【完結】目指せ! 婚約破棄~カネ目当てのクズ婚約者なんかいらない

buchi

文字の大きさ
上 下
17 / 28

第17話 マリリン、遺産相続人になる?

しおりを挟む
怒涛の愛の告白に、私はくらくらした。

給仕が丁重に席に案内していくれて、初めてここがモスコーという名前の有名レストランであることに気が付いた。

この店では、ドレスコードがギリギリだ。
カジュアルという位置づけになっているけど、おいしいと評判で、金持ちしか来ない。つまり貴族とか。
私は周りに目をやろうとしたけれど、ドリュー様の一言が衝撃的で、他のことは忘れてしまった。

「この後、マルダルトン宝石店に行く。指輪を買おう」

「私には婚約者が……」

「そのセリフは聞き飽きた。それにあなたの婚約者は、あなたをないがしろにし続けた。会おうともしない。それだけでも婚約解消の理由としては十分だ」

「侯爵家のことを忘れていますわ」

私は言った。

「息子がデートをすっぽかしたことがわかったら、平謝りに来ると思います。ダドリーも親に連れられてやってきて、謝罪して婚約続行を希望するでしょう。家同士としては、私はあのダドリー様と意味のないデートをして、関係修復のふりをして、そして結婚しないといけなくなると思います」

そんなに甘い話ではない。ないがしろにしているだけでは契約は無効にならない。多額の持参金がかかってるのだ。

しばらくドリュー様は苦り切って黙っていたが、やがて言った。

「マルダルトン宝石店の代わりに、別の場所に行こう。一つ考えがある」

「ど、どこへ?」

「マーガレット夫人のところだ」

「え? 招かれてもいないのに?」

「まあ、だって僕はマーガレット夫人の三番目の夫の妹の子どもなんだ」

「えええええ?」

私はマジで驚いた。あら、いけない。ヤベエ構文が出てしまったわ。

「ダドリー様と一緒……」

「彼は二人目の夫の妹の子だって言ってたね」

彼は苦笑いした。

「ヤツと遠い縁戚だと思うと寒気がする」

「私なんか、妻予定ですわ」

「それが困る。あなたはダドリーにマーガレット夫人から遺産がもらえるかも知れないって嘘を教えたんだよね?」

「ええ」

私は不安になってきた。

「勝手に噂を流して、大伯母様から叱られないかしら?」

「ただの噂さ。でも、あなたはマーガレット夫人にかわいがられているんだよね? ロイが言っていた」

「ええ。とてもかわいがってくださってますわ。大伯母様は母のことを非常識だと考えてらっしゃって、私のことを何とか助けようとしてくれました」

「その延長線だよ。あなたのお母様のせいであなたが陥った窮地からあなたを救うんだ。あのダドリーとの婚約なんか、大伯母様は賛成じゃなかったんだろ?」

「ええ。とても怒ってらっしゃいました」

「マーガレット夫人に二週間だけ我慢して欲しいんだ。真っ向からマーガレット夫人本人がこの噂を否定したら、全部だめになるから」

「大伯母様、なんでおっしゃるかしら?」

「シシリーのことをかわいがってくださっているなら、短い期間の、とても信じがたい噂だ。黙認してくださると思う」

私は悩んだけど、腹を決めた。

ダドリー様と絶対に結婚したくない。

先のことはわからない。ドリュー様に何か一言言われると、私は大混乱に陥ってしまうのだけど、とにかく一つずつ前に進まなくては。

食事はしたけど、味がわからなかった。ドリュー様の顔を見ているだけで、胸がいっぱいになった。
彼は私のことを真剣に考えてくれているのだわ。

だが、帰り際に私は別な不安でいっぱいになった。
店内に、顔見知りはいなかった。でも、私自身はほとんど外に出ない暮らしをしていたから知っている人自体が少ない。でも、ドリュー様はどうなのかしら?
だって、見ないようにして、店内の客ほぼ全員が私たちを見ていた。
もっと庶民的な、ドリュー様のお知り合いが少なそうなお店を選んでくれればよかったのに。


私たちはマーガレット夫人の屋敷に出向いて、当たって砕けろで訪問をお願いした。

「お留守かもしれないわ」

だが、運よく大伯母様は在宅していて、私たちの話を聞いてくれた。しかし、(当然)大目玉をくらった。

「シシリー、遺言状の話を持ち出すなんて、私を殺す気なの?」

突然の訪問にもかかわらず、大伯母はセンスのいいドレス姿で堂々としていた。

「とんでもない!」

「遺言状の話なんて、よくもまあ本人に向かってするわね」

「申し訳ない!」

「マーガレット夫人、彼女をそそのかしたのは俺なんです! シシリーを責めないでください」

「そりゃあなたでしょうよ。シシリーがそんなこと思いつくはずがないですからね。遺産だのなんだのって。人の死をあてにするなんて、どんな人間なの?」

ああ。でも、想定の範囲内。

「真偽もはっきりしない噂を流したいだけなんです。多分、気が大きくなって、婚約破棄に回るんじゃないかと」

「甘いわね!」

マーガレット大伯母様に一喝された。

「ダドリーが二重取りできると踏んで喜ぶだけでしょう、そんな噂」

やっぱりそうかー。

「あんな人間は、満足や身の程ってものを知らないのですよ。人間のクズです」

大伯母様、的確過ぎ。

「そんな噂流すくらいなら、もっとマシな別な噂を流しなさい」

「は?」

「私が全財産を夫の隠し子のマリリンに渡すと言う噂を流すのよ!」

ドリュー様と私は、百戦錬磨の大伯母の顔を、目を限界まで見開き、口を開けたまま見つめた。


「いいこと? あのダドリーは本気でカネ次第の男。遺産と結婚は矛盾しないけど、もし、マリリンが巨額の遺産を相続することになったら、結婚相手はシシリーかマリリンかどっちかを選ばないといけなくなるのよ。わかる? シシリー」

大伯母は私を指した。

「あなたのお家と私の財産、どっちが多いか知ってる?」

「ええと。知りません。あ、でも、大伯母様の方が財産家ですわ!」

「違います。実はあなたの実家です」

大伯母様は言った。

「でも、大伯母様のこのお屋敷だけでもウチの資産を超えますし、それから、大通りにお持ちのアパルトマンの貸し出し料だけでも相当な収入のはずですわ」

私はおずおずと言った。

「違うのよ。あなたのお父様はご商売をしてらっしゃる。動くお金は強いの。どんどん増えて行くわ。でも、ダドリーにそんな知恵はない」

「絶対にありませんね」

ドリュー様がほんのり笑って同意した。
さすが王家の文官試験合格者!

大伯母様は大きくうなずいた。

「だから、ダドリーは絶対にマリリンを選ぶわ」

「でも、ただの噂です。簡単に信じるかどうか」

「今日からあなたがここに住めばいいのよ」

大伯母様は唐突に命じた。

「えっ?」

「噂のマリリンが、突然、この屋敷に引き取られたら、みんな、なんて思うかしら?」

大伯母様はニヤリと笑った。黒絹の贅沢な衣装と同じレースを使った扇子で口元を隠していたが、ニヤリ笑いはニヤリ笑いだ。

絶対、絶対、遺産相続人がマリリンなのだと誰も信じるだろう。

それは社交界全体に激震をもたらすのでは?

大伯母様は声高らかに笑った。面白くて仕方ないと言った様子で。

「大丈夫よ。確かに当家にマリリンという名前の女中はその時期に入ってきたけど、隠し子でも何でもないと、私があとから否定するだけよ。マリリンなんて名前の娘、いくらでもいるわ」

大伯母様はケロリとしていた。

「でも、そんな噂、流すの、少し怖いですわ……?」
マリリンがマーガレット大伯母様の家に引き取られただなんて噂が流れたら、それは噂ではなくなってしまう。もはや確定事項になるわ。

大伯母様はキッとなった。

「ダドリーに遺産が渡るなんて言う噂よりはるかにマシよ。あんなクズ男に誰が好き好んで遺産を残すのよ。こっちの噂の方が、それよりはるかに効果的な噂よ。だって、正式な妻はたった一人なのよ? マリリンと結婚したかったら、シシリーと婚約破棄しないわけにはいかないわ」

目からウロコとはこのことだ。

確かに! 確かに、大伯母様の提案は他のどんなプランより強力で確実だわ!

「そのままカフェにも行って、マリリンが遺産相続人になった噂をダドリーの耳に入れて。それと……ちょうどいいわ、ドリュー」

伯爵家の御曹司を呼び捨て?

「あなたは対抗馬。マリリンの機嫌を取って付き纏いなさい。お前には邪魔な婚約者がいるじゃないかって焚き付けて」

「わかりました!」

ドリュー様が目を光らせて、膝をついて、大伯母様に礼をした。

「いいこと? あなたがマリリンに付きまとえば付きまとうほど、ダドリーは噂を信じるわ」

「お任せください。大得意です」

マーガレット大伯母様はニヤリとした。

「いいこと? どんな嘘くさい噂でもみんなが信じれば事実になる。勝ち誇ったダドリーに派手に婚約破棄をさせましょう」







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

処理中です...