ドラゴン退治に徴集された(偽)聖女ですが、結婚はお断りです! ~王子の溺愛の本気度がわからない。ちょっ! 甘えてこないでください! 

buchi

文字の大きさ
上 下
16 / 20

第16話 社交界デビュープラン(母の)

しおりを挟む
私たちは書斎の人間用の椅子に座らされ、真向にふんぞり返った父が座った。

「一介の人間にナタリアはやれんな」

「人間は肉体的には弱いかもしれませんが、算数もできますし、穀物も作れますし、便利な道具も作れます」

「僕は肉しか食べないよ。道具もいらないね」

「でも、お似合いの服をお召しではありませんか?」

「妻の趣味だよ。そうでなければこんなもの要らないよ」

「奥様は大事なのでしょう?」

「なに? 妻は魔女だ。そんじょそこらの人間の女とは違うんだ。大事に決まっているだろう。彼女がいるから僕は生きているんだ。でなければ何千年もの寿命の間、退屈なだけだ。それとナタリア。こんなに愛らしいものがいるとは知らなかった。まさか子どもが生まれてくるとは思わなかった。お前なんかにやるものか」

「僕は、生まれだけは最高です」

「今は違うだろう。それに人間の身分なんか意味はない」

「人間は数が多い。王様というのは、その長です。人間全員に命令できる。人間を使えたら便利でしょう?」

「ん?」

ん?

結婚のお知らせではなかったの?

「すべての人間に命令できるのですよ? 以前人間を使いたいとおっしゃっていましたね?」

「一人、二人で十分だ」

「ドラゴン様がそんなことで満足されてどうします。至上の存在なのに。すべての人間を思う存分お使いになられても、十分ではないでしょう?」

何の話? 結婚の報告ではないの? あ、婚約か。

「だが、お前は王子ですらない」

「ナタリア様との結婚をお許しいただければ、王になります」

はい?

「このバカ者。今の王と戦争を起こして勝利して王になろうなどと考えているんじゃないだろうな? 僕が、人間なんかと戦うとでも思っているのか? 人の力を借りようだなんて、卑しい奴だ」

「人間に勝てませんか?」

お父様はグッと答えに詰まった。

「バカにするな。勝てるよ。でも、数が多すぎるんだ。それに殺しても何の意味もない」

「そうです。何の意味もない。つまり、使えない、利益にならないから殺さない方がマシなのです」

イケオジはプイと横を向いた。事実なのだろう。

「ドラゴン様は賢明です。でも、人間の王を使えば、本当に便利です。そして、王になる方法は戦争だけではありません」

お父様と私は、意外なことを言い出したヘロリ王子を見つめた。

「ドラゴン様、三か月おきにあと三回、王都の街から見えるところを飛んでください」

はいい?


「何か面白そうな話をしているわね」

ことりと軽い音がして、母が入ってきた。イケオジは具合悪そうに母の顔を見た。

「あなた、みだりやたらにこのヘロリ君を虐めちゃダメだっていったでしょう。今度は何なの?」

今度は……そういえば、私たちはまだ父に用事を伝えていなかった。

「あの、奥方様。わたくしヘロリはナタリア様に結婚を申し込み……」

「弱小人間のくせに出過ぎたふるまいをするんじゃないッ。出て行け!」

「出て行きます。でも、ナタリア様には了承いただけましたので、ナタリア様ともども出て行きます」

「ナタリアッ!」

父は突然ドラゴンに変身した。

私たちは吹き飛ばされた……のではなく、ふわっと宙に浮いてサッとドラゴンの大きさに飲み込まれるのを避けた。母の魔法だ。

「お前は……父を裏切るのか」

「あ・な・た」

母の声がした。

「三十年前にあなたもウチの母から同じこと言われてましたわよね?」

「…………」

プシュウウウウと父が元のイケオジに戻った。
母と私とヘロリも、元の椅子に戻った。

イケオジはしょんぼりしていて、もはやイケオジではなかった。どこかのおじさんだ。

「話を聞きましょう」

母が言った。

やっぱりこの城の絶対王者は母らしい。

「だから、あの……」

「ナタリア嬢を愛しています。申し込み続けてようやくOKしていただきました!」

「あら。ナタリア、本当なの?」

え。どうしよっかな。ゾラがイエスのハンドサインを送っている。割と必死の形相だ。なんでだろう。

「はい……」

「まああ。よかったわ。ゾラに言いつけておいたとおりね。あなた」

「ハイ」

「この青年は、なかなか見どころがありますわ。私はいいと思います」

全員、押し黙った。

「クッキーもアイスクリームも、牛タンシチューもなかなかでした。ベリーのタルトも最高でした。ココアもよかったわ」

作ったのは私です。

「それで話って何かしら? 街の周りを三周したらいいの?」

「はい。兄が三人いますが、その都度、下から順にドラゴン討伐隊に駆り出されます」

「ドラゴン討伐隊! 笑わせるわ、チャチな人間どもが……」

母の魔法で黙らされた。

「あら。大変ね。ここまでたどり着けないんじゃないかしら?」

「たどり着けないか……ないしは途中でバックレると思います」

「その方が賢明ね」

「三回回れば、誰もいなくなるので、私が登場します。ドラゴン様と一緒に王宮に行きます」

「なんで僕がそんなことしなくちゃいけないの?」

「お黙りなさい」

父は黙った。

「僕が王になれば、ドラゴン様は王を通じて貢物を直接受け取れます。異国渡りのモチ菓子やプラリネ入りのチョコレートとか各種のナッツ入りマカロンとか、職人芸の繊細な菓子がどんどん届きます。それから討伐隊は編成されないでしょうし、人間を雇うことも簡単になります」

「それから……」

私は思いついて口を出した。私が口をはさんでいい場面なのかどうかよくわからなかったけど。

「ドラゴンが友好的だとわかってもらえますわ。そうすれば、もう討伐隊は組まれない。魔女やデビル、吸血鬼なんかも、街でショッピングや商売ができるようになるかもしれないわ」

「お前は甘い。子どものくせに何を言うのだ。世の中はそんな甘くない」

父が厳しい顔になった。

「僕はドラゴンとして人の何十倍も生きてきた。人間はそう変わるもんじゃない」

私はシュンとした。

「あら、私は街へ行くわよ? ドラゴンの夫人として、王宮へ乗り込むわ」

母が言い出した。

「なんでも、王都には社交界ってものがあるそうね?」

母は興味津々といった様子でヘロリ王子様に話しかけた。

「ええ、まあ、ありますが、それこそ人間関係の塊ですので、楽しいばかりではないかもしれません……?」

「何、言ってるのよ。国王の義母ですのよ?」

「あ! はあ、そうなりますね」

「つまり、最高の身分よ。誰も逆らえないわ。しかも夫はドラゴンよ?」

母はものすごく誇らしそうだった。

「この世で最強よ!」

途端に、父がシャキーンとなった。

「しかも人の姿になれば、こんなイケメン見たことないわ!」

父がウネウネと身をよじらせた。嬉しいらしい。

「最新流行の仕立て屋を呼ばなくちゃ。この人を着飾らせるの。オーホッホッホ! 宮廷の貴婦人方がうらやましがる姿が目に見えるようだわ!」

……母の話は、最初は父を説得するために、そんなことを言っているのかと思ったけど、どうも違うらしい。

「ここは刺激が少なすぎるのよ。ダンスパーティも晩餐会もないじゃない。宝飾店で誰も買えないほどすごい値段の宝石を、周り中のため息の中で買ってやるわ。素敵なお芝居を見に行って、帰りに感想を言いあいながら、素晴らしいレストランで深夜まで食事をするの。私が王都で第一位の貴婦人として君臨して見せるわ!」

「あのう、第一位の貴婦人はナタリアですけど……」

ここでなぜかヘロリ王子様が口をはさんだ。

「こら。小僧。マーシャが第一位の貴婦人になりたいと言うなら、マーシャが最高位の貴婦人だ。お前が決めることじゃない」

「いえ。国王の僕が決めることなんですけど。というか、お二人ともお忘れではありませんか? ナタリア嬢と僕が結婚しないと、そのプラン、成立しないんですけど」



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

処理中です...