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第24話 あの人のとこへ連れてって
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「クリスティーナ様のお出ましでございます」
綺麗に髪を結われ、結局バラ色のドレスを纏った私は、感嘆の声に迎えられた。
「噂以上だな」
かろうじて誰かのうわずったような声を拾った。
「予想以上だわ」
私はつぶやいた。
ずらりと並んだ正装の男性陣は、全員マッチョだった。そして、目が合うと全員、白い歯でニカっと笑って見せた。
私は筋肉隆々は好みではないと、あれほど念を押したのに。誰も聞いちゃいない。
『そう言いつつ、連れてきたのがエド様で……』
ラビリアが解説した。
『きっとお母様も侍女の皆様方も、思い切り納得なさったのでしょう』
だから何を。何を納得したと言うのよ。
「エドはガリガリだったのよ?」
私は歯噛みして言った。
『今となっては誰にも想像もつかないのでは……?』
鍛えなくてよろしいと、あれほど言ったのに。
「なんと愛くるしい」
「美少女という言葉はあなたのためのものです」
求められるままに次々とダンスを踊り、どの男性の顔も物欲しそうに、あるいは躊躇いがちに、とにかく気に入るように語りかけてくる。
「僕のことはどうお思いですか?」
たまに反則プレーの自己満足野郎も出てきたが、「素晴らしい筋肉♡」と褒めておいた。嬉しそうだった。多分、次のパーティにはもっとすごい筋肉が勢揃いしてくるかもしれない。
そして、三日めの晩、決行の時がきた。
「私が役に立たないだなんて、何言ってんだろう」
「ティナ様あ。本気ですかあ?」
「本気も本気。超絶本気よ」
「ねえ、もし、エド様が屍になってたらどうするんですかあ?」
私は、月が照らす屋根裏部屋の魔法陣の真ん中で、ラビリアを睨みつけた。
この城にも、魔法陣がある。おばあさまが出入りするところなら、絶対どこでも魔法陣がある。
私は、まだ魔法陣の作り方を知らない。
だから、おばあさまの作った魔法陣を利用するしかない。
「死んでたら、帰るんですよね。帰りはどうするんですか? 魔法陣ないでしょう?」
「……ない」
私が黙っていると、ラビリアは畳み掛《か》けた。
「そもそも会えたところで、どうやって帰るつもりなんですかぁ……?」
「帰る気はない」
さすがのラビリアが目を見張った。
「え?」
「帰る気はない」
「あの山のようなマッチョ集団は? ティナ様を待っているんですよ?」
「関係ない」
「……そ、そんなにエド様のことが……」
「違ーうっ!」
私は叫んだ。
「なんで、この期に及んで、そんなにツンデレなんですかああ」
ラビリアが絶叫した。
「違うっ。自分の力で成し遂げたい!」
「だから、何を成し遂げちゃうつもりですかって聞いてるんですよ? エド様の押しかけ女房になるつもりなんですかああ?」
「違うって! 手伝いたいだけ!」
「いいですか? エド様が目指しているのはガレンの王権の奪還ですよ? そんなもの、ティナ様には食べられないでしょう?」
「ラビリアだって食べられないわよ」
「だから、要らないでしょう?」
「わかってないわね、ラビリア」
全く、このウサギは感想は多いくせに、肝心なところがわかっちゃいない。
「いいこと? エド様がガレンを制圧すれば……」
「制圧すれば?」
「婚約が元に戻るのよ」
ラビリアが、じいいいっと私の顔をみた。
「それはね、クリスティーナ様」
ウサギのくせに分別くさい声を出してきやがった。
「エド様と結婚したいって言っているのと同じですよね……?」
「違うわよ!……結婚と婚約は違うわ!」
「いや、一緒ですよ、結局」
ウサギのくせにラビリアが理詰めで説得してきた。
「婚約した後は、どうなるんですか?」
「ええと……結婚する?」
「そら、ごらんなさい。一緒じゃないですか」
得意そうにふんぞり返るラビリアに、なんだか言い返せなかった。悔しい。
「でもね、肝心のエド様が、もしかすると、もう屍になっているかもしれない」
私は震え上がった。
屍、屍って何回言う気だ。
「それくらい大変だって、陛下がおっしゃっていました。だからもし……」
ウサギが詰め寄ってくる。草食動物のくせに。
「たとえ、生憎、まだ屍じゃなかったとしても」
生憎ってなぜ、生憎?
「屍なんて、縁起でもない!」
「万一、何かの間違いで生きてたとしても、そっから先は茨の道……」
「どうしてそんなことばっかり言うの?」
「だって、ティナ様はお姫様。自分のお城にいれば、豪華なドレスや宝石や、ステキなご恋人までご両親が都合してくださいます。何を好きこのんで、あんなマッチョなだけの……イテッ」
「彼が心配なだけよ!」
「そんなにー?」
ラビリアが上目遣いに、なんだか疑っているみたいな調子で聞いてきた。
「心配なだけ。それに帰ってきたら、ちゃんと親の言うことを聞いて結婚する。マッチョでも仕方ないわ。諦める。だから今は魔法力を思う存分振るうの。ドレスより、宝石より、こっちの方が面白いと思うの。ラビリア、そう思わない?」
「じゃあ、仕方ないですね」
ラビリアがわざとらしくため息をついた。
「本当に仕方がない。おばあさまから預かりました」
ラビリアは、ドレスのひだの間から、スカーフほどの大きさの薄っぺらい布を取り出した。
「簡易魔法陣」
「は?」
「おばあさまがおっしゃるには、発動するにはするけれど、半端なく魔法力を食うそうです」
私は、その布をしげしげと眺めた。
「何?」
「持ち運び式の魔法陣ですよ。おばあさまの傑作です。これさえあれば、エド様の屍にたどり着いちゃっても、アルクマールのお城に戻れますから」
エドが死んでいたら?
そんなの、私が許さない。
「死ぬ死ぬって言うなあああ」
私はラビリアを道連れに、魔法陣で魔法の言葉を唱えた。
「あの人のとこへ連れてって!」
綺麗に髪を結われ、結局バラ色のドレスを纏った私は、感嘆の声に迎えられた。
「噂以上だな」
かろうじて誰かのうわずったような声を拾った。
「予想以上だわ」
私はつぶやいた。
ずらりと並んだ正装の男性陣は、全員マッチョだった。そして、目が合うと全員、白い歯でニカっと笑って見せた。
私は筋肉隆々は好みではないと、あれほど念を押したのに。誰も聞いちゃいない。
『そう言いつつ、連れてきたのがエド様で……』
ラビリアが解説した。
『きっとお母様も侍女の皆様方も、思い切り納得なさったのでしょう』
だから何を。何を納得したと言うのよ。
「エドはガリガリだったのよ?」
私は歯噛みして言った。
『今となっては誰にも想像もつかないのでは……?』
鍛えなくてよろしいと、あれほど言ったのに。
「なんと愛くるしい」
「美少女という言葉はあなたのためのものです」
求められるままに次々とダンスを踊り、どの男性の顔も物欲しそうに、あるいは躊躇いがちに、とにかく気に入るように語りかけてくる。
「僕のことはどうお思いですか?」
たまに反則プレーの自己満足野郎も出てきたが、「素晴らしい筋肉♡」と褒めておいた。嬉しそうだった。多分、次のパーティにはもっとすごい筋肉が勢揃いしてくるかもしれない。
そして、三日めの晩、決行の時がきた。
「私が役に立たないだなんて、何言ってんだろう」
「ティナ様あ。本気ですかあ?」
「本気も本気。超絶本気よ」
「ねえ、もし、エド様が屍になってたらどうするんですかあ?」
私は、月が照らす屋根裏部屋の魔法陣の真ん中で、ラビリアを睨みつけた。
この城にも、魔法陣がある。おばあさまが出入りするところなら、絶対どこでも魔法陣がある。
私は、まだ魔法陣の作り方を知らない。
だから、おばあさまの作った魔法陣を利用するしかない。
「死んでたら、帰るんですよね。帰りはどうするんですか? 魔法陣ないでしょう?」
「……ない」
私が黙っていると、ラビリアは畳み掛《か》けた。
「そもそも会えたところで、どうやって帰るつもりなんですかぁ……?」
「帰る気はない」
さすがのラビリアが目を見張った。
「え?」
「帰る気はない」
「あの山のようなマッチョ集団は? ティナ様を待っているんですよ?」
「関係ない」
「……そ、そんなにエド様のことが……」
「違ーうっ!」
私は叫んだ。
「なんで、この期に及んで、そんなにツンデレなんですかああ」
ラビリアが絶叫した。
「違うっ。自分の力で成し遂げたい!」
「だから、何を成し遂げちゃうつもりですかって聞いてるんですよ? エド様の押しかけ女房になるつもりなんですかああ?」
「違うって! 手伝いたいだけ!」
「いいですか? エド様が目指しているのはガレンの王権の奪還ですよ? そんなもの、ティナ様には食べられないでしょう?」
「ラビリアだって食べられないわよ」
「だから、要らないでしょう?」
「わかってないわね、ラビリア」
全く、このウサギは感想は多いくせに、肝心なところがわかっちゃいない。
「いいこと? エド様がガレンを制圧すれば……」
「制圧すれば?」
「婚約が元に戻るのよ」
ラビリアが、じいいいっと私の顔をみた。
「それはね、クリスティーナ様」
ウサギのくせに分別くさい声を出してきやがった。
「エド様と結婚したいって言っているのと同じですよね……?」
「違うわよ!……結婚と婚約は違うわ!」
「いや、一緒ですよ、結局」
ウサギのくせにラビリアが理詰めで説得してきた。
「婚約した後は、どうなるんですか?」
「ええと……結婚する?」
「そら、ごらんなさい。一緒じゃないですか」
得意そうにふんぞり返るラビリアに、なんだか言い返せなかった。悔しい。
「でもね、肝心のエド様が、もしかすると、もう屍になっているかもしれない」
私は震え上がった。
屍、屍って何回言う気だ。
「それくらい大変だって、陛下がおっしゃっていました。だからもし……」
ウサギが詰め寄ってくる。草食動物のくせに。
「たとえ、生憎、まだ屍じゃなかったとしても」
生憎ってなぜ、生憎?
「屍なんて、縁起でもない!」
「万一、何かの間違いで生きてたとしても、そっから先は茨の道……」
「どうしてそんなことばっかり言うの?」
「だって、ティナ様はお姫様。自分のお城にいれば、豪華なドレスや宝石や、ステキなご恋人までご両親が都合してくださいます。何を好きこのんで、あんなマッチョなだけの……イテッ」
「彼が心配なだけよ!」
「そんなにー?」
ラビリアが上目遣いに、なんだか疑っているみたいな調子で聞いてきた。
「心配なだけ。それに帰ってきたら、ちゃんと親の言うことを聞いて結婚する。マッチョでも仕方ないわ。諦める。だから今は魔法力を思う存分振るうの。ドレスより、宝石より、こっちの方が面白いと思うの。ラビリア、そう思わない?」
「じゃあ、仕方ないですね」
ラビリアがわざとらしくため息をついた。
「本当に仕方がない。おばあさまから預かりました」
ラビリアは、ドレスのひだの間から、スカーフほどの大きさの薄っぺらい布を取り出した。
「簡易魔法陣」
「は?」
「おばあさまがおっしゃるには、発動するにはするけれど、半端なく魔法力を食うそうです」
私は、その布をしげしげと眺めた。
「何?」
「持ち運び式の魔法陣ですよ。おばあさまの傑作です。これさえあれば、エド様の屍にたどり着いちゃっても、アルクマールのお城に戻れますから」
エドが死んでいたら?
そんなの、私が許さない。
「死ぬ死ぬって言うなあああ」
私はラビリアを道連れに、魔法陣で魔法の言葉を唱えた。
「あの人のとこへ連れてって!」
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