【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
16 / 62

第16話 愛の告白と結婚申し込み

しおりを挟む
ひざまずいたエドが静かに話し始めた。

「私には婚約者がいた」

……私もです。

「だが、事故で生死不明になった」

エドが私の顔を見た。

「お気の毒です」

なんだか返事が欲しいらしいので、しめやかに答えた。エドはうなずいてみせた。

「その方とは幼いうちに一度会ったきりだったが、とても美しい人で……私もこんな淑やかな方と縁が結ばれるとはと心から嬉しかった」

へ、へええ。

勝ち気な私とは真逆な人ね。あ、でも、どうでもいいわよね。

それに、そんなこと、のろけられてもねえ。

『そんなノロケ話、聞かされてもねえ』

ラビリアが言った。例の高音で。

思わずうなずくと、エドが同意されたと勘違いして調子に乗った。

「しかし、私は今、その婚約はあきらめねばと考えるようになってしまった」

『それは好きにすれば?』

と、言ったのはラビリアである。まあ、エドには聞こえていないから、いいようなものだが。

「まあ……」

生死不明って、どんな事情があるのか知らないが、婚約破棄されたら、された側は気分が悪いのでは? 生きていればの話だけど。

「私は、婚約者の事故の責任を問われました。嫡子の身分を剥奪はくだつされ、もう、その方にはふさわしく無くなってしまったのです」

『ほうほう? 無一文なのはそういう訳ね?』

ラビリアが変なところで興味を持ち出した。

「しかし、事故の責任は私にはない」

急にエドは顔を上げて、キリッとして訴えかけた。

「私は王位を狙う者達の陰謀に巻き込まれた。その雪辱せつじょくを果たさないではいられない。だが、それとあなたは別の問題」

「もちろんですわ」

全然関係ない。

「私に無実の罪を着せた者どもに復讐を果たしたのちに、私はあなたに……あの……」


長い長い沈黙が訪れた。

「何でしょうか」

『早よ、言わんかい』

そろそろ夕食の時間だ。もう昨日のシチューの残りでもいいかな?

「私は……あのっ」

エドはゴホッとき込んだ。

「あなたに、けっこ……結婚を申し込みたいと……」

ラビリアと私は、鋭い目でエドをにらんだ。

「結婚……?」

エドは真っ赤になって下を向いていた。

しかし、これは只事ではない。

勝手婚約破棄じゃない。

「確か、美しい婚約者がおられるのでは?」

「はい。でも、私のせいで事故が起きたことになっている。そんな男と婚約が維持されているとは、到底思えない」

「もし、その方がお元気で、あなたを思い続けていたら……」

「だといいのでしょうが、元々、私たちは政略結婚。私の身分だけが結婚の理由でした。身分を失った私に婚約者の資格はありません」

「さあ。そんなことは分かりません。あなたは、結婚の言葉を口に出す資格がないと思います」

「手厳しいですね、ティナ嬢。私はまずは春になったら、ここを出て旅に出たいと思うのです。そして、もし問題が全て片付いたら、改めてあなたに申し込みたい」

『いや、そんなこと、勝手だけど。好きにすれば?』

うっかりラビリアの合いの手にうなずいてしまった。

「イエスと?」

エドの目がキラッと光った。この人、目が青く見えたり黒く見えたりするのね。

「あっ、違う、違う!」

私はあわてて訂正した。ダメダメ。

「私にも婚約者がいます」

「ええ?」

エドは驚きあわてた。わたしはジロリとエドを見た。

「私に婚約者がいたら、おかしいですか?」

「あっ、いえ、とんでもない」

『失礼なやつだな』

「結婚が決まっています」

ラビリアが疑わしげに私の顔を見たが、嘘も方便って言うでしょう?

「えええ」

「ですので、今のお話は無かったことに」

ホッホッホと笑うわけにはいかなかったが、貧乏騎士風情が一国の王女に何言ってんのよ。

でも、そう言ったら可哀想でしょ? だから、婚約者がいることにすればいいのよ。


「どんな方ですか?」

「え?」

「私の婚約者の話はしました。あなたの婚約者の話をしてください」

「え? そんなことを聞いても仕方ないと思うわ」

「聞きたいですね」

エドが居直った。

婚約者とは一度も会ったことがない。えーと、どんな人なんだろう。

「どう言う経緯で結婚することになったのですか?」

「わ、私も政略結婚ですの」

「あなたはポーション売りですよね? そして、この城の女中だと?」

女中に政略結婚はない。少なくとも政略とは言わないだろう。

「ええと、都合で。そう、親の都合で」

「親の都合で結婚するくらいなら、好きな人と結婚した方がいいのではないですか?」

床にひざまずくのをやめて、エドは立ち上がった。

私より頭ひとつ優に大きい。

好きな人と結婚?

「俺はあんたが好きだ。何で好きかって言えば、俺のことを心配してくれたからだ」

彼は私の頭に手を置いた。髪に優しく触れるように。

「本気で心配してくれた。何の見返りもなく。そして、今では俺があんたを好きだ。わけがわからない。でも、今度は俺があんたを守りたい」

守って頂かなくても結構です! と叫びたかったが、声が出なかった。

「あんたの婚約者のことを話してくれ。どんな男で、どんなふうに好きなのか。ことと次第によっては、俺もあきらめる。あんたが好きだと言うなら……」

そう言って、エドは私の顔をのぞき込んだ。

私の婚約者は、幼馴染が好きな男で、迎えにも来てくれなかった。会ったこともない。こんなに身近になったこともない。

エドの大きな手と真剣な目。

理由はわからないけど、私は急に真っ赤になってしまった。

「そうでないなら、俺は待つ」

エドは指で私の頬にそっと触れた。

「真っ赤だ」

そして、急に微笑んだ。

いやあああ。

何だか負けた気がするわ。

「ティナ様……顔、赤いですよ?」

黙れ、ラビリア。

いいのよ。どうせ、私だって、春になればここを出ていく。ポーション作りを迫る商人の一団なんかお断りだもの。アルクマールに帰るのよ。


「俺は、ここを出てアルクマールに行こうと思っている」

「え?」

何しに?

「アルクマールの王城に行かねばならない」

「え?」

エドは優しく微笑んだ。

「ここに戻ってきたらまた会おう。ティナ嬢」


えーと?

今の話だと、戻る前に会いそうだけど?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

処理中です...