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第11話 貧乏騎士、再来
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確かに滋養強壮剤……ではない、栄養剤はそこそこの値段で売れ、かなりの量の食料品を手に入れることができた。
ピカナの実はまだたくさんあって、少しずつ作ればこの冬いっぱいは保つだろう。
私は毎週、ガレンの王都に行って、朝三時間だけ店を構えて売ることにした。
この前の騎士もやってきた。
「商売のアドバイスしたろ? もう一度、滋養強壮剤を五ジルで売ってくれよ」
「あつかましい」
私の滋養強壮剤は……その頃に名前が変わっていて、とても健康的な、余計な憶測を生むことのないネーミングに変わっていた。
ウサギ印の健康栄養剤 ラビレット。
ウサギ印シリーズだ。
作っているのが(表向き)ラビリアだからだ。
値段も変わった。一袋六十ジル。倍の値段だ。それでも続けて買いたい人は多く、最近では、貴族や裕福な家からまとめて注文が入ってくる。
「材料が限られているので、お一人様にそんなにたくさん売れません。皆さんに行き渡るよう、一家庭、二袋までと制限させていただいています」
私はぐちゃぐちゃ絡む貧乏騎士などほっといて、いかにも裕福な家の使用人デスみたいな男に丁寧に説明していた。
「どんな家に対してもか」
「ご覧ください。どちらのご家庭か存じませんが、あちらの方は……」
残念ながら、順番を行儀よく待っている列の中には、男爵家や伯爵家の紋章入りのお仕着せを着ている者が含まれていた。
あるだけ売れとしつこいこの男が、商人の一家の手の者であることを私は知っている。転売目的だ。
だが、この男では、貴族の家の使用人に絶対に勝てない。
そして、貴族の家の者に貧民へのお慈悲でございますと頼めば、本当に家族が病気で打つ手がない場合以外は、譲ってくれるだろう。
なにしろ、たくさんの人が並んで見ているから、貴族の家はダメとは言いにくい。
この商家の使いの者は商売のために、この薬を買い占めたいだけだ。
わかっているだけに、後ろに並んでいる者たちから、早くもブーイングが出ていた。
「順番を守れ!」
「買い占めするな!」
私はニコニコしながら、商品を売りさばき、お金を手早く数えてお釣りを渡していった。
最近では、順番札を作って渡している。
三十枚まできたらお終いだ。それ以降は、もし二個買わない人が出てきたら、売れるかもしれないと伝えている。待ってもらうにしてもちゃんと伝えないといけない。
だが、今日は、最後に一人残ってしまった。
例の騎士崩れである。
「俺にも売ってくれよ」
「お金があればね」
私はさっさと店の簡易カウンターを片付けながら答えた。
「この前、もらった滋養強壮剤……」
「ウサギ印の健康栄養剤 ラビレット」
騎士は露骨に嫌な顔をした。
「中身は一緒なんだろ?」
「もちろん」
「なんで値段が変わった?」
「需要と供給の関係なの。買いたいとおっしゃる方が多くて」
「俺も欲しい。右腕の調子がいいんだ。治るかもしれない。治れば、騎士として働ける」
私は騎士崩れの顔を見た。
ラビリアのセリフじゃないけれど、世界を全部救うことなんか出来ないわ。
「十ジルしかないんだけど、頼むよ。最初の客じゃないか」
「ダメです。もう商品はないし」
騎士崩れは泣きそうな顔になった。
「頼むよ」
不躾にも、彼は私の腕を掴んだ。
「やめてよ!」
だが……私は騎士の手に掴まれた途端、理解してしまった。
この人は死ぬ。
ピカナの実はまだたくさんあって、少しずつ作ればこの冬いっぱいは保つだろう。
私は毎週、ガレンの王都に行って、朝三時間だけ店を構えて売ることにした。
この前の騎士もやってきた。
「商売のアドバイスしたろ? もう一度、滋養強壮剤を五ジルで売ってくれよ」
「あつかましい」
私の滋養強壮剤は……その頃に名前が変わっていて、とても健康的な、余計な憶測を生むことのないネーミングに変わっていた。
ウサギ印の健康栄養剤 ラビレット。
ウサギ印シリーズだ。
作っているのが(表向き)ラビリアだからだ。
値段も変わった。一袋六十ジル。倍の値段だ。それでも続けて買いたい人は多く、最近では、貴族や裕福な家からまとめて注文が入ってくる。
「材料が限られているので、お一人様にそんなにたくさん売れません。皆さんに行き渡るよう、一家庭、二袋までと制限させていただいています」
私はぐちゃぐちゃ絡む貧乏騎士などほっといて、いかにも裕福な家の使用人デスみたいな男に丁寧に説明していた。
「どんな家に対してもか」
「ご覧ください。どちらのご家庭か存じませんが、あちらの方は……」
残念ながら、順番を行儀よく待っている列の中には、男爵家や伯爵家の紋章入りのお仕着せを着ている者が含まれていた。
あるだけ売れとしつこいこの男が、商人の一家の手の者であることを私は知っている。転売目的だ。
だが、この男では、貴族の家の使用人に絶対に勝てない。
そして、貴族の家の者に貧民へのお慈悲でございますと頼めば、本当に家族が病気で打つ手がない場合以外は、譲ってくれるだろう。
なにしろ、たくさんの人が並んで見ているから、貴族の家はダメとは言いにくい。
この商家の使いの者は商売のために、この薬を買い占めたいだけだ。
わかっているだけに、後ろに並んでいる者たちから、早くもブーイングが出ていた。
「順番を守れ!」
「買い占めするな!」
私はニコニコしながら、商品を売りさばき、お金を手早く数えてお釣りを渡していった。
最近では、順番札を作って渡している。
三十枚まできたらお終いだ。それ以降は、もし二個買わない人が出てきたら、売れるかもしれないと伝えている。待ってもらうにしてもちゃんと伝えないといけない。
だが、今日は、最後に一人残ってしまった。
例の騎士崩れである。
「俺にも売ってくれよ」
「お金があればね」
私はさっさと店の簡易カウンターを片付けながら答えた。
「この前、もらった滋養強壮剤……」
「ウサギ印の健康栄養剤 ラビレット」
騎士は露骨に嫌な顔をした。
「中身は一緒なんだろ?」
「もちろん」
「なんで値段が変わった?」
「需要と供給の関係なの。買いたいとおっしゃる方が多くて」
「俺も欲しい。右腕の調子がいいんだ。治るかもしれない。治れば、騎士として働ける」
私は騎士崩れの顔を見た。
ラビリアのセリフじゃないけれど、世界を全部救うことなんか出来ないわ。
「十ジルしかないんだけど、頼むよ。最初の客じゃないか」
「ダメです。もう商品はないし」
騎士崩れは泣きそうな顔になった。
「頼むよ」
不躾にも、彼は私の腕を掴んだ。
「やめてよ!」
だが……私は騎士の手に掴まれた途端、理解してしまった。
この人は死ぬ。
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