【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
8 / 62

第8話 私をガレンに連れてって!

しおりを挟む
魔法陣はおばあさまが管理している。大事な拠点には必ず設置してある。

「魔法人て誰ですか? ティナ様のことですか?」

「人じゃない。空間をつなぐものなの。この城からアルクマールまでひとっ飛びよ」

「すごい!」

「どこでも行ったことのある場所なら、あるいは魔法陣が設置されている場所なら、行くことができるの」

「ガレンの王宮とか?」

アビリアの質問に私は黙った。

「………………」

なぜ、そんなところに行きたがるのだ。

「だって、モノを売るなら大都市の方がいいと思って」

「王宮はダメよ」

「ティナ様、最近口の利き方が適当ですね」

「……わかっているわよ」

でも、今はお姫様然として、構えていればいいわけじゃない。
一人で、自分とラビリアと、最近では村人全体の心配までしている。誰に頼まれた訳でもないのに気になっている。

これまでは、自分の心配をずっと人にしてもらっていた。

今は違う。

「言葉遣いなんか、どうでもいいと思うの」

「エッセン伯爵夫人に……」

私はラビリアの発言におっかぶせるように言った。

「ガレンの王都の方が売れ行きはいいかもしれないわね」

なにしろ人口が違う。それに、暖かい。雪なんか降らない。はるかに大きい売り上げが見込めるし、多分目立たない。

目立たたないってことは、とても重要だと思う。

ラビリアが、ケチを付けてきた。

「ティナ様、ガレンでは絶対メチャクチャ目立ちますよ。あのクソ女ジェラルディン嬢が言っていたではありませんか、あなたのような人はいないと」

エッセン伯爵夫人がここにいたら、ラビリアは即刻侍女をクビになったと思う。クソ女って……。

「この容貌は、嫌われると言われたわね」

あんまり人気のない顔立ちだと、売り上げが下がるかも知れないわ。私は心配になった。

「そんなことはないと思います。むしろ、惚れ込む男に注意しないといけないくらいでしょう」

「……うーん。どうかしら」

この村では、さんざんかわいいと腐った目をした男どもに言われ続けた。

雑貨屋の主人によると、最近ではファンクラブが形成され、相互不可侵条約が結ばれたそうだ。

「不可侵条約とはですね……」

「知っている。国の間でお互いに侵略しないことを約束したものよ。最近では、わたくし……ではなくて、アルクマールとガレンの間で両国の王太子と王女の……」

雑貨屋の亭主は私の話をさえぎった。

「どの男も単独で、ティナさんに交際の申し込みをしてはならないと男どもが決めたのです」

「そもそもこの村に、そんなに大勢、適齢期の男性はいないんじゃないの?」

雑貨屋の亭主は物々しく首を振った。

「最近では、噂を聞きつけて、隣村からも押し寄せてきています。ま、天候が悪かったので、今はそれどころじゃないと思いますが……」

当然だ。そんなことより飢饉の方が問題だろう。

「無論、私は十分かわいい。むしろ非常な美人だと思っているけど、どうしてわざわざ本人に言うんだろうな? 十分承知してる。新しいニュースじゃない」

「なぜなんでしょうね?」

二人とも首をひねったが、とりえず私は髪をベールで包んでできるだけ地味な格好で店に出ることにした。



「おばあさまの記録によると、王都の繁華街近くにお屋敷があるらしい」

その屋敷には魔法陣もあるらしい。

王都にこんなものがあることをガレンは知らないのだろう。

アルクマールの領土にこんなものを造ったら、おばあさまあたりが瞬時に嗅ぎつけて、準戦時体制くらいにはなるはずだ。

ガレンだって、自国内に他国と勝手パイプがつながっていることがわかったら、大騒ぎするだろう。

「誰も騒いでないってことは、誰も知らないってことね」

「良かったですね、ティナ様。入りたい放題ですよ」


『魔法を信じる者はいない』

ガレンに魔法使いはいないらしい。ないしは力の差か。

「しかし発動させれば、どうしても魔力を感知される可能性があるのよ」

「そんな危険を冒してまで……。大体、その変な木の実製の滋養強壮剤、本当に売れるのですか?」

「…………わからない」

「一緒にウサギ印のポーションも持っていってみては?」

「…………そうかも」

ウサギ印のポーションは、病気にもケガにも効くと大人気だそうだ。

「ティナ様。すごい儲けになりました」

知らない間に雑貨屋の亭主が勝手に売っぱらっていた。

「この村は現金収入が少ないですから、とてもとてもありがたいんです。ラビリア様には、どうぞよしなに」

あ、そうだった。ラビリアが作ったことにしていたんだった。

ハッと振り返ると、横でラビリアが、えらそうにふんぞり返ってうなずいていた。

「苦しゅうない」

違うでしょー。作ったのは私よ。

「ですからね、ラビリア様、今少しポーションを作り続けていただきたいんで……」

そこでうなずいちゃダメだから、ラビリア!


数が少ないので、入荷次第すぐ売り切れになると、出入りの業者が鼻息荒く雑貨屋の亭主に増量を談じ込んだらしい。

「うーん。もっと欲しいって言われてもねえ……」

見ていると、自分が作った訳でもないのに、亭主は得意そうだ。


それを見ていたので、ピカナの実だって、店に出せばとにかく売れると思っていた。だけど、間違っているのかも。売れなかったらどうしよう。

でも、やるしかない。

もう道は雪で閉ざされていて、屈強な男と雪に慣れた馬しか街道を通れない。
荷物も大量には運べない。でも、食糧がいるのだ。薬ならお金になる。

「性格は男ですけど、体格は……」

ラビリアが私の華奢な骨組みを気の毒そうに見た。

「いっそ、男だったらよかったのに。あ、でも、貧相な小男になりそうですね」

やかましいわ。
ラビリアは、子ウサギの頃からたっぷり餌をやって、何くれとなく世話をしたおかげで、人の形になっても結構な大女だった。

「行ってきます」

大荷物を背負い込んだ私は、荷物の影に隠れて見えなかったらしい。

「荷物しか見えないわ。ティナ様、お気をつけて」

三階の屋根裏部屋の魔法陣の真ん中に陣取って、私はドキドキしながら、叫んだ。

「私をガレンの王都の屋敷に連れてって!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...