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第7話 二日で討伐隊は分裂した
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竜討伐隊は、王子様と勇者、僧侶と聖女の組み合わせで、華々しく王都を出発した。
市街を出たところで騎士団と別れると、王子様が宣言した。
「いいか、人目が多い場所は、あと一週間程度で抜けるが、竜の棲む山までは、どんなに急いでも一ヵ月かかる。なので、討伐隊は一週間後に解散するが、王都に戻るのは一か月以上たってからだ」
なるほど。竜に遭遇しないと戦いようがないからですね。その前に王都に舞い戻ってしまったら、ツジツマが合わないものね。
このようにして伝説は作られていくのか。
私は感心した。
「一週間は我慢して同行してください」
しかしながら、わずか二日で私は音を上げた。
僧侶様にしては珍しく、食品系は私に喜ばれないと学習したようだが、今度は詩を送ってきて感想を求めるとか、夜中に恋歌を歌って聞かせてくれるとか別なアピールに専念し始めた。
とても面倒くさいので、勇者様のところに逃げ込むと、王子様を口説いている真っ最中だった。
「聖女様」
現場を見つかった勇者様は唇まで青くして震えた。
「決して決して二心あるという訳ではありません! あなたと王子殿下、いずれにも真実の愛をささげているこの私です」
浮気現場を見つかった想定なんだろうか。
この私っていう、代名詞付きの代名詞がめちゃウザいわ。自意識過剰みたいで。自意識過剰だろうけども!
「王子様! 別行動でいいじゃないですか。この二人、置いときましょう。みんな日にちは数えられるんですよね? 一ヵ月と一週間以降に、王都に向けて出発すればいいだけでしょう? その間、誰にも見つかりさえしなければいいわけだし」
王子様が嬉しそうに微笑んで同意したので、失敗したことに気が付いた。そこで言い直した。
「全員別行動! それでいいですよね?」
「ナタリア、そんなことをしたら僕は飢え死にするよ?」
王子様は急に真面目な顔になって言いだした。
「何言ってるんですか! この二人も料理はできませんよ?」
毎日三食作り続けたのは私だ。
「大丈夫。この二人は、その辺の旅館にでも泊まればいいだけだよ。王子じゃないんだから問題はない。野宿する必要がなくなるだけだ」
「え? そうなの?」
「まあ、そうですね。私たちは、王子ほど顔を知られているわけじゃありませんから」
私は思い出した。最初、偉そうなデブった王家のお使いがくれた王子殿下の絵姿のことを。
「顔だけ(が取り柄の)王子様の絵姿は、あっちこっちで売られてて、唯一独身の王子様として広く顔を知られています」
ううむ。つまりバレバレだから、彼だけは野宿決定ということか。
王子様は気弱げに微笑んだ。
「僕は消化器が弱いんだ」
知らんわ、そんなこと!
しかしながら、結局、一番胃が丈夫そうだと言う理由と、何よりほかの二人は料理ができなかったので、私は残って一週間だけ王子の野宿の世話をすることになった。
「一日金貨五枚出そう。母上に遺言状を残しておこう」
うむ。それなら。
「計、金貨三十五枚ですね?」
「期間が伸びれば伸びるほど、金貨の数が増えるよ」
『どうしてナタリア様は、突然そんなに守銭奴になられたのですか?』
にゃあと鳴きながらくるりと尻尾を私の足に巻き付けて、ゾラが聞いてきた。セリフがなければとってもかわいい。
王子様が上機嫌で言った。
「二人きりだ。一緒のテントで寝ようね」
確かにテントを二つ張るのはめんどくさい。
「僕が張るよ」
「そうですか。それなら……」
「朝ごはんも頑張ってみる」
「えっ? 大丈夫ですか?」
「大丈夫。君が料理するところを見てたから」
多分ダメだと思う。全員が料理について完全に無知なことは、ここ二日で理解した。
どこの世界に、フライパンの蓋を開けると、卵とベーコンが四人前、行儀よく並んでいたり、棚から皿を取り出すと、バターとジャムが脇に添えられた焼き立てこんがり小麦色のトーストが上に乗っかっていたりするのだ。そんなうまい話があるわけない。
王子様は卵を割るところから早くも悪戦苦闘していたが、別に手伝う理由はないので、私は傍観していた。どうして、手元に卵があるのか疑問に思わないのなら、それでいいじゃない。
向こうには竜が棲むと言う山が紫色に霞んで見える。
「竜って本当にいるんでしょうか?」
誰に言うともなく私は言った。
『いますよ。ドラゴンは』
いつの間にかやってきたゾラが答えた。
『会ってみたいと思いませんか?』
私は首を振った。
「怖いもん」
『怖くはありませんよ。やさしいドラゴンです』
「じゃあ、どうして退治しなくちゃいけないの?」
『あなた方魔女だって、退治されそうだったではありませんか』
「私たちは退治されないわ。強いもの。それに何も悪いことしてないし」
『ドラゴンだって同じです。人間の誤解ですよ。それに退治なんかされません。人間よりずっと強いですから』
「魔女よりも?」
ゾラはフフフと笑った。
『そうですね』
私はその時まだ見ぬ竜に会ってみたくなった。魔女よりも強いのに、優しいなんて。
だがその時、ガチャーンという音がして、朝食が大惨事になったらしい。
「なんで朝ごはんひとつ、まともに作れないのよ」
私は腰に手を当てて、王子様に向かってすごんだ。
「ああ、ごめんよ、ナタリア」
一対一になると、王子だ聖女だと言う枠付けはなくなってしまって、アウトドア系やサバイバル系に圧倒的な強みを持つ私の方が、断然強い立場になった。
「仕方ないわねー。そのフライパン貸しなさい」
この王子様は、人間関係を操るのは、どうも非常にうまい気がする。
聖女事件では、よくわからないうちに他の貴族令嬢方の親たちをあおって依頼料という名前の大金を巻き上げてきたのに、親たちからはものすごく感謝されているらしい。お金を献上して、感謝するとはよくわからない。
さらにただの感謝なら、まだわからなくはないのだが、非常に心配され、同情を買っているらしかった。つまり、あれをネタに人気者になって帰ってきた。
ヘタレ気味で、運命に翻弄されている気弱な青年なだけだったら、気の毒だが仕方ないねで終わるところを、大勢から本気の同情心を寄せられているところが謎である。
かくいう私も、結局毎朝フライパンを振っている。
「そういう義侠心があるところが好きだ」
王子様は横で眺めながら、ほめてくれる。いやー、ほめ上手。ところで義侠心て何?
「ご飯もおいしいしさ。王宮で暮らしているより、よっぽど自由で気楽だよ」
はあ。そう言われればそれはそうかもしれない。王子様、太ってきたよね。ストレスが少ないのかもしれない。
正直、私も彼との生活は楽しかった。
市街を出たところで騎士団と別れると、王子様が宣言した。
「いいか、人目が多い場所は、あと一週間程度で抜けるが、竜の棲む山までは、どんなに急いでも一ヵ月かかる。なので、討伐隊は一週間後に解散するが、王都に戻るのは一か月以上たってからだ」
なるほど。竜に遭遇しないと戦いようがないからですね。その前に王都に舞い戻ってしまったら、ツジツマが合わないものね。
このようにして伝説は作られていくのか。
私は感心した。
「一週間は我慢して同行してください」
しかしながら、わずか二日で私は音を上げた。
僧侶様にしては珍しく、食品系は私に喜ばれないと学習したようだが、今度は詩を送ってきて感想を求めるとか、夜中に恋歌を歌って聞かせてくれるとか別なアピールに専念し始めた。
とても面倒くさいので、勇者様のところに逃げ込むと、王子様を口説いている真っ最中だった。
「聖女様」
現場を見つかった勇者様は唇まで青くして震えた。
「決して決して二心あるという訳ではありません! あなたと王子殿下、いずれにも真実の愛をささげているこの私です」
浮気現場を見つかった想定なんだろうか。
この私っていう、代名詞付きの代名詞がめちゃウザいわ。自意識過剰みたいで。自意識過剰だろうけども!
「王子様! 別行動でいいじゃないですか。この二人、置いときましょう。みんな日にちは数えられるんですよね? 一ヵ月と一週間以降に、王都に向けて出発すればいいだけでしょう? その間、誰にも見つかりさえしなければいいわけだし」
王子様が嬉しそうに微笑んで同意したので、失敗したことに気が付いた。そこで言い直した。
「全員別行動! それでいいですよね?」
「ナタリア、そんなことをしたら僕は飢え死にするよ?」
王子様は急に真面目な顔になって言いだした。
「何言ってるんですか! この二人も料理はできませんよ?」
毎日三食作り続けたのは私だ。
「大丈夫。この二人は、その辺の旅館にでも泊まればいいだけだよ。王子じゃないんだから問題はない。野宿する必要がなくなるだけだ」
「え? そうなの?」
「まあ、そうですね。私たちは、王子ほど顔を知られているわけじゃありませんから」
私は思い出した。最初、偉そうなデブった王家のお使いがくれた王子殿下の絵姿のことを。
「顔だけ(が取り柄の)王子様の絵姿は、あっちこっちで売られてて、唯一独身の王子様として広く顔を知られています」
ううむ。つまりバレバレだから、彼だけは野宿決定ということか。
王子様は気弱げに微笑んだ。
「僕は消化器が弱いんだ」
知らんわ、そんなこと!
しかしながら、結局、一番胃が丈夫そうだと言う理由と、何よりほかの二人は料理ができなかったので、私は残って一週間だけ王子の野宿の世話をすることになった。
「一日金貨五枚出そう。母上に遺言状を残しておこう」
うむ。それなら。
「計、金貨三十五枚ですね?」
「期間が伸びれば伸びるほど、金貨の数が増えるよ」
『どうしてナタリア様は、突然そんなに守銭奴になられたのですか?』
にゃあと鳴きながらくるりと尻尾を私の足に巻き付けて、ゾラが聞いてきた。セリフがなければとってもかわいい。
王子様が上機嫌で言った。
「二人きりだ。一緒のテントで寝ようね」
確かにテントを二つ張るのはめんどくさい。
「僕が張るよ」
「そうですか。それなら……」
「朝ごはんも頑張ってみる」
「えっ? 大丈夫ですか?」
「大丈夫。君が料理するところを見てたから」
多分ダメだと思う。全員が料理について完全に無知なことは、ここ二日で理解した。
どこの世界に、フライパンの蓋を開けると、卵とベーコンが四人前、行儀よく並んでいたり、棚から皿を取り出すと、バターとジャムが脇に添えられた焼き立てこんがり小麦色のトーストが上に乗っかっていたりするのだ。そんなうまい話があるわけない。
王子様は卵を割るところから早くも悪戦苦闘していたが、別に手伝う理由はないので、私は傍観していた。どうして、手元に卵があるのか疑問に思わないのなら、それでいいじゃない。
向こうには竜が棲むと言う山が紫色に霞んで見える。
「竜って本当にいるんでしょうか?」
誰に言うともなく私は言った。
『いますよ。ドラゴンは』
いつの間にかやってきたゾラが答えた。
『会ってみたいと思いませんか?』
私は首を振った。
「怖いもん」
『怖くはありませんよ。やさしいドラゴンです』
「じゃあ、どうして退治しなくちゃいけないの?」
『あなた方魔女だって、退治されそうだったではありませんか』
「私たちは退治されないわ。強いもの。それに何も悪いことしてないし」
『ドラゴンだって同じです。人間の誤解ですよ。それに退治なんかされません。人間よりずっと強いですから』
「魔女よりも?」
ゾラはフフフと笑った。
『そうですね』
私はその時まだ見ぬ竜に会ってみたくなった。魔女よりも強いのに、優しいなんて。
だがその時、ガチャーンという音がして、朝食が大惨事になったらしい。
「なんで朝ごはんひとつ、まともに作れないのよ」
私は腰に手を当てて、王子様に向かってすごんだ。
「ああ、ごめんよ、ナタリア」
一対一になると、王子だ聖女だと言う枠付けはなくなってしまって、アウトドア系やサバイバル系に圧倒的な強みを持つ私の方が、断然強い立場になった。
「仕方ないわねー。そのフライパン貸しなさい」
この王子様は、人間関係を操るのは、どうも非常にうまい気がする。
聖女事件では、よくわからないうちに他の貴族令嬢方の親たちをあおって依頼料という名前の大金を巻き上げてきたのに、親たちからはものすごく感謝されているらしい。お金を献上して、感謝するとはよくわからない。
さらにただの感謝なら、まだわからなくはないのだが、非常に心配され、同情を買っているらしかった。つまり、あれをネタに人気者になって帰ってきた。
ヘタレ気味で、運命に翻弄されている気弱な青年なだけだったら、気の毒だが仕方ないねで終わるところを、大勢から本気の同情心を寄せられているところが謎である。
かくいう私も、結局毎朝フライパンを振っている。
「そういう義侠心があるところが好きだ」
王子様は横で眺めながら、ほめてくれる。いやー、ほめ上手。ところで義侠心て何?
「ご飯もおいしいしさ。王宮で暮らしているより、よっぽど自由で気楽だよ」
はあ。そう言われればそれはそうかもしれない。王子様、太ってきたよね。ストレスが少ないのかもしれない。
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