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第18話 襲撃の真相
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「階段の上にいるあの若い男は誰だい?」
「あ、あれは、エドよ」
おばあさまは鋭い目をして、エドを一瞥した。
「誰だね? お前は。ここで何をしているんだい?」
「あ、俺は……いや、私は……」
「助けてもらったの。ガレンで変な連中に襲われた時に」
おばあさまはため息をついた。
「魔法を使うんじゃないと何回言えばわかるんだ」
「だって、使ってくださいと言わんばかりに魔法陣が……」
「ポーションを売って何するつもりだったんだ? お金なんかいらなかっただろう?」
「村が飢饉になって、それで……」
「見過ごせなかったって? お人好しなこった。あの男も拾ってきたのかい?」
「そう……そうね。かわいそうなくらい痩せていたの」
エドが真っ赤になってきた。
「どうか私にも名乗らせてください。そこのお嬢さんは、どうしても私の名前を聞いてくれないのです」
「聞きたくなかったんじゃろ」
おばあさまは無愛想に言った。
「……っ」
「それから名乗りたく無かったんじゃろ」
「どうして……」
「お若いの。人にはそれぞれ事情がある。話せなければ話さない。それだけだ。この娘を守ってくれたそうだな。お前には、礼にウマをやろう」
殿様ガエルがヒヒンと鳴くと、急に大きくなって立派な灰色のウマになりブルルッと体を震わせた。
今まではゲヒン、ゲヒンとしか言わなかったのに。
「替え馬もな。金に不自由したら売ればいい」
緑色のカエルの方は、ツヤツヤした真っ黒な毛並みのウマになっていた。
二頭ともそれは立派なウマだった。
そうか。こうやってお金を稼げばよかったんだ。
「おばあさま! すごいわ!」
「そこの若い男。食料をつけてやる。今すぐ出ていくんだ」
ラビリアが大急ぎで食べ物や、私が作ったわずかばかりの服を袋に詰め込んで、ウマに荷をつけた。
「ティナ!」
エドは叫んだ。
「必ず! 必ず迎えにいく。待っていてほしい!」
扉がひとりでに開き、一陣の風と共にエドはまるで押し出されるように、外へ出ていった。
「さあ、邪魔者はいなくなった」
おばあさまはしんみりとして言った。
私はあまりに早い展開に目を見張っていた。エドが行ってしまった。
「聞きたくないかもしれないけど、これまでの話をしよう」
おばあさまは、一階の広間に陣取った。
急に暖炉には熾火になった大きな切り株が出現し、広間を暖め始めた。
「ガレンの王太子殿下はお前を迎えに行ったのだ」
「え?」
「ガレンに輿入れに出かけた時の話だよ。お前を避けていた訳じゃない。予定通り、お前を迎えに出た。だが、王妃の一族がアルクマールに嘘を教えた。途中の道が悪路だと」
そう言われれば、ガレンの使いの者が来て、迂回路を指示して帰ったと、お付きの誰かが言っていた。
「アルクマールは道を変え、王太子とは出会えなかった。そのまま、ガレンの王城に到着したが王太子は留守だった。多分、迂回しろとアルクマールに伝えたのは、リール公爵の一派だったのだろう」
「なぜ、そんなことを?」
「王妃だろう。自分の姪を王太子と結婚させたかったのだろう。
「あのジェラルディン!」
おばあさまは頷いた。
「アルクマールの姫君は邪魔だったのだと思う。王が亡くなったら、王太子の時代になる。エドウィン王太子は実子ではないから、王妃の兄のリール公爵も権力がなくなってしまう」
そんなことか。私は、ガレンの勢力争いに巻き込まれたのか。
「もし、王太子不在の事態に、アルクマールが怒ってガレンから出て行ってしまったら、結婚がなくなり思う壺だったが、アルクマールは出ていかなかった。十分待った。王太子が戻ってきてしまったら、嘘は通じない。姪との結婚もなくなってしまう。だから、王太子が戻ってくると分かった途端に、嫌がらせが激化した」
嫌がらせ。
そうだわ。あれは、嫌がらせだったのね。
いや、でも、ジェラルディン嬢、結構ノリノリだったような。
「あのままガレンの王城に残っていたら、お前が危険だった。ビスマス侯爵は撤退を決意した。だが、そのすぐ後に王太子が戻ってきてしまった」
なるほどー。私、本でいっぱい、そう言うお話を読みましたけれど、初めて本物とお会いしましたわ。
「王太子はすぐにアルクマールを追うことにした。当然だ。このままでは国際問題に発展してしまう。だが、王妃は実家の公爵家と結託して、邪魔な王太子とアルクマールの姫君を始末するつもりだったらしい。王太子はどうやらジェラルディン嬢との結婚を断ったらしいね」
ちょっとだけ、見ず知らずの王太子に同志愛が芽生えた。わかるわー。
「アルクマールは襲撃されるなどと夢にも思っていなかった。ひとたまりもないはずだった。場所は山の中。しかも、ガレン領だ。アルクマール軍が手を出せない場所だった。まずくすると、襲撃事件そのものが闇に葬られる可能性があった」
「私に……鳥を飛ばせるだけの機転があれば……」
「そうだね。だけど、襲われた時、お前にその時間はなかった。ガレンの王宮でも、鳥は飛ばせなかった。鳥を飛ばせば誰かの目に付く。お前は絶対に魔法を使うなと教えられていたしね」
その通りだった。
「王太子は花嫁を追った。だが、まさか自軍がアルクマールの花嫁を襲っているとは思いもよらなかったろう。彼はお前を守ろうとしたが深傷を負い、ガレンの王都に連れ戻され、アルクマールを襲撃したと無実の罪を着せられて、毒を盛られた」
「なぜ、王太子殿下に対して、そんな真似ができるの? いくら国王が病気だったとしても」
「王が亡くなったからだ。王太子を山中で暗殺すれば、証拠も残らないと思ったのだろう」
「ひどい……」
「私がお前を監視なしでアルクマールから出すと思うかい? 襲撃事件が起きた時、私はすぐにお前のところに駆けつけた。愛する者のところへは、魔法陣がなくてもたどり着ける。その思いが強ければ」
おばあさまは疲れた顔になった。
「私はお前を救い、ここへ連れてきた。でも、そこで私の魔力は尽きたので、アルクマールに連れ帰ることができなかった。そこでお前のお父様に、しばらくお前をここに匿うことを伝えた」
おばあさまは、本当にうんざりした顔をして私を見た。
「魔法陣を発動できるくらいの魔力があって、術が使えるのなら、なぜ、アルクマールに戻らなかった?」
まずいわ。
おばあさまは怒っている。
私は自分の力を試したかったのだ。
村人を助けたかった。
私なら助けられる。
アルクマールはぬるま湯だった。みんなが私を子ども扱いする。
みんな、間違ってる。私にはできることがあるのよ。力がある。
「まあ、いいさ。とにかく、それだけの魔法力があれば余程のことがない限り、命に関わることはない」
おばあさまは続きを話した。
「その間にガレンの王太子は気の毒なことに廃嫡され、行方知れずになった。今、十三歳だか十四歳だかの王弟殿下の息子が王になった。ジェラルディン嬢は、その少年の婚約者になっている。摂政は公約者の父と、元の王妃だ」
「そんなことでガレンは大丈夫なのでしょうか?」
他人事ながら気になった。
「大丈夫ではない。反王妃派は、血眼になって王太子の代わりを探している。旗頭が欲しいのだ」
それで今度はお前の話だが、とおばあさまは目を光らせた。
「あの若い男はどこから拾ってきたのだ?」
「あ、あれは、エドよ」
おばあさまは鋭い目をして、エドを一瞥した。
「誰だね? お前は。ここで何をしているんだい?」
「あ、俺は……いや、私は……」
「助けてもらったの。ガレンで変な連中に襲われた時に」
おばあさまはため息をついた。
「魔法を使うんじゃないと何回言えばわかるんだ」
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「見過ごせなかったって? お人好しなこった。あの男も拾ってきたのかい?」
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「……っ」
「それから名乗りたく無かったんじゃろ」
「どうして……」
「お若いの。人にはそれぞれ事情がある。話せなければ話さない。それだけだ。この娘を守ってくれたそうだな。お前には、礼にウマをやろう」
殿様ガエルがヒヒンと鳴くと、急に大きくなって立派な灰色のウマになりブルルッと体を震わせた。
今まではゲヒン、ゲヒンとしか言わなかったのに。
「替え馬もな。金に不自由したら売ればいい」
緑色のカエルの方は、ツヤツヤした真っ黒な毛並みのウマになっていた。
二頭ともそれは立派なウマだった。
そうか。こうやってお金を稼げばよかったんだ。
「おばあさま! すごいわ!」
「そこの若い男。食料をつけてやる。今すぐ出ていくんだ」
ラビリアが大急ぎで食べ物や、私が作ったわずかばかりの服を袋に詰め込んで、ウマに荷をつけた。
「ティナ!」
エドは叫んだ。
「必ず! 必ず迎えにいく。待っていてほしい!」
扉がひとりでに開き、一陣の風と共にエドはまるで押し出されるように、外へ出ていった。
「さあ、邪魔者はいなくなった」
おばあさまはしんみりとして言った。
私はあまりに早い展開に目を見張っていた。エドが行ってしまった。
「聞きたくないかもしれないけど、これまでの話をしよう」
おばあさまは、一階の広間に陣取った。
急に暖炉には熾火になった大きな切り株が出現し、広間を暖め始めた。
「ガレンの王太子殿下はお前を迎えに行ったのだ」
「え?」
「ガレンに輿入れに出かけた時の話だよ。お前を避けていた訳じゃない。予定通り、お前を迎えに出た。だが、王妃の一族がアルクマールに嘘を教えた。途中の道が悪路だと」
そう言われれば、ガレンの使いの者が来て、迂回路を指示して帰ったと、お付きの誰かが言っていた。
「アルクマールは道を変え、王太子とは出会えなかった。そのまま、ガレンの王城に到着したが王太子は留守だった。多分、迂回しろとアルクマールに伝えたのは、リール公爵の一派だったのだろう」
「なぜ、そんなことを?」
「王妃だろう。自分の姪を王太子と結婚させたかったのだろう。
「あのジェラルディン!」
おばあさまは頷いた。
「アルクマールの姫君は邪魔だったのだと思う。王が亡くなったら、王太子の時代になる。エドウィン王太子は実子ではないから、王妃の兄のリール公爵も権力がなくなってしまう」
そんなことか。私は、ガレンの勢力争いに巻き込まれたのか。
「もし、王太子不在の事態に、アルクマールが怒ってガレンから出て行ってしまったら、結婚がなくなり思う壺だったが、アルクマールは出ていかなかった。十分待った。王太子が戻ってきてしまったら、嘘は通じない。姪との結婚もなくなってしまう。だから、王太子が戻ってくると分かった途端に、嫌がらせが激化した」
嫌がらせ。
そうだわ。あれは、嫌がらせだったのね。
いや、でも、ジェラルディン嬢、結構ノリノリだったような。
「あのままガレンの王城に残っていたら、お前が危険だった。ビスマス侯爵は撤退を決意した。だが、そのすぐ後に王太子が戻ってきてしまった」
なるほどー。私、本でいっぱい、そう言うお話を読みましたけれど、初めて本物とお会いしましたわ。
「王太子はすぐにアルクマールを追うことにした。当然だ。このままでは国際問題に発展してしまう。だが、王妃は実家の公爵家と結託して、邪魔な王太子とアルクマールの姫君を始末するつもりだったらしい。王太子はどうやらジェラルディン嬢との結婚を断ったらしいね」
ちょっとだけ、見ず知らずの王太子に同志愛が芽生えた。わかるわー。
「アルクマールは襲撃されるなどと夢にも思っていなかった。ひとたまりもないはずだった。場所は山の中。しかも、ガレン領だ。アルクマール軍が手を出せない場所だった。まずくすると、襲撃事件そのものが闇に葬られる可能性があった」
「私に……鳥を飛ばせるだけの機転があれば……」
「そうだね。だけど、襲われた時、お前にその時間はなかった。ガレンの王宮でも、鳥は飛ばせなかった。鳥を飛ばせば誰かの目に付く。お前は絶対に魔法を使うなと教えられていたしね」
その通りだった。
「王太子は花嫁を追った。だが、まさか自軍がアルクマールの花嫁を襲っているとは思いもよらなかったろう。彼はお前を守ろうとしたが深傷を負い、ガレンの王都に連れ戻され、アルクマールを襲撃したと無実の罪を着せられて、毒を盛られた」
「なぜ、王太子殿下に対して、そんな真似ができるの? いくら国王が病気だったとしても」
「王が亡くなったからだ。王太子を山中で暗殺すれば、証拠も残らないと思ったのだろう」
「ひどい……」
「私がお前を監視なしでアルクマールから出すと思うかい? 襲撃事件が起きた時、私はすぐにお前のところに駆けつけた。愛する者のところへは、魔法陣がなくてもたどり着ける。その思いが強ければ」
おばあさまは疲れた顔になった。
「私はお前を救い、ここへ連れてきた。でも、そこで私の魔力は尽きたので、アルクマールに連れ帰ることができなかった。そこでお前のお父様に、しばらくお前をここに匿うことを伝えた」
おばあさまは、本当にうんざりした顔をして私を見た。
「魔法陣を発動できるくらいの魔力があって、術が使えるのなら、なぜ、アルクマールに戻らなかった?」
まずいわ。
おばあさまは怒っている。
私は自分の力を試したかったのだ。
村人を助けたかった。
私なら助けられる。
アルクマールはぬるま湯だった。みんなが私を子ども扱いする。
みんな、間違ってる。私にはできることがあるのよ。力がある。
「まあ、いいさ。とにかく、それだけの魔法力があれば余程のことがない限り、命に関わることはない」
おばあさまは続きを話した。
「その間にガレンの王太子は気の毒なことに廃嫡され、行方知れずになった。今、十三歳だか十四歳だかの王弟殿下の息子が王になった。ジェラルディン嬢は、その少年の婚約者になっている。摂政は公約者の父と、元の王妃だ」
「そんなことでガレンは大丈夫なのでしょうか?」
他人事ながら気になった。
「大丈夫ではない。反王妃派は、血眼になって王太子の代わりを探している。旗頭が欲しいのだ」
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