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第29話 町で働きたい!
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バカじゃないわよ。
私はプリプリ怒りながら計画を立てた。
ガレンの騎士団が常連になってるような店で働くのだ。
身分を隠して、ちょっとだけ。
そして噂を収集すればいい。面白いことが聞けるかもしれない。
そうよ。王城の近くの羽振りの良さそうな店を探して、働いてやろうと持ち掛ければいいんだわ。
しかし、あっという間に断られた。
「ダメだね」
場所的に、騎士団の門から少し離れた場所の、こぎれいな店に仕事はないかと聞くと、鼻でせせら笑われた。
「年増はお断りだよ」
固太りで血色のいい亭主がそう言った。
「年増……」
私は絶句した。二十五歳が年増?
「それに護衛騎士にじゃら付こうと思ってるんだったら、そんな女で今は満席だよ」
「あ、違うんです」
私は言い出した。しかし、店の親父の目はますます侮蔑的になってきた。
「どこが違うんだ。護衛騎士のことばっか追いかけて、仕事は手抜き、言うことなんか聞きゃしない。挙句の果てには騎士様のお気に入りになったからって俺の悪口を騎士様に垂れ流す。俺はただ給料の分は働けって言ってるだけなんだぞ? 中にはバカな騎士もいて、そんな女の言い分を真に受けて、俺が殴られたことだってあるんだ。いい迷惑だ」
店主は一挙に捲し立てた。
な、なるほど。
それは確かに大変だわ。
「俺が求めているのは、おとなしく仕事をしてくれて、他の女と揉めない、ただの従業員なんだ。すごい美人なんかいらない」
「だから違うんですってば、私は……」
「どこが違うんだ」
そう言うと、店主は私をチラッと見た。
「そんなキレイな服着て、働く気か! 騎士様狙いなら、そう言う店に行ってくれ。夜だけの酒を飲ませる店だとか」
服? 格好がよくなかったの?
「ここは騎士連中が来るには来るが、うまい飯を食べにくるとこなんだ」
うまい飯! オッケーです。大丈夫です。イケます。
「私は厨房希望なんですよ!」
店主は急に黙って、ぐるりと目玉を回して私を見つめた。
「料理ができるって言うのかね? そんななりで?」
私は、豪華に過ぎたらしい服を反省した。
私としては、これでも一番地味な格好だったのだけど、それでも立派すぎたらしい。
「料理の腕は自信が有ります。どんな物をお出ししているのですか?」
亭主は眉を下げた。
「……うーん。まあ、実はカミさんが不在でな。娘の出産に付き添ってて。人手不足ではあったんだ」
「まあ!」
「最近は物騒でな。護衛騎士も忙しいらしい。あまり店に来ないんだ。それでも、料理人はいつだって歓迎だ。まあ、本当に腕があるって言うならな。入れ」
「すみません。お邪魔します」
私は小さくなって店に入った。
まだ、午前中だったせいか、店に客はおらず、店主は仕込みをしていたらしかった。
店はよく掃除がされていて、テーブルも綺麗だった。なかなか良さそうな店だ。
「昼間は昼食をとりに来るんだ。晩は食べでのあるものを食べに来る。だけど、酒を飲んで長居をするわけにはいかないらしい。なにしろ、王様が交代したばかりで、王宮内はゴタゴタしているらしい」
メニューを見せられて私は頷いた。
仔牛のカツレツ、牛タンのワイン煮込み、ソーセージの焼いたの、鶏肉の串焼き、骨付きハム、ベーコンと豆と野菜の煮込み、デザートにはチーズや、梨のタルト、胡桃のパイ、ビスケットにクッキー……
結構、贅沢な食事のメニューだ。王宮でお馴染みのものも多い。これならなんとかなるだろう。
「みなさん、相当な大食いですね」
高カロリーで、タンパク質が多そう。
「王宮勤めの騎士を舐めちゃいかん。みんな高級取りだし、若いし、仕事は力仕事だ。うまいとなったら、びっくりするくらい食べる」
私は夜は家に戻るので、昼食と夕食の仕込みを手伝うことにした。
「パイやタルトは焼いておけば切って出せばいいですし、串焼きやカツレツは、下準備をしておけばラクでしょう」
さっさと働く私に亭主は目を丸くしていたが、用心深く、様子を見てから給料は決める、契約は一ヶ月でと言ってきた。
私の目的はお金じゃない。騎士連中の話を聞くことだ。
この店であまり聞き出すことができないようなら、別の店に移らなきゃいけない。一月契約で構わない。
昼食時になると、バラバラと騎士らしき客が増え始めた。
他の客は小さくなっている。
なるほど。
騎士たちは確かにここでは特権階級らしい。
ま、私は王女だけどね。
だけど、その場の雰囲気とは恐ろしいものだ。どうも最近、王女認識が薄れてきてる。
今日も女スパイよろしく目立たないように物陰に潜んで、彼らの話に耳を傾けた。
「気分は隠密……」
そう思うとちょっと気分が上がってきた。
秘密の任務についてるみたいだわ。
ふふっ。さあ、みんな、いろんなことをペラペラ喋るが良いわ。ぜーんぶエドに伝えちゃうから。
「小鹿亭の新しくきた子、可愛くね?」
「あ、あのブロンドの!」
「色、白くてさー。華奢で。目の色がわからん。青かな?緑かな?」
「どっちもイケるよね? 俺、好き」
「そばに寄らんとわからんなー。でも、そばに行くチャンスなくてさー」
金髪、人気じゃないの……嘘、教えたな? ジェラルディン。
「ポーションの話で姉と喧嘩してさー」
「どのポーション? 幻の?」
「そうそう。バカ商人が襲撃かけたせいで、二度と販売されなくなっちゃったやつ」
「腹たつよな。その商人」
「うちの姉さんが美容に効くんじゃないかって言うんだけど、そんな勿体無い使い方すんなっての。喧嘩になった」
「いやーわかるわー。怪我の時に、そのポーション、あればって切実に思うよね。こっちは命かかってんだから」
「まあ、誰も持ってない時点で、不毛の議論だけどね」
「まあね」
「でも、すごいポーションだよね。誰が作ってのか知らないけど、尊敬するね」
それは私のことよ。私は鼻高々になった。
なかなかいい連中ではないだろうか。すごく興味のあるいい話が聞けた。
トコトコ帰りながら私は考えた。
「ティナって言うの? じゃ、明日からね。よろしくね。頑張ってくれよ」
帰り際、亭主は、最初と態度が百八十変わって、揉み手して私を送り出した。
「そんななりで、料理なんか壊滅的だと思ったけど、うまいじゃないか。騎士様たちが喜んでたし、お代わりまでしてくれた」
私もあれには驚いた。三人がかりとは言え、鶏の丸焼きを丸々二羽平らげたのだ。しかも昼食に、である。
「昼間だけじゃなくて、夜もお願いしたいくらいなんだけど」
「騎士様にじゃらつくつもりはありませんから」
お断りした。
家に着くと、ほぼ一緒の時間にエドも帰って来て、これからイズレイル先生がやって来ると告げた。
「ティナ様とラビリアはいないことになっている」
「私たちの存在を無視する気?」
私は王女なのよ?
「どう説明する気だよ? 今日、俺は親戚だって名乗って先生に近づいた。エドウィン王子は、ここには住んでいない、人のいないこの家に、今日だけ家主の知らない間に侵入して会うってことにしたんだ」
確かに。今、この家で先生に会おうものなら、王都のどこかでバッタリ……例えば今日の王宮の護衛騎士御用達の店なんかで鉢合わせしたら、質問攻めに遭う。うっかり口を滑らすかもしれない。
「先生だって、俺がどこにいるのか知りたいだろうと思う。連絡を取りたいだろうしね。だけど、それは危険だ。ここが拠点とバレたら、ウィルが捕まる。エドウィン王子の居場所を吐けと拷問にかけられたらどうするんだ」
私は真っ青になった。
「まあ、俺のファンなんで、今だけここにいますとか言う分には、それで済むけど」
エドがニヤリと笑った。
なんだと? 私は冒険を手伝っているだけなのよ?
「ティナ様、別に間違いはないじゃないですか」
ラビリアが猫撫で声を出した。
「ファンじゃないって言うなら、その証拠にアルクマールにお帰りになることですよ?」
「アルクマールに帰るのが、なんの証拠だって言うのよ?」
「おそばにいたがるのは、ファンの典型的な行動ですからねー」
「私はガレンの王子の王位復活を応援しているだけなのよ!」
「それがファン心理だって言うんです」
「違うのよ! ガレンの王位を復活させるのよ? 問題はそっちよ! 面白くない?」
ラビリアは全く面白くない顔をしていた。
「持てる頭脳全てを使い! 知恵を巡らし! 私の能力すべてを使って戦いを挑むの! これを冒険と言わずして、なんと言う?」
私は力説し、ラビリアは言い返した。
困りきった顔をしたエドが、一生懸命割り込んできた。
「もうすぐ先生が来る。魔法を解いてくれ」
「うるさいわね! 元のエドの姿に戻れ!」
叫びざま、魔法を放った。
私だってわかっている。
王女様は、アルクマールに帰らなきゃいけない。
だけど、ちょっとだけ、もうちょっとだけ、ここにいたい。それこそ数日のことだ。それで全然違ってくると思う。
やってみたい。
「こんな面白いことはないと思うの!」
「あー、あのね、ティナ嬢、これはちょっと……」
「なんなの? エド……」
振り返ると、そこには、全裸になったエドが背中を向けて内股になっていた。
十三歳から成長したので、服は破れて肩や腰に一部ぶら下がっていた。
「エド様が、すごく面白い格好になっていますよ?」
ラビリアが冷たく指摘した。
「服……なんとかしてもらえない?」
下から控え目なノックの音が聞こえてきた。イズレイル先生が来たのだ。
「ごめんなさい! エド!」
私は王子様服を想像して手を振った。
金と青の上着と精緻なレースのシャツ、青のズボンと金の靴。宮廷服になってしまった。
「ダメダメ。早く! 前の森で会った時の服を思い出して!」
エドが焦っている。
手を振り直して、単なる黒の長ズボンと簡素な白のシャツに着せ替えると、エドは走って先生を迎えに行った。
私はプリプリ怒りながら計画を立てた。
ガレンの騎士団が常連になってるような店で働くのだ。
身分を隠して、ちょっとだけ。
そして噂を収集すればいい。面白いことが聞けるかもしれない。
そうよ。王城の近くの羽振りの良さそうな店を探して、働いてやろうと持ち掛ければいいんだわ。
しかし、あっという間に断られた。
「ダメだね」
場所的に、騎士団の門から少し離れた場所の、こぎれいな店に仕事はないかと聞くと、鼻でせせら笑われた。
「年増はお断りだよ」
固太りで血色のいい亭主がそう言った。
「年増……」
私は絶句した。二十五歳が年増?
「それに護衛騎士にじゃら付こうと思ってるんだったら、そんな女で今は満席だよ」
「あ、違うんです」
私は言い出した。しかし、店の親父の目はますます侮蔑的になってきた。
「どこが違うんだ。護衛騎士のことばっか追いかけて、仕事は手抜き、言うことなんか聞きゃしない。挙句の果てには騎士様のお気に入りになったからって俺の悪口を騎士様に垂れ流す。俺はただ給料の分は働けって言ってるだけなんだぞ? 中にはバカな騎士もいて、そんな女の言い分を真に受けて、俺が殴られたことだってあるんだ。いい迷惑だ」
店主は一挙に捲し立てた。
な、なるほど。
それは確かに大変だわ。
「俺が求めているのは、おとなしく仕事をしてくれて、他の女と揉めない、ただの従業員なんだ。すごい美人なんかいらない」
「だから違うんですってば、私は……」
「どこが違うんだ」
そう言うと、店主は私をチラッと見た。
「そんなキレイな服着て、働く気か! 騎士様狙いなら、そう言う店に行ってくれ。夜だけの酒を飲ませる店だとか」
服? 格好がよくなかったの?
「ここは騎士連中が来るには来るが、うまい飯を食べにくるとこなんだ」
うまい飯! オッケーです。大丈夫です。イケます。
「私は厨房希望なんですよ!」
店主は急に黙って、ぐるりと目玉を回して私を見つめた。
「料理ができるって言うのかね? そんななりで?」
私は、豪華に過ぎたらしい服を反省した。
私としては、これでも一番地味な格好だったのだけど、それでも立派すぎたらしい。
「料理の腕は自信が有ります。どんな物をお出ししているのですか?」
亭主は眉を下げた。
「……うーん。まあ、実はカミさんが不在でな。娘の出産に付き添ってて。人手不足ではあったんだ」
「まあ!」
「最近は物騒でな。護衛騎士も忙しいらしい。あまり店に来ないんだ。それでも、料理人はいつだって歓迎だ。まあ、本当に腕があるって言うならな。入れ」
「すみません。お邪魔します」
私は小さくなって店に入った。
まだ、午前中だったせいか、店に客はおらず、店主は仕込みをしていたらしかった。
店はよく掃除がされていて、テーブルも綺麗だった。なかなか良さそうな店だ。
「昼間は昼食をとりに来るんだ。晩は食べでのあるものを食べに来る。だけど、酒を飲んで長居をするわけにはいかないらしい。なにしろ、王様が交代したばかりで、王宮内はゴタゴタしているらしい」
メニューを見せられて私は頷いた。
仔牛のカツレツ、牛タンのワイン煮込み、ソーセージの焼いたの、鶏肉の串焼き、骨付きハム、ベーコンと豆と野菜の煮込み、デザートにはチーズや、梨のタルト、胡桃のパイ、ビスケットにクッキー……
結構、贅沢な食事のメニューだ。王宮でお馴染みのものも多い。これならなんとかなるだろう。
「みなさん、相当な大食いですね」
高カロリーで、タンパク質が多そう。
「王宮勤めの騎士を舐めちゃいかん。みんな高級取りだし、若いし、仕事は力仕事だ。うまいとなったら、びっくりするくらい食べる」
私は夜は家に戻るので、昼食と夕食の仕込みを手伝うことにした。
「パイやタルトは焼いておけば切って出せばいいですし、串焼きやカツレツは、下準備をしておけばラクでしょう」
さっさと働く私に亭主は目を丸くしていたが、用心深く、様子を見てから給料は決める、契約は一ヶ月でと言ってきた。
私の目的はお金じゃない。騎士連中の話を聞くことだ。
この店であまり聞き出すことができないようなら、別の店に移らなきゃいけない。一月契約で構わない。
昼食時になると、バラバラと騎士らしき客が増え始めた。
他の客は小さくなっている。
なるほど。
騎士たちは確かにここでは特権階級らしい。
ま、私は王女だけどね。
だけど、その場の雰囲気とは恐ろしいものだ。どうも最近、王女認識が薄れてきてる。
今日も女スパイよろしく目立たないように物陰に潜んで、彼らの話に耳を傾けた。
「気分は隠密……」
そう思うとちょっと気分が上がってきた。
秘密の任務についてるみたいだわ。
ふふっ。さあ、みんな、いろんなことをペラペラ喋るが良いわ。ぜーんぶエドに伝えちゃうから。
「小鹿亭の新しくきた子、可愛くね?」
「あ、あのブロンドの!」
「色、白くてさー。華奢で。目の色がわからん。青かな?緑かな?」
「どっちもイケるよね? 俺、好き」
「そばに寄らんとわからんなー。でも、そばに行くチャンスなくてさー」
金髪、人気じゃないの……嘘、教えたな? ジェラルディン。
「ポーションの話で姉と喧嘩してさー」
「どのポーション? 幻の?」
「そうそう。バカ商人が襲撃かけたせいで、二度と販売されなくなっちゃったやつ」
「腹たつよな。その商人」
「うちの姉さんが美容に効くんじゃないかって言うんだけど、そんな勿体無い使い方すんなっての。喧嘩になった」
「いやーわかるわー。怪我の時に、そのポーション、あればって切実に思うよね。こっちは命かかってんだから」
「まあ、誰も持ってない時点で、不毛の議論だけどね」
「まあね」
「でも、すごいポーションだよね。誰が作ってのか知らないけど、尊敬するね」
それは私のことよ。私は鼻高々になった。
なかなかいい連中ではないだろうか。すごく興味のあるいい話が聞けた。
トコトコ帰りながら私は考えた。
「ティナって言うの? じゃ、明日からね。よろしくね。頑張ってくれよ」
帰り際、亭主は、最初と態度が百八十変わって、揉み手して私を送り出した。
「そんななりで、料理なんか壊滅的だと思ったけど、うまいじゃないか。騎士様たちが喜んでたし、お代わりまでしてくれた」
私もあれには驚いた。三人がかりとは言え、鶏の丸焼きを丸々二羽平らげたのだ。しかも昼食に、である。
「昼間だけじゃなくて、夜もお願いしたいくらいなんだけど」
「騎士様にじゃらつくつもりはありませんから」
お断りした。
家に着くと、ほぼ一緒の時間にエドも帰って来て、これからイズレイル先生がやって来ると告げた。
「ティナ様とラビリアはいないことになっている」
「私たちの存在を無視する気?」
私は王女なのよ?
「どう説明する気だよ? 今日、俺は親戚だって名乗って先生に近づいた。エドウィン王子は、ここには住んでいない、人のいないこの家に、今日だけ家主の知らない間に侵入して会うってことにしたんだ」
確かに。今、この家で先生に会おうものなら、王都のどこかでバッタリ……例えば今日の王宮の護衛騎士御用達の店なんかで鉢合わせしたら、質問攻めに遭う。うっかり口を滑らすかもしれない。
「先生だって、俺がどこにいるのか知りたいだろうと思う。連絡を取りたいだろうしね。だけど、それは危険だ。ここが拠点とバレたら、ウィルが捕まる。エドウィン王子の居場所を吐けと拷問にかけられたらどうするんだ」
私は真っ青になった。
「まあ、俺のファンなんで、今だけここにいますとか言う分には、それで済むけど」
エドがニヤリと笑った。
なんだと? 私は冒険を手伝っているだけなのよ?
「ティナ様、別に間違いはないじゃないですか」
ラビリアが猫撫で声を出した。
「ファンじゃないって言うなら、その証拠にアルクマールにお帰りになることですよ?」
「アルクマールに帰るのが、なんの証拠だって言うのよ?」
「おそばにいたがるのは、ファンの典型的な行動ですからねー」
「私はガレンの王子の王位復活を応援しているだけなのよ!」
「それがファン心理だって言うんです」
「違うのよ! ガレンの王位を復活させるのよ? 問題はそっちよ! 面白くない?」
ラビリアは全く面白くない顔をしていた。
「持てる頭脳全てを使い! 知恵を巡らし! 私の能力すべてを使って戦いを挑むの! これを冒険と言わずして、なんと言う?」
私は力説し、ラビリアは言い返した。
困りきった顔をしたエドが、一生懸命割り込んできた。
「もうすぐ先生が来る。魔法を解いてくれ」
「うるさいわね! 元のエドの姿に戻れ!」
叫びざま、魔法を放った。
私だってわかっている。
王女様は、アルクマールに帰らなきゃいけない。
だけど、ちょっとだけ、もうちょっとだけ、ここにいたい。それこそ数日のことだ。それで全然違ってくると思う。
やってみたい。
「こんな面白いことはないと思うの!」
「あー、あのね、ティナ嬢、これはちょっと……」
「なんなの? エド……」
振り返ると、そこには、全裸になったエドが背中を向けて内股になっていた。
十三歳から成長したので、服は破れて肩や腰に一部ぶら下がっていた。
「エド様が、すごく面白い格好になっていますよ?」
ラビリアが冷たく指摘した。
「服……なんとかしてもらえない?」
下から控え目なノックの音が聞こえてきた。イズレイル先生が来たのだ。
「ごめんなさい! エド!」
私は王子様服を想像して手を振った。
金と青の上着と精緻なレースのシャツ、青のズボンと金の靴。宮廷服になってしまった。
「ダメダメ。早く! 前の森で会った時の服を思い出して!」
エドが焦っている。
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