50 / 64
第50話 ラルフの戦勝自慢
しおりを挟む次の日、どこからか帰ってきたステラは俺達と合流した後にテッカンさんの工房へとやってきた。
「こ、これは――魔炎鋼竜の牙じゃねーか!」
「嘘、マジで!?」
「ステラ、これどうしたんだよ」
「少しツテがあってな。国庫に置いてあったから貰ってきた」
「そんな簡単に取って来れるのか」
「で、父ちゃん。これでコンテスト用の武器も作れるし、万々歳やん」
「……いや、これだけだと足りねぇ」
「はい?」
「ガッチンの野郎はこの竜の素材をある程度は自由に使えるはずだ。鱗や爪、髭や翼――竜は武具素材の宝庫と言ってもいい。だからこそあのアルマステンの解析が必要なんじゃ」
「その解析の進捗は?」
「まだ時間が欲しいが……だからステラとヨーイチには、もう1つだけ強い素材を探してきて欲しい」
「どういったモノを?」
「何らかのマテリアル鋼の最高品質のモノであれば……」
「アホか! そんな高いもんそうそう市場に出とるか!」
マテリアル鋼の事も調べたが、購入するにはやはり錬金術の工房へ直接出向いて頼むしかないか。
でも俺の手持ちじゃ全然足りなさそうだし、借金か……。
『マテリアル鋼は人為的な方法で精製する以外にも方法があります』
(え、どうするの?)
『先程のドワーフの言っていた通り、竜の肉体は天然のマテリアル鋼と言えます。生物由来の素材は、通常の金属と違い反発現象が起き難いとされます』
(でも竜なんかどこに居るか分かんないし……)
『かつて私の時代にマテリアル鋼を量産する計画がありました。岩や魔鉱石のみを食すよう改良し、体内で精製するモノでした。しかし精製には長い長い年月を掛けねばならず、計画は頓挫しました』
(ダメじゃん)
『しかしその時の実験生物が野に放たれています。当時の名前は魔鋼竜です。そしてそれは、この地にも居るはずです』
「居るはずって。テッカンさん知ってます? 岩や魔鉱石を好んで食べる生物……」
「あぁ? 岩や魔鉱石を好んで食べる……どっかで聞いた事ある特徴だな」
「いやそれ鉱山喰いやん」
「そうだ鉱山喰い……鉱山喰いか! その方法があったか!」
テッカンは部屋の奥へ引っ込み、1冊の分厚い本を持って帰ってきた。
「コイツは魔鉱石の取れる鉱山に住み着き、そこにある鉱石を根こそぎ食っちまう害獣だ。向こうから人を襲う事も無いし、1年の殆どを岩の中で寝て過ごす。そのあまりの硬さ故に一般冒険者じゃ文字通り歯が立たねぇから、討伐もほぼ無理な奴だ」
「……でも、ウチらドワーフなら別や」
「ルビィ。お前はすぐに他の工房の奴らに声を掛けてくれ、儂から話があると。鍛冶屋通りの広場だ」
「分かった!」
◇◆◇◆◇◆◇
それから数時間後の夜、広場にテッカンと共に俺達は居た。
テッカンの人望がどれほどあるのか――それはこれを見たら納得するしかない。
総勢100人ほどか。老若男女、ノーマン(人間)にドワーフや……エルフの職人なんてのも居るのか。
「テッカン! 帰って来てたんならすぐに声掛けろよな!」
「みんな済まなかったな! 儂が己の職人人生を掛けて王都へ行ったのは知っていると思うが、色々あって今はギリギリの所にいる」
ここでざわめく職人達――。
「その間にここの区域に大手武器工場が出来たせいで、鍛冶屋通りに今までの活気が失われつつある事も知っている」
それで妙に客が少なかったのか。
もしかして、俺が大通りで買った武器屋もそういう関係があったのかな。
「しかし、それを解決できる妙案がある。ドワーフの皆は昔……100年前くらいにやった鉱山狩りの事は覚えているな」
「おぉ、おぉ……まさかやるのか!?」
「今回も国に黙ってやる事にした。だから参加は強制じゃない……じゃが素材を持って帰る事が出来れば、鍛冶屋通りの新たな名物として売り出せる!」
「いいぜやろうぜ!」
「どうせ暇だしな!」
ドワーフ職人はみんな乗り気だ。他の職人、特に若い人らは良い顔をしてなかったが、反対する気は無さそうだ。
「出発は急だが明後日、西の鉱山へ行く!」
「「おぉー!!」」
◇◆◇◆◇◆◇
という事があって出発の日。
早朝、中央広場には30人ほどの職人達が集まっていた。各々の荷物を馬車に積み込み、計8台。これだけ多いと壮観である。
「って父ちゃんも着いて来るんか」
「当たり前だ。責任者の儂が行かんと示しが付かんだろう」
「解析は?」
「必要なもんは積んだ。現場近くに放棄された町があるはずだから、そこでやる」
「全部積み込んだ。出れるぞー!」
「よし。出発じゃー!!」
◇◆◇◆◇◆◇
西への街道を進むこと1日。途中から旧街道へ入りさらに1日進んだ所に目的の鉱山はあった。
道中、立て札で『この先、魔物が住み着いた鉱山。危険』と書かれているのをいくつか見つけるが、当然一団は気にせず進む。
町の入り口の封鎖を勝手に壊し、一団は街へと入った。
もう住民が居なくなり何年も経ったのだろう。中には朽ちてしまったような家屋もある。
かつてのメインストリートを通り、一団は鉱山の入り口へとやってきた。
「よしみんな。まずはお疲れ様じゃ! 本格的な探索は明日から行うから、各自準備を進めてくれ」
「「「うーすっ」」」
俺はキャンプ用のテントの設営をやったり、薪を集めるのを手伝ったりしていたのだが、何故だろう。どこからか視線を感じる気がする。
「ニーアはどうだ」
『不明。私のセンサーには、何も感知しておりません』
「……気のせいかな」
ちなみにニーアのセンサーはそこまで広くはない。俺を中心に200mくらいだ。あまり広すぎると拾う情報が増えすぎて処理が難しくなるらしい。
向こうの方では、既に職人達の笑い声が聞こえる。
「あの人達、今晩も酒ばっか飲むんだろうなぁ」
6
お気に入りに追加
1,041
あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風

人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる