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第8話 金儲けのススメ
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その後、私はカフェ、プチ・アンジェで熱心なピンクブロンドファン三人に取り囲まれる名物店員になった。
ちなみに三人目は言わずと知れた兄である。
この三人目はものすごくだるそうに現れ、短時間で消え去る。あからさまに気がない。
当たり前だ。兄だもの。
「なんでお前を見張ってなきゃいけないのか」
「財産」
兄はうなだれる。
目的を忘れたのか。三人のうちで、最も明確で切実な来店理由があるのは兄のはずだ。
「だけどな、俺は顔をダドリーに知られている。そんなに強くは出られないし、芝居は下手で、ついうっかり妹だって言ってしまいそうで……」
「ダメじゃん、ヘタレ」
私は言った。この間からロザリアからヤベエ構文を習っているのである。
兄は目を見張った。
「だって。今までの貴族構文だと、ここのカフェの店員の中で浮くんだもん。それにあの熟女店長にばれそうでさ」
構文て何? と兄はつぶやいた後、注意した。注意しないではいられなかったらしい。
「あの、それ、社交界に出たらやめてよね?」
「モチ」
私は簡潔に答えた。ヤベエ構文はショートで楽ちん。
「まあ、ドリューが頑張ってくれているから、身に危険はなさそうだしな」
兄はそそくさと帰っていった。めんどくさいんだろうな。
「やあ。マリリン」
一番熱心なのはダドリー様である。
目的通りなんだけど、やっぱりこの人は無理。
何がいやかって会話がですね……
「ひどいブスだって、本人の母親からまで注意がきててさ」
ウチの母!
「母親がそんなこと言うだなんて、きっとものすごいんじゃないかと思うんだ」
「そ、そうっすわね」
目の前にいるんですけどね。
「せめて、マリリンの半分でも可愛かったらなあ……」
マリリンの正体がばれたらヤバいっすわ。
「で、俺はさ、そこは目をつぶって金だけいただこうってわけなのよ。そこまで醜かったら、どっか屋敷の奥にしまっときゃいい訳で」
はい、監禁確定きました。超やべえ。
「ダドリー様はお金が必要なのでしょうか?」
ちょっと財政状態を聞いとこう。
「お前みたいなバカに説明しても何もわからんだろう!」
あ、いけない。地雷ふんじゃったわ。ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって。
「王都に屋敷があって、田舎にもあるんだ。最近は維持費がかかってかかって。特に人件費がね。どいつもこいつも賃上げを請求してくるんだ」
別な地雷でした。怒涛のように話し出した。店長からはいつも出来るだけ短時間で切り上げてって言われてるのに。これ、絶対長いヤツ。
「土地からの上りって少ないんだ。結婚しなきゃいけない理由は、俺の領地は農業しかやってないけど、相手のブス子の家は商家でね。貴族の風上にも置けない成り上がりだけあってカネ儲けはうまいんだ。もう、丸投げしようと思って」
最低。ブス子ですって! 絶対結婚したくない。大体、自分でどうにかしようって気はないの?
「そんなの無理無理。王都の屋敷の維持だけで年間収入の八割を持ってかれちゃう」
「王都のお屋敷って、そんなに大きいのですか?」
テーブルに突っ伏したダドリー様はいかにもバカにしたような目つきになった。
「知らんのか。王宮前の王都の大通りから右に入った通りに面して百メートルくらい続いてるよ」
「あ、見たことあります」
立派な宮殿みたいな建物だったが、かなり古かった。維持費がどうのと言ってる割には、放置されてるように見えるけど。でも、場所は最高よね。
「素晴らしい財産ですわ」
「その通りなんだ。だから捨てるわけにもいかない」
「使えばいいじゃありませんか」
あんないい場所にあるんだもん。一階をレストランや宝石や小物のショールーム、オペラ座が近いんだからお花屋さんでもいいわ。二階以上はホテルかアパルトマンに改装すればいいのよ。
「そんなことはできない!」
ものすごい勢いで否定きました。
「これだから、平民は下賤だと言われるのだ。貴族がそんな商売をやっていいわけがない」
「え? あの……」
婚約者の実家に丸投げっするって、今、言いましたよね?
うちに丸投げされたら、ホテルやレストランだけでは済まないかもしれませんよ? お母さまも亡くなられてしまったことだし、カジノやバーまでバリバリ作っちゃうかも。
「それにそうなったら俺はどこに住むんだ。嫁を閉じ込めとく屋根裏部屋も必要なんだぞ?」
何だと? 監禁溺愛じゃないのか。監禁放置かよ。
「だけど、その悪妻だけど」
カネをもらって、監禁したうえ、なぜ悪妻呼ばわりするか。
「妻は屋根裏から出さない。ね? マリリン、結婚後は俺と住まないか?」
構文的におかしい。というか、相手がおかしい。
のっぺり顔の茶色い目がだらけた表情でこっちを見つめている。背中がゾオオオッとした。背中には産毛がきっとどっさり生えているのね。それが全員で総決起反対集会を開催したのだわ。
「ダメだ」
私たちのテーブルに現れたのは背が高くてイケメンな男。ドリュー様。
なんだか心が洗われるよう。さわやかで美しいものを見てしまった。救世主ってこういう方のことを言うのね。
「ダドリー、今の話ばれたら婚約解消されるぞ」
「ああ、また、お前かよ」
うんざりしたようにダドリーが答えた。
「冗談に決まってるだろ。そんなことするわけない。喜ぶかなあって思ってさあ」
誰が。
「代われよ、ダドリー。俺もマリリンちゃんとお話したいんだ」
ドリュー様は不機嫌そうにダドリー様に向かって言った。
「ドリューは、別に貴族学院でも大勢の女どもに囲まれてるじゃないか。こんなところまで遠征してこなくたって、女に不自由はないだろ」
ああ、やっぱりモテる系だったのね、ドリュー様。
ちなみに三人目は言わずと知れた兄である。
この三人目はものすごくだるそうに現れ、短時間で消え去る。あからさまに気がない。
当たり前だ。兄だもの。
「なんでお前を見張ってなきゃいけないのか」
「財産」
兄はうなだれる。
目的を忘れたのか。三人のうちで、最も明確で切実な来店理由があるのは兄のはずだ。
「だけどな、俺は顔をダドリーに知られている。そんなに強くは出られないし、芝居は下手で、ついうっかり妹だって言ってしまいそうで……」
「ダメじゃん、ヘタレ」
私は言った。この間からロザリアからヤベエ構文を習っているのである。
兄は目を見張った。
「だって。今までの貴族構文だと、ここのカフェの店員の中で浮くんだもん。それにあの熟女店長にばれそうでさ」
構文て何? と兄はつぶやいた後、注意した。注意しないではいられなかったらしい。
「あの、それ、社交界に出たらやめてよね?」
「モチ」
私は簡潔に答えた。ヤベエ構文はショートで楽ちん。
「まあ、ドリューが頑張ってくれているから、身に危険はなさそうだしな」
兄はそそくさと帰っていった。めんどくさいんだろうな。
「やあ。マリリン」
一番熱心なのはダドリー様である。
目的通りなんだけど、やっぱりこの人は無理。
何がいやかって会話がですね……
「ひどいブスだって、本人の母親からまで注意がきててさ」
ウチの母!
「母親がそんなこと言うだなんて、きっとものすごいんじゃないかと思うんだ」
「そ、そうっすわね」
目の前にいるんですけどね。
「せめて、マリリンの半分でも可愛かったらなあ……」
マリリンの正体がばれたらヤバいっすわ。
「で、俺はさ、そこは目をつぶって金だけいただこうってわけなのよ。そこまで醜かったら、どっか屋敷の奥にしまっときゃいい訳で」
はい、監禁確定きました。超やべえ。
「ダドリー様はお金が必要なのでしょうか?」
ちょっと財政状態を聞いとこう。
「お前みたいなバカに説明しても何もわからんだろう!」
あ、いけない。地雷ふんじゃったわ。ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって。
「王都に屋敷があって、田舎にもあるんだ。最近は維持費がかかってかかって。特に人件費がね。どいつもこいつも賃上げを請求してくるんだ」
別な地雷でした。怒涛のように話し出した。店長からはいつも出来るだけ短時間で切り上げてって言われてるのに。これ、絶対長いヤツ。
「土地からの上りって少ないんだ。結婚しなきゃいけない理由は、俺の領地は農業しかやってないけど、相手のブス子の家は商家でね。貴族の風上にも置けない成り上がりだけあってカネ儲けはうまいんだ。もう、丸投げしようと思って」
最低。ブス子ですって! 絶対結婚したくない。大体、自分でどうにかしようって気はないの?
「そんなの無理無理。王都の屋敷の維持だけで年間収入の八割を持ってかれちゃう」
「王都のお屋敷って、そんなに大きいのですか?」
テーブルに突っ伏したダドリー様はいかにもバカにしたような目つきになった。
「知らんのか。王宮前の王都の大通りから右に入った通りに面して百メートルくらい続いてるよ」
「あ、見たことあります」
立派な宮殿みたいな建物だったが、かなり古かった。維持費がどうのと言ってる割には、放置されてるように見えるけど。でも、場所は最高よね。
「素晴らしい財産ですわ」
「その通りなんだ。だから捨てるわけにもいかない」
「使えばいいじゃありませんか」
あんないい場所にあるんだもん。一階をレストランや宝石や小物のショールーム、オペラ座が近いんだからお花屋さんでもいいわ。二階以上はホテルかアパルトマンに改装すればいいのよ。
「そんなことはできない!」
ものすごい勢いで否定きました。
「これだから、平民は下賤だと言われるのだ。貴族がそんな商売をやっていいわけがない」
「え? あの……」
婚約者の実家に丸投げっするって、今、言いましたよね?
うちに丸投げされたら、ホテルやレストランだけでは済まないかもしれませんよ? お母さまも亡くなられてしまったことだし、カジノやバーまでバリバリ作っちゃうかも。
「それにそうなったら俺はどこに住むんだ。嫁を閉じ込めとく屋根裏部屋も必要なんだぞ?」
何だと? 監禁溺愛じゃないのか。監禁放置かよ。
「だけど、その悪妻だけど」
カネをもらって、監禁したうえ、なぜ悪妻呼ばわりするか。
「妻は屋根裏から出さない。ね? マリリン、結婚後は俺と住まないか?」
構文的におかしい。というか、相手がおかしい。
のっぺり顔の茶色い目がだらけた表情でこっちを見つめている。背中がゾオオオッとした。背中には産毛がきっとどっさり生えているのね。それが全員で総決起反対集会を開催したのだわ。
「ダメだ」
私たちのテーブルに現れたのは背が高くてイケメンな男。ドリュー様。
なんだか心が洗われるよう。さわやかで美しいものを見てしまった。救世主ってこういう方のことを言うのね。
「ダドリー、今の話ばれたら婚約解消されるぞ」
「ああ、また、お前かよ」
うんざりしたようにダドリーが答えた。
「冗談に決まってるだろ。そんなことするわけない。喜ぶかなあって思ってさあ」
誰が。
「代われよ、ダドリー。俺もマリリンちゃんとお話したいんだ」
ドリュー様は不機嫌そうにダドリー様に向かって言った。
「ドリューは、別に貴族学院でも大勢の女どもに囲まれてるじゃないか。こんなところまで遠征してこなくたって、女に不自由はないだろ」
ああ、やっぱりモテる系だったのね、ドリュー様。
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