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第18話 付きまとい
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翌日、いつものようにダドリー様はカフェ、プチ・アンジェのドアを開けてマリリンを呼べと命令したが、先客がおられますと断られた。
「なんだと? そんな奴、追っ払ってしまえ。俺は侯爵家の御曹司だぞ」
「でも……あちらも伯爵家の御曹司でして……」
「貴族階級の仕組みがわからん下層民には苦労させられるな。侯爵家の方がえらいんだ。俺の名前を言ってやれ」
その時、ドリュー様は私の両手を握って、じっと目を見つめていた。
めちゃくちゃに恥ずかしい。
私はドリュー様のことが好きだ。本当は大好きだ。透んだ茶色の目に見つめられると、他のことを全部忘れてしまいそうになる。
握られた手を握り返したくなる。
「どうしてそんなに冷たいの? 俺のこと嫌い? 責任取ってくれるって言ったじゃない」
「何やってんだ、ドリューの野郎」
ダドリーはあきれ返って、つかつかと近づいてきた。
「婚約者がいるとか言っていたじゃないか。婚約者に嫌われたらどうするんだ」
「どの口が言うか。お前こそ、婚約者にばれたら持参金が飛ぶぞ?」
ダドリー様はさすがに驚いたらしかった。
これまで、ドリュー様は婚約者の話になっても、こうまではっきりダドリー様を非難しなかったのだ。
「お前の婚約者はどうなんだ、え? ドリュー」
「俺は真実の愛を貫くことにしたんだ。本当に好きな女性に好きだと言うことにしたんだ」
ドリュー様は私を見つめた。
これ嘘。
ダドリー様をだまし切るための考え抜かれた嘘。
なのに、ドリュー様の名演技は空気を溶かし二人だけの世界を作り上げてしまい、私は巻き込まれて、真っ赤になって彼の目から目が離せなくなってしまう。
しかも、私のこの態度は求められている演技だと言うことになっている。いくらでもやっていいの。理性が飛びそう。
「目を伏せないで。あなたの目を見つめていたい。できないと言うなら、あなたの愛を疑いたくなる」
「あーほーかーッ」
急にダドリー様が割り込んできた。
「何やってる。この女はここのカフェの店員で平民なんだぞ?」
「そんなことは構わない。マリリンを正式な妻として迎え入れたい」
「え?」
「「「「「え?」」」」」
成り行きをあきれ返って見物していたカフェ女子たちも、店長も、さすがに仰天した。ついでにムカムカしながらも、なんとなく見物していたほかのお客様もだ。
「どういうことだ? この前まで愛人にしたいと言ってたじゃないか。それに婚約っしたい人がいるとも言っていただろ?」
「実は、婚約したい人というのがこのマリリンなんだ」
「え?」
ダドリー様はたまげたらしかった。
「平民を?」
「だけど、それにはいろいろ手続きがいる。どこかの貴族の家の養女にするとか手順を踏まなきゃいけない」
「はい?」
「それまでの間、変な男に憑りつかれでもしたらいけないので、愛人契約を結ぼうとしたのだ」
きれいにツジツマ合いました。すごいわ。さすが文官、理屈の構築には舌を巻いてしまうわ。
「何の利益があって?」
マネー第一主義者ダドリーは、この愛の告白についていけなかったらしい。ドリュー様に聞いた。
「言ったろう。真実の愛だ。それがすべてだ。愛してるよ、マリリン。必ずあなたを守る」
あまりにも真に迫った名演技に私はクラクラした。だが、真実の愛という嘘くさい言葉が私をスッと冷静に引き戻した。
「ずっと一緒にいたいけど、仕事があるから。それじゃマリリン、俺の言ったことを忘れないで」
ドリュー様は名残惜し気に席を立った。
ダドリー様はことの意外性に驚き過ぎて、空いた席に座ることも忘れてドリュー様の後姿を見送った。
「あいつ、狂ったんじゃないかな?」
だが、翌日、ダドリー様はすごい剣幕でやってきた。
「なんだと? そんな奴、追っ払ってしまえ。俺は侯爵家の御曹司だぞ」
「でも……あちらも伯爵家の御曹司でして……」
「貴族階級の仕組みがわからん下層民には苦労させられるな。侯爵家の方がえらいんだ。俺の名前を言ってやれ」
その時、ドリュー様は私の両手を握って、じっと目を見つめていた。
めちゃくちゃに恥ずかしい。
私はドリュー様のことが好きだ。本当は大好きだ。透んだ茶色の目に見つめられると、他のことを全部忘れてしまいそうになる。
握られた手を握り返したくなる。
「どうしてそんなに冷たいの? 俺のこと嫌い? 責任取ってくれるって言ったじゃない」
「何やってんだ、ドリューの野郎」
ダドリーはあきれ返って、つかつかと近づいてきた。
「婚約者がいるとか言っていたじゃないか。婚約者に嫌われたらどうするんだ」
「どの口が言うか。お前こそ、婚約者にばれたら持参金が飛ぶぞ?」
ダドリー様はさすがに驚いたらしかった。
これまで、ドリュー様は婚約者の話になっても、こうまではっきりダドリー様を非難しなかったのだ。
「お前の婚約者はどうなんだ、え? ドリュー」
「俺は真実の愛を貫くことにしたんだ。本当に好きな女性に好きだと言うことにしたんだ」
ドリュー様は私を見つめた。
これ嘘。
ダドリー様をだまし切るための考え抜かれた嘘。
なのに、ドリュー様の名演技は空気を溶かし二人だけの世界を作り上げてしまい、私は巻き込まれて、真っ赤になって彼の目から目が離せなくなってしまう。
しかも、私のこの態度は求められている演技だと言うことになっている。いくらでもやっていいの。理性が飛びそう。
「目を伏せないで。あなたの目を見つめていたい。できないと言うなら、あなたの愛を疑いたくなる」
「あーほーかーッ」
急にダドリー様が割り込んできた。
「何やってる。この女はここのカフェの店員で平民なんだぞ?」
「そんなことは構わない。マリリンを正式な妻として迎え入れたい」
「え?」
「「「「「え?」」」」」
成り行きをあきれ返って見物していたカフェ女子たちも、店長も、さすがに仰天した。ついでにムカムカしながらも、なんとなく見物していたほかのお客様もだ。
「どういうことだ? この前まで愛人にしたいと言ってたじゃないか。それに婚約っしたい人がいるとも言っていただろ?」
「実は、婚約したい人というのがこのマリリンなんだ」
「え?」
ダドリー様はたまげたらしかった。
「平民を?」
「だけど、それにはいろいろ手続きがいる。どこかの貴族の家の養女にするとか手順を踏まなきゃいけない」
「はい?」
「それまでの間、変な男に憑りつかれでもしたらいけないので、愛人契約を結ぼうとしたのだ」
きれいにツジツマ合いました。すごいわ。さすが文官、理屈の構築には舌を巻いてしまうわ。
「何の利益があって?」
マネー第一主義者ダドリーは、この愛の告白についていけなかったらしい。ドリュー様に聞いた。
「言ったろう。真実の愛だ。それがすべてだ。愛してるよ、マリリン。必ずあなたを守る」
あまりにも真に迫った名演技に私はクラクラした。だが、真実の愛という嘘くさい言葉が私をスッと冷静に引き戻した。
「ずっと一緒にいたいけど、仕事があるから。それじゃマリリン、俺の言ったことを忘れないで」
ドリュー様は名残惜し気に席を立った。
ダドリー様はことの意外性に驚き過ぎて、空いた席に座ることも忘れてドリュー様の後姿を見送った。
「あいつ、狂ったんじゃないかな?」
だが、翌日、ダドリー様はすごい剣幕でやってきた。
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