【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
35 / 62

第35話 噂の真相

しおりを挟む
「ユーファさん、洗い物ですか? そこに置いておいてもらえれば私がやっておきますよ」

 調理場で明日の下準備をしていたバルトロにそう声をかけられて我に返った私は、慌てて彼に声を返した。

「あ、いいえ、自分で洗うから大丈夫よ。あなたも忙しいでしょう?」

 そう断って薬湯の椀を洗い物用の水桶に浸けながら、先程の出来事がぐるぐる頭の中を回って、その余韻に頬を染めずにはいられなかった。

 あんなふうにおやすみのキスをされるの、初めてだった。子どもの頃だってあんなことしてきたことなかったのに―――。

 思い出すと全身が火照ってくるので、私はそれを頭の片隅に追いやりながら自分自身に喝を入れた。

 色々とすごいことがあった気がするけれど、しっかりしなきゃ―――今はそれどころじゃないんだから。

 うん、明日が終わるまで、余計なことは考えない! 今は目の前のことに集中する!

 そう言い聞かせて無理やり気分を入れ替えた私はバルトロに尋ねた。

「ねえ、確かネロリのつぼみを乾燥させたものがあったわよね。あれってまだある?」
「はい、そこのカウンターの上に置いてある容器の中に」
「あれね。少しもらっても大丈夫?」
「ええ、どうぞ」

 柑橘系の植物であるネロリの花には、様々な精神的ストレスを緩和してくれる効能がある。このつぼみを乾燥させたものを軽く潰して茶葉にすると、微かな苦みと優しい味わいが特徴のハーブティーになるのだ。心の苦しみを和らげてくれる妙薬として昔から重宝されているハーブだ。

 気休め程度かもしれないけれど、これをスレンツェに淹れてあげたい。そしてフラムアークのアドバイス通り、あなたを心配しているのだということを素直に彼に伝えよう。

 お湯を沸かして茶葉をじっくりと蒸らしている間、私はバルトロと彼の恋人レムリアの話をした。昨年大変な出来事を乗り越えた二人の絆は一段と深まっているようで、その仲睦まじさは聞いていて思わず溜め息がこぼれるほどだった。

「あなたがフラムアーク様の任務に同行する機会が増えて、レムリアは寂しがっているんじゃない?」
「はは、よく寂しいとは言ってくれています。ですが彼女もフラムアーク様には少なからぬ恩義を感じていますし、私の気持ちもよく理解してくれていますから、大丈夫ですよ。任務地が遠方の場合は出先から必ず手紙を書くようにしていますし、今回も最後に立ち寄った町で彼女に手紙を出しました。あ、もちろん機密に関わるようなことは一切書いていません」

 バルトロはそう言って照れ臭そうにはにかんだ。

「不謹慎かもしれませんが、今回の件に関われたことが私は少し嬉しくて。……実は、私は元々騎士団への入団を希望していたんです。残念ながら願い叶わず、現在の職場への配属となりましたが……。そういった経緯もあって、自分がこういう場にいられるということに不思議な高揚感があるんです。明日、自分が戦場へ立つわけではありませんが、その空気の中にいられるだけで、何というかこう……感慨深いものがあって」

 色々な考えを持つ人がいる。

 バルトロは別に殺し合いを望んでいるわけではなく、騎士として祖国を守るという立場に憧れ、叶わなかった夢の舞台にいる昂りを覚えているだけなのだろう。

 彼らには意図的にぼかした情報しか与えていないから、私達との認識に温度差が生じてしまうのは致し方ないことなのかもしれない。

 けれど、何とも言えないもどかしさとやるせなさに苛まれた。

「……後方支援になるけれど、私達の役目も重要よ。私達は私達できちんと自分の役目を果たしましょうね」

 そう口にするにとどめた私に、何も知らないバルトロは「はい!」と力強く頷いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

処理中です...