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第15話 お家事情【公爵目線】
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ラルフが力尽きて、客間から出てくると、ちょうど公爵が起きてきて、書斎で待っているはずのラルフと打ち合わせのために寝室から出て来たところだった。
軽い足音がしてオーガスタが去って行く。
「ラルフ君、うちの娘に迫っていたのかね?」
公爵は意地悪そうに呼びかけた。
もともと、公爵は娘二人のうちのどちらかに、しっかりした婿を選んで、跡を継がせたいと考えていた。それも出来れば一族の中から選びたい。
ラルフはぴったりだった。
父の公爵は、オーガスタとラルフを結婚させる心づもりだった。ラルフが嫌がったら、無理強いする気はなかったが、どうやらそうではなかったらしい。まだ十三歳のオーガスタ嬢と今すぐ結婚したいと、十八歳のラルフから直談判された時は、公爵の方がドッキリさせられた。
だが、途中で話は変わってしまった。オーガスタが王太子妃候補に選ばれてしまったからだ。
公爵としては、娘が王太子妃の候補になってしまうことを手放しで喜んでいるわけではなかった。
公爵家は出来れば優秀な娘に継いで欲しい。それはオーガスタだった。
しかし、王家の王太子妃選択システムは優秀だった。どうあってもオーガスタは残ってしまう。
身分的にも、能力的にも。そして美しく健やかな娘だった。
王太子殿下の資質が不安なのは、オーガスタより、父の公爵の方がよく知っていた。
そんな男の嫁にやるのは惜しかったし、まずく回れば運命共同体でオーガスタにも累が及ぶ可能性があった。公爵家まで巻き込まれるかも知れない。だが、表立って反対できなかった。
ラルフの恋心は、王太子のせいで押しつぶされた。
かわいそうだった。幼いころからよく知るかわいい甥でもあったのだ。
だが、今、事情は変わった。
婚約破棄の報がもたらされた途端に、青年は公爵に再申し込みをした。
「オーガスタがなんと言うかな?」
もちろん、公爵に異存はなかった。
オーガスタとラルフ。
この二人なら、次代は安泰だ。うれしかった。
だが、ちょっと言ってみたかったのだ。愛娘の父として。
「まだ、何も伝えておりませんので」
「ライバルは多いぞ?」
「承知しております」
「オーガスタに選ばれるといいが。自信はあるのか?」
「まだ、これからですので」
「私は何も言わん。オーガスタ次第だな」
公爵はラルフが勝ちを占めると信じていた。
誰よりも近しく、誰よりも優秀なのだ。
……………。
それなのに、気のせいか、珍しくあの強心臓のラルフがしょんぼりしているように見える。
「えっ? 白い結婚?」
何言ってるの?と言いたげに公爵がまじまじとラルフを見つめる。
「どうしてそんなことになってるの?」
「殿下が再婚約を迫っておられるのです」
「いや、まあ、それはそうだけど」
「逃れるためには、結婚しなくてはなりません」
「まあ、それ以外方法はなさそうだな。でも、だったら、結婚できるんじゃないの?」
「私と結婚したくなさそうで……と言うか、誰ともまだ結婚したくないそうです」
「えッ?」
公爵はラルフを見やった。
特に女性に嫌われる要素があるようには見えない。女性に冷たいと言う評判はあったが、整った顔立ちと均整の取れた体つきだった。
「えーっ? それは困ったな。じゃあ誰か別の人を……」
かわいい娘に言いよる男は全員許せない系の父である公爵は、ラルフを虐めにかかった。
「いえ、でも、白い結婚なら認めてくださると」
「だから何よ、それ。そんな結婚ないでしょ?」
「とにかく、認めてくださったのだから、式の準備を!」
公爵は腹の中でニヤニヤしてしまった。
「オーガスタに好きだとちゃんと伝えたのか?」
「…………ええ。いえ。まあ、一応…………」
王太子との結婚は考えられない。
それはこの一連の騒動で明白になった。
オーガスタだけではない。エレノアが望んでも結婚はさせない。
一番最初にオーガスタが言っていた通り、賢明なオーガスタでも、手に負えないだろう。公爵は王太子を見放したのだ
軽い足音がしてオーガスタが去って行く。
「ラルフ君、うちの娘に迫っていたのかね?」
公爵は意地悪そうに呼びかけた。
もともと、公爵は娘二人のうちのどちらかに、しっかりした婿を選んで、跡を継がせたいと考えていた。それも出来れば一族の中から選びたい。
ラルフはぴったりだった。
父の公爵は、オーガスタとラルフを結婚させる心づもりだった。ラルフが嫌がったら、無理強いする気はなかったが、どうやらそうではなかったらしい。まだ十三歳のオーガスタ嬢と今すぐ結婚したいと、十八歳のラルフから直談判された時は、公爵の方がドッキリさせられた。
だが、途中で話は変わってしまった。オーガスタが王太子妃候補に選ばれてしまったからだ。
公爵としては、娘が王太子妃の候補になってしまうことを手放しで喜んでいるわけではなかった。
公爵家は出来れば優秀な娘に継いで欲しい。それはオーガスタだった。
しかし、王家の王太子妃選択システムは優秀だった。どうあってもオーガスタは残ってしまう。
身分的にも、能力的にも。そして美しく健やかな娘だった。
王太子殿下の資質が不安なのは、オーガスタより、父の公爵の方がよく知っていた。
そんな男の嫁にやるのは惜しかったし、まずく回れば運命共同体でオーガスタにも累が及ぶ可能性があった。公爵家まで巻き込まれるかも知れない。だが、表立って反対できなかった。
ラルフの恋心は、王太子のせいで押しつぶされた。
かわいそうだった。幼いころからよく知るかわいい甥でもあったのだ。
だが、今、事情は変わった。
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「オーガスタがなんと言うかな?」
もちろん、公爵に異存はなかった。
オーガスタとラルフ。
この二人なら、次代は安泰だ。うれしかった。
だが、ちょっと言ってみたかったのだ。愛娘の父として。
「まだ、何も伝えておりませんので」
「ライバルは多いぞ?」
「承知しております」
「オーガスタに選ばれるといいが。自信はあるのか?」
「まだ、これからですので」
「私は何も言わん。オーガスタ次第だな」
公爵はラルフが勝ちを占めると信じていた。
誰よりも近しく、誰よりも優秀なのだ。
……………。
それなのに、気のせいか、珍しくあの強心臓のラルフがしょんぼりしているように見える。
「えっ? 白い結婚?」
何言ってるの?と言いたげに公爵がまじまじとラルフを見つめる。
「どうしてそんなことになってるの?」
「殿下が再婚約を迫っておられるのです」
「いや、まあ、それはそうだけど」
「逃れるためには、結婚しなくてはなりません」
「まあ、それ以外方法はなさそうだな。でも、だったら、結婚できるんじゃないの?」
「私と結婚したくなさそうで……と言うか、誰ともまだ結婚したくないそうです」
「えッ?」
公爵はラルフを見やった。
特に女性に嫌われる要素があるようには見えない。女性に冷たいと言う評判はあったが、整った顔立ちと均整の取れた体つきだった。
「えーっ? それは困ったな。じゃあ誰か別の人を……」
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「いえ、でも、白い結婚なら認めてくださると」
「だから何よ、それ。そんな結婚ないでしょ?」
「とにかく、認めてくださったのだから、式の準備を!」
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「オーガスタに好きだとちゃんと伝えたのか?」
「…………ええ。いえ。まあ、一応…………」
王太子との結婚は考えられない。
それはこの一連の騒動で明白になった。
オーガスタだけではない。エレノアが望んでも結婚はさせない。
一番最初にオーガスタが言っていた通り、賢明なオーガスタでも、手に負えないだろう。公爵は王太子を見放したのだ
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