真実の愛を貫き通すと、意外と悲惨だったという話(相手が)~婚約破棄から始まる強引過ぎる白い結婚と、非常識すぎるネチ愛のいきさつ

buchi

文字の大きさ
上 下
15 / 64

第15話 お家事情【公爵目線】

しおりを挟む
 ラルフが力尽きて、客間から出てくると、ちょうど公爵が起きてきて、書斎で待っているはずのラルフと打ち合わせのために寝室から出て来たところだった。

 軽い足音がしてオーガスタが去って行く。

「ラルフ君、うちの娘に迫っていたのかね?」

 公爵は意地悪そうに呼びかけた。


 もともと、公爵は娘二人のうちのどちらかに、しっかりした婿を選んで、跡を継がせたいと考えていた。それも出来れば一族の中から選びたい。

 ラルフはぴったりだった。

 父の公爵は、オーガスタとラルフを結婚させる心づもりだった。ラルフが嫌がったら、無理強いする気はなかったが、どうやらそうではなかったらしい。まだ十三歳のオーガスタ嬢と今すぐ結婚したいと、十八歳のラルフから直談判された時は、公爵の方がドッキリさせられた。

 だが、途中で話は変わってしまった。オーガスタが王太子妃候補に選ばれてしまったからだ。

 公爵としては、娘が王太子妃の候補になってしまうことを手放しで喜んでいるわけではなかった。
 公爵家は出来れば優秀な娘に継いで欲しい。それはオーガスタだった。

 しかし、王家の王太子妃選択システムは優秀だった。どうあってもオーガスタは残ってしまう。
 身分的にも、能力的にも。そして美しく健やかな娘だった。

 王太子殿下の資質が不安なのは、オーガスタより、父の公爵の方がよく知っていた。
 そんな男の嫁にやるのは惜しかったし、まずく回れば運命共同体でオーガスタにも累が及ぶ可能性があった。公爵家まで巻き込まれるかも知れない。だが、表立って反対できなかった。

 ラルフの恋心は、王太子のせいで押しつぶされた。

 かわいそうだった。幼いころからよく知るかわいい甥でもあったのだ。



 だが、今、事情は変わった。

 婚約破棄の報がもたらされた途端に、青年は公爵に再申し込みをした。

「オーガスタがなんと言うかな?」

 もちろん、公爵に異存はなかった。

 オーガスタとラルフ。
 この二人なら、次代は安泰だ。うれしかった。

 だが、ちょっと言ってみたかったのだ。愛娘の父として。

「まだ、何も伝えておりませんので」

「ライバルは多いぞ?」

「承知しております」

「オーガスタに選ばれるといいが。自信はあるのか?」

「まだ、これからですので」

「私は何も言わん。オーガスタ次第だな」


 公爵はラルフが勝ちを占めると信じていた。

 誰よりも近しく、誰よりも優秀なのだ。



 ……………。

 それなのに、気のせいか、珍しくあの強心臓のラルフがしょんぼりしているように見える。

「えっ? 白い結婚?」

 何言ってるの?と言いたげに公爵がまじまじとラルフを見つめる。

「どうしてそんなことになってるの?」

「殿下が再婚約を迫っておられるのです」

「いや、まあ、それはそうだけど」

「逃れるためには、結婚しなくてはなりません」

「まあ、それ以外方法はなさそうだな。でも、だったら、結婚できるんじゃないの?」

「私と結婚したくなさそうで……と言うか、誰ともまだ結婚したくないそうです」

「えッ?」

 公爵はラルフを見やった。

 特に女性に嫌われる要素があるようには見えない。女性に冷たいと言う評判はあったが、整った顔立ちと均整の取れた体つきだった。

「えーっ? それは困ったな。じゃあ誰か別の人を……」

 かわいい娘に言いよる男は全員許せない系の父である公爵は、ラルフを虐めにかかった。

「いえ、でも、白い結婚なら認めてくださると」

「だから何よ、それ。そんな結婚ないでしょ?」

「とにかく、認めてくださったのだから、式の準備を!」

 公爵は腹の中でニヤニヤしてしまった。

「オーガスタに好きだとちゃんと伝えたのか?」

「…………ええ。いえ。まあ、一応…………」




 王太子との結婚は考えられない。

 それはこの一連の騒動で明白になった。

 オーガスタだけではない。エレノアが望んでも結婚はさせない。

 一番最初にオーガスタが言っていた通り、賢明なオーガスタでも、手に負えないだろう。公爵は王太子を見放したのだ
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

なりきり悪役令嬢 ~さあ断罪をすればよろしくってよ~

棚から現ナマ
恋愛
テンプレシリーズ第2弾。 レディリオ=ハノーマ公爵令嬢は、市井で人気の物語になぞられて、悪役令嬢と呼ばれている。レディリオは思う。弱い者いじめなんて下賤なことを私(わたくし)がするわけありませんのに。でも、よろしくってよ。断罪をされてあげますわ。私の婚約者であるアルデリット様と共に、私をケチョンケチョンにすればよろしくってよ! 斜め上に勘違いして、悪役令嬢になりきろうと頑張るけど、婚約者から溺愛されていて、結局無理なハッピーエンドな話。 全5話と短いですが、1話が長いです。(現ナマ比) 他サイトにも投稿しています。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

処理中です...