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第34話 冒険物語は続く
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エドはキョトンとしていたが、その後も真顔で私だけは守りたいんだと力説した。
「エド、私、スパイをしようと思ってるの」
私は、エドの力説を無視して割り込んだ。
だって、私は自分の力を試したくてここにいるの。守られたいわけじゃないの。
みんな、私の筋肉フェチが高じて、エドにまとわりついていると勘違いしてるみたいだけど、そうじゃないの。
こんな、王家の跡取りを争うようなワクワクする話に噛まないなんて魔女じゃないわ。
私は魔女。
力がある。
活躍したいと思わない?
「あのなあ、スパイとか、そんなちっこい、目立つブロンドと青い目の、おとぎ話の中のお姫様みたいなやつが言うセリフじゃないぞ?」
バカにしないでちょうだい。
「でも、あいにく着々と計画は進んでいるのよ」
私は胸を張った。
「え? なんだか知らないけど、やめて?」
詳細も聞かないで、エドが阻止しにきた。
「そうはいかないわ! 私、王宮の中の噂を集めることにしたの」
「どうやって?」
「私、明日から王家に仕える護衛騎士団がやって来るレストランで働くことが決まったの」
エドが黙った。
それから、すごく嫌な顔になった。
「ダメだ」
「ダメよ」
私はエドを軽くいなした。
「絶対、働くわ」
「ダメだ」
エドはテーブルを回り込んで、私の腕を取った。
「絶対ダメだ。何かあったらどうするんだ」
「何も起きないわよ!」
エドは息を詰まらせて、赤くなったり青くなったりしながら、言葉を探しているらしかった。
「ダメだ。深窓の王女が何言っているんだ! 世間知らずのくせに」
「深窓の王太子に、言われたくないわね!」
私はエドの腕を振り払って答えた。
「世間知らずでは、あなただって、最強よ! 私たちより世間知らずは、この世に存在しなくてよ」
ラビリアが後ろからパチパチと拍手した。
「……えーっと、……俺は学校に通ったこともあるし、騎士団に所属したこともあるんだぞ? 言いたかないけど、街では餓死しかけた。それに、あんたんとこの城にたどり着くまでは迷子になっていた!」
私は半目になって、ふふふと軽蔑の笑いを漏らした。
「そんな程度。迷子がなに? 私は家事仕事全般ができるのよ? 不幸くらべじゃばいのよ。能力の問題よ」
「それ、全部魔法だろ?」
「それが何? 結果は一緒よね? 私、厨房で働くだけなんですもの」
「あれ? え? 待ってください、ティナ様。ティナ様がお料理なさるのですか? と言うことは、その店に行けば、ティナ様の料理が食べられる?」
そこなの? ラビリア。
エドが何か言いかけたが、ラビリアは自分のセリフを押し込んだ。
「メニューがあるんですよね? 好きなものを注文すれば、お願いしなくても食べられて、面倒臭いとか文句言われなくて、お客様としてご馳走してくれるんですか?」
「え? ええ。まあ。お金を払ったらお客様ね」
レストランだから当然そうなるわね?
「行きます!」
「え?」
変な声が出てしまった。
「どこへ?」
エドも不安そうに聞いた。
「だって、私、ずっと遠慮してきたんです。本当は、三セットくらいデザート食べたかったのに、いつも一種類しか頼めなくて」
ラビリアはエドに迫った。
「そう言うわけですから、私が毎日、護衛につきます。エド様は安心してお仕事なさってください」
「ちょっと? ラビリアの護衛なんか何の役にも立たないでしょ?」
「そんなことありませんよ」
そう言うとラビリアは背伸びして、エドの耳元に何かごちょごちょと囁いた。
翌朝から、私は問題のレストランに出勤することになった。
「ラビリア、お前だけが頼りなんだ」
ウィル少年(例のエドの十三歳の時の姿だ)は、ラビリアの耳元で、こっそり囁いたらしい。
「俺だって、騎士団に所属していたことがあるんだ。ティナ様には鼻で笑われたけど」
「仕方ないんじゃないでしょうか。だって、王太子殿下相手なんか、みんな手加減したでしょうし、そのこと、ティナ様はわかってらっしゃいますからね」
「手加減されて嬉しいやつなんかいないよ。俺はちゃんと鍛錬を積んだんだ。だけど、そこはとにかく、俺だってその騎士連中がどんな連中だか知っている」
「どんな連中なんですか?」
「そりゃ確かに黙って護衛に付く機会も多いから、いろんなことを知っているかもしれない。だけど、全員若くて血気盛んなんだ」
「あなたもじゃないですか。ベッド、分けてくれて安心しました」
「ええ、俺のことはどうでもいいから。だから、あんな可愛くて綺麗な女の子を見たら、何をしだすかわかりゃしないだろう?」
「二十五歳の時の格好で行くから、大丈夫だって言ってましたよ?」
「それ、なんか意味ある? 美人なら、幾つでもいいんだって。二十五歳が安全なわけないだろう」
「私、ウサギなんで、人間の歳はよくわかりませんが、ティナ様のことだからどうにかするでしょう」
「そうじゃなくて、騎士団は、当たり前だけど、マッチョ揃いなんだよ」
「えー? ティナ様は、本当は細い方の方がお好きなんですよ? つまりあなたみたいな筋肉モリモリは嫌いなんです」
「あ? え? ほんとなの?」
後でラビリアは「言ってやりました」とほくそ笑んでいた。
「ザマアミロですよね。いい気になって。ティナ様が追いかけてきてくれるわけないじゃないですか。アルクマールに帰れば、どんな男だってよりどりみどりなんですから。浪人のくせに」
ラビリアは、朝一でハンスの店に堂々とやってきた。
そして、チェリーパイと、木苺のタルトと、りんごケーキと、チョコレートブラウニーと、スポンジケーキの生クリームかけをいっぺんに発注して、もりもり食べていた。
後ろから、店主のハンスが目を丸くして、ラビリアの食べっぷりを見ていた。
「そのお金、誰が払うの?」
私は心配になって聞いた。
「もちろん! 私のお給金です」
ラビリアが自信たっぷりに答えた。
「む!」
私のお給金……と言うことは、支払い主は、私…つまりティナ王女ですか……
だって、ラビニアは掃除も洗濯も何もしない。料理だって発注するだけだ。どこに給料をもらえる働きがあると言うのだ。
「ティナ様の見守り料です。あとエド様から守る料金をいただく予定です」
ラビリアは堂々としていた。
「真の敵は、エド様ですから!」
それは、どう言う意味なのよ。
「エド、私、スパイをしようと思ってるの」
私は、エドの力説を無視して割り込んだ。
だって、私は自分の力を試したくてここにいるの。守られたいわけじゃないの。
みんな、私の筋肉フェチが高じて、エドにまとわりついていると勘違いしてるみたいだけど、そうじゃないの。
こんな、王家の跡取りを争うようなワクワクする話に噛まないなんて魔女じゃないわ。
私は魔女。
力がある。
活躍したいと思わない?
「あのなあ、スパイとか、そんなちっこい、目立つブロンドと青い目の、おとぎ話の中のお姫様みたいなやつが言うセリフじゃないぞ?」
バカにしないでちょうだい。
「でも、あいにく着々と計画は進んでいるのよ」
私は胸を張った。
「え? なんだか知らないけど、やめて?」
詳細も聞かないで、エドが阻止しにきた。
「そうはいかないわ! 私、王宮の中の噂を集めることにしたの」
「どうやって?」
「私、明日から王家に仕える護衛騎士団がやって来るレストランで働くことが決まったの」
エドが黙った。
それから、すごく嫌な顔になった。
「ダメだ」
「ダメよ」
私はエドを軽くいなした。
「絶対、働くわ」
「ダメだ」
エドはテーブルを回り込んで、私の腕を取った。
「絶対ダメだ。何かあったらどうするんだ」
「何も起きないわよ!」
エドは息を詰まらせて、赤くなったり青くなったりしながら、言葉を探しているらしかった。
「ダメだ。深窓の王女が何言っているんだ! 世間知らずのくせに」
「深窓の王太子に、言われたくないわね!」
私はエドの腕を振り払って答えた。
「世間知らずでは、あなただって、最強よ! 私たちより世間知らずは、この世に存在しなくてよ」
ラビリアが後ろからパチパチと拍手した。
「……えーっと、……俺は学校に通ったこともあるし、騎士団に所属したこともあるんだぞ? 言いたかないけど、街では餓死しかけた。それに、あんたんとこの城にたどり着くまでは迷子になっていた!」
私は半目になって、ふふふと軽蔑の笑いを漏らした。
「そんな程度。迷子がなに? 私は家事仕事全般ができるのよ? 不幸くらべじゃばいのよ。能力の問題よ」
「それ、全部魔法だろ?」
「それが何? 結果は一緒よね? 私、厨房で働くだけなんですもの」
「あれ? え? 待ってください、ティナ様。ティナ様がお料理なさるのですか? と言うことは、その店に行けば、ティナ様の料理が食べられる?」
そこなの? ラビリア。
エドが何か言いかけたが、ラビリアは自分のセリフを押し込んだ。
「メニューがあるんですよね? 好きなものを注文すれば、お願いしなくても食べられて、面倒臭いとか文句言われなくて、お客様としてご馳走してくれるんですか?」
「え? ええ。まあ。お金を払ったらお客様ね」
レストランだから当然そうなるわね?
「行きます!」
「え?」
変な声が出てしまった。
「どこへ?」
エドも不安そうに聞いた。
「だって、私、ずっと遠慮してきたんです。本当は、三セットくらいデザート食べたかったのに、いつも一種類しか頼めなくて」
ラビリアはエドに迫った。
「そう言うわけですから、私が毎日、護衛につきます。エド様は安心してお仕事なさってください」
「ちょっと? ラビリアの護衛なんか何の役にも立たないでしょ?」
「そんなことありませんよ」
そう言うとラビリアは背伸びして、エドの耳元に何かごちょごちょと囁いた。
翌朝から、私は問題のレストランに出勤することになった。
「ラビリア、お前だけが頼りなんだ」
ウィル少年(例のエドの十三歳の時の姿だ)は、ラビリアの耳元で、こっそり囁いたらしい。
「俺だって、騎士団に所属していたことがあるんだ。ティナ様には鼻で笑われたけど」
「仕方ないんじゃないでしょうか。だって、王太子殿下相手なんか、みんな手加減したでしょうし、そのこと、ティナ様はわかってらっしゃいますからね」
「手加減されて嬉しいやつなんかいないよ。俺はちゃんと鍛錬を積んだんだ。だけど、そこはとにかく、俺だってその騎士連中がどんな連中だか知っている」
「どんな連中なんですか?」
「そりゃ確かに黙って護衛に付く機会も多いから、いろんなことを知っているかもしれない。だけど、全員若くて血気盛んなんだ」
「あなたもじゃないですか。ベッド、分けてくれて安心しました」
「ええ、俺のことはどうでもいいから。だから、あんな可愛くて綺麗な女の子を見たら、何をしだすかわかりゃしないだろう?」
「二十五歳の時の格好で行くから、大丈夫だって言ってましたよ?」
「それ、なんか意味ある? 美人なら、幾つでもいいんだって。二十五歳が安全なわけないだろう」
「私、ウサギなんで、人間の歳はよくわかりませんが、ティナ様のことだからどうにかするでしょう」
「そうじゃなくて、騎士団は、当たり前だけど、マッチョ揃いなんだよ」
「えー? ティナ様は、本当は細い方の方がお好きなんですよ? つまりあなたみたいな筋肉モリモリは嫌いなんです」
「あ? え? ほんとなの?」
後でラビリアは「言ってやりました」とほくそ笑んでいた。
「ザマアミロですよね。いい気になって。ティナ様が追いかけてきてくれるわけないじゃないですか。アルクマールに帰れば、どんな男だってよりどりみどりなんですから。浪人のくせに」
ラビリアは、朝一でハンスの店に堂々とやってきた。
そして、チェリーパイと、木苺のタルトと、りんごケーキと、チョコレートブラウニーと、スポンジケーキの生クリームかけをいっぺんに発注して、もりもり食べていた。
後ろから、店主のハンスが目を丸くして、ラビリアの食べっぷりを見ていた。
「そのお金、誰が払うの?」
私は心配になって聞いた。
「もちろん! 私のお給金です」
ラビリアが自信たっぷりに答えた。
「む!」
私のお給金……と言うことは、支払い主は、私…つまりティナ王女ですか……
だって、ラビニアは掃除も洗濯も何もしない。料理だって発注するだけだ。どこに給料をもらえる働きがあると言うのだ。
「ティナ様の見守り料です。あとエド様から守る料金をいただく予定です」
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