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第31話 この世で見た魔法
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「わーはっはっは」
イズレイル先生は顎を外さんばかりに大笑いした。
「こんなこったろうと思ってたんだ」
私とラビリアはびっくり仰天して、気むずかしいとばかり思っていた先生がバカ笑いしているのを呆然と見つめた。
「いい匂いがするじゃないか。鶏の足だな」
しまった。音はしなくても、匂いはガンガン届いていたらしい。
エドが顰めっ面をしていた。私とラビリアはしょんぼり下を向いた。
「彼女か?」
「……違います」
エドが頭を抱えながら言った。
「そこのお嬢さんたち。どちらがエドの恋人なんだ?」
そんなんじゃない。
「いえ。私たちは関係なくて、あの……」
しかし、ラビリアの指が私を指し示していた。
このっ……裏切り者っ
「そうかそうか!」
先生はむやみに嬉しそうだった。
「婚約も、めでたく破棄されたしな!」
「え?」
「わしは元々アルクマール家との婚約には反対だったのじゃ」
「……え? なぜ?」
すごく余計なお世話……
「教えてやろう。お前さんも聞きたかろう。実は長い話なんだ」
全然、聞きたくありませんが。それに既に、長いお話はお腹いっぱいです。
エドが顔を覆っている。
「そもそもガレンの王家には、国内の貴族の娘との結婚が望ましいと、わしは思っていた」
「先生、それはあなたが決めることじゃないです……」
『そうだ、そうだ』
「しかし、アルクマール王家には噂がある。それは、ずっと昔から言われていた。リール公爵家の三男といざこざをおこし、勇敢にも決闘で決着をつけようとして投獄されたわしの甥のペルグリンも言っておったが……」
『頭は大丈夫なのかしら? 決闘推進派だなんて』
珍しくラビリアがまともなことを言う。だけど、ペルグリンの話題の方がまだマシかも。
「まあ、ペルグリンの話はこの際、どうでもいい」
『そんなら、始めるなよ……』
「アルクマールは魔女の一族だと言われていた」
私とラビリアはイズレイル先生の顔を見た。
「驚いたろう?」
「は……い」
「魔女なんかいないと思うじゃろう?」
「そんなもの、いませんよ」
エドが完全否定した。
「だが、わしは見たことがある」
急に静かな沈黙が台所に落ちた。
気がついていないのは先生だけかもしれない。
「わしは若い頃、アルクマールに留学したことがある。帰りだった。夏のことでわしは街道から逸れて森の中を突き抜け、一直線にガレンに向かえば、距離の分、早く帰れるのではないかと考えついたのだ。その途中、美しい古風な城を見つけたわしは……」
先生はギラリと目を光らせた。
「誰も信じないが、その城は、どの地図にも載っていなかった。わしは城を目指した。だが、どうしてもたどり着けない。おかしいだろう? すぐそこに見えているのに」
「先生、また、そんなおかしな話……」
「いままで一度だって話したことがないんだ。このわしがだぞ? 驚きだと思わんのか」
「それは思いますが……」
先生はお喋りである。つい、全員がそこは頷いた。
「ある日、わしはいつもと同じように城を見ていた。そしたら、突然、十羽ほどの白鳥が一斉に空に向かって飛び立っていき……空の途中で、キラキラと輝くと途中で消えていった」
先生は夢見る目になり、残り三人は遠い目になった。
目撃者っているもんだな。
「美しかった……」
「……そりゃよかったですね……いい思い出で」
エドは幕引きを図ったが、イズレイル先生は向き直った。
「わしは悟った。あれは魔法だ」
うん。こないだ、おばあさまがやって見せてくれたやつだ。魔法ですね。
「古城に近づくことはできない。わしは諦めた。わしには魔法力がない。そんなもの、誰も持っとらん。だが、アルクマールにはあるのだ」
「先生、逆に、それは希少で値打ちがあるのでは?」
「アルクマールには魔女がいる。まるで古代の龍や、妖精が生き残っているかのようだ。わしたちは人間だ。そんな世界に足を踏み入れていいのだろうか」
ああ……おばあさまが言っていた偏見ってやつのことね。
「先生、アルクマール王家の人たちは普通の人ですよ? 私は小さい頃、その姫君に会ったことがありますが、普通のとても美しい姫君でした。いっぺんに心を囚われました……」
「え?」
私は思わず言った。私に記憶はない。
「こら、エドウィン殿!」
愉快そうに先生は怒鳴った。
「そこのお嬢さんに失礼じゃないか。元の婚約者の話なんかして。無粋にも程があるぞ? わしは王家には、身分高い貴族の娘をという考え方にも反対なんじゃ。娘は聡明な方がいい。それだけでいい。生まれなんか関係ない。お嬢ちゃんの生まれは平民かな? 綺麗な娘だ。エドウィン殿が惚れ込むのもわかる。王家の娘なんぞ、礼儀作法ばかり詳しくて、つまらんものじゃ。魔女は得体がしれなくて怖いしな。ガレンのただの娘が一番良い。わしにも夕飯を出してくれ」
『タダ飯食いかー。エドと一緒。師弟ですねえ……』
ラビリアが言った。
イズレイル先生は顎を外さんばかりに大笑いした。
「こんなこったろうと思ってたんだ」
私とラビリアはびっくり仰天して、気むずかしいとばかり思っていた先生がバカ笑いしているのを呆然と見つめた。
「いい匂いがするじゃないか。鶏の足だな」
しまった。音はしなくても、匂いはガンガン届いていたらしい。
エドが顰めっ面をしていた。私とラビリアはしょんぼり下を向いた。
「彼女か?」
「……違います」
エドが頭を抱えながら言った。
「そこのお嬢さんたち。どちらがエドの恋人なんだ?」
そんなんじゃない。
「いえ。私たちは関係なくて、あの……」
しかし、ラビリアの指が私を指し示していた。
このっ……裏切り者っ
「そうかそうか!」
先生はむやみに嬉しそうだった。
「婚約も、めでたく破棄されたしな!」
「え?」
「わしは元々アルクマール家との婚約には反対だったのじゃ」
「……え? なぜ?」
すごく余計なお世話……
「教えてやろう。お前さんも聞きたかろう。実は長い話なんだ」
全然、聞きたくありませんが。それに既に、長いお話はお腹いっぱいです。
エドが顔を覆っている。
「そもそもガレンの王家には、国内の貴族の娘との結婚が望ましいと、わしは思っていた」
「先生、それはあなたが決めることじゃないです……」
『そうだ、そうだ』
「しかし、アルクマール王家には噂がある。それは、ずっと昔から言われていた。リール公爵家の三男といざこざをおこし、勇敢にも決闘で決着をつけようとして投獄されたわしの甥のペルグリンも言っておったが……」
『頭は大丈夫なのかしら? 決闘推進派だなんて』
珍しくラビリアがまともなことを言う。だけど、ペルグリンの話題の方がまだマシかも。
「まあ、ペルグリンの話はこの際、どうでもいい」
『そんなら、始めるなよ……』
「アルクマールは魔女の一族だと言われていた」
私とラビリアはイズレイル先生の顔を見た。
「驚いたろう?」
「は……い」
「魔女なんかいないと思うじゃろう?」
「そんなもの、いませんよ」
エドが完全否定した。
「だが、わしは見たことがある」
急に静かな沈黙が台所に落ちた。
気がついていないのは先生だけかもしれない。
「わしは若い頃、アルクマールに留学したことがある。帰りだった。夏のことでわしは街道から逸れて森の中を突き抜け、一直線にガレンに向かえば、距離の分、早く帰れるのではないかと考えついたのだ。その途中、美しい古風な城を見つけたわしは……」
先生はギラリと目を光らせた。
「誰も信じないが、その城は、どの地図にも載っていなかった。わしは城を目指した。だが、どうしてもたどり着けない。おかしいだろう? すぐそこに見えているのに」
「先生、また、そんなおかしな話……」
「いままで一度だって話したことがないんだ。このわしがだぞ? 驚きだと思わんのか」
「それは思いますが……」
先生はお喋りである。つい、全員がそこは頷いた。
「ある日、わしはいつもと同じように城を見ていた。そしたら、突然、十羽ほどの白鳥が一斉に空に向かって飛び立っていき……空の途中で、キラキラと輝くと途中で消えていった」
先生は夢見る目になり、残り三人は遠い目になった。
目撃者っているもんだな。
「美しかった……」
「……そりゃよかったですね……いい思い出で」
エドは幕引きを図ったが、イズレイル先生は向き直った。
「わしは悟った。あれは魔法だ」
うん。こないだ、おばあさまがやって見せてくれたやつだ。魔法ですね。
「古城に近づくことはできない。わしは諦めた。わしには魔法力がない。そんなもの、誰も持っとらん。だが、アルクマールにはあるのだ」
「先生、逆に、それは希少で値打ちがあるのでは?」
「アルクマールには魔女がいる。まるで古代の龍や、妖精が生き残っているかのようだ。わしたちは人間だ。そんな世界に足を踏み入れていいのだろうか」
ああ……おばあさまが言っていた偏見ってやつのことね。
「先生、アルクマール王家の人たちは普通の人ですよ? 私は小さい頃、その姫君に会ったことがありますが、普通のとても美しい姫君でした。いっぺんに心を囚われました……」
「え?」
私は思わず言った。私に記憶はない。
「こら、エドウィン殿!」
愉快そうに先生は怒鳴った。
「そこのお嬢さんに失礼じゃないか。元の婚約者の話なんかして。無粋にも程があるぞ? わしは王家には、身分高い貴族の娘をという考え方にも反対なんじゃ。娘は聡明な方がいい。それだけでいい。生まれなんか関係ない。お嬢ちゃんの生まれは平民かな? 綺麗な娘だ。エドウィン殿が惚れ込むのもわかる。王家の娘なんぞ、礼儀作法ばかり詳しくて、つまらんものじゃ。魔女は得体がしれなくて怖いしな。ガレンのただの娘が一番良い。わしにも夕飯を出してくれ」
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ラビリアが言った。
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