19 / 28
第19話 マーガレット夫人の遺産相続人
しおりを挟む
「マリリン、お前、マーガレット夫人の夫の隠し子だったんだって?」
ダドリー様がいつになくものすごい迫力で聞いてきた。
私、そのことについて、まだ一言も言ってないのに。どこから聞いてきたのかしら?
「なぜ、そのことを?」
「うちの母の侍女があちらの侍女と知り合いでね。だが、どうして黙っていた?」
「だって、知らなかったんです。それに信じられなくて。マーガレット夫人って大富豪で有名な方ですよね? 私、全く存じ上げなくて。嘘じゃないかと思いました」
「じゃあ、噂はガセなのか?」
「わかりません。でも、もし本当なら、マーガレット夫人の全財産が私にくるって……」
「そうか。それで、あのドリューのやつが付きまとっていたのか」
独り言のようにダドリー様が言った。
「どこかの貴族の家に養女に出すとか言っていたな。経歴はそれでどうにかできる。だけど、そこまで手間をかけなくても、マーガレット夫人の縁者ならそのままでも結婚できるな」
ダドリー様の目が血走ってきたわ。怖いわ。どうしよう。このまま拉致されたらどうしよう。
「マリリン、結婚しよう」
「えっ?」
これには驚いた。なんという豹変ぶり。
「あのうー、ダドリー様には婚約者がおられるのでは?」
「そんなことにはこだわらない」
ダドリーがこだわらなくても、婚約相手はこだわるでしょう!
「私、貴族社会のことが全然わかりませんが、婚約の解消は難しいのでは? それに私みたいな女と結婚したら、ダドリー様はお困りになるのでは?」
「あとから勉強すればいいさ。マリリンはあの変な気に入らないシシリーより金持ちになれる。選択の余地なんかない」
何ですって? 正直むかつくわ。
「でも、ダドリー様には正式な婚約者がおられますわ。私、ダドリー様といつも一緒にいたいのです。そのためには本当は結婚したいのです。でも、どんなに、結婚したくても、私は正式な妻にはなれません。ダドリー様には正式な婚約者がおられますから」
棒読み。
「婚約解消なんて簡単だ」
そんなわけないだろ。あ、しまった。ヤベエ構文が出ちゃった。
「でも、侯爵家は? お父様は?」
さすがにダドリーは考え始めた。
「そうだな。父がいるな。まあ、父だって、財産目当てなんだから、マーガレット夫人の遺産がそのまま手に入るなら文句は言わないだろう」
なんかムカつくわ。親子そろってクズなのかしら。
「そんなに簡単に婚約って破棄できるんでしょうか?」
私は本気でダドリーの意見を聞いた。参考にしたいわ。
「あんなブスで性格の悪い女なんだ。誰も結婚したくないだろうよ。まあ、問題はあまりにも引きこもり過ぎて、性悪女だって誰も知らないからな。世間にぱあっとわかるようにしないと、いけないな。俺の家が非難されてはたまらん。俺の方が被害者なのに」
何かいろいろと抗議したいけど、妙に好都合に話が転がっていく。これは放置した方がいいみたい。
「どんなふうに、皆様にお知らせするのですか?」
「そうだな。引くに引けないと言えば……そうだな。もうすぐ学園主催のダンスパーティがある」
私は急に真剣になった。かかったわ!
「俺はお前をエスコートする。本来は婚約者でなければエスコートはできないんだ」
「ますます私なんかを連れて行ってはダメなのでは?」
「マリリンをエスコートすれば、マリリンが俺の婚約者だ。何もやらなくてもそうなるんだ」
ちょっと違うと思いますけど。ちょっとというか全然違うよね?
でも、ダドリー様得意そう。本気かどうかわからないけど、放っておいた方がいい。でかい自滅用の穴だなあ。
「素晴らしいですわ。さすがはダドリー様。私、侯爵夫人になれるのですね!」
嬉しそうに手をたたく。いや、冗談でも芝居でもない。嬉しい。ついに婚約破棄が見えてきた。
だが、翌日、ダドリー様は肩を落として現れた。
両親に相談したそうだ。
なんでそんな馬鹿な真似を。黙って一人で暴走しておけばいいものを。
「マリリンと結婚するのは賛成だと言われた。だが、どうせなら、シシリー嬢の有責で婚約破棄を勝ち取れと言われた」
「はい?」
「そうすれば、二重取りできると。シシリーの家から慰謝料が取れるからって」
とことんクズ一家だわ。
「シシリー嬢のゆうせきって何ですか?」
シシリー嬢が何したって言うのよッ。
「なんでもいいから、犯罪級の悪いところを見つけろと」
「犯罪級?」
「窃盗とか、殺人とか、不倫とか」
ギクリ。
ドリュー様と会ったり、想ったりすることって、不倫なのでは?
「不倫なら、作ればいいと思わないか?」
「どうやってですか?」
「襲わせればいいと思う」
「誰に誰を?」
「シシリーとか言う二目とみられぬブス女を、どっかの町のゴロツキにでも」
安直! しかも鬼畜!
「でも、シシリー様はお金持ちの男爵家の令嬢で、家から出ないのでは?」
「俺がデートに誘えばいいさ。簡単だ。この前デートに誘われたんだが、すっぽかしてやった。次はぜひって、哀願の手紙が来た」
読解力ゼロか。あれのどこが哀願の手紙なのよ。全文、陰湿な抗議と威喝だったはず。それから書いたのは執事のセバスになっている。セバスとデートするつもりなの? 最後の署名くらい読んだらどうなの?
私は頭痛がするからという理由でカフェ勤務を早退することにした。
「おお。大事にしろよ。まあ、隠し子がわかってよかったな」
大声で言うな。それだけ聞いたら、私に隠し子がいるみたいだわ。だが、私は外へ出ようとした途端、遅れてやってきたドリュー様に突き当たった。
「ドリュー様……」
良識と常識に巡り合ったような気がした。地獄で仏とはこのことかしら?
「マリリン! 帰るところか? 送っていこう」
カフェのいつもの席でふんぞり返っていたダドリーが急に立ち上がろうとして後ろにひっくり返った。
「ドリュー! 俺の女に手を出すな!」
あわてて起き上がり、走ってドアのところに行こうとしたが、ドリュー様はダドリーがドアに近づいた頃合いを見計らって力いっぱいドアを閉めた。
「痛い!」
どこを打ったのだろう。ダドリー様が派手な音を立てて、倒れたらしい音がした。店内では悲鳴が響いた。
「いいのですか?」
さすがに暴力行為と言われそうだけど。
「あれは偶然さ」
だが、ドリュー様は怒りで灰色の顔色になっていた。
「自分の婚約者を街のごろつきに襲わせようだなんて。婚約者でなくても、人を傷つけることを計画するだなんて。あいつはクズだ」
私はこっそりドリュー様の手を握った。あのダドリーとその一家は異常だ。私たちはどうしたらいいんだろう。
ダドリー様がいつになくものすごい迫力で聞いてきた。
私、そのことについて、まだ一言も言ってないのに。どこから聞いてきたのかしら?
「なぜ、そのことを?」
「うちの母の侍女があちらの侍女と知り合いでね。だが、どうして黙っていた?」
「だって、知らなかったんです。それに信じられなくて。マーガレット夫人って大富豪で有名な方ですよね? 私、全く存じ上げなくて。嘘じゃないかと思いました」
「じゃあ、噂はガセなのか?」
「わかりません。でも、もし本当なら、マーガレット夫人の全財産が私にくるって……」
「そうか。それで、あのドリューのやつが付きまとっていたのか」
独り言のようにダドリー様が言った。
「どこかの貴族の家に養女に出すとか言っていたな。経歴はそれでどうにかできる。だけど、そこまで手間をかけなくても、マーガレット夫人の縁者ならそのままでも結婚できるな」
ダドリー様の目が血走ってきたわ。怖いわ。どうしよう。このまま拉致されたらどうしよう。
「マリリン、結婚しよう」
「えっ?」
これには驚いた。なんという豹変ぶり。
「あのうー、ダドリー様には婚約者がおられるのでは?」
「そんなことにはこだわらない」
ダドリーがこだわらなくても、婚約相手はこだわるでしょう!
「私、貴族社会のことが全然わかりませんが、婚約の解消は難しいのでは? それに私みたいな女と結婚したら、ダドリー様はお困りになるのでは?」
「あとから勉強すればいいさ。マリリンはあの変な気に入らないシシリーより金持ちになれる。選択の余地なんかない」
何ですって? 正直むかつくわ。
「でも、ダドリー様には正式な婚約者がおられますわ。私、ダドリー様といつも一緒にいたいのです。そのためには本当は結婚したいのです。でも、どんなに、結婚したくても、私は正式な妻にはなれません。ダドリー様には正式な婚約者がおられますから」
棒読み。
「婚約解消なんて簡単だ」
そんなわけないだろ。あ、しまった。ヤベエ構文が出ちゃった。
「でも、侯爵家は? お父様は?」
さすがにダドリーは考え始めた。
「そうだな。父がいるな。まあ、父だって、財産目当てなんだから、マーガレット夫人の遺産がそのまま手に入るなら文句は言わないだろう」
なんかムカつくわ。親子そろってクズなのかしら。
「そんなに簡単に婚約って破棄できるんでしょうか?」
私は本気でダドリーの意見を聞いた。参考にしたいわ。
「あんなブスで性格の悪い女なんだ。誰も結婚したくないだろうよ。まあ、問題はあまりにも引きこもり過ぎて、性悪女だって誰も知らないからな。世間にぱあっとわかるようにしないと、いけないな。俺の家が非難されてはたまらん。俺の方が被害者なのに」
何かいろいろと抗議したいけど、妙に好都合に話が転がっていく。これは放置した方がいいみたい。
「どんなふうに、皆様にお知らせするのですか?」
「そうだな。引くに引けないと言えば……そうだな。もうすぐ学園主催のダンスパーティがある」
私は急に真剣になった。かかったわ!
「俺はお前をエスコートする。本来は婚約者でなければエスコートはできないんだ」
「ますます私なんかを連れて行ってはダメなのでは?」
「マリリンをエスコートすれば、マリリンが俺の婚約者だ。何もやらなくてもそうなるんだ」
ちょっと違うと思いますけど。ちょっとというか全然違うよね?
でも、ダドリー様得意そう。本気かどうかわからないけど、放っておいた方がいい。でかい自滅用の穴だなあ。
「素晴らしいですわ。さすがはダドリー様。私、侯爵夫人になれるのですね!」
嬉しそうに手をたたく。いや、冗談でも芝居でもない。嬉しい。ついに婚約破棄が見えてきた。
だが、翌日、ダドリー様は肩を落として現れた。
両親に相談したそうだ。
なんでそんな馬鹿な真似を。黙って一人で暴走しておけばいいものを。
「マリリンと結婚するのは賛成だと言われた。だが、どうせなら、シシリー嬢の有責で婚約破棄を勝ち取れと言われた」
「はい?」
「そうすれば、二重取りできると。シシリーの家から慰謝料が取れるからって」
とことんクズ一家だわ。
「シシリー嬢のゆうせきって何ですか?」
シシリー嬢が何したって言うのよッ。
「なんでもいいから、犯罪級の悪いところを見つけろと」
「犯罪級?」
「窃盗とか、殺人とか、不倫とか」
ギクリ。
ドリュー様と会ったり、想ったりすることって、不倫なのでは?
「不倫なら、作ればいいと思わないか?」
「どうやってですか?」
「襲わせればいいと思う」
「誰に誰を?」
「シシリーとか言う二目とみられぬブス女を、どっかの町のゴロツキにでも」
安直! しかも鬼畜!
「でも、シシリー様はお金持ちの男爵家の令嬢で、家から出ないのでは?」
「俺がデートに誘えばいいさ。簡単だ。この前デートに誘われたんだが、すっぽかしてやった。次はぜひって、哀願の手紙が来た」
読解力ゼロか。あれのどこが哀願の手紙なのよ。全文、陰湿な抗議と威喝だったはず。それから書いたのは執事のセバスになっている。セバスとデートするつもりなの? 最後の署名くらい読んだらどうなの?
私は頭痛がするからという理由でカフェ勤務を早退することにした。
「おお。大事にしろよ。まあ、隠し子がわかってよかったな」
大声で言うな。それだけ聞いたら、私に隠し子がいるみたいだわ。だが、私は外へ出ようとした途端、遅れてやってきたドリュー様に突き当たった。
「ドリュー様……」
良識と常識に巡り合ったような気がした。地獄で仏とはこのことかしら?
「マリリン! 帰るところか? 送っていこう」
カフェのいつもの席でふんぞり返っていたダドリーが急に立ち上がろうとして後ろにひっくり返った。
「ドリュー! 俺の女に手を出すな!」
あわてて起き上がり、走ってドアのところに行こうとしたが、ドリュー様はダドリーがドアに近づいた頃合いを見計らって力いっぱいドアを閉めた。
「痛い!」
どこを打ったのだろう。ダドリー様が派手な音を立てて、倒れたらしい音がした。店内では悲鳴が響いた。
「いいのですか?」
さすがに暴力行為と言われそうだけど。
「あれは偶然さ」
だが、ドリュー様は怒りで灰色の顔色になっていた。
「自分の婚約者を街のごろつきに襲わせようだなんて。婚約者でなくても、人を傷つけることを計画するだなんて。あいつはクズだ」
私はこっそりドリュー様の手を握った。あのダドリーとその一家は異常だ。私たちはどうしたらいいんだろう。
157
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
私の初恋の男性が、婚約者に今にも捨てられてしまいそうです
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【私の好きな人が婚約者に捨てられそうなので全力で阻止させて頂きます】
入学式で困っている私を助けてくれた学生に恋をしてしまった私。けれど彼には子供の頃から決められていた婚約者がいる人だった。彼は婚約者の事を一途に思っているのに、相手の女性は別の男性に恋している。好きな人が婚約者に捨てられそうなので、全力で阻止する事を心に決めたー。
※ 他サイトでも投稿中
完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?
せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。
※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる