【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
23 / 62

第23話 超絶美少女は何もできない

しおりを挟む
母達は私を誤解している。

バカにしているとも言えると思う!

「姫様のような華奢きゃしゃで可憐、はかなげな美少女がついて歩いたら、それだけでエド様は迷惑します。エド様には目立たないことが必要なのに、あなた様ときたら、誰もが振り返る幻の超絶美少女。連れ歩くだけで、質問攻めに逢います」

そんなつもりはない。

「馬にも乗れないし、ずっと面倒を見てあげなければならない。お一人で着替えもできない深窓の姫君なのに」

そう仕組んでいるのは、恐怖の有能侍女軍団だ。私は、そんじょそこらの女中より、よっぽど家事仕事ができる。料理も洗濯もアイロンもお手のものだ。全部、魔法を使うけど。

「とにかく、三日間おとなしくしていてください」

「私どもがお相手を務めますから」

「そうそう、今晩は、姫様が療養先からご無事にお戻りなった事をお祝いして、国中の選りすぐった方々をお招きしたパーティを開きますのよ? ご親戚にあたられる公爵家の令息や、王太子様のご学友の弟君とか」

ピンときた。

ガレンの王太子の線がダメになったので、別な相手を考えているのだろう。

兄と私は十才も離れているので、ご学友では歳が合わない。弟になっているのはそのせいだ。

「さあさあ、こうしてはいられません。どのご衣装がよろしいでしょう? 今まで姫様には婚約者がおられたので、誰一人お話しすることさえ許されませんでしたが、この度、正式に婚約解消されましたから、姫様の気に入った方がお婿様になることができますわ」

「ステキですわね」

エドとの婚約解消のどこがそんなにステキなの……?

「どなたがクリスティーナ様のハートを射止めるのでしょうね?」

侍女達はキャッキャッと楽しそうだ。

ここからでは見えないけれど、広間の方がざわざわしているのは、多分、準備に追われているのだろう。

「王太子殿下の時も、どなたを選ぶのか、大騒ぎになりましたわ」

「こんな浮き立つ行事は、最近はありませんでしたものね」

「なにしろクリスティーナ様は、生まれた時からご婚約が決まっていましたから」

「適齢期のご子息を持つご家庭は、どこも色めき立っているそうですわ」

「それはそうでしょう。ただでさえ、国王陛下と王太子殿下のお気に入りの妹姫。王太子殿下のところは、四人とも男のお子様ですし。いわば最後のチャンスですわ」

「その上、クリスティーナ様は、まるで夢のようなお美しさですもの。本当にあれほどの方は見たことがありません。どこの家もよると触るとその話で大騒ぎ……」

私はおとなしくしていろと言われたので、椅子に座って侍女達の様子を見物していた。

なんだか虚しかった。

この暖かな場所で、侍女達が豪華なドレスを何着も出してきて、どれがいいか議論している。

香りの高いお茶と、手遊てすさびに珍しいナッツが入った小さなクッキーが盛られている。好きなだけ食べるように。
もし、ショコラが欲しければ声をかければいいだけだ。

私は雪解けの中を苦労して進んでいるエドを思った。

どこへ向かっているのだろう。

誰かあてでもあるのだろうか。

母は、ガレンの王位を取り戻して帰ってきたら再婚約してもいいと言っていた。

嘘だ。

無理だ。

何年かかるのだろう。ガレンの領土を取り戻すのに。

彼が出て行った途端に、この有様だ。私の夫を探そうと、両親は骨を折っている。
きっと私が一人では何もできないと思っているのだ。だから、早くよい夫を見つけて、その庇護ひごの下で暮らすように、算段しているのだ。

エドは私に結婚してほしいと言った。
村娘の私に。
ポーション販売員の娘に。
婚約は破棄すると言っていた。

だけど、彼も、私が誰だかわかった途端、諦めたのだろう。

彼は私を連れて行こうとしなかった。安全なことがわかっている両親の元へ送り届けた。

「あのバカ……」

私は呟いた。

「なんとおっしゃいました? クリスティーナ様。こちらのバラ色のドレスと、濃いグリーンの光沢のあるこちらでしたら、どちらがお好みですか?」

みんな、みんな、勘違いしている。

私ははかなげな外見の美少女じゃない。

手を汚し、耐え忍び、大声を張り上げて、運命に挑む人なのだ。きっとそうだ。多分だけど。


三日間は我慢する。

なぜなら、三日てば、エドの後を追うことなんか、私にはもうできないとみんなが考えているから。

「そんなことはないわ」

私は魔女なのよ? 誰にも負けないわ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...