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第6話 リンデの村と残念な村人たち
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おばあさまは疲れたと言って帰っていった。
「腕をくっつけるのと、アルクマールとガレンを仲裁するのに力を使ったんだよ。ヘトヘトだよ。部屋の掃除なんか、当分、まっぴらだ。修道院に帰る」
修道院ではきっとずっとダラダラしているんだ。
私にはわかる。
「ねえ、ティナ様あ。夕食にはアップルパイをお願いします」
家事が一切できない、薬草摘みの役にしか立たないラビリアが、夕食の発注をかけた。
「たまには作ってよ」
「だって、ティナ様の方がうまいんだもん。それに薬草摘みで働いてるじゃないですかあ」
そう。私は、今、村人のために薬草からポーションを作っている。
話は少し前に前に遡る。
城はとっても素敵に出来上がった。
私の家事魔法の技は見事なもので、城中ピカピカだ。
特にお気に入りは、自分の寝室と屋根裏部屋。
寝室の天蓋付きのベッドは花柄の刺繍が施されている真っ白な夜具がかかっていて、とってもロマンチック。
素朴な感じの椅子とテーブルも、かわいいテーブルクロスとクッションを置けばバッチリだ。素敵なランプも見つけた。夜の読書にぴったりだ。
そして何より屋根裏部屋。
大きめの窓があって、日がさんさんと降り注ぐ。夜は星空が見えて、遠くにはチラチラ灯りがまたたいていた。
「ねえ、見て! 人が住んでいるわ。すごいこと発見しちゃったわ!」
私がはしゃいで言うと、ラビリアは何を言っているんだと言う顔で、呆れたように私に言った。
「当たり前じゃないですか」
それから付け加えた。
「あれがリンデの村でしょう? 早く行かないと」
「え? 何のために?」
ラビリアはますます呆れた顔になって言った。
「ティナ様。小麦粉が切れかけてます。あと、バターはもうありません。卵もね」
そう。無から有は生み出せない。
それは魔法だろうがなんだろうが、世界の掟だった。
お金はあった。だから私は買い物をしなくちゃいけない。
ウマはいなかったので、カエルを使ってみた。
「ダメですよ」
ラビリアに怒られた。
「こんなきれいな緑色のウマは世の中に存在しません。斑馬は確かにいますがね、赤と緑のマダラ馬なんか怖いですよ」
ウサギのくせに妙に世慣れていて、私の魔法を批判する。環境が悪かったのかもしれない。
ミミズで代用することにして、古い荷馬車を引かせることになった。
ちょっと動きがクネクネしていて、怪しい感じがするウマだけど、荷物さえ引ければいいのよ。
リンデの村は小さくて、雑貨屋が一軒見つかっただけだった。
店主はでっぷり太って、人の良さそうな中年だった。
「ええ? お城にご主人様が?」
「そうなんですよー。私たち、女中で」
ラビリアが勝手に説明を始めた。このウサギは口が多くていけない。
女中ってなんだ。領主は私だ。
「こっちがティナで、私はラビリアって言うんです」
私は王女なのよ! どうして女中なの? ……とも言えないかな。王女ですって、わざわざ名のる必要性は、確かにない。
「ご主人様ってどんな方なんだね?」
雑貨屋の主人は好奇心丸出しだった。
「何ですって? ほんとなの、お城に領主様がきたって?」
雑貨屋のかみさんも店の奥から出てきた。
「いやー、私たちは見たことがないんですよー。王都におられるとかで。でも、城は掃除して、きれいにしておけって」
「はー。そうなのか。そりゃそうだな。そんな偉い方が、こんな田舎に来るわけないもんな」
あのー、私はもっと偉いんですけど?
どうして、この高貴さがわからないの? こう、身から漂う気品とか、色々あるでしょ?
「え? このちっちゃいのも女中?」
私がフンっと背を出来るだけ伸ばしたので、雑貨屋はやっと私に気づいたらしい。
チビってなんだ。私はいつも人形のように美しいと言われ続けてきたのに!
「でも、掃除しとけってことはいつか来られる可能性もあるってことだよな? うーん、高貴な方って、見たことないからなー。楽しみだな」
見てるじゃないの、今。
「それより、小麦粉とバターと卵ください。あとハムの半身と……」
「いっそ雌鶏と雌牛を買って帰ったらどうだ」
人手がないのよ。ウサギに鳥と牛の世話ができるわけがない。城は魔法だらけなので、本物の人間を雇うわけにはいかないし。
「それは今後検討するわ」
私が割り込んで答えた。ラビリアに妙なものを買い込まれたら、私が苦労する。どうせ、ラビリアは食べるだけ。それ以外は、余計な発言をぶっこむくらいだ。
魔法で作った貯蔵庫があるから、卵やバターやハムの長期保存は可能だ。買った方がいい。
「ちっちゃい方はえらくかわいいな。あんなにかわいい子どもは見たことがない」
店主が、横目で私を見ながらかみさんに向かって小さな声で言った。
「仕事をしているくらいだから、子どもじゃないんでしょうけどねえ。テキパキしてるし。でも、末恐ろしいくらいの美人ね」
「チッ」
また、子ども扱いか。
「ティナ様、下品な言葉遣いですよ! エッセン伯爵夫人に見つかったら、間違いなくお仕置きですよ!」
「いないからいいの!」
そんなこんなで週に一回くらいは買い物に出ることになった。
だが、そうなると村の事情にいやでも詳しくなってしまう。
私も詳しくなったけど、村の連中もお城の女中二人組に詳しくなった……らしい。
「ティナ! ティナって言うんだ。ねえ、どうしてそんなにかわいいの?」
……口説かれた。王女なのに。恐れ多いでしょうに!
身のほど知らずの残念な青年が、次から次へと現れる。いかにも農夫らしく、全員筋肉自慢だ。筋肉は趣味じゃないと言ったのに。
私を誰と心得る。アルクマールの王女殿下にして、隣国ガレンの王太子殿下の(元?)婚約者クリスティーナ姫だ。
……名乗ったって、ドン引かれるのがオチだろうな。
ラビリアも口説かれていた。人種……ではない、種類違いだ。誰か雄ウサギを連れてこい。
「あ、こら! ラビリアを連れてくんじゃない!」
私は慌てて村の青年を追いかけた。
何かどんどん性格が男性化している気がするわ。可愛い妖精のようだと言われていたのに!
「ラビリアは私のモノよ!」
……言葉の選択を誤ったらしい。
この一言が原因で、私たちは百合カップル認定された。後で聞いた。
でも、ラビリアは元々私のペットなのよ! 私のモノなのよ!
もはやどうでもいい。
私は開き直った。
その方が便利だからだ。
そして、更に村人の認定によると、私が監督役で、ラビリアは監督される側。
ますますおかしい。なぜ、王女が侍女を守らなくちゃいけないの。
それ、逆でしょう。(ペットと飼い主と言う考え方だと、あってはいるんだけど)
そして、今、ポーションを作っているのは、雑貨屋の親父に泣きつかれたのがことの発端。
子どもが病気になったが、村に医者はいなかった。
「お願いです。領主様に……」
領主様はそこまで面倒見よくないと思うけど。普通。
しかも、なぜ、私に頼みにくる?
「なんだか、ティナさんの方が頼もしい気がして」
「えっ?」
そ、そうかなっ?
うむ。そうかも知れない。なにせ、王女だもんね。
頼られるってのも、悪くないな。これまでずっと、頼ってばかりだったもの。
私には力がある。
使ってみたいし、挑戦してみたい。
だけど、おばあさまはくれぐれも力を使うときは考えてやれと言っていた。影響が計り知れないからと。
魔女だなんてバレてはならない。
だが、薬草作りならできる、ラビリアが。
ええ、ラビリアが。私は関係ありません。
子どもは全快したが、その後、私はウサギ印のポーションを作っては卸す羽目に陥った。
残念ながら、ポーションが大好評だったのだ。
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寝室の天蓋付きのベッドは花柄の刺繍が施されている真っ白な夜具がかかっていて、とってもロマンチック。
素朴な感じの椅子とテーブルも、かわいいテーブルクロスとクッションを置けばバッチリだ。素敵なランプも見つけた。夜の読書にぴったりだ。
そして何より屋根裏部屋。
大きめの窓があって、日がさんさんと降り注ぐ。夜は星空が見えて、遠くにはチラチラ灯りがまたたいていた。
「ねえ、見て! 人が住んでいるわ。すごいこと発見しちゃったわ!」
私がはしゃいで言うと、ラビリアは何を言っているんだと言う顔で、呆れたように私に言った。
「当たり前じゃないですか」
それから付け加えた。
「あれがリンデの村でしょう? 早く行かないと」
「え? 何のために?」
ラビリアはますます呆れた顔になって言った。
「ティナ様。小麦粉が切れかけてます。あと、バターはもうありません。卵もね」
そう。無から有は生み出せない。
それは魔法だろうがなんだろうが、世界の掟だった。
お金はあった。だから私は買い物をしなくちゃいけない。
ウマはいなかったので、カエルを使ってみた。
「ダメですよ」
ラビリアに怒られた。
「こんなきれいな緑色のウマは世の中に存在しません。斑馬は確かにいますがね、赤と緑のマダラ馬なんか怖いですよ」
ウサギのくせに妙に世慣れていて、私の魔法を批判する。環境が悪かったのかもしれない。
ミミズで代用することにして、古い荷馬車を引かせることになった。
ちょっと動きがクネクネしていて、怪しい感じがするウマだけど、荷物さえ引ければいいのよ。
リンデの村は小さくて、雑貨屋が一軒見つかっただけだった。
店主はでっぷり太って、人の良さそうな中年だった。
「ええ? お城にご主人様が?」
「そうなんですよー。私たち、女中で」
ラビリアが勝手に説明を始めた。このウサギは口が多くていけない。
女中ってなんだ。領主は私だ。
「こっちがティナで、私はラビリアって言うんです」
私は王女なのよ! どうして女中なの? ……とも言えないかな。王女ですって、わざわざ名のる必要性は、確かにない。
「ご主人様ってどんな方なんだね?」
雑貨屋の主人は好奇心丸出しだった。
「何ですって? ほんとなの、お城に領主様がきたって?」
雑貨屋のかみさんも店の奥から出てきた。
「いやー、私たちは見たことがないんですよー。王都におられるとかで。でも、城は掃除して、きれいにしておけって」
「はー。そうなのか。そりゃそうだな。そんな偉い方が、こんな田舎に来るわけないもんな」
あのー、私はもっと偉いんですけど?
どうして、この高貴さがわからないの? こう、身から漂う気品とか、色々あるでしょ?
「え? このちっちゃいのも女中?」
私がフンっと背を出来るだけ伸ばしたので、雑貨屋はやっと私に気づいたらしい。
チビってなんだ。私はいつも人形のように美しいと言われ続けてきたのに!
「でも、掃除しとけってことはいつか来られる可能性もあるってことだよな? うーん、高貴な方って、見たことないからなー。楽しみだな」
見てるじゃないの、今。
「それより、小麦粉とバターと卵ください。あとハムの半身と……」
「いっそ雌鶏と雌牛を買って帰ったらどうだ」
人手がないのよ。ウサギに鳥と牛の世話ができるわけがない。城は魔法だらけなので、本物の人間を雇うわけにはいかないし。
「それは今後検討するわ」
私が割り込んで答えた。ラビリアに妙なものを買い込まれたら、私が苦労する。どうせ、ラビリアは食べるだけ。それ以外は、余計な発言をぶっこむくらいだ。
魔法で作った貯蔵庫があるから、卵やバターやハムの長期保存は可能だ。買った方がいい。
「ちっちゃい方はえらくかわいいな。あんなにかわいい子どもは見たことがない」
店主が、横目で私を見ながらかみさんに向かって小さな声で言った。
「仕事をしているくらいだから、子どもじゃないんでしょうけどねえ。テキパキしてるし。でも、末恐ろしいくらいの美人ね」
「チッ」
また、子ども扱いか。
「ティナ様、下品な言葉遣いですよ! エッセン伯爵夫人に見つかったら、間違いなくお仕置きですよ!」
「いないからいいの!」
そんなこんなで週に一回くらいは買い物に出ることになった。
だが、そうなると村の事情にいやでも詳しくなってしまう。
私も詳しくなったけど、村の連中もお城の女中二人組に詳しくなった……らしい。
「ティナ! ティナって言うんだ。ねえ、どうしてそんなにかわいいの?」
……口説かれた。王女なのに。恐れ多いでしょうに!
身のほど知らずの残念な青年が、次から次へと現れる。いかにも農夫らしく、全員筋肉自慢だ。筋肉は趣味じゃないと言ったのに。
私を誰と心得る。アルクマールの王女殿下にして、隣国ガレンの王太子殿下の(元?)婚約者クリスティーナ姫だ。
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私は慌てて村の青年を追いかけた。
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この一言が原因で、私たちは百合カップル認定された。後で聞いた。
でも、ラビリアは元々私のペットなのよ! 私のモノなのよ!
もはやどうでもいい。
私は開き直った。
その方が便利だからだ。
そして、更に村人の認定によると、私が監督役で、ラビリアは監督される側。
ますますおかしい。なぜ、王女が侍女を守らなくちゃいけないの。
それ、逆でしょう。(ペットと飼い主と言う考え方だと、あってはいるんだけど)
そして、今、ポーションを作っているのは、雑貨屋の親父に泣きつかれたのがことの発端。
子どもが病気になったが、村に医者はいなかった。
「お願いです。領主様に……」
領主様はそこまで面倒見よくないと思うけど。普通。
しかも、なぜ、私に頼みにくる?
「なんだか、ティナさんの方が頼もしい気がして」
「えっ?」
そ、そうかなっ?
うむ。そうかも知れない。なにせ、王女だもんね。
頼られるってのも、悪くないな。これまでずっと、頼ってばかりだったもの。
私には力がある。
使ってみたいし、挑戦してみたい。
だけど、おばあさまはくれぐれも力を使うときは考えてやれと言っていた。影響が計り知れないからと。
魔女だなんてバレてはならない。
だが、薬草作りならできる、ラビリアが。
ええ、ラビリアが。私は関係ありません。
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