真実の愛を貫き通すと、意外と悲惨だったという話(相手が)~婚約破棄から始まる強引過ぎる白い結婚と、非常識すぎるネチ愛のいきさつ

buchi

文字の大きさ
上 下
64 / 64

第64話 その後

しおりを挟む
 おかげさまで、男の子二人と女の子の双子に恵まれた。

 双子は難産だったので、ラルフがその後の出産はやめようと提案してきた。心配で死ぬ思いをしたそうだ。

「男は無力だと実感した」

 そして、その後、男の子に恵まれた。

 犯人はラルフだ。舌の根も乾かぬうちに。



 リリアン嬢がどうなったのか私は知らない。兄のビンセントはベロス公爵と妹から距離を置いたおかげで、ラルフに許され、外交で重要な役職を得ている。

 妹のエレノアは三歳年下の美貌の夫の機嫌取りにかまけている。いいことだ。
 ジョージは有能で、うまくエレノアをあしらっているらしい。そして驚いたことにエレノアとうまくやっていっているらしい。


 殿下に白い結婚の噂を吹き込んだのは、モリス・ヴィスコンテだった。
 私はすっかり忘れていたが、パロナ公家の執事である。
 現在、我が家でソフィアと侍女の座一番を争っているマリーナ夫人の相棒だった人物だ。黒々とした立派なひげと、少し寂しい頭頂が特長の押し出しのいい中年男だ。

 パロナ公国のための情報収集が目的で、殿下の動きをうかがっていたらしい。
 同じ家にいれば、私たちがどんな関係だったかばれてしまう。私たちがパロナ公館に滞在している間、彼は余計な推測を考えつき、殿下に教えたらしい。

 殿下は自分に都合のいい話は、信じる傾向があった。白い結婚の話はことのほか殿下のお気に召したらしく、ヴィスコンテは気に入りになっていた。


 白い結婚の真偽など知らないゲイリー・チェスターは、この話をしながら怒っていた。

「そんな嘘を信じるから、マルケまで出かけたのですよ。まるで死にに行ったようなものではないですか。そのパロナ人は殿下を殺したかったのでしょうかね」

 私は、いたたまれない思いをした。
 なんだか、いろいろと世間の皆様に申し訳ないことをしていたような気がする。


 パロナの金鉱の件は順調だ。思っていたより埋蔵量が多かったので、ヴィスコンテの件は不問に付されている。パロナ家と面倒を起こしたくない。

 唯一気になったのは、ヴィスコンテが「私の意志で」白い結婚が貫かれたと殿下に説明したと言うくだりだ。
 その話はラルフと私しか知らないのに。

 だから、もしかすると殿下に変な希望を持たせて、マルケへ追いやったのは、ヴィスコンテが誰かから指図を受けたからじゃないかという疑問が胸をよぎる。

 でも、私はヴィスコンテを呼び出すことも、ラルフに真偽を確かめることも、もうしなかった。
 必要ないと思った。結論は出ているのだ。私はラルフを選び、彼を愛している。それに、これ以上聞きたくない。



 ちなみにアリサ・ペンザンス伯爵夫人は、私が王妃に確定すると、手のひらを返したように愛想よく、とってつけたようなお世辞を振りまきながら、事あるたびに近づいてきた。
 でも、過去のあれこれを決して忘れたわけではないので、絶対にお近づきになりたくなかった。
 そのせいで彼女は夫から、役立たずとののしられているらしいが、私のせいではないと思う。

 前の国王陛下と王妃様は、王家の山の別邸で過ごしていた。王妃様の方が国王陛下よりずっと若かったのに、先に亡くなられ、その後しばらくして前国王も後を追った。

「これで、不安定要素は、いなくなりましたね」

 さわやかに発言するラルフに、私は震え上がったが、父とゲイリー・チェスターが、いかにもその通りみたいな顔をしてうなずいていたから、少なくとも前の国王陛下御夫妻は自然死だと思う。



 ショッピングもカフェ巡りも難しかったが、私は、今、別な遊びを楽しんでいる。

 ショッピングやカフェ巡りがより一層楽しくなるように街を整備したり、着飾ることがもっと楽しくなるような素敵なレースの生産などだ。

 恐ろしく繊細でったレースは、まるで夢のような美しさで、世界中の女性にとってあこがれだったが、ルフラン特製の秘密の糸がなければ作れない。
 そのレースを惜しげもなく使ったドレスを着て、外国の賓客をもてなす。
 その後、こちらの言い値で売るのはなかなかいい気分だ。

「あなたはなかなか商売上手だったのだな。きれいなドレスだ。よく似合う」

 ラルフはちょっと複雑そうに言った。

「あまり皆の見世物にしたいわけではないんだが……」

 私を人に見せたがらない、そのヘンな性癖はどうして治らないの? 十分独占しているじゃない。


 オペラや劇団の後援もしている。王妃特権だ。

 夜のオペラ座は華やかだ。おしのびで、しょっちゅう観に行っている。

 ルフランの町は昼だけでなく、夜も人出が増えてきた。

 ルフランの王都の大通りに街灯が付けられたからだ。護衛を連れなくても、安全に夜を楽しめる。
 おかげでお金のない市民も、大勢、街に繰り出すようになり、そのにぎやかで活気ある様子はだんだん有名になっていった。裕福な観光客が外国からも大勢来るようになり、テオからは大いに感謝されている。

 友人になってしまったババリア元帥夫人や、昔からの友人たちやリーリ侯爵夫人のお仲間たちと一緒に、劇場に押し寄せることもある。

「王妃様がいらした」

 全部埋まった観客席からささやきがれると、徐々じょじょに拍手がわき、同時に王妃様がいらしたからには、今日の演目はきっと素晴らしいに違いないと、期待感が高まる。そんな中を気に入りの友人や、時には娘たちを伴って特別席に納まり、オペラグラスを取り出す。

「お母さま、今日の演目は?」

 娘が尋ねる。ラルフに似たのかしら。年に似ず賢い子だ。でも、まだあなたには早いんじゃないかしら?

「『命を賭けた溺愛』よ」

「……重そうね」

 溺愛って意味、わかっているのかしら。

「でも、最後は二人でハッピーエンドまでたどり着くの。きっと死ぬまで幸せよ」

__________________

長らくおつきあいくださいましてありがとうございました。
しおりを挟む
感想 63

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(63件)

conn
2023.05.18 conn

はじめまして。
テレワークなのをいいことに、仕事放り出して1日読んでしまいました💧
すごく面白かったです。
王城から帰るときに王妃様からの追手が来るところ…そうやな、無事に帰れるワケないなと納得しながら、ん?結婚してもまだまだこの話長そうよ…と思っていたのに、夜までかけて一気に読んでしまいました。

これからも新作を楽しみにしています。
素晴らしい作品をありがとうございました。

解除
高校生の母
2023.04.05 高校生の母

新作から飛んで読破させていただきました!
面白かったです(*˘︶˘*).。.:*♡
※王太子くん、…産まれた場所が、悪かったですね(泣)
.⁠·⁠´⁠¯⁠`⁠(⁠>⁠▂⁠<⁠)⁠´⁠¯⁠`⁠·⁠.心情的には妹にもザマァが欲しかった。
そのザマァが、全て王太子に…(;^ω^)
エールを贈らせていただきます!

buchi
2023.04.05 buchi

発掘、ありがとうございます。
いえ、読んでくださってありがとうございます。

確かに妹、あれだけ仕出かした割には、
ハッピーエンド過ぎる気はしますよね。
むずかしい。

貴重なエール、ありがとうございます!
(≧∇≦)

解除
kana
2022.05.07 kana

はーっGW使って読了しました!
周りの環境もあったんでしょうが、オーガスタをめぐって殺るか、殺られるかまでいっちゃったんですね。
オーガスタは不本意でしょうが、魔性の女ってやつ…。
私も王太子殿下の最後のお手紙にはちょっとキました。
まあ、でもポンコツ酒乱殿下ですけどね( ゚∀゚)
押し付けられる方はたまったもんじゃないか…。
多分、殿下がラルフくらいデキる男だったらラルフもちょっかいかけなかったと思うんですよ。
ほかにも色々きっかけはあったと思うんですけど、
なんか色々重なっちゃったんでしょうね。
殿下の側にマリーナ夫人みたいな人がいたらなんか違ってたかもしれませんね。

buchi
2022.05.07 buchi

お読みくださって、ありがとうございました。(すみません、お疲れ様です……)
最後の手紙を読んで欲しかったので、嬉しいです。
現在、全然ご無沙汰状態になっており……異世界恋愛を8万字まで書いて行き詰まり。その後、もうファンタジー書いちゃえとか言って10万字まで進んで行き詰まり。このループから逃れられない気がしてきました。

解除

あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。