【完結】目指せ! 婚約破棄~カネ目当てのクズ婚約者なんかいらない

buchi

文字の大きさ
上 下
21 / 28

第21話 学院恒例ダンスパーティ

しおりを挟む
ダンスパーティの日、ロザリアはピンクのドレスを着せてくれた。

「ダドリー様はとことんケチでございますよね」

ダドリー様とはあれっきり会っていない。マーガレット大伯母様のところへ、ダドリーは堂々と手紙をよこし、ダンスパーティ当日に会おうと言ってきたので、私はドレス代をおねだりしてみた。
が、案の定、マーガレット夫人がどうにかしてくれるだろうと言う他力本願な返事が返ってきた。

『未来の侯爵夫人にふさわしい、いいドレスを着てこい。うまいこと、マーガレット夫人をちょろまかすんだ。死ぬ前からでも構わんから、小遣いをもらってこい。あれだけの大金持ちなんだ。いくらでもあるだろう』

これを読んだ時のマーガレット大伯母様の顔が見ものだった。

サッと手紙をテーブルから取り上げ、ビリビリッと真っ二つに引き裂こうとしたが、ふと手を止めた。

「これは、ダドリー侯爵家に見せた方がいいわね。人の死をなんだと思っているのかしら」

マーガレット大伯母様は、若い頃もてはやされた美貌をゆがめて、魔女のように笑った。

「愚かの極み。人間誰しも欲望はあると思うけれど、この一家には思いやりというものが欠けているわ。生きている値打ちがないような気すらする」

「クズですわ」

ロザリアも苦々しげに言った。私は小さな声で言った。

「人って、もっとあたたかいものだと思っていたわ」

「どうして怒らないのですか? シシリー様」

「わからないわ。とてもかわいそうなものを見ている気がしてきて……」

「ダメですよ! シシリー様!」

「わかっているわよ。こんな人たちを放置することはできないわ。自分がやったことの責任を取ってもらいますわ」

私は言った。

カフェでぼんやりダドリー様の相手をしていた時と今度は違う。私には希望があるの。

「これを着るのね?」

「はい。そしてあのダドリーとご入場ください」

「そのピンクのカツラは、本当にイメージが変わるわね。眉も下げて描いてあるし、口紅と頬紅が強すぎて、本当に、もう、実物と違って下品……」

マーガレット大伯母様が見物に来ていたが、すごく嫌そうに言った。

「シシリーの魅力が全然伝わらないわ」

「ダドリーのレベルに合わせなくてはいけないので。すごく残念ですけど」

ロザリアが本気で残念そうに言った。

「しかも、安物のペラペラドレス。そんなものをシシリーが着るだなんて身震いするわ!」

「ところがお嬢様が着るとですね……」

私は、ロザリアの手によって最後の着付けでスカートを着付けられた。

「ね? 不思議なことに可憐になっちゃうのです」

大伯母様も黙り込んだ。

「……本当ね」

「さあ、急ぎましょう!」

決戦会場は、兄とドリュー様が通う学園で開催されるダンスパーティ会場。

私は、母が長く患っていたせいで、親戚の訪問すらマーガレット大伯母様のお屋敷以外行ったことがない。パーティなんか初めてだ。

兄が時々きてエスコートの手順やダンスの相手をしてくれたので、基本だけは勉強したが、ダンスパーティは雰囲気が全然違うと思う。

「卒業パーティだ。生徒は貴族がほとんどなので、社交界へのデビュー前の仕上げみたいなものだ」

兄もしっかり夜会服を着ていた。

「母が俺には婚約者を世話してくれなくて、本当に助かったよ」

「ロイ様とは別の馬車で行きます。シシリー様はこちらの馬車に」

ばれてはいけないから、ロザリアが街で調達してきたボロの貸馬車に乗るように私に言った。

「馬車は貸馬車ですけど、セバスと家の護衛が一緒に行きます」

「会場で会おう、シシリー」

兄が手を振った。

うーん。これは、気合を入れて、相当頑張らないと。この会場に私は一人だ。

「私がおりますわ、シシリー様」

ロザリアが言った。

「むかつくダドリー、コテンパンにしましょう。再起不能に」

「そ、そうね。ロザリア、頑張りましょうね」





「おお、マリリン!」

門のところで、ダドリー様に出会った。

「遅いぞ。俺より早く来い。門のところで待っていればいいんだ」

集合時間書いてませんでしたけど。兄にダンスパーティの始まる時間を聞かなきゃならなかったわ。それに門のところで待ってる令嬢なんか誰もいませんよ。普通男性がエスコートするものでしょ? 十分早く来たのに、変わらず自己中だわ。

ダドリー様が異様に大声なので、通る人達がみんな私の顔を見て行った。女性たちは、私のドレスをチラリと値踏みしていく。安物なのがすぐわかるのね。

ドレスだけでなく、私は変なお化粧なので妙に目立った。とりあえず派手。
そして下品。
本来の顔の上に絵を描いているよう。ピンクピンクした口紅は本来の唇よりも大きく描かれ、顔中がピンクに塗りたくられていた。

「これでまぶたを塗りたくって、まつ毛を強調すれば完成なんですけど、お嬢様の場合、もともとの目が大きすぎて……」

母からずっとはみっともなくてかわいそうといわれ続けてきたのだけど。

「そんなことはございません。お母さまの呪縛から逃れる時が来たんですよ。まあ、今のお化粧、本当に似合ってませんけど。変装するためなので、仕方ないです」



「おお。いいな。かわいいな。ハハハ、ピンクはいいな」

人が多いので、学内に入るまでに結構時間を食ってしまった。
それにダドリー様は地声がすごく大きいのだと言うことを私は発見した。

大勢がダドリー様を見て行く。それはそうだ。ダドリー様が連れている女性が一体誰なのか、誰にもわからない。本来なら、ダドリー様が人目もはばからず、ずっと罵っていた婚約者のシシリーのはずなのだが……

だが、カフェに出入りしていた連中は結構多くて、その連中は私の顔を知っていた。

「あれ、マリリンだろ?」

「マリリンだ。ダドリーのやつ、婚約者はどうしたんだ」

学園の生徒は確かに多いが、ダドリーは悪い意味で有名人なのだと私は確信した。
遠巻きにして様子を見ている。

「マリリン? どなたなの?」

耳が早い女性たちは好奇心に駆られて、事情を知っていそうな男子生徒に聞きに来た。

「貴族の令嬢ではない。平民だ。街のカフェで働いていた店員だよ。かわいい顔をしていたけど」

「まあ……」

彼女たちは憐れみのような侮蔑のような表情を一斉に浮かべた。

「でも、あの化粧はないわ。派手なばかりで、奥ゆかしさなんか微塵もないじゃない。平民が精いっぱい着飾りましたって感じだわ」

そりゃそう思うでしょう。

「しかも何? あの安物のドレス?」

女性同士はコソコソと噂した。

ダドリー様は私を連れてきたばかりに大注目を集めてしまった。

「裕福な男爵家の娘と持参金目当てに結婚すると聞いていたけど、違うのね?」

「連れてるあの娘、ずいぶんと下品じゃないの。その婚約者の娘はどうしたのかしら? 変わり者の大変醜い娘だとダドリー様が言いふらしていると聞いたけれど」

「やかましい。このマリリンは、マーガレット夫人の隠し子なんだ」

雷鳴のような声でダドリーはわめいた。

会場は広い学園の食堂だった。卒業を祝う会だったので、生徒だけでなく親たちも多く参加していたし、ダンスパーティでもあったからパートナーも参加していた。
大人数だったのに、不思議なことに、ダドリーの声は部屋の隅々まで届いた。

「ダドリー様、違います。マーガレット夫人の隠し子ではなくて、遺産相続人」

私は小声で注意した。このままでは、マーガレット大伯母様のさらなる激怒を買うわ。

「そうだ。遺産相続人だ。だから、俺は真実の愛を取ったんだ」

財産の多い方を選んだんですよね。でも、それを言うと一斉に反発を買うから、真実の愛を語るのか。

「俺はここに誓う。シシリー嬢との婚約は破棄して、このマリリンと結婚する」

会場はシンと静まり返った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...