【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
20 / 62

第20話 エドウィン元王太子、来たる

しおりを挟む
「もう、クリスティーナったら、心配したのよ?」

両親が押し寄せてきた。

「ガレンなんか、叩きつぶしてやりたいくらいだ」

兄がうらみがましく言った。

「ティナをこんな目にわせるだなんて! 王太子妃だなんてとんでもない。まあ、王太子は死んだらしいが」

兄がどことなく満足げに言った。

「エドウィン王太子は、それでもクリスティーナを助けようと剣を取ったらしい。そして、そのせいで行方不明だ。そんなに彼を非難してはいけない。それよりも、今後ガレンをどう扱うかだが」

父が兄に向かってさとし始めたが、その時、母が私を呼んだ。

「さあ、ティナはこっちへいらっしゃい。難しい話はきるでしょう? 新しいドレスを作ったのよ。一緒に見ましょう。あなたの好きなショコラとクリームタルトも用意したの」

兄が父に言っているのが聞こえた。

「ガレン内が混乱していると言うのなら、チャンスではありませんか?」

「ダメだ。戦いは始まりより、どう終わらせるかが重要だ」

「しかし、陛下。チャンスです……」

私も仲間に入れてほしい。クリームタルトの方じゃなくて、今後のガレンへの対応の方だけど。

「私も戦いたいわ!」

「新作のドレスを作らせたの! それから、最近流行のクッキーもあるわ」

戦いたい。え? 無視?


「お母様、私ももうすぐ十六歳になります。もう大人です。ガレンと戦うなら、一緒に戦場に出たい」

母は、正真正銘呆れたと言う顔をした。

「何言ってるの。剣も使えないくせに」

「剣が使えなくてもですね……」

ものすごいしかめめっ面をしたおばあさまと目があった。どう見ても、その顔には魔法厳禁と書いてあった。

平穏な、しかし出番のない日々が続くのか……。

蝶よ花よと育てられた深窓の姫君、それが私だ。

見た目も、薄い色合いの金髪と青い目、兄姉の誰よりも華奢で色白。悔しいことに小柄で、いつも愛らしい、可愛らしいと言われ続けてきた。

だけど、ガレンの王城で私は頑張った。

あのジェラルディン嬢のあおりを受けても柳に風と受け流したし、城に行ってからは魔法力を磨き、リンデの村の困窮に際しては、食料品を買い込み続けて危機を救った(ないしは軽減した)。

もう、立派な大人だと思うの!

「大変だったわね。寂しかったでしょう? もっと早く帰れたらよかったのに。なにせおばあさまが、へたってしまって。修道院で一休みしていたのよ」

「え? あのおばあさまが?」

「そうなの。最近は口ばっかりでね。お父様も、おばあさまの言う通りにしておけというものだから。でも、アルクマールに帰ってきた以上は安心よ。もうあなたを国外に嫁に出すなんてこと、絶対にしないわ!」



だが、翌々日、私はエドウィン王子の来訪を受けた。

「え?」

お母様の王妃様の侍女が、それはそれは不愉快そうな顔をして、私を呼びにきた。

渦中かちゅうのエドウィン王子が来られました」

「あの、エドウィン王子といえば、ガレンの王太子のエドウィン王子ですか?」

「ええ。臆面おくめんもなく」

私は母の部屋に急いだ。


母は、侍女に劣らず、それはそれは嫌そうな顔をしていた。

「ガレンの元王太子殿下がここまで来られました」

ものすごく、来なくていい感がみなぎっている。

「なんの用事で来られたのでしょう?」

当然、私は聞いたが、母の王妃様はいかにも見下げ果てたと言ったようすで答えた。

「なんでも王位を取り戻すために、アルクマールの力を貸して欲しいそうですわ」

「……割と、あつかましい」

母の解説に、私は憤慨してつぶやいた。

「本当にそうよ。うちのティナを危険な目にあわせたくせに。でも、国王陛下とうちの王太子殿下(兄のことだ)は、大目に見てやれって言うのですよ」

「大目……」

「そうなの。ビスマス侯爵が言うには、殿下はあなたを守ろうと最後まで頑張ったそうなの。自軍がアルクマールの姫君を襲っているのですものね。当然でしょうけれど。でも、結局、誰も王太子殿下の言うことを聞かなかったのよ」

そりゃだめだ。

「そんな王太子殿下、意味ないでしょう」

「見た目はいいんだけれどねえ」

母はため息をついた。

私と母は趣味が違うので、王太子殿下の容貌に期待は持てないらしいと悟った。
まあ、肖像画通りなのだろう。

「それで、力を貸して欲しいと言うのだけれど、その代償にあなたとの婚約解消を申し出たの」

代償? 意味がわからない。

わたしは変な顔をして、母を見つめた。


アルクマールが、婚約者を守れもしないヘッポコ王子と婚約を解消するのは当然だ。

なにしろ、王女に落ち度はない。それどころか、王女様は悲惨な目に遭っている。すんでのところで片腕を失うところだったと聞いた。今、聞いても身震みぶるいする。散々な目にあっている。

母は説明した。

「でも、まあ、婚約破棄は人聞きが悪いわよね。アルクマールが落ち目になった王子を見捨てることになる。でも、王子本人からの申し出なら円満解決よね。自分はふさわしく無くなったからって」

ああ、なるほど。

「万一、エドウィン王子がガレンの王位を取り戻したなら、王女の結婚も考えられるけど。取り戻せなかったら、エドウィン王子はただの浪人ですからね、浪人」

母は妙な単語を強調した。

「ガレンの王太子の座を落とされたら、無一文の気位ばかり高い平民よ。その妻なんて、やりきれないわ。全部アルクマール持ちになるじゃありませんか。その上、援助がバレたら、ガレンと敵対する。ガレンと敵になってもいいことなんかないわ。好きなだけ、内輪揉めすればいいのよ。内戦になったら、国境線を攻めるかも知れないけど」

母は意外に肉食系だった。

「まあ、殿下もそこのところは理解しているようで、婚約解消を言ってきたのね。もちろん、王位を取り戻したあかつきには、再考願いたいと思うけれどって言う、あつかましい一言がついてきたけど。まあ、その頃には、クリスティーナは誰かステキな男性と結婚しちゃってるに決まってるわ」

何か、こう、エドウィン王子に対しては悪意的な母の解説だったが、婚約は解消方向に向かっているらしい。別に結構だ。ジェラルディン嬢本命の男なんか頼まれてもお断りだもの。


婚約はなくなった。

私は自由だ。

エドの顔がチラチラしてきた。

エド違いだけど。


「それで、あなたのお父様は、今夜の晩餐に顔を出しなさいっておっしゃるの。殿下が出るので」

「何の為にでしょう? 婚約を解消するのなら、出ないほうが良いのではありませんか? お互い気まずいだけだと思います」

「ビスマス侯爵によると、ガレンの元王太子殿下は、力一杯戦ったらしいの。だから、その件に関しては直接御礼を言った方がいいと言うの。右腕を切られ、大怪我おおけがをしたそうなので」

「そうなのですか……?」

そろいで右腕に怪我をしたのか。

「だから晩餐ばんさんに招いたそうなの。一応出てちょうだいな」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

処理中です...