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第26話 意外な人からの手紙
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それから……私たちは皆から祝福されて、結婚式を挙げた。
遠くから噂だけを聞いた人たちの中には、伯爵家の令息が婚約を破棄されたような、しかも家格の劣る男爵家の娘なんかと結婚?と思った人もいたらしい。だが、私たちをよく知る人々は、生暖かいほほえみを浮かべて、心の底から祝福してくれた。
「えー、もう好き同志、勝手に結婚すればいいのよ」
兄のロイまで、なにかこう、お手上げみたいな顔で薄ら笑いを浮かべて言った。
「婚約破棄計画の援軍としてドリューを連れて行ったんだが、まさかこんな結果になるとは思わなかったよ」
ロザリアだけは大感激していた。
「よかったですわあ。私、最初にドリュー様とシシリー様をお見かけした時、これ、絶対まとまるって思いましたもの。私の勘って当たるんですのね!」
新居はマーガレット大伯母様の別邸のうちの一つで、美しい庭がある居心地の良い邸宅だった。
客間に面したテラスから庭園に降りていくことができて、天気のいい日はテラスでお茶が飲める。
兄のロイも、同じころに大伯母様の催した大パーティで知り合った令嬢と幸せな結婚を果たした。
実のところ、大伯母にせっかく大パーティを開いてもらったのに、ドリュー様一択だったものだから、気になっていたの。なんだか婚活パーティとしては意味がなかったみたいな気がして。大伯母はあなたのお披露目パーティなんだからいいのよと言ってくれたのだけど。
兄の縁談がまとまったことで、あの費用が無駄にならなくてほっとした。
これにて大団円となるところだったが、唯一計算違いがあった。
それは、夫のドリューが父の家業を継ぎ、兄のロイは官吏としての道を選んだことだ。
「本来なら逆じゃない?」
「だって、こっちの方が面白いんだもん」
二人は口々に言った。
ロイ兄さまは、まじめで頭が固いと言われていたが、逆にそれが王宮の事務方に評判がいいらしい。
ドリュー様の商才に関しては辣腕の父が認めたんだから問題ないのだろう。
「頭がいいし要領もいい。まあ、そんな人はいくらでもいますけど、そのほかに売れそうかどうかを見極める勘があります。でも夢中になって暴走するわけではない。まあ、商売には向いていると思いますね」
昔からいる父の片腕の老支配人がドリュー様を用心深く誉めた。この老人が褒めるのは珍しい。ちょっとびっくりした。
ドリュー様は向こう三ヶ月、隣国に商用で出かけることになっている。最初は渋っていた父だが、回りに押されてドリュー様がこの大役を担うことになった。大抜擢だ。夫は張り切っていた。
一方で私はマーガレット大伯母様の代わりに、大伯母様の持つ財産の管理の手伝いを始めた。まだまだ手伝いの域を出ないが、いろんなつながりや、契約が結ばれた経緯など勉強になることが多い。世の中のルールを学んでいる気分になった。
「うーん、お金の流れをたどると、世の中って面白いわね。よくわかるわ」
意外な発見をすることもあった。例えば昔、ドリュー様と一緒にいたあのカフェはマーガレット大伯母様の所有だった。
「あのカフェか。まあ、マーガレット夫人は知らなかったろうな。数多いテナントのうちの一つだからね」
ドリュー様も意外に思ったらしかった。
そんなに前のことではないのに、ちょっと懐かしい気さえする。そのあと、もっと楽しい時間が積み重なっていったのだけど、あの時間はまた格別。
ドリュー様との距離が少しずつ縮まっていった魔法の時間。
「閉店したらしいね。ダドリーの婚約破棄のあおりを受けて」
「どうして? 何の関係もないじゃないの?」
「息子のダドリーが、マリリンとあの店で知り合ったために、父上の侯爵が圧力をかけたらしい」
「なんですって?」
なんて嫌なヤツなんだろう。店長が最初に心配した通りの展開になってしまった。
「でも、あの店長、只者じゃなかったね。脅迫を逆手にとってマーガレット夫人にたれ込んだそうだ。マーガレット夫人は、元々あの親子を嫌悪していたからね。ダドリーがマリリンに出した手紙を侯爵に突き付けて、侯爵はやむなく息子の非礼を夫人に謝罪する羽目になった」
ドリュー様はちょっと笑ったが、さらに続けた。
「あの店長はどこかであなたを見かけたらしい。そして誰にも見破れなかったマリリンの正体を一発で見破ったそうだ」
私はビクンとなった。
マリリンを探している人たちは多かった。ダドリー侯爵家はもちろん必死になって探していたし、そのほか例の襲撃事件の四人の実行犯の親たちもマリリンの行方を追っていた。
ただの好奇心で探している人も多かったし、たとえドレスが安物だったとしても妖精のような姿に惹かれて探している人もいるらしい。
まさかダドリーの元婚約者の私に、マリリンの話題を振ってくる人はいないし、そもそも立場的にありえない。
それでもバレないか結構ドキドキしていた。
これまで、見抜いた人は一人もいない。
私もさすがに安心して警戒感が薄れてきていた時だったのに。
ドリュー様が一通の手紙を渡してくれた。
『マリリンへ』
見たことがある筆跡だった。
遠くから噂だけを聞いた人たちの中には、伯爵家の令息が婚約を破棄されたような、しかも家格の劣る男爵家の娘なんかと結婚?と思った人もいたらしい。だが、私たちをよく知る人々は、生暖かいほほえみを浮かべて、心の底から祝福してくれた。
「えー、もう好き同志、勝手に結婚すればいいのよ」
兄のロイまで、なにかこう、お手上げみたいな顔で薄ら笑いを浮かべて言った。
「婚約破棄計画の援軍としてドリューを連れて行ったんだが、まさかこんな結果になるとは思わなかったよ」
ロザリアだけは大感激していた。
「よかったですわあ。私、最初にドリュー様とシシリー様をお見かけした時、これ、絶対まとまるって思いましたもの。私の勘って当たるんですのね!」
新居はマーガレット大伯母様の別邸のうちの一つで、美しい庭がある居心地の良い邸宅だった。
客間に面したテラスから庭園に降りていくことができて、天気のいい日はテラスでお茶が飲める。
兄のロイも、同じころに大伯母様の催した大パーティで知り合った令嬢と幸せな結婚を果たした。
実のところ、大伯母にせっかく大パーティを開いてもらったのに、ドリュー様一択だったものだから、気になっていたの。なんだか婚活パーティとしては意味がなかったみたいな気がして。大伯母はあなたのお披露目パーティなんだからいいのよと言ってくれたのだけど。
兄の縁談がまとまったことで、あの費用が無駄にならなくてほっとした。
これにて大団円となるところだったが、唯一計算違いがあった。
それは、夫のドリューが父の家業を継ぎ、兄のロイは官吏としての道を選んだことだ。
「本来なら逆じゃない?」
「だって、こっちの方が面白いんだもん」
二人は口々に言った。
ロイ兄さまは、まじめで頭が固いと言われていたが、逆にそれが王宮の事務方に評判がいいらしい。
ドリュー様の商才に関しては辣腕の父が認めたんだから問題ないのだろう。
「頭がいいし要領もいい。まあ、そんな人はいくらでもいますけど、そのほかに売れそうかどうかを見極める勘があります。でも夢中になって暴走するわけではない。まあ、商売には向いていると思いますね」
昔からいる父の片腕の老支配人がドリュー様を用心深く誉めた。この老人が褒めるのは珍しい。ちょっとびっくりした。
ドリュー様は向こう三ヶ月、隣国に商用で出かけることになっている。最初は渋っていた父だが、回りに押されてドリュー様がこの大役を担うことになった。大抜擢だ。夫は張り切っていた。
一方で私はマーガレット大伯母様の代わりに、大伯母様の持つ財産の管理の手伝いを始めた。まだまだ手伝いの域を出ないが、いろんなつながりや、契約が結ばれた経緯など勉強になることが多い。世の中のルールを学んでいる気分になった。
「うーん、お金の流れをたどると、世の中って面白いわね。よくわかるわ」
意外な発見をすることもあった。例えば昔、ドリュー様と一緒にいたあのカフェはマーガレット大伯母様の所有だった。
「あのカフェか。まあ、マーガレット夫人は知らなかったろうな。数多いテナントのうちの一つだからね」
ドリュー様も意外に思ったらしかった。
そんなに前のことではないのに、ちょっと懐かしい気さえする。そのあと、もっと楽しい時間が積み重なっていったのだけど、あの時間はまた格別。
ドリュー様との距離が少しずつ縮まっていった魔法の時間。
「閉店したらしいね。ダドリーの婚約破棄のあおりを受けて」
「どうして? 何の関係もないじゃないの?」
「息子のダドリーが、マリリンとあの店で知り合ったために、父上の侯爵が圧力をかけたらしい」
「なんですって?」
なんて嫌なヤツなんだろう。店長が最初に心配した通りの展開になってしまった。
「でも、あの店長、只者じゃなかったね。脅迫を逆手にとってマーガレット夫人にたれ込んだそうだ。マーガレット夫人は、元々あの親子を嫌悪していたからね。ダドリーがマリリンに出した手紙を侯爵に突き付けて、侯爵はやむなく息子の非礼を夫人に謝罪する羽目になった」
ドリュー様はちょっと笑ったが、さらに続けた。
「あの店長はどこかであなたを見かけたらしい。そして誰にも見破れなかったマリリンの正体を一発で見破ったそうだ」
私はビクンとなった。
マリリンを探している人たちは多かった。ダドリー侯爵家はもちろん必死になって探していたし、そのほか例の襲撃事件の四人の実行犯の親たちもマリリンの行方を追っていた。
ただの好奇心で探している人も多かったし、たとえドレスが安物だったとしても妖精のような姿に惹かれて探している人もいるらしい。
まさかダドリーの元婚約者の私に、マリリンの話題を振ってくる人はいないし、そもそも立場的にありえない。
それでもバレないか結構ドキドキしていた。
これまで、見抜いた人は一人もいない。
私もさすがに安心して警戒感が薄れてきていた時だったのに。
ドリュー様が一通の手紙を渡してくれた。
『マリリンへ』
見たことがある筆跡だった。
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