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第63話 私にできること
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ラルフみたいな冷静な男が、どうしてそんな危険な賭けに出たの?
「勝算はあった。殿下と僕は同じくらいおかしい。だが、僕はあなたをもう腕に抱いている。もう、手放すことなんか考えられなかった。生身の温かさを思うと、どんな犠牲を払っても手放せない。僕の頭じゃない。心だ」
「そんな危険な賭け……」
「賭けは勝った。そして、後はバレた時に黙らせるだけの力が欲しかった。あなたが王妃でも構わないと言ったから、王位に就いた。誰もが後押ししてくれた」
私はびっくりした。
「そんなことを言った覚えはないわ?」
ラルフは陰気そうな目つきで私を見た。
「言ったさ。二人で力を合わせれば、もっといろいろな事が出来るかもしれないと」
記憶の糸を手繰り寄せて、私は呆然とした。そんなことを言ったことがあるような気がする。でも、あれはただの一般論で、私が王妃になるつもりなんかなかった。
「全部抑え込める。あなたに指一本触れさせない。全部、僕のものだ」
ラルフが腕に力を込めた。
「ただ、最後の懸念は……もし、これがバレたら、あなたは永遠に僕を信じてくれなくなると思ってた」
痛い……
「絶対に嫌われると思った。死んでも知られるわけにはいかない。どうして……」
「ラルフ……」
今、やっと、合点がいったことがあった。
それは何回聞いても、ラルフには何か隠し事があると感じていた理由だ。
……そして、私は、知っていた。
正確には知らなかったけど、なにかあると感じていた。
ラルフは笑って否定して、そして私を愛していると言って、僕を信用しないなんて酷すぎると私を責めたけれど、疑問が消えたわけではなかった。
だって、つじつまが合い過ぎる。全てにおいて。
「ラルフ……」
私は言った。彼の頬を撫でながら。私の愛しい人。
「許してほしい」
彼は指を絡めながら嘆願した。
いいえ。私は許す立場にない。
「あなたの許しが欲しい。他の誰かなんか関係ない」
王妃様はどうだった?
先代のベロス公爵は何をしようとした?
彼らは、まるで当たり前のように、ラルフに死刑を宣告した。
王妃様が言えば正しいのだ。全員にとって正しいやり方なんかない。
そして、王太子は生き返らない。
これは歴史なのだ。もう、覆らない。
ラルフは私がどう思うかを聞いている。
私は顔を上げて、宣告を待っているラルフに告げた。
「あなたと結婚できて嬉しい」
ラルフの澄んだ茶色の目が、驚いて私を見た。
「あなたが夫で嬉しい」
私はラルフを抱きしめた。
結婚できて嬉しい。私はあなたが好き。一緒じゃないと嫌なの。あなたは一人じゃない。私と一緒よ。
私は王太子殿下を愛していなかった。
愛しているのはあなたよ。
「秘密にしないで」
私は言った。
「でないと一緒に生きていけない」
私は彼を抱きしめた。
彼の体温が伝わってくる。彼の匂いがする。
ラルフと一緒だと、絶対平穏無事ではすまないだろうけど、彼となら私は一緒に戦える。
殿下と一緒だったら、私はきっと、殿下を背後にかばいながら矢面に立ち続けなければならなかった。それも孤独に。王妃様と同じ運命だ。
ラルフなら私を守ってくれる。
でも、今度は、私が彼を守る番だ。
「許してくれるの?」
許すも何もない。あなたと私は一緒に生きていくのよ。
そのせいで、あなたと結婚できた。私があなたとの結婚を喜ぶなら、それはあなたの救いになる。
私も望んだ結果なら、きっと罪は半分になるでしょう。私とあなたは共犯になる。
あなたを愛してるわ。
私は私を愛する人の味方なの。
「新しく来た侍女がかわいいなとか言うのは、黙ってていいのよ?」
「え? あ、ああ」
「だけど、さっきの話みたいな心にたまってしまうような話は話して」
私はラルフを抱きしめようとした。体格差があるのでうまくいかなかったけど。
「私は一緒に戦うわ」
ラルフは優しく私を引きはがした。そして顔を見た。
「あのね、オーガスタ」
ラルフが言った。
「でもね、あなたも、たいがい酷いよね」
「え? 私のどこが?」
「僕のこと、好きでしょう?」
正面切って言われて赤面した。
「それは……夫ですから」
「違うでしょう。好きでしょう。こんな男でよかったって思っているでしょ?」
こんな……複雑でややこしい……
「あなたの夢はすてきな男性と恋をすることだった。僕はそんな男性ではないかもしれないけど、あなたに一途で……」
そ、そうかな?
どっちかって言うと、人にはわからない魅力の持ち主だと思うの。
私にしか、きっとわからないと思うわ。だって、私だけのあなたですもの。他の人にはわからない。
そして、一途と言うより、ねえ、ラルフ、あなたの愛は執着と紙一重。
「あなたを守る為なら、どんなことでも実行する。だから、僕のことを好きだと言って。もっと言って。あなたこそ、秘密にしないで。さっきみたいに言って」
ラルフが抱きしめたまま私を揺さぶった。
「ずっとあなただけを大事にしたい。嫌われたくない。愛されたい。あなたに触れたい。僕だけを見て欲しい。不安になりたくないんだ」
ラルフは私にキスした。彼は国王じゃない。ただの面倒な男だ。
「さっきのアレキア人は始末しよう」
唐突に彼は提案した。
「えっ?」
「二人きりで話していたそうだね」
声の感じがいつもの陰湿な感じに戻って来た。始末する理由は、秘密を漏らすかも知れないから、ではないのね? 止めて……と言いかけたが、彼は私を抱きかかえたまま寝室のドアを開けた。
「バカでも愛することはできる。バカの愛は一途で愚直で心を打つかもしれない」
ラルフは言った。
「でも、だからって、そんなことでそいつに同情するな。僕の愛は狡猾かも知れない。やり方が違うかも知れない。だけど、あなたは、この世でたった一人の、僕の唯一なんだ」
「勝算はあった。殿下と僕は同じくらいおかしい。だが、僕はあなたをもう腕に抱いている。もう、手放すことなんか考えられなかった。生身の温かさを思うと、どんな犠牲を払っても手放せない。僕の頭じゃない。心だ」
「そんな危険な賭け……」
「賭けは勝った。そして、後はバレた時に黙らせるだけの力が欲しかった。あなたが王妃でも構わないと言ったから、王位に就いた。誰もが後押ししてくれた」
私はびっくりした。
「そんなことを言った覚えはないわ?」
ラルフは陰気そうな目つきで私を見た。
「言ったさ。二人で力を合わせれば、もっといろいろな事が出来るかもしれないと」
記憶の糸を手繰り寄せて、私は呆然とした。そんなことを言ったことがあるような気がする。でも、あれはただの一般論で、私が王妃になるつもりなんかなかった。
「全部抑え込める。あなたに指一本触れさせない。全部、僕のものだ」
ラルフが腕に力を込めた。
「ただ、最後の懸念は……もし、これがバレたら、あなたは永遠に僕を信じてくれなくなると思ってた」
痛い……
「絶対に嫌われると思った。死んでも知られるわけにはいかない。どうして……」
「ラルフ……」
今、やっと、合点がいったことがあった。
それは何回聞いても、ラルフには何か隠し事があると感じていた理由だ。
……そして、私は、知っていた。
正確には知らなかったけど、なにかあると感じていた。
ラルフは笑って否定して、そして私を愛していると言って、僕を信用しないなんて酷すぎると私を責めたけれど、疑問が消えたわけではなかった。
だって、つじつまが合い過ぎる。全てにおいて。
「ラルフ……」
私は言った。彼の頬を撫でながら。私の愛しい人。
「許してほしい」
彼は指を絡めながら嘆願した。
いいえ。私は許す立場にない。
「あなたの許しが欲しい。他の誰かなんか関係ない」
王妃様はどうだった?
先代のベロス公爵は何をしようとした?
彼らは、まるで当たり前のように、ラルフに死刑を宣告した。
王妃様が言えば正しいのだ。全員にとって正しいやり方なんかない。
そして、王太子は生き返らない。
これは歴史なのだ。もう、覆らない。
ラルフは私がどう思うかを聞いている。
私は顔を上げて、宣告を待っているラルフに告げた。
「あなたと結婚できて嬉しい」
ラルフの澄んだ茶色の目が、驚いて私を見た。
「あなたが夫で嬉しい」
私はラルフを抱きしめた。
結婚できて嬉しい。私はあなたが好き。一緒じゃないと嫌なの。あなたは一人じゃない。私と一緒よ。
私は王太子殿下を愛していなかった。
愛しているのはあなたよ。
「秘密にしないで」
私は言った。
「でないと一緒に生きていけない」
私は彼を抱きしめた。
彼の体温が伝わってくる。彼の匂いがする。
ラルフと一緒だと、絶対平穏無事ではすまないだろうけど、彼となら私は一緒に戦える。
殿下と一緒だったら、私はきっと、殿下を背後にかばいながら矢面に立ち続けなければならなかった。それも孤独に。王妃様と同じ運命だ。
ラルフなら私を守ってくれる。
でも、今度は、私が彼を守る番だ。
「許してくれるの?」
許すも何もない。あなたと私は一緒に生きていくのよ。
そのせいで、あなたと結婚できた。私があなたとの結婚を喜ぶなら、それはあなたの救いになる。
私も望んだ結果なら、きっと罪は半分になるでしょう。私とあなたは共犯になる。
あなたを愛してるわ。
私は私を愛する人の味方なの。
「新しく来た侍女がかわいいなとか言うのは、黙ってていいのよ?」
「え? あ、ああ」
「だけど、さっきの話みたいな心にたまってしまうような話は話して」
私はラルフを抱きしめようとした。体格差があるのでうまくいかなかったけど。
「私は一緒に戦うわ」
ラルフは優しく私を引きはがした。そして顔を見た。
「あのね、オーガスタ」
ラルフが言った。
「でもね、あなたも、たいがい酷いよね」
「え? 私のどこが?」
「僕のこと、好きでしょう?」
正面切って言われて赤面した。
「それは……夫ですから」
「違うでしょう。好きでしょう。こんな男でよかったって思っているでしょ?」
こんな……複雑でややこしい……
「あなたの夢はすてきな男性と恋をすることだった。僕はそんな男性ではないかもしれないけど、あなたに一途で……」
そ、そうかな?
どっちかって言うと、人にはわからない魅力の持ち主だと思うの。
私にしか、きっとわからないと思うわ。だって、私だけのあなたですもの。他の人にはわからない。
そして、一途と言うより、ねえ、ラルフ、あなたの愛は執着と紙一重。
「あなたを守る為なら、どんなことでも実行する。だから、僕のことを好きだと言って。もっと言って。あなたこそ、秘密にしないで。さっきみたいに言って」
ラルフが抱きしめたまま私を揺さぶった。
「ずっとあなただけを大事にしたい。嫌われたくない。愛されたい。あなたに触れたい。僕だけを見て欲しい。不安になりたくないんだ」
ラルフは私にキスした。彼は国王じゃない。ただの面倒な男だ。
「さっきのアレキア人は始末しよう」
唐突に彼は提案した。
「えっ?」
「二人きりで話していたそうだね」
声の感じがいつもの陰湿な感じに戻って来た。始末する理由は、秘密を漏らすかも知れないから、ではないのね? 止めて……と言いかけたが、彼は私を抱きかかえたまま寝室のドアを開けた。
「バカでも愛することはできる。バカの愛は一途で愚直で心を打つかもしれない」
ラルフは言った。
「でも、だからって、そんなことでそいつに同情するな。僕の愛は狡猾かも知れない。やり方が違うかも知れない。だけど、あなたは、この世でたった一人の、僕の唯一なんだ」
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