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第43話 真実の愛
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「ティナ……と言う」
ジェラルディン嬢は、私の様子、特に町娘らしい粗末な服をジロリと見た。
え? まさか、ここでジェラルディン嬢に挨拶しろって?
「私の愛しいひとだ」
おおおっ……?
なんなの、それ。
「正式に結婚しようと思っている」
私は承諾してませんけどっ
「この女はなんですか?」
誰ですか?じゃないの?モノですか、モノ?
軽蔑しきった目つきで、顎を上げ、ジェラルディン嬢は私を見下した。
純正王女の私が緊張した。
コンニチハ……?
街中の料理屋で働いています。……と言ったらいけないんだろうなあ。場の空気を読めって、私たち以外のここの登場人物は、我は通しても、場の雰囲気は読まないシステムになっているらしいし。
「わああああっ」
突然の叫びは、メアリ嬢だった。
私は、この時初めて、メアリ嬢がジェラルディン嬢の妹だと言うことを実感した。
おとなしそうに見えたのに、中身は姉と一緒?
「許せないわ!」
目が吊り上がり、唇はワナワナと震えている。顔色はむしろ灰色になっていた。
彼女は私に突進してきた。
「このような下賤の者が! ファルク様をたぶらかして!」
「姉様、危ない!」
エドが叫んだが、ファルクがメアリ嬢を突き飛ばしたのが同時だった。
あたりがシンとした。
女性を突き飛ばすだなんて、とんでもない。メアリ嬢は突き飛ばされたのが絨毯の上だったので、怪我などはしていないようだが、驚いて何も言えない様子だった。
「私の愛する人を傷つけようするとは!」
ファルクが言った。
「私はこの人を守り続ける」
メアリ嬢が信じられないと言った表情で、ファルクを見、私を見た。
「覚えておおき。そこの女」
ジェラルディン嬢が言った。
「命はないと」
「ジェラルディン嬢……」
突然、もう一人の男がこの修羅場に入ってきた。
「穏やかではないな。弟が真実の愛を求めることをどうか許してやってほしい」
ファルクと同じように背の高い大柄な男だった。
隣でエドが小さく「え?」と口の中で言った。
ファルクのような研ぎ澄まされた美貌ではなかったが、この男も整った顔だちだった。
ファルクの兄なら、現伯爵だ。
「弟は真実の愛を見つけたのだ。それは喜ぶべきことだと思う」
「そのような……平民の娘を」
「平民の娘だろうが、真実の愛はいつでも尊い」
落ち着いた、見るからに高位の貴族然とした若くもない男が、平然と歯の浮くようなセリフを喋っている。
「身分など作れば良いのだ。資質のある女でありさえすれば。ファルクが愛していると言うなら、私は止めない」
ジェラルディン嬢とメアリ嬢は悔しそうにしているが、一言も言い返さなかった。
力関係なのだろう。
リール公爵が出て来たらどうなるのだろうか。
私はワナワナと震えが出てきたが、ファルクは平然と私を抱いたままだった。
そのままの体制で、伯爵はジェラルディン嬢とメアリ嬢を見送り、それから私とエドに向き直った。
「どこの馬の骨か知らんが、茶番に協力してくれてすまなかったな」
彼は冷たい口調で言った。
茶番?
「メアリ嬢と縁を結ぶつもりはない。真実の愛とは、なかなかいい口実なのでな。使わせてもらった」
要するに、メアリ嬢とファルクは結婚させたくない。
理由は多分、リール家と縁を結びたくないのでしょう。
だけど、私に向かって茶番って言うって、どう言うこと?
私はむかっとした。
小道具扱いだって言いたいのよね? 真実の愛はリール家と縁を結ばないためには、いい口実。でも、対象者がいないとさすがに通じない。そこへちょうど都合良く、適当そうな町娘をファルクが連れてきた。
「帰らせていただいてよろしゅうございますか?」
私も十分冷たい口調で答えた。
伯爵はちょっと驚いた様子で私の方を見た。
わたしは手近にあった机の上に、今日贈られたファルクのプレゼントを並べた。
「これはお返しします」
「おいおい、それくらいはもらってくれて構わない。今日は、成り行きとは言え、不愉快な思いをさせた」
兄の伯爵が意外そうな声で言った。
私は返事しなかった。
本来なら、逆玉なのよ? 逆玉ってわかる? 私の方が身分が上なの。
それにこんなオモチャ、実家に帰れば問題にもならないのよ?
……などと言うわけにはいかないので、やむなく黙っておいた。
早く帰らせて欲しいわ。茶番なんだし。
私は横目でファルクを見た。
うわ。見るんじゃなかった。ファルクは怒っていた。怒気が顔に浮かんでいる。
「アンセルム、わたしはこの女性と結婚するつもりだ」
ファルクが言い出した。
「何をバカなことを」
アンセルムと言う名前の兄は、驚いたらしく振り返って、ファルクの顔を見た。そして顔を顰めた。
「お前なら、どこの女とでも結婚できる。結婚は貴族の絆だ。その手段は大事にしなければ。今、モンフォール家のご令嬢マリとの話を進めている」
ファルクは首を振った。
アンセルムは怒った様子だった。
「まさか、本気でその女を娶りたいなど言うわけではあるまいな?」
ファルクは怖そうな兄の伯爵に向かって、平然と言い放った。
「好き嫌いだけで妻を娶るつもりです。家の利益の犠牲など、真平ですよ」
「真実の愛なんてものは、この世に存在しないぞ? 全て、状況が整った中での話だ」
兄上のアンセルム殿は静かに諭すように弟のファルクに言った。
貴族の端くれ(というか最上位?)として言わせていただきますけど、その通りですわ。
「リール公爵家と縁を結ぶわけにはいかない。リール家に取り込まれるだけだ」
ファルクは頷いた。
「危険極まりない」
兄のその言葉にも頷いた。
「モンフォール家は中立だ。マリ嬢はファルクならと喜んでいる」
「モンフォール家にリール家から圧力が加わらなければいいですね」
ファルクは冷然と言った。
「どうしても真実の愛を貫き通すバカもいますよ。それでいいんではないでしょうか?」
アンセルムはドサリと手近にあった椅子に座った。
そしてどうしたらいいか困って、すみの方に立ち尽くしていた私たち姉弟に目をやった。
「こんな連中と縁を結びたいと? こいつらはなんだ?」
「街中の料理店の女とその弟だ」
うわあ。しっくりしすぎて、エドが弟枠にがっちりハマってしまった。自分でも、姉様とか言ってたし。
思わず、かわいそうなエドを引き寄せて抱きしめた。
傍目には、弟を庇う姉にしか見えないだろう。うん。ごめんね、エド。
アンセルムが私をじっくり観察した。
「まあ。……そう言うことにしておいて、しばらく待つのもありだな」
イヤ、なしにして。
「どうせリール家は長続きしない。今は、一触即発だ。お前は噂を知ってるな?」
ファルクは憂鬱そうな顔をした。
「王家の覇権争いなどに興味はない」
ファルクは冷淡に答えたが、アンセルムは言い返した。
「だが、エドウィン王太子が生きていると言うなら、与する者は多い。リール公爵に不満がある者はそちらに靡くだろう」
「誰だって、不満だ。だが体制をいじると揉め事が増える。歓迎しないな」
ファルクはそう言ったが、アンセルムは自信ありげな微笑みを口元に浮かべた。
「だが、もうリール家はダメだろうな」
アンセルムは、胸ポケットから手紙を取り出した。
私は目が飛び出しそうになった。
だって、それは、私いつかの晩飛ばした、鳥メールだったのだから。
ジェラルディン嬢は、私の様子、特に町娘らしい粗末な服をジロリと見た。
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私は、この時初めて、メアリ嬢がジェラルディン嬢の妹だと言うことを実感した。
おとなしそうに見えたのに、中身は姉と一緒?
「許せないわ!」
目が吊り上がり、唇はワナワナと震えている。顔色はむしろ灰色になっていた。
彼女は私に突進してきた。
「このような下賤の者が! ファルク様をたぶらかして!」
「姉様、危ない!」
エドが叫んだが、ファルクがメアリ嬢を突き飛ばしたのが同時だった。
あたりがシンとした。
女性を突き飛ばすだなんて、とんでもない。メアリ嬢は突き飛ばされたのが絨毯の上だったので、怪我などはしていないようだが、驚いて何も言えない様子だった。
「私の愛する人を傷つけようするとは!」
ファルクが言った。
「私はこの人を守り続ける」
メアリ嬢が信じられないと言った表情で、ファルクを見、私を見た。
「覚えておおき。そこの女」
ジェラルディン嬢が言った。
「命はないと」
「ジェラルディン嬢……」
突然、もう一人の男がこの修羅場に入ってきた。
「穏やかではないな。弟が真実の愛を求めることをどうか許してやってほしい」
ファルクと同じように背の高い大柄な男だった。
隣でエドが小さく「え?」と口の中で言った。
ファルクのような研ぎ澄まされた美貌ではなかったが、この男も整った顔だちだった。
ファルクの兄なら、現伯爵だ。
「弟は真実の愛を見つけたのだ。それは喜ぶべきことだと思う」
「そのような……平民の娘を」
「平民の娘だろうが、真実の愛はいつでも尊い」
落ち着いた、見るからに高位の貴族然とした若くもない男が、平然と歯の浮くようなセリフを喋っている。
「身分など作れば良いのだ。資質のある女でありさえすれば。ファルクが愛していると言うなら、私は止めない」
ジェラルディン嬢とメアリ嬢は悔しそうにしているが、一言も言い返さなかった。
力関係なのだろう。
リール公爵が出て来たらどうなるのだろうか。
私はワナワナと震えが出てきたが、ファルクは平然と私を抱いたままだった。
そのままの体制で、伯爵はジェラルディン嬢とメアリ嬢を見送り、それから私とエドに向き直った。
「どこの馬の骨か知らんが、茶番に協力してくれてすまなかったな」
彼は冷たい口調で言った。
茶番?
「メアリ嬢と縁を結ぶつもりはない。真実の愛とは、なかなかいい口実なのでな。使わせてもらった」
要するに、メアリ嬢とファルクは結婚させたくない。
理由は多分、リール家と縁を結びたくないのでしょう。
だけど、私に向かって茶番って言うって、どう言うこと?
私はむかっとした。
小道具扱いだって言いたいのよね? 真実の愛はリール家と縁を結ばないためには、いい口実。でも、対象者がいないとさすがに通じない。そこへちょうど都合良く、適当そうな町娘をファルクが連れてきた。
「帰らせていただいてよろしゅうございますか?」
私も十分冷たい口調で答えた。
伯爵はちょっと驚いた様子で私の方を見た。
わたしは手近にあった机の上に、今日贈られたファルクのプレゼントを並べた。
「これはお返しします」
「おいおい、それくらいはもらってくれて構わない。今日は、成り行きとは言え、不愉快な思いをさせた」
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うわ。見るんじゃなかった。ファルクは怒っていた。怒気が顔に浮かんでいる。
「アンセルム、わたしはこの女性と結婚するつもりだ」
ファルクが言い出した。
「何をバカなことを」
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「お前なら、どこの女とでも結婚できる。結婚は貴族の絆だ。その手段は大事にしなければ。今、モンフォール家のご令嬢マリとの話を進めている」
ファルクは首を振った。
アンセルムは怒った様子だった。
「まさか、本気でその女を娶りたいなど言うわけではあるまいな?」
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思わず、かわいそうなエドを引き寄せて抱きしめた。
傍目には、弟を庇う姉にしか見えないだろう。うん。ごめんね、エド。
アンセルムが私をじっくり観察した。
「まあ。……そう言うことにしておいて、しばらく待つのもありだな」
イヤ、なしにして。
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ファルクは憂鬱そうな顔をした。
「王家の覇権争いなどに興味はない」
ファルクは冷淡に答えたが、アンセルムは言い返した。
「だが、エドウィン王太子が生きていると言うなら、与する者は多い。リール公爵に不満がある者はそちらに靡くだろう」
「誰だって、不満だ。だが体制をいじると揉め事が増える。歓迎しないな」
ファルクはそう言ったが、アンセルムは自信ありげな微笑みを口元に浮かべた。
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