【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi

文字の大きさ
上 下
3 / 62

第3話 襲撃

しおりを挟む
別にラビリアの発言のせいじゃないが、アルクマールは撤退てったいを決意した。

「これではらちがあきません。ガレンの意図いとが読めない。一度戻りましょう」

水もくれないだなんて、おかしすぎる。

「ガレンの王家では内紛が起きていると思います」

アルクマールの代表者ビスマス老侯爵が言った。短い白いヒゲが顔をおおっている老紳士である。

なかなかステキなオジ様なのではないかと……(関係ないけど)

「王妃様はリール公爵家出身で、姪のジェラルディン嬢を王太子の妻に据えたいのです。権力を保持するために」

「王妃様と言う身分があるのに? 王太子殿下の母上でしょう?」

私は尋ねたが、ビスマス侯爵は首を振った。

「殿下の母上は、三年ほど前に亡くなられました。殿下はもう成人しておられたので、たいして問題にはなりませんでしたが」

「では、あの王妃様は、殿下の実のお母様ではないの?」

「義母にあたられます。ただ、これまで、全く問題ではありませんでした。陛下がお元気で全てを取り仕切っておられましたから。ですが、こんなことになっていようとは……」

ダメじゃないの。アルクマールの情報網。実は、殿下はジェラルディン嬢にメロメロらしいわよ。

「いっそ婚儀を取りやめればよかったのに」

「そんなわけにはまいりません。ガレンの国王陛下が倒れられたのは、一月前。もう、すべてが動き出した後でございました。結婚の契約の調印も、何もかもが済んでいます。反故ほごにはできません」

うん。わかっていた。
私の結婚は政略結婚。本人の気持ちは関係ない。

ちょっと憂鬱ゆううつになった。たとえエドウィン殿下の心が、他の人にあったとしても、結婚式が挙げられるのだろう。

だが、ビスマス老侯爵は続けた。

「ですから、逆に結婚契約が履行りこうされなければ、アルクマールに戻ることもできるわけです。王太子殿下は一向に現れません。完全に契約違反です。こんな不安定で流動的な情勢のガレンの王宮にとどまることの方が危険でしょう」

私もうなずいた。戻ろう。エドウィン王太子もその方が喜ぶだろう。



「お帰りになるの。まあ、残念ですわ」

知らせを聞いたらしいジェラルディン嬢が、帰り支度で忙しいアルクマールの部屋に現れて、見えすいた嘘を言った。

笑っているのが、隠しても隠しきれていない。

「私たちの結婚式を見てお帰りになればよかったのに」

私の中で何かがプツンと切れた。

「ビスマス侯爵、早く戻りましょう」





私たちは来た時と同じく、馬車をつらねて戻っていった。

ラビリアと私は、やっとゆっくり足を伸ばした。ガレンの王宮では一瞬たりとも気を抜けなかった。

「あー、ほんと、もうバカバカしかったわ」

「王太子殿下はどこへ消えたのでしょうね?」

「私たちが帰るのを待っていたのではないかしら? ジェラルディン嬢と結婚するために」


私は婚約者がいることを、ほんのり意識していた。

この世界のどこかに私と約束している人がいる。

その人は、隣国の王子様で、それ以外はわからなくて、きっと私の理想の人だった。

「それが、あのジェラルディン嬢の恋人だったなんて……」

かなりの幻滅だった。

「とにかく早く帰りましょう」



だが、一日も行かないうちに、馬車が何者かに襲撃されたのだった。

街道で待ち伏せしていたらしい。道の行手ゆくてに何者かが立ちはだかった。

ガタンと音を立てて馬車が止まり、同時に大勢の人声、馬のいななきが混ざり合った。

「どうしたと言うのかしら?」

こんなことはありえない。おかし過ぎる。

「窓を開けてはなりません! 姫君!」

護衛の誰が大声で叫ぶのが聞こえた。まさか本気で斬り合っていませんように! 
だが、金属性の音、悲鳴が聞こえる。何人かの人声と荒れた足音が馬車に近付き、大声が響いた。

「開けてくれ! ティナ殿!」

ティナ殿?

「誰?」

何人かが争っているらしく、荒っぽい数人の叫びが外で響く。

「ダメです。扉を開けてはいけません!」

誰かが叫んだ。だが、その途端、馬車は横に倒れ、私はラビリアの下敷きになり、同時にどこかに頭をぶつけて意識を失ってしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

処理中です...