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第8話 私をガレンに連れてって!
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魔法陣はおばあさまが管理している。大事な拠点には必ず設置してある。
「魔法人て誰ですか? ティナ様のことですか?」
「人じゃない。空間をつなぐものなの。この城からアルクマールまでひとっ飛びよ」
「すごい!」
「どこでも行ったことのある場所なら、あるいは魔法陣が設置されている場所なら、行くことができるの」
「ガレンの王宮とか?」
アビリアの質問に私は黙った。
「………………」
なぜ、そんなところに行きたがるのだ。
「だって、モノを売るなら大都市の方がいいと思って」
「王宮はダメよ」
「ティナ様、最近口の利き方が適当ですね」
「……わかっているわよ」
でも、今はお姫様然として、構えていればいいわけじゃない。
一人で、自分とラビリアと、最近では村人全体の心配までしている。誰に頼まれた訳でもないのに気になっている。
これまでは、自分の心配をずっと人にしてもらっていた。
今は違う。
「言葉遣いなんか、どうでもいいと思うの」
「エッセン伯爵夫人に……」
私はラビリアの発言におっかぶせるように言った。
「ガレンの王都の方が売れ行きはいいかもしれないわね」
なにしろ人口が違う。それに、暖かい。雪なんか降らない。はるかに大きい売り上げが見込めるし、多分目立たない。
目立たたないってことは、とても重要だと思う。
ラビリアが、ケチを付けてきた。
「ティナ様、ガレンでは絶対メチャクチャ目立ちますよ。あのクソ女ジェラルディン嬢が言っていたではありませんか、あなたのような人はいないと」
エッセン伯爵夫人がここにいたら、ラビリアは即刻侍女をクビになったと思う。クソ女って……。
「この容貌は、嫌われると言われたわね」
あんまり人気のない顔立ちだと、売り上げが下がるかも知れないわ。私は心配になった。
「そんなことはないと思います。むしろ、惚れ込む男に注意しないといけないくらいでしょう」
「……うーん。どうかしら」
この村では、さんざんかわいいと腐った目をした男どもに言われ続けた。
雑貨屋の主人によると、最近ではファンクラブが形成され、相互不可侵条約が結ばれたそうだ。
「不可侵条約とはですね……」
「知っている。国の間でお互いに侵略しないことを約束したものよ。最近では、わたくし……ではなくて、アルクマールとガレンの間で両国の王太子と王女の……」
雑貨屋の亭主は私の話をさえぎった。
「どの男も単独で、ティナさんに交際の申し込みをしてはならないと男どもが決めたのです」
「そもそもこの村に、そんなに大勢、適齢期の男性はいないんじゃないの?」
雑貨屋の亭主は物々しく首を振った。
「最近では、噂を聞きつけて、隣村からも押し寄せてきています。ま、天候が悪かったので、今はそれどころじゃないと思いますが……」
当然だ。そんなことより飢饉の方が問題だろう。
「無論、私は十分かわいい。むしろ非常な美人だと思っているけど、どうしてわざわざ本人に言うんだろうな? 十分承知してる。新しいニュースじゃない」
「なぜなんでしょうね?」
二人とも首をひねったが、とりえず私は髪をベールで包んでできるだけ地味な格好で店に出ることにした。
「おばあさまの記録によると、王都の繁華街近くにお屋敷があるらしい」
その屋敷には魔法陣もあるらしい。
王都にこんなものがあることをガレンは知らないのだろう。
アルクマールの領土にこんなものを造ったら、おばあさまあたりが瞬時に嗅ぎつけて、準戦時体制くらいにはなるはずだ。
ガレンだって、自国内に他国と勝手パイプが繋がっていることがわかったら、大騒ぎするだろう。
「誰も騒いでないってことは、誰も知らないってことね」
「良かったですね、ティナ様。入りたい放題ですよ」
『魔法を信じる者はいない』
ガレンに魔法使いはいないらしい。ないしは力の差か。
「しかし発動させれば、どうしても魔力を感知される可能性があるのよ」
「そんな危険を冒してまで……。大体、その変な木の実製の滋養強壮剤、本当に売れるのですか?」
「…………わからない」
「一緒にウサギ印のポーションも持っていってみては?」
「…………そうかも」
ウサギ印のポーションは、病気にもケガにも効くと大人気だそうだ。
「ティナ様。すごい儲けになりました」
知らない間に雑貨屋の亭主が勝手に売っぱらっていた。
「この村は現金収入が少ないですから、とてもとてもありがたいんです。ラビリア様には、どうぞよしなに」
あ、そうだった。ラビリアが作ったことにしていたんだった。
ハッと振り返ると、横でラビリアが、えらそうにふんぞり返ってうなずいていた。
「苦しゅうない」
違うでしょー。作ったのは私よ。
「ですからね、ラビリア様、今少しポーションを作り続けていただきたいんで……」
そこでうなずいちゃダメだから、ラビリア!
数が少ないので、入荷次第すぐ売り切れになると、出入りの業者が鼻息荒く雑貨屋の亭主に増量を談じ込んだらしい。
「うーん。もっと欲しいって言われてもねえ……」
見ていると、自分が作った訳でもないのに、亭主は得意そうだ。
それを見ていたので、ピカナの実だって、店に出せばとにかく売れると思っていた。だけど、間違っているのかも。売れなかったらどうしよう。
でも、やるしかない。
もう道は雪で閉ざされていて、屈強な男と雪に慣れた馬しか街道を通れない。
荷物も大量には運べない。でも、食糧がいるのだ。薬ならお金になる。
「性格は男ですけど、体格は……」
ラビリアが私の華奢な骨組みを気の毒そうに見た。
「いっそ、男だったらよかったのに。あ、でも、貧相な小男になりそうですね」
やかましいわ。
ラビリアは、子ウサギの頃からたっぷり餌をやって、何くれとなく世話をしたおかげで、人の形になっても結構な大女だった。
「行ってきます」
大荷物を背負い込んだ私は、荷物の影に隠れて見えなかったらしい。
「荷物しか見えないわ。ティナ様、お気をつけて」
三階の屋根裏部屋の魔法陣の真ん中に陣取って、私はドキドキしながら、叫んだ。
「私をガレンの王都の屋敷に連れてって!」
「魔法人て誰ですか? ティナ様のことですか?」
「人じゃない。空間をつなぐものなの。この城からアルクマールまでひとっ飛びよ」
「すごい!」
「どこでも行ったことのある場所なら、あるいは魔法陣が設置されている場所なら、行くことができるの」
「ガレンの王宮とか?」
アビリアの質問に私は黙った。
「………………」
なぜ、そんなところに行きたがるのだ。
「だって、モノを売るなら大都市の方がいいと思って」
「王宮はダメよ」
「ティナ様、最近口の利き方が適当ですね」
「……わかっているわよ」
でも、今はお姫様然として、構えていればいいわけじゃない。
一人で、自分とラビリアと、最近では村人全体の心配までしている。誰に頼まれた訳でもないのに気になっている。
これまでは、自分の心配をずっと人にしてもらっていた。
今は違う。
「言葉遣いなんか、どうでもいいと思うの」
「エッセン伯爵夫人に……」
私はラビリアの発言におっかぶせるように言った。
「ガレンの王都の方が売れ行きはいいかもしれないわね」
なにしろ人口が違う。それに、暖かい。雪なんか降らない。はるかに大きい売り上げが見込めるし、多分目立たない。
目立たたないってことは、とても重要だと思う。
ラビリアが、ケチを付けてきた。
「ティナ様、ガレンでは絶対メチャクチャ目立ちますよ。あのクソ女ジェラルディン嬢が言っていたではありませんか、あなたのような人はいないと」
エッセン伯爵夫人がここにいたら、ラビリアは即刻侍女をクビになったと思う。クソ女って……。
「この容貌は、嫌われると言われたわね」
あんまり人気のない顔立ちだと、売り上げが下がるかも知れないわ。私は心配になった。
「そんなことはないと思います。むしろ、惚れ込む男に注意しないといけないくらいでしょう」
「……うーん。どうかしら」
この村では、さんざんかわいいと腐った目をした男どもに言われ続けた。
雑貨屋の主人によると、最近ではファンクラブが形成され、相互不可侵条約が結ばれたそうだ。
「不可侵条約とはですね……」
「知っている。国の間でお互いに侵略しないことを約束したものよ。最近では、わたくし……ではなくて、アルクマールとガレンの間で両国の王太子と王女の……」
雑貨屋の亭主は私の話をさえぎった。
「どの男も単独で、ティナさんに交際の申し込みをしてはならないと男どもが決めたのです」
「そもそもこの村に、そんなに大勢、適齢期の男性はいないんじゃないの?」
雑貨屋の亭主は物々しく首を振った。
「最近では、噂を聞きつけて、隣村からも押し寄せてきています。ま、天候が悪かったので、今はそれどころじゃないと思いますが……」
当然だ。そんなことより飢饉の方が問題だろう。
「無論、私は十分かわいい。むしろ非常な美人だと思っているけど、どうしてわざわざ本人に言うんだろうな? 十分承知してる。新しいニュースじゃない」
「なぜなんでしょうね?」
二人とも首をひねったが、とりえず私は髪をベールで包んでできるだけ地味な格好で店に出ることにした。
「おばあさまの記録によると、王都の繁華街近くにお屋敷があるらしい」
その屋敷には魔法陣もあるらしい。
王都にこんなものがあることをガレンは知らないのだろう。
アルクマールの領土にこんなものを造ったら、おばあさまあたりが瞬時に嗅ぎつけて、準戦時体制くらいにはなるはずだ。
ガレンだって、自国内に他国と勝手パイプが繋がっていることがわかったら、大騒ぎするだろう。
「誰も騒いでないってことは、誰も知らないってことね」
「良かったですね、ティナ様。入りたい放題ですよ」
『魔法を信じる者はいない』
ガレンに魔法使いはいないらしい。ないしは力の差か。
「しかし発動させれば、どうしても魔力を感知される可能性があるのよ」
「そんな危険を冒してまで……。大体、その変な木の実製の滋養強壮剤、本当に売れるのですか?」
「…………わからない」
「一緒にウサギ印のポーションも持っていってみては?」
「…………そうかも」
ウサギ印のポーションは、病気にもケガにも効くと大人気だそうだ。
「ティナ様。すごい儲けになりました」
知らない間に雑貨屋の亭主が勝手に売っぱらっていた。
「この村は現金収入が少ないですから、とてもとてもありがたいんです。ラビリア様には、どうぞよしなに」
あ、そうだった。ラビリアが作ったことにしていたんだった。
ハッと振り返ると、横でラビリアが、えらそうにふんぞり返ってうなずいていた。
「苦しゅうない」
違うでしょー。作ったのは私よ。
「ですからね、ラビリア様、今少しポーションを作り続けていただきたいんで……」
そこでうなずいちゃダメだから、ラビリア!
数が少ないので、入荷次第すぐ売り切れになると、出入りの業者が鼻息荒く雑貨屋の亭主に増量を談じ込んだらしい。
「うーん。もっと欲しいって言われてもねえ……」
見ていると、自分が作った訳でもないのに、亭主は得意そうだ。
それを見ていたので、ピカナの実だって、店に出せばとにかく売れると思っていた。だけど、間違っているのかも。売れなかったらどうしよう。
でも、やるしかない。
もう道は雪で閉ざされていて、屈強な男と雪に慣れた馬しか街道を通れない。
荷物も大量には運べない。でも、食糧がいるのだ。薬ならお金になる。
「性格は男ですけど、体格は……」
ラビリアが私の華奢な骨組みを気の毒そうに見た。
「いっそ、男だったらよかったのに。あ、でも、貧相な小男になりそうですね」
やかましいわ。
ラビリアは、子ウサギの頃からたっぷり餌をやって、何くれとなく世話をしたおかげで、人の形になっても結構な大女だった。
「行ってきます」
大荷物を背負い込んだ私は、荷物の影に隠れて見えなかったらしい。
「荷物しか見えないわ。ティナ様、お気をつけて」
三階の屋根裏部屋の魔法陣の真ん中に陣取って、私はドキドキしながら、叫んだ。
「私をガレンの王都の屋敷に連れてって!」
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