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第4話 魔法の城へ
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私は馬車に乗っていた。
横ではラビリアが眠っていた。茶色いウサギの姿で。
そして向かいの席には、憂い顔のおばあさまが座っていた。
周りは静かで、誰もいないようだった。
私は気がついて、ガバッと起き上がった。
「お、おばあさま! どうなったの?」
おばあさまはため息をついた。
「馬車を襲撃するだなんて、バカな真似をするとは思わなかったよ」
馬車は襲撃されたの? あれは事実だったの?
私はおばあさまの顔を見つめた。
「バカな真似?」
「ああ。特大級にバカだ。営々と築かれてきたガレンとアルクマールの絆を破壊する行動だ」
おばあさまはちょっと黙っていたが、続けた。
「だから、お前は少しだけ雲隠れする必要が出てきたのさ」
「どう言うこと?」
「表向きは、クリスティーナ王女は、生死不明ってことになっている」
「え?」
「大勢の騎士たちがお前の馬車を狙ってきた。だが、ガレンは一枚板じゃなかった。お前を殺そうする者と、それを止める者が混じっていた」
私は訳が分からなくて、おばあさまを見つめた。
「お前を狙う者がいる以上、ガレンにはいられない。ガレンの国内事情が落ち着くまで、お前は表舞台に出ない方がいいだろう。婚約破棄だの噂されるのは面白くないしね。婚約破棄するなら、アルクマールからだ」
私は、あの時、聞いた叫びを思い出して、身震いした。みんな、無事だろうか?
「みんな、どこへいったの?」
「護衛騎士がお前を守って二人死んだよ。あとは無事だ。怪我はしたがね」
私は真っ青になった。一緒に来た護衛騎士を、私は全員知っている。
「誰が?」
おばあさまは首を振った。
「知らなくていい。さあ、着いたよ」
「着いたってどこへ?」
馬車はずっと止まっているんだと思っていたが、ガタンと振動がきて本当に止まったらしかった。
「おばあさま? ここは?」
馬車からでると、森の中だった。鳥の声以外、何も聞こえない。
陽がさんさんと降り注ぎ、木の葉の影が石畳の道の上にチラチラ影を落としていた。
そして石畳の道の先には、古びた古城が建っていた。
石造りの、いかにも堅牢そうな、しかし古い造りだった。周りには木が生い茂っていて、人が出入りした痕跡はなかった。
「中へ入るのですか?」
「もちろん」
古く、がっしりとした木製の扉はギギギギーと、さも気が向かないと言ったような音をたてながら、ゆっくりと開いた。
扉の中は……高窓のせいで暗くはなかった。
窓から、光が筋となって床まで降り注ぎ、その光の中では、何年か、いや何十年かぶりに扉が開いて外界と繋がったことで、空中に舞い上がった埃がキラキラ踊っていた。
玄関の間は、ぶ厚い絨毯が敷かれていたが、その上には何十年分かの埃が厚く溜まっていた。
見上げると、天井からは鋳鉄製の飾りのついた古風な灯りが吊り下げられていて、真正面には階段があった。
だが、階段の段も手すりも灰色の埃に覆われていて、灯りも蜘蛛の巣が垂れ下がり、そこにも埃が溜まっていて、なんともわびしい打ち捨てられた光景だった。
ここでは時間が止まっている。
埃は光の中でキラキラ動いているけれど。
「だけど、これでは暮らせないから」
おばあさまが横で言った。
「今から住めるようにするからね」
おばあさまは、決して魔法を使うなと繰り返し言っていた。
『いいかね? 魔法を信じない者だっている』
『もし、目の前で見せられた時、どう思うと思う? 自分が持たないその力を?』
「おばあさま、魔法は人前では絶対使ってはいけないのではなかったの?」
おばあさまは華やかに笑った。
「いいんだよ。だって、ここには魔女しかいないんだもの」
そう言うと、手を動かした。まるで、世界に向かって、命令するかのように。
「そぉーれ!」
高窓が音を立てて開いた。途端に埃はすごい勢いで、キラキラ上へ向かって舞い上がり、渦を成して、次から次へと高窓から外へ吸い出されていった。
「わああ! きれい!」
床の絨毯はみるみる色を変えて、モノクロの灰色から真紅を取り戻した。
階段の段もまた、厚く降り積もった埃が舞い上がって出ていくと、色を取り返して真紅の絨毯が敷かれていたことがわかった。
手すりには細かい模様が刻まれていた。
壁も薄汚れた灰色ではなかった。昔に流行った薄緑の地に、瀟洒な花模様が描かれていた。
天井から鉄の鎖で吊り下げられていた灯りは、きれいに磨かれてキラキラした元の姿を取り返した。
「おばあさま!」
美しい部屋だった。見たことのない古風な美しい……
「さあ、二階に行こう。あんたの寝室を用意しなくちゃ」
一階には、広間と台所、食料庫、厩などがあるらしい。
「ここがあんたの部屋」
埃でいっぱいの天蓋付きのベッド。
テーブルと椅子。床はよくわからないけど木張りで、絨毯が敷かれているようだった。壁紙は灰色でよくわからない。
でも、埃でひどい有様だった。
「今度はお前がやってごらん」
「え? 私? できないわ」
「できないと困るんだよ。まさか私を下女代わりに使うつもりかい?」
おばあさまは、結構、鬼教師だった。
何回も失敗したが、やらないわけにはいかなかった。
それに、この魔法はすごく便利だ。それにきれい。使えるようになってみたい。
「お前の魔法力は莫大だよ。今まで、人がいたから、やらせなかったけどね。やってごらん」
「ハイ、そぉーれ」
このステキな魔法が、この変な掛け声でいいのかしら?
「そぉーれ!」
だが、呪文と手の一振りで窓が開き、埃は竜巻のように舞い上がって、みんな出ていった。
同時に窓も磨かれて、外が見えるようになった。シーツもベッドカバーもパリッとして新品のようだ。
嘘みたい!
「すごいわ! 床の敷物もきれいになったわ! これ花の柄かしら?」
「次は浴室!」
おばあさまは情け容赦なかった。
「きれいになーれ!」
洗面台もバスタブも、アルクマールの王城と形が違う蛇口も、磨き上げられてみんなキラキラになった。
「おばあさま、この蛇口は何?」
「それは魔法専用」
「どう言うこと?」
「こっちのをひねるとお湯が出て、こっちをひねると水が出る。あと、この水栓を抜くと……」
言いながらおばあさまは、蛇口をひねった。片方からは湯気を立てた熱そうなお湯がザーっと流れ出て、別の蛇口からは水が流れ、最後に水栓を抜くと水は全部吸い込まれていった。だが、バスバブの底に穴はなく、それなのに水は消え去って、どこか一階の方で水の流れる音がした。
「素晴らしいわ! おばあさま!」
思わず拍手した。
ここまで実用的な魔法は見たことがなかった。こんなに嘘みたいに鮮やかな魔法!
「あんたの番だよ」
「え? 私?」
スパルタ教育?
横ではラビリアが眠っていた。茶色いウサギの姿で。
そして向かいの席には、憂い顔のおばあさまが座っていた。
周りは静かで、誰もいないようだった。
私は気がついて、ガバッと起き上がった。
「お、おばあさま! どうなったの?」
おばあさまはため息をついた。
「馬車を襲撃するだなんて、バカな真似をするとは思わなかったよ」
馬車は襲撃されたの? あれは事実だったの?
私はおばあさまの顔を見つめた。
「バカな真似?」
「ああ。特大級にバカだ。営々と築かれてきたガレンとアルクマールの絆を破壊する行動だ」
おばあさまはちょっと黙っていたが、続けた。
「だから、お前は少しだけ雲隠れする必要が出てきたのさ」
「どう言うこと?」
「表向きは、クリスティーナ王女は、生死不明ってことになっている」
「え?」
「大勢の騎士たちがお前の馬車を狙ってきた。だが、ガレンは一枚板じゃなかった。お前を殺そうする者と、それを止める者が混じっていた」
私は訳が分からなくて、おばあさまを見つめた。
「お前を狙う者がいる以上、ガレンにはいられない。ガレンの国内事情が落ち着くまで、お前は表舞台に出ない方がいいだろう。婚約破棄だの噂されるのは面白くないしね。婚約破棄するなら、アルクマールからだ」
私は、あの時、聞いた叫びを思い出して、身震いした。みんな、無事だろうか?
「みんな、どこへいったの?」
「護衛騎士がお前を守って二人死んだよ。あとは無事だ。怪我はしたがね」
私は真っ青になった。一緒に来た護衛騎士を、私は全員知っている。
「誰が?」
おばあさまは首を振った。
「知らなくていい。さあ、着いたよ」
「着いたってどこへ?」
馬車はずっと止まっているんだと思っていたが、ガタンと振動がきて本当に止まったらしかった。
「おばあさま? ここは?」
馬車からでると、森の中だった。鳥の声以外、何も聞こえない。
陽がさんさんと降り注ぎ、木の葉の影が石畳の道の上にチラチラ影を落としていた。
そして石畳の道の先には、古びた古城が建っていた。
石造りの、いかにも堅牢そうな、しかし古い造りだった。周りには木が生い茂っていて、人が出入りした痕跡はなかった。
「中へ入るのですか?」
「もちろん」
古く、がっしりとした木製の扉はギギギギーと、さも気が向かないと言ったような音をたてながら、ゆっくりと開いた。
扉の中は……高窓のせいで暗くはなかった。
窓から、光が筋となって床まで降り注ぎ、その光の中では、何年か、いや何十年かぶりに扉が開いて外界と繋がったことで、空中に舞い上がった埃がキラキラ踊っていた。
玄関の間は、ぶ厚い絨毯が敷かれていたが、その上には何十年分かの埃が厚く溜まっていた。
見上げると、天井からは鋳鉄製の飾りのついた古風な灯りが吊り下げられていて、真正面には階段があった。
だが、階段の段も手すりも灰色の埃に覆われていて、灯りも蜘蛛の巣が垂れ下がり、そこにも埃が溜まっていて、なんともわびしい打ち捨てられた光景だった。
ここでは時間が止まっている。
埃は光の中でキラキラ動いているけれど。
「だけど、これでは暮らせないから」
おばあさまが横で言った。
「今から住めるようにするからね」
おばあさまは、決して魔法を使うなと繰り返し言っていた。
『いいかね? 魔法を信じない者だっている』
『もし、目の前で見せられた時、どう思うと思う? 自分が持たないその力を?』
「おばあさま、魔法は人前では絶対使ってはいけないのではなかったの?」
おばあさまは華やかに笑った。
「いいんだよ。だって、ここには魔女しかいないんだもの」
そう言うと、手を動かした。まるで、世界に向かって、命令するかのように。
「そぉーれ!」
高窓が音を立てて開いた。途端に埃はすごい勢いで、キラキラ上へ向かって舞い上がり、渦を成して、次から次へと高窓から外へ吸い出されていった。
「わああ! きれい!」
床の絨毯はみるみる色を変えて、モノクロの灰色から真紅を取り戻した。
階段の段もまた、厚く降り積もった埃が舞い上がって出ていくと、色を取り返して真紅の絨毯が敷かれていたことがわかった。
手すりには細かい模様が刻まれていた。
壁も薄汚れた灰色ではなかった。昔に流行った薄緑の地に、瀟洒な花模様が描かれていた。
天井から鉄の鎖で吊り下げられていた灯りは、きれいに磨かれてキラキラした元の姿を取り返した。
「おばあさま!」
美しい部屋だった。見たことのない古風な美しい……
「さあ、二階に行こう。あんたの寝室を用意しなくちゃ」
一階には、広間と台所、食料庫、厩などがあるらしい。
「ここがあんたの部屋」
埃でいっぱいの天蓋付きのベッド。
テーブルと椅子。床はよくわからないけど木張りで、絨毯が敷かれているようだった。壁紙は灰色でよくわからない。
でも、埃でひどい有様だった。
「今度はお前がやってごらん」
「え? 私? できないわ」
「できないと困るんだよ。まさか私を下女代わりに使うつもりかい?」
おばあさまは、結構、鬼教師だった。
何回も失敗したが、やらないわけにはいかなかった。
それに、この魔法はすごく便利だ。それにきれい。使えるようになってみたい。
「お前の魔法力は莫大だよ。今まで、人がいたから、やらせなかったけどね。やってごらん」
「ハイ、そぉーれ」
このステキな魔法が、この変な掛け声でいいのかしら?
「そぉーれ!」
だが、呪文と手の一振りで窓が開き、埃は竜巻のように舞い上がって、みんな出ていった。
同時に窓も磨かれて、外が見えるようになった。シーツもベッドカバーもパリッとして新品のようだ。
嘘みたい!
「すごいわ! 床の敷物もきれいになったわ! これ花の柄かしら?」
「次は浴室!」
おばあさまは情け容赦なかった。
「きれいになーれ!」
洗面台もバスタブも、アルクマールの王城と形が違う蛇口も、磨き上げられてみんなキラキラになった。
「おばあさま、この蛇口は何?」
「それは魔法専用」
「どう言うこと?」
「こっちのをひねるとお湯が出て、こっちをひねると水が出る。あと、この水栓を抜くと……」
言いながらおばあさまは、蛇口をひねった。片方からは湯気を立てた熱そうなお湯がザーっと流れ出て、別の蛇口からは水が流れ、最後に水栓を抜くと水は全部吸い込まれていった。だが、バスバブの底に穴はなく、それなのに水は消え去って、どこか一階の方で水の流れる音がした。
「素晴らしいわ! おばあさま!」
思わず拍手した。
ここまで実用的な魔法は見たことがなかった。こんなに嘘みたいに鮮やかな魔法!
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スパルタ教育?
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