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第25話 エド、おっさんになる
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運悪く、魔法陣はエドの頭の上で発動したらしい。
「イテッ、アチッ、アゥ、なんだこれ? あーっ」
まず私が、次にラビリアが、最後に荷物がいくつか、次々にエドの頭の上に落ちてきた。
「誰だっ?」
「そっちこそ誰?」
気の立っているラビリアが、顔中が黒い髭に覆われた大柄な男にビビって叫んだ。
そこは真夜中の森の中で、ラビリアは本能的に暗い森なんか大嫌いなのだ。
エドはどうやら野営していたようだった。
「ことと次第によっては、ただでは済まさないわよ?」
「ラビリアじゃないか。と言うことは、さっきのはティナ様か」
私も男の顔をつくづく見た。顔中髭だらけだ。
「うわあ、ひどい」
ほとんど人相がわからない。
焚き火が熾されていて、夕食らしいものが中で煮えていた。中身は豆と草だった。
「ここはどこ?」
私は周りを見回しながら聞いた。
エドは渋い顔だった。
「まだアルクマールの領地内から出ていないよ。三日しか経っていないんだ」
「たった三日で、その顔はひどくない?」
ラビリアが尋ねたが、エドは無視した。
「なんでこんなところへ来たんだ? お付きはどうした? 馬車で来たのか?」
「あら、いやだ。忘れたの? 私は魔女よ」
エドはまじまじと私の顔を見た。
「魔女?」
「魔女よ。知っているでしょう? 知っているところなら、瞬間移動できるのよ」
エドの前でなら遠慮することはない。
だって、エドは私が魔女だって知っているんだもの。
古城でバラしてしまっている。その後、二度と会うことは無いはずだった。
その三日後くらいに、なんの因果か再会を果たしちゃったけど。
「その顔はひどいわ」
私はしかつめらしく宣言した。
エドの可哀想な顔は、綺麗さっぱり髭を剃られ、貧相な鍋の中身はベーコンとじゃがいもと野菜のスープに変更され、さらに鳥の丸焼きがメニューに追加された。その上、ラビリアがゴネるので、デザートは桃のパイに決まった。
テントは天蓋付きのベッドに代わって、そのほかに虫除けがつけられた。
エドはこの有様にピクピクしていたが、気になったらしく聞いた。
「そこの大きな箱はなんだ?」
「バスルームよ」
私はすまして答えた。
「女性にとっては必需品です。それより、今後の計画を聞かせてほしいわ。どうするの?」
エドは思い切り渋い顔した。
なんなの? 私と結婚したいって言ってたじゃない。もっと喜びなさいよ?
「まず、あんたをアルクマールの王城に返さなきゃいけない。この三日の行程が台無しだ」
「私を返すなんて諦めた方がいいわ」
私は言った。
「そうよ、そうよ。私もティナ様に散々言ったんだけど、聞かないんだから」
ラビリアもパイを口いっぱいに頬張りながら言った。
「すぐにエドのとこへ来ちゃうわよ。本気で好きな人のとこには、魔法陣が発動しちゃうのよ」
…………。
気まずい……。
「この王女様、しつこい上にツンデレなのよ。諦めた方がいいわ、エドウィン・ガレン」
「違うわ! わ、私は冒険者なのよ! それだけよ!」
「冒険って何?」
エドがボソッと聞いた。
「だから、ガレンを取り戻すのよ。違うの?」
私はエドの顔を見た。私は魔法使いなの。スッゴク役に立つの。実際に見たことのあるエドならわかるわよね?
「簡単そうに言いますがね、お姫様……」
私はエドを無視して話を始めた。
「まず、ガレンの陣営はどうなっているの? あのジェラルディンのことが大っ嫌いな人間はたくさんいると思うの」
「好き嫌いでどうにかなる問題じゃない。これからやろうとしていることは、お姫様のお遊びじゃない」
エドは諭すように静かな調子で言い出した。
「好き嫌いでどうにかなる問題だと思うわ。あの人たち、相当嫌われてるんじゃない?」
「それはその通りだと思うよ。だけど、俺は、その、今の王様達を嫌っている人たちに会わなきゃいけないんだ。そして説得しなくちゃいけない」
「まず、会わなくちゃいけないわ」
「みんなガレンに住んでいるんだよ。王都だけじゃなくて、国中のあちこちにね。固まって住んでいてくれたらいいんだが。説得するためには、直接会って話をしないといけない」
「手紙を出せば?」
「ティナ様、手紙を出したくても出せないんだ。なぜなら、手紙を出すには使者が必要だ。俺はもう王家の郵便使者は使えない。商人たちは大きな都市間なら、共同で馬車を出して郵便貨物とやらを使っているそうだが、俺は指名手配人だ。そんなシステムに乗せてもらうわけにもいかない。秘密に手紙を送らなきゃいけないんだ」
「なんだか犯罪者みたいね!」
「犯罪者なんだ。ガレンの王都には俺の顔がいっぱい貼ってあるらしい」
「有名人ね!」
「だから髭を伸ばしていたんだ。あんたが剃っちまったけど」
「ねえ。だから私と一緒だといいのよ」
エドはイライラしてきたようだった。
「いくら説明してもわからない女なんかと一緒に居られない」
「それはあなたが私の話を聞こうとしないからよ」
私は、荷物の中から鏡を出してきた。
「変身すればいいのよ! ねえ! 見て!」
エドは嫌そうに渋々鏡を覗き込んだ。
「おっさんになあれ!」
みるみるエドの毛が禿げ上がり、筋肉は贅肉になって腹が突き出て、小太りの親父になった。さらにサービスで私は歯を二、三本出っ歯にしてみた。
「どう? これなら、誰にもバレないわ」
私は得意満面だった。どうしてみんな私の魔法を信じないのかしら。こんなにすごいのに。
ハッと我に返ったエドは、私の首を絞めにかかった。
「戻せ!」
「イテッ、アチッ、アゥ、なんだこれ? あーっ」
まず私が、次にラビリアが、最後に荷物がいくつか、次々にエドの頭の上に落ちてきた。
「誰だっ?」
「そっちこそ誰?」
気の立っているラビリアが、顔中が黒い髭に覆われた大柄な男にビビって叫んだ。
そこは真夜中の森の中で、ラビリアは本能的に暗い森なんか大嫌いなのだ。
エドはどうやら野営していたようだった。
「ことと次第によっては、ただでは済まさないわよ?」
「ラビリアじゃないか。と言うことは、さっきのはティナ様か」
私も男の顔をつくづく見た。顔中髭だらけだ。
「うわあ、ひどい」
ほとんど人相がわからない。
焚き火が熾されていて、夕食らしいものが中で煮えていた。中身は豆と草だった。
「ここはどこ?」
私は周りを見回しながら聞いた。
エドは渋い顔だった。
「まだアルクマールの領地内から出ていないよ。三日しか経っていないんだ」
「たった三日で、その顔はひどくない?」
ラビリアが尋ねたが、エドは無視した。
「なんでこんなところへ来たんだ? お付きはどうした? 馬車で来たのか?」
「あら、いやだ。忘れたの? 私は魔女よ」
エドはまじまじと私の顔を見た。
「魔女?」
「魔女よ。知っているでしょう? 知っているところなら、瞬間移動できるのよ」
エドの前でなら遠慮することはない。
だって、エドは私が魔女だって知っているんだもの。
古城でバラしてしまっている。その後、二度と会うことは無いはずだった。
その三日後くらいに、なんの因果か再会を果たしちゃったけど。
「その顔はひどいわ」
私はしかつめらしく宣言した。
エドの可哀想な顔は、綺麗さっぱり髭を剃られ、貧相な鍋の中身はベーコンとじゃがいもと野菜のスープに変更され、さらに鳥の丸焼きがメニューに追加された。その上、ラビリアがゴネるので、デザートは桃のパイに決まった。
テントは天蓋付きのベッドに代わって、そのほかに虫除けがつけられた。
エドはこの有様にピクピクしていたが、気になったらしく聞いた。
「そこの大きな箱はなんだ?」
「バスルームよ」
私はすまして答えた。
「女性にとっては必需品です。それより、今後の計画を聞かせてほしいわ。どうするの?」
エドは思い切り渋い顔した。
なんなの? 私と結婚したいって言ってたじゃない。もっと喜びなさいよ?
「まず、あんたをアルクマールの王城に返さなきゃいけない。この三日の行程が台無しだ」
「私を返すなんて諦めた方がいいわ」
私は言った。
「そうよ、そうよ。私もティナ様に散々言ったんだけど、聞かないんだから」
ラビリアもパイを口いっぱいに頬張りながら言った。
「すぐにエドのとこへ来ちゃうわよ。本気で好きな人のとこには、魔法陣が発動しちゃうのよ」
…………。
気まずい……。
「この王女様、しつこい上にツンデレなのよ。諦めた方がいいわ、エドウィン・ガレン」
「違うわ! わ、私は冒険者なのよ! それだけよ!」
「冒険って何?」
エドがボソッと聞いた。
「だから、ガレンを取り戻すのよ。違うの?」
私はエドの顔を見た。私は魔法使いなの。スッゴク役に立つの。実際に見たことのあるエドならわかるわよね?
「簡単そうに言いますがね、お姫様……」
私はエドを無視して話を始めた。
「まず、ガレンの陣営はどうなっているの? あのジェラルディンのことが大っ嫌いな人間はたくさんいると思うの」
「好き嫌いでどうにかなる問題じゃない。これからやろうとしていることは、お姫様のお遊びじゃない」
エドは諭すように静かな調子で言い出した。
「好き嫌いでどうにかなる問題だと思うわ。あの人たち、相当嫌われてるんじゃない?」
「それはその通りだと思うよ。だけど、俺は、その、今の王様達を嫌っている人たちに会わなきゃいけないんだ。そして説得しなくちゃいけない」
「まず、会わなくちゃいけないわ」
「みんなガレンに住んでいるんだよ。王都だけじゃなくて、国中のあちこちにね。固まって住んでいてくれたらいいんだが。説得するためには、直接会って話をしないといけない」
「手紙を出せば?」
「ティナ様、手紙を出したくても出せないんだ。なぜなら、手紙を出すには使者が必要だ。俺はもう王家の郵便使者は使えない。商人たちは大きな都市間なら、共同で馬車を出して郵便貨物とやらを使っているそうだが、俺は指名手配人だ。そんなシステムに乗せてもらうわけにもいかない。秘密に手紙を送らなきゃいけないんだ」
「なんだか犯罪者みたいね!」
「犯罪者なんだ。ガレンの王都には俺の顔がいっぱい貼ってあるらしい」
「有名人ね!」
「だから髭を伸ばしていたんだ。あんたが剃っちまったけど」
「ねえ。だから私と一緒だといいのよ」
エドはイライラしてきたようだった。
「いくら説明してもわからない女なんかと一緒に居られない」
「それはあなたが私の話を聞こうとしないからよ」
私は、荷物の中から鏡を出してきた。
「変身すればいいのよ! ねえ! 見て!」
エドは嫌そうに渋々鏡を覗き込んだ。
「おっさんになあれ!」
みるみるエドの毛が禿げ上がり、筋肉は贅肉になって腹が突き出て、小太りの親父になった。さらにサービスで私は歯を二、三本出っ歯にしてみた。
「どう? これなら、誰にもバレないわ」
私は得意満面だった。どうしてみんな私の魔法を信じないのかしら。こんなにすごいのに。
ハッと我に返ったエドは、私の首を絞めにかかった。
「戻せ!」
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