【完結】目指せ! 婚約破棄~カネ目当てのクズ婚約者なんかいらない

buchi

文字の大きさ
上 下
13 / 28

第13話 愛人とは?

しおりを挟む
もちろんドリュー様からの愛人申し込みの話をダドリー様にしなくてはいけない。
ぜひとも、嫉妬してもらわないといけないからだ。

ダドリー様から嫉妬される……

「ゲ……嫌だ……」

でも、とにかく! とにかく、嫌なことでも、やらなくちゃ!

次の日、私は店に来たダドリー様にその話をした。

「え? ドリューのやつ、婚約者がいるのに愛人になれって言ったの?」

たちまちダドリー様は険悪な表情になった。

「知っているか? あいつ、俺に向かって婚約が進みかけているって言ったんだぞ? なんていい加減な奴なんだ」

その点に関しては、ダドリー様も同じだと思いますが……。

「いえ、そんな。愛人だなんてそんなお話じゃありません。そのうち家を準備するから、そちらに住んではどうかって言われただけです」

「家……」

ダドリー様の目が怖い。これまでこんなに怖い顔をされたことがなかった。

「裏切る気かッ」

「あらまあ、待って待って!」

割り込んできたのはロザリアだ。
私は学園が終わる時間に、毎日ここへ出勤する。ターゲットのダドリーと会わないといけないからだ。
一方、ロザリアは、カフェの店員になったものの毎日は来ない。私の侍女の仕事もあるからだ。でも、今日はダドリー様に向かって愛人宣言をする重要な日で、ダドリー様がどんな反応をするかわからないので、一緒に来てくれていた。

「どうしちゃったんですかあ、ダドリー様ぁ」

ロザリアが甘ったるい調子で聞いた。

「何かマリリン様が悪いことでもしたんですかぁ?」

「うっ、この女、ドリューからの愛人申し込みも受け付けやがったんだ」

「え? マリリン、ドリュー様からですか?」

関係ないほかのカフェ女子たちまで聞き耳を立てた。

「まさか二人の愛人になるつもりか。二股かけようとは、愛人の風上にも置けない!」

「えええ? そうすると、まさかダドリー様も愛人申し込みをされたんですかぁ?」

ロザリアが甘ったるい調子で、暴露する。カフェ女子たちも事態の深刻さに全員がこちらを向いた。お客様もだ。

ちょっと私は虚無感に襲われた。

愛人申し込みって何? そして愛人に貞操観念は求められるのか? 

結婚申し込みや婚約申し込みならまだしも、愛人申し込み……

「わー、マリリン、おめでとう! ドリュー様の愛人なら申し分ないわ」

「愛人でも大事にしてくださりそう!」

「もう、これで安泰ね」

カフェ女子は、先だってエリー様がドリュー様に迫って玉砕した様を見ていた。

そして、あれ(ドリュー様のことだ)はダメだと結論が出たらしい。つまり、カフェ女子に甘い顔をしてデレデレするような玉じゃないと。
その結果、私はダドリー様のほか、ドリュー様についても世話係に任命されてしまったのだ。

「俺の話を聞けー!」

ダドリー様が大声で怒鳴った。カフェ、プチ・アンジェは、店員もその場にいた客も全員がピタリと黙り、ダドリー様の言葉を待った。

「お、俺が先に愛人になれと言ったんだ」

ほお……というような声が店内に満ちた。
愛人先着順制度?

「だから俺の愛人だ」

それはどうかな?と誰かが言ったらしい。ダドリーが真っ赤になった。

「ダドリー様の愛人になると、どんな待遇なんですか?」

ロザリアが冷静に聞いた。
確かに。そこが最重要ポイントだわ。
ダドリー様は考えていなかったらしい。言葉に詰まったが、みんなが聞いているので、返事をせざるを得ない。

「俺が呼べば来るんだ。それだけだ」

「あの、お手当とかは?」

「そんなものあるわけないだろう。俺のそばに仕えるだけで幸せだ。俺は侯爵だぞ!」

「住まいを保証してくださるとか?」

ダドリーは何か思いついたらしかった。

「ちょうど、妻がいる。その世話をしてくれたら妻と一緒に住んでいいぞ。一等地に建つお屋敷に住めるぞ」

その言葉を聞いた途端、店員も客もざわざわと元の会話や仕事に戻りだした。

「普通の侍女の方がよっぽどマシだな」

「まあ、田舎の領地の農奴の娘なら、それで喜ぶかもしれないけど、ひと月も王都で過ごせば逃げ出すかな」

「ほかに、もっとマシな勤め口がたくさんありそうだ」

「よくその妻とやらが辛抱すると思っているなあ」

ダドリーは真っ赤になっていた。非難されるとは思っていなかったらしい。
うらやましがられるとか、希望者が殺到するとか考えていたのだろうか?

「おい、マリリン。お前は違うよな。喜んで俺に従うだろ?」

「いえ。愛人職はちょっと。このままここで働き続けた方が……」

「なんだと? ずっと俺と一緒にいられるぞ? それこそ夜もだぞ?」

なんだと、このどスケベ野郎!

私は首を振った。

「実は病気の母がいまして」

亡くなったけど。

「俺の妻が看病してくれる。とんでもないブスだが、気は優しい」

うちの母の手紙のどこにそんなことが書いてあった?

「動かせない容体なのです」

現在はお墓の中にいる。

「ドリューも家を準備するって言ったんだろう? 同じじゃないか」

「待ってくださるそうですわ。それに侍女を一人付けてくださるって」

「………………」

その日から、ダドリーのお悩みが変わっていった。

「マリリン、侍女が欲しいのか」

返事に困る。

「妻を侍女に使え」

「婚約者様に確認されてはいかがでしょうか?」

「愛人の存在をか! 断られるに決まってるわ」

「結局無理なのでは?」

「そこをどうにかするのが愛人の役目じゃないか」

文章として成り立ってはいますが、文意が通りません。

急にダドリーはテーブルをどんと叩いた。私を含めた周り中が恐れおののいた。

「カネだ!」

ダドリーは叫んだ。

「カネさえあれば!」

働かない癖に何を言っている。

伯爵位と領地を継ぐドリュー様も、いずれ家業を継ぐ兄も、一応王城で文官として働く予定だ。学園で友人を増やし、文官として働いて国の仕組みや働き方を学ぶ予定だ。
二人がせっせと勉強したり、試験を受けている間、ダドリーはこのカフェでダラダラしていただけだった。結婚することによって、大金を得られると信じて。

これでは、本当に私が危ない!

「働くのは嫌だ!」

ダメだ。なまけ癖が骨の髄までし沁み通っている。

「ダドリー様」

私はスッと立ち上がった。

「いい方法がありますわ。働かないで、お金が入ってくる方法。ダドリー様にぴったりですわ」



私たちは初めてカフェの外に出た。

後ろからはロザリアとうちの兄が見えないようについてきている。

「あれがウチの屋敷だが、それがどうした」

思っていた屋敷だった。立派だが、手入れが行き届いていなかった。立地だけは最高だ。

「あれを貸せば、いくら手に入ると思っていらっしゃいますの?」

ダドリーは顔をゆがませた。

「そんなことはできない、いったい誰が借りてくれると……」

「ダドリー様」

私はもう一度言った。

「婚約者様とご結婚されるのは、もうお決まりですのよね?」

「そうだ。当たり前じゃないか」

「それなら、頼めばいいじゃありませんか。そういう不動産の業者を手配してくれって」

「ふどうさんの業者って何?」

なぜ、引きこもりの私が知っているのに、侯爵(予定)のダドリーが知らないんだ!

「全部代わりに手配してくれる人間のことですわ。ダドリー様がわからなくても、婚約者様のおうちは大商人らしいですから、絶対知っています。それに、ダドリー様が儲ければ婚約者様の手元におカネが渡るのでしょう? 喜んで、出来るだけ儲かるように工夫してくださいますわ。ほら」

私はダドリーの侯爵邸の向かいの建物を指した。ピカピカに磨き立てられ、きれいなレストランや店がいくつも入っていた。

「あちらは王弟殿下の所有ですのよ。年間で大金貨一万枚が何もしなくても手に入るそうです」

「本当か? そりゃ、すごい!」

「ご存じのように王弟殿下は何もなさっていませんわ。釣りと狩猟が趣味でシーズン中は走り回っていらっしゃいます」

王弟殿下は遊び人で有名だ。

「ダドリー様のお屋敷の方が大きいのですから、きっともっとお金になると思いますわ。早くすればするほど、早くお金が入りますわ」

「よし! いいことを聞いた。金の為なら何でもするぞ!」

私は後ろを振り返った。兄が大きくうなずいている。私は兄にこっそりOKサインを出してダドリー様に向かって言った。

「ダドリー様。お金問題さえ解決すれば、きっと私にもドリュー様よりたくさんドレスを買ってくださいますわよね?」

「もちろんだ! ドリューなんかただの文官だ。大金貨一万枚なんか絶対無理だ」

私はうなずいた。

「ダドリー様の成功を心からお祈りしておりますわ」




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

処理中です...