どうして私なのですか?」

今の話だと、この美貌の主には、喜んで結婚したがる名家の令嬢たちが大勢いるのじゃない? なぜ、わたしと結婚したがるのだろう?

一挙にファルクが照れた。

「そんなことを言わせたい?」

「あの、いえ、純粋に疑問だっただけで……」

「聞きたいだなんて……そうか……」

嬉しそうに照れないでほしい。特に、横のエドが爆発しそうだから。

「だって、貴族の娘たちと違うのだもの」

貴族らしくない? そんなに平民らしいだなんて思ってなかったわ。

「騎士は、貴族の娘たちには憧れの職業なんだ。しかも、僕は優秀だし家柄はいいし、おまけにこの顔だから」

「その上、正直者ですものね」

言わないでおこうと思ったけれど、つい、言ってしまった。

「ほら、そう言う所も好きなんだよ」

ファルクは頬を崩した。

「率直。でも、バカではない」

さっきバカだって言ってたじゃない。

「違うよ。僕の気持ちに鈍感すぎるからそう言っただけだ」

「違いますよ。私ではあなたの相手にならない。平民ですもの。わかっています」

ファルクは目を爛々らんらんと輝かせ始めた。

「こんな気持になるのは初めてだ。僕の気持ちを君に信じさせたい。本気度をわかってほしい。君を陥落させたい」




私とエドは、トボトボと帰り道を辿たどっていった。


私は猛烈に疲れていた。


なぜかというと、ファルクとアンセルム兄弟とリール公爵家姉妹のやりとりにも疲れたのだけど、そのほかに二人とも老人に化けていたからだ。

絶対にリール家の誰かが付けて来るに違いなかったからだ。

「年取るっていやねえ」

白髪としわだらけの顔で、少し腰を曲げて私は言った。

「どうしてハゲなんだ」

エドは不満そうだった。

月夜の下でも、その禿頭はツヤツヤしていた。


後ろから追い抜いていって、顔を見にくる者がこれで五人目だった。

「あつ、失礼!」

ぶつかりそうになる者までいる。

二人とも、腰を曲げてヨロヨロと歩いているのだが、年寄りのフリをしているのだろうと思うらしい。

顔を覗き込むと、正真正銘しわだらけ、口元は下がっていて、まぶたはたるんでいる。顔つきも全くの別人だ。

「ハア? なんですか?」

「いやいや、なんでもありません!」

彼らは物盗りではない。こんな貧しそうな老人に関心はないだろう。

別人だとわかると、さっさとどこかに行ってしまった。


誰もいないことを確かめて家に入ると正直ホッとした。

魔法力もそろそろ限界だったので、ドアを閉めた途端、解除した。

黒髪の若い大男と、長い金髪の華奢な姿に戻った。


「ティナ様、今日のあれは何?」

大男のエドが少年のふりをかなぐり捨てて迫ってきた。あれでも、かわいらしく振る舞っていたのだろう。

「明日! 明日の朝、お願い!」

疲れてもう死にそう。

「眠い……」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

処理中です...