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第8話 アリス参上
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ハーヴェスト様と一緒にカフェに行くことが決まってしまった。
一大事である。
制服で行くわけには行かない。
私は顔色青ざめて、大量に母が送って来たドレスをかき回した。
クローゼットにきちんとしまい込み、しまい込み過ぎて、そのあとは忘れていた。
あと、もうひとつ問題があった。一人で着られるドレスは、制服くらいなものだ。家にいる時は、髪もアリスに結ってもらっていた。
「なるほど。どおりで私、制服ばかり着ていたのね……」
制服は一人で着られるし、髪型も凝らなくていい。何をいまさら感心している。
母に頼んでアリスを寮に寄こしてくれるよう手配した。実家が王都にあって本当に良かった。
アリスはすぐに飛んできてくれた。ただし、叱られた。
「お嬢様。学園ではきちんと着飾ってと申しましたよね?」
袖を通したあとのないドレスを見たアリスがだんだん怒気を帯びた声に変わっていく。
「ジュディス様が手配してくださらなかったら、誰もダンスパートナーに名乗り出てくださる方もいなかったそうで?」
アリスがこっちを向いているが、顔を合わせない方がいい気がする。
と言うか、呼ばなければよかった。切羽詰まって、うっかり助けを求めてしまった。ダンスパーティの出席とは、そこまで重要度が高いのか?
「これからは、わたくしがおそばに仕えさせていただきます」
「いや」
私はようやく口を開いた。
「大丈夫だから」
「大丈夫なわけがないでしょう!」
アリスがついに語気を荒げた。
「わたくしにお呼びが来ないなんて、おかしいと思っていたのですよ! お一人で着られるドレスはそうありません。それなのに、何の音沙汰もない。確かに、寄宿舎付きの使用人に頼めばドレスの着付けくらいしてもらえます。アンがいないとき、お姉様はそうしてらしたそうですから」
アンと言うのは姉の専属侍女だ。制服ご愛用の理由に、私も、今、やっと気が付いたところなんです。
「でも、面倒だからとアンは呼び寄せられて、お姉様の寮のお部屋住みになってました。わたくしもてっきりそうなると思っていましたのに、フロレンス様からちっとも連絡が来ない」
アリスはそう言いながら、せっせとクローゼットの中を確認していた。
「さ、お嬢様、明日からはこのアリスがお支度を手伝います。この寮に入ってまいります時に、ほかのご令嬢方のご様子は見てまいりました。大体の感じはわかります」
アリスはにっこりした。もしかしてアリスには歯が28本ではなくて36本くらい生えているんじゃないだろうか。真っ白な歯並びがキラリと輝いている。
「すぐにお嬢様の評価を変えて見せますわ。学園一番の美しいご令嬢と言わせて見せます! お姉様よりも!」
アンと何かあったのだろうか。その姉に対する対抗意識、おかしくないか?
翌朝、いつもより二時間も早くたたき起こされた私は、鏡の前で立たされた。
「さあ、本日はこちらのドレスをお召しになってくださいませ」
「……制服で……」
「何かおっしゃいましたか?」
「……いえ。何も」
薄いグリーンのドレスを着せられ、首の根元で縛って三つ編みにしていた髪は顔周りだけ結って後は垂らした。
「天然の巻き毛をなんてもったいない。三つ編みにしっぱなしだったから、変な癖が付いているではないですか」
アリスが怒っている。
「制服は洗濯に出します!」
処分する気じゃないだろうか。不安だ。
「さあ、何をしているんですか? 朝食でしょう? さっさと遅刻しないように食堂に行ってらっしゃい!」
こんな普段と全く違う格好にされたら、きっと誰だかわからないに違いない。すごく目立つ気がする。
「あ、アリス。申し訳ないけど、もしよかったら一緒に朝ご飯にしない? ほら、せっかく来てくれて、私もうれしいし……」
アリスはチラっと目じりを下げた。喜んでいる。私もアリスを見て嬉しかったからニコっと笑った。
だが、アリスはハっと気が付いたようだった。
「だまされませんよ! お嬢様。その格好が嫌なんでしょう! 早く外に出てらっしゃい。私が朝ご飯を取りに外に出ている間に、服を着替える気なんでしょう!」
「そんなつもりないわ! ええと、こんなにきれいに着つけてもらったのにもったいない。ただ、ちょっと、目立つのは出来るだけ後の方がいいかなって……」
後ろ半分は、口の中で言ったのだが、そしてそれは偽らざる本心だったのだが、アリスは聞こえても聞こえなくても、何事かを察知したらしかった。
彼女はドアをサッと開けると怒鳴った。
「さあ、フロレンス様、授業に遅れますよ?!」
一大事である。
制服で行くわけには行かない。
私は顔色青ざめて、大量に母が送って来たドレスをかき回した。
クローゼットにきちんとしまい込み、しまい込み過ぎて、そのあとは忘れていた。
あと、もうひとつ問題があった。一人で着られるドレスは、制服くらいなものだ。家にいる時は、髪もアリスに結ってもらっていた。
「なるほど。どおりで私、制服ばかり着ていたのね……」
制服は一人で着られるし、髪型も凝らなくていい。何をいまさら感心している。
母に頼んでアリスを寮に寄こしてくれるよう手配した。実家が王都にあって本当に良かった。
アリスはすぐに飛んできてくれた。ただし、叱られた。
「お嬢様。学園ではきちんと着飾ってと申しましたよね?」
袖を通したあとのないドレスを見たアリスがだんだん怒気を帯びた声に変わっていく。
「ジュディス様が手配してくださらなかったら、誰もダンスパートナーに名乗り出てくださる方もいなかったそうで?」
アリスがこっちを向いているが、顔を合わせない方がいい気がする。
と言うか、呼ばなければよかった。切羽詰まって、うっかり助けを求めてしまった。ダンスパーティの出席とは、そこまで重要度が高いのか?
「これからは、わたくしがおそばに仕えさせていただきます」
「いや」
私はようやく口を開いた。
「大丈夫だから」
「大丈夫なわけがないでしょう!」
アリスがついに語気を荒げた。
「わたくしにお呼びが来ないなんて、おかしいと思っていたのですよ! お一人で着られるドレスはそうありません。それなのに、何の音沙汰もない。確かに、寄宿舎付きの使用人に頼めばドレスの着付けくらいしてもらえます。アンがいないとき、お姉様はそうしてらしたそうですから」
アンと言うのは姉の専属侍女だ。制服ご愛用の理由に、私も、今、やっと気が付いたところなんです。
「でも、面倒だからとアンは呼び寄せられて、お姉様の寮のお部屋住みになってました。わたくしもてっきりそうなると思っていましたのに、フロレンス様からちっとも連絡が来ない」
アリスはそう言いながら、せっせとクローゼットの中を確認していた。
「さ、お嬢様、明日からはこのアリスがお支度を手伝います。この寮に入ってまいります時に、ほかのご令嬢方のご様子は見てまいりました。大体の感じはわかります」
アリスはにっこりした。もしかしてアリスには歯が28本ではなくて36本くらい生えているんじゃないだろうか。真っ白な歯並びがキラリと輝いている。
「すぐにお嬢様の評価を変えて見せますわ。学園一番の美しいご令嬢と言わせて見せます! お姉様よりも!」
アンと何かあったのだろうか。その姉に対する対抗意識、おかしくないか?
翌朝、いつもより二時間も早くたたき起こされた私は、鏡の前で立たされた。
「さあ、本日はこちらのドレスをお召しになってくださいませ」
「……制服で……」
「何かおっしゃいましたか?」
「……いえ。何も」
薄いグリーンのドレスを着せられ、首の根元で縛って三つ編みにしていた髪は顔周りだけ結って後は垂らした。
「天然の巻き毛をなんてもったいない。三つ編みにしっぱなしだったから、変な癖が付いているではないですか」
アリスが怒っている。
「制服は洗濯に出します!」
処分する気じゃないだろうか。不安だ。
「さあ、何をしているんですか? 朝食でしょう? さっさと遅刻しないように食堂に行ってらっしゃい!」
こんな普段と全く違う格好にされたら、きっと誰だかわからないに違いない。すごく目立つ気がする。
「あ、アリス。申し訳ないけど、もしよかったら一緒に朝ご飯にしない? ほら、せっかく来てくれて、私もうれしいし……」
アリスはチラっと目じりを下げた。喜んでいる。私もアリスを見て嬉しかったからニコっと笑った。
だが、アリスはハっと気が付いたようだった。
「だまされませんよ! お嬢様。その格好が嫌なんでしょう! 早く外に出てらっしゃい。私が朝ご飯を取りに外に出ている間に、服を着替える気なんでしょう!」
「そんなつもりないわ! ええと、こんなにきれいに着つけてもらったのにもったいない。ただ、ちょっと、目立つのは出来るだけ後の方がいいかなって……」
後ろ半分は、口の中で言ったのだが、そしてそれは偽らざる本心だったのだが、アリスは聞こえても聞こえなくても、何事かを察知したらしかった。
彼女はドアをサッと開けると怒鳴った。
「さあ、フロレンス様、授業に遅れますよ?!」
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