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第8話 抱きしめてみたかっただけ
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何がうまく行ったのかわからない。
「どういう意味なの?!」
ラルフは彼らの姿が見えなくなると、まわしていた腕を外した。
「オーガスタ嬢、急いで王都へ帰りましょう。このことを早くお父上の耳に入れなくては」
このことって、どれ?
王太子がリリアン・ベロス公爵令嬢に捕まってるってこと?
それとも、ラルフと私がただならぬ関係だと思われたこと?
「エレノア様にはぜひとも頑張ってもらわねばなりません。ベロス公爵令嬢に負けるわけにはいきません」
ラルフは強い調子で言った。
そ、そういうことね。
確かにとても重要だわ。
「抱きしめるだなんて、失礼いたしました。でも、あれでベロス様と殿下は私たちが秘密の恋人同士だと思ってくれるでしょう」
「困りますわ!」
私はラルフをにらんだ。冗談ではない。
「何のメリットがあるとおっしゃるの?」
ここはひとつ、小一時間は問い詰めたいところだが、時間がないらしい。ラルフはあっという間に馬上の人になった。そして、あごをしゃくって私にもウマに乗るよう促した。
公爵家令嬢をあごで使うんじゃない!
「早くウマに乗ってください。急いで別邸に戻って、馬車の支度をさせましょう。早く王都に戻らねば」
別邸に戻ると、ラルフは執事に言って馬車の準備をさせた。待つ間に大急ぎで手紙を口述させ、先に父に早馬を走らせた。私と一緒に馬車で王都に戻ると言う。
「あなたが一人でウマを走らせるのかと思っていましたわ。馬車よりウマの方が早いでしょう?」
「ですけれど、万一、見とがめられたら困ります。私とあなたは人知れずこっそり密会を楽しんでいる設定ですから」
狭い馬車の中でラルフは真面目な様子で言った。
なんじゃそりゃ。それに密会って……。
どういう設定なの。それにどうしてそんなものが必要なの?
いつも冷静で、王太子妃候補と言う身分を尊重して、私とは距離を置いて手さえ取らなかったラルフがいきなり抱いてきたので、どう考えていいのかわからなくなってしまった。
でも、馬車の中のラルフは全くいつも通りだった。
「ラルフ、私はあなたの恋人ではありませんし、勘違いされるのは困るわ」
ラルフは平然としている。私は余計に腹が立った。
「でもあの二人はあなたの嘘を真に受けたと思うわ。恋人同士だなんて噂になったら……」
「大丈夫ですよ。あの人たちの方が秘密は守りたい。殿下があんなに朝早く岩場なんかをうろついていたと言うことは、前の晩から二人で泊まっていたに違いない」
「私たちだって、同じ時間にウマに乗っていたわ。泊まったとは限らないと思うわ」
私は反論してみた。
「オーガスタ嬢と私は、王都の城砦の開門と同時に、出立したでしょう? 今日の出立なら、私たちより先に出た者はいないはずです。誰も私たちを追い抜いた者はいなかった。殿下は、おそらく夕べ、ベロス公爵の別邸に泊まったのだと思います」
さああっと、私の頭の中に地図が広がった。
ベロス公爵の別邸は、うちよりずっと先、岬の先の方にある。眺めは素晴らしいが、街道からは遠い。着くのに時間がかかる。この場所に来るのにも、時間がかかる。
ちなみに、王家もここに別邸を持っているが、王家の別邸にベロス嬢を連れ込んで泊るはずがない。
そんなことをしたら、あたかもベロス嬢が婚約者に内定したかのように受け取られてしまう。当然、王妃様にもバレるわけだし、そんなこと、あの王妃様が許すはずがない。
と言うことは泊るなら、ベロス家の別邸だ。
「ベロス家の別邸はずっと奥にあります。時間的に考えて、昨晩、彼らは泊っている」
はい。結論出ました。そう言うことですね。
私みたいな妙齢の女性とする話題なのかどうか、微妙だったが、私は今、誰かの恋愛関係を噂してるんではなくて、国家の参謀になったような気分だった。うんうんとうなずいた。
「それから、あなたの名誉の件について言えば、私は別邸なんか持ってません。あなたを私の別邸に誘い込んだなら大事かもしれませんが、あなたが自分の家の別邸にいたところで、誰がとがめるんです?」
ものすごくつまらなさそうに、ラルフが言った。
余りにもつまらなさそうだったので、魅力のない女性を抱きしめまでして、恋人のふりをしなくてはならなくなったラルフに申し訳ない気がしてきた。
王太子殿下はふんわりとしか抱きしめてくれたことがなかったから、なんだかゴリゴリ密着されて、赤面してしまった自分が恥ずかしい。
そもそも、王太子殿下が私にメロメロになっていれば、婚約破棄なんか起きなかったわけだし。(嫌だけど)
「一体、どうして殿下たちに私たちが秘密の恋人同士だと思い込ませたかったのですか?」
「エレノア嬢が悪いのですよ」
ラルフは怒っているようだった。
「リッチモンド家の地盤を危うくするような危険な行動だった。人望厚く、王太子妃にふさわしい姉上を陥れ、妃になるだけの能力もないくせに、かき回すだけかき回して、挙句の果てに今は王太子の寵を失っている」
……姉としては一言もありませんわ。
「そこを狙ったリリアン・ベロス嬢が女性の魅力を最大限に使って、殿下を虜にしようと画策しているところへ運悪く私たちが出会ってしまった。二日ほど前から殿下は姿を現していない」
さすがラルフ。王太子殿下ウォッチャーか。隠密みたいだわ。
「リリアン・ベロス嬢はまだ婚約者として認められたわけではないので、これがバレるとマズイ。評判が落ちて、王太子妃選びに不利に働くかもしれない。私たちに言いふらされるのはまずいと思っているはずです」
おお。なるほど。
「一方で、私たちと出会ってしまったのは、王太子殿下にとっても大失態。王太子ともあろう方が、警備の厳重な王城を離れて、女と泊まりに出かけた。王太子にふさわしい行動ではない。それも、身分の低い侍女が相手なら簡単になかったことに出来ますが、大公爵の令嬢が相手では、逆にベロス公爵に娘を傷物にしたと詰め寄られる可能性が出てきます。殿下も言いふらされたくはないでしょう」
なるほど。ラルフ、鋭いわ。
うっかり感心した。
でも、ベロス嬢より、王太子殿下の方が傷は深そうだけど。
ラルフは解説し続けた。なんとなく得意そうに見えるのは気のせいかしら。
「私たちは、あの二人の弱みを握ったわけですが、このままだと警戒され敵視されます。彼らも私たちの弱みを握ったと勘違いさせて油断させた方がいい。私たちの方はなんらやましいこともないから、自由に脅せます」
そういう訳か。
ラルフはちょっと愉快そうにクツクツと笑った。
一体、何するつもりなの?
私は何とも言えない顔でラルフを見つめた。
誰が王太子妃になるかは、政治力のバランスの問題だ。
どこかで見染めた男爵令嬢と成婚だなんて、夢のまた夢だ。現実にはあり得ない。
リッチモンド家の娘が婚約から遠ざかり、ベロス家の娘が妃になるなら、当然ベロス家の発言権が強まる。
だから、妃になる娘が優秀で美しいほど、実家は有利になる。王太子、のちの国王に対する影響力が大きいからだ。
「オーガスタ様なら、誰しもが納得の選択でございました」
本人以外はね。
「リリアン嬢など論外でした。ベロス公爵が狙っているなんて思っていませんでした。王太子妃の地位は、勢力争いの縮図です。オーガスタ様で決まっていたものを」
苦々しげにラルフは舌打ちした。
「つまり、お父さまの方の勝利のはずだったと」
残念そうに彼はうなずいてみせた。
「その通りです。エレノア様さえ、余計なことをなさらなければ……」
私はうつむいた。
私の魅力不足という意味合いもあるかも知れない。
「それに王太子殿下はなにも考えていらっしゃらない。姉から妹へいきなりの婚約破棄から、さらにリッチモンド家からの乗り換えです。裏切りです。どれだけの貴族が、どちらの陣営に付くか。見極めが必要です。それから説得も。殿下とベロス嬢が、私たちがしゃべらないと思って油断している間に急ぎましょう。オーガスタ嬢」
王都に自邸に近づくとラルフは言った。
「オーガスタ様は公爵邸に残ってパーティには出ないでください。私はパーティに参加して、及ばずながら様子をうかがってまいります」
「パーティに興味はないわ。だから出ません」
最初からその予定だった。国王陛下と王妃様の未練がましい様子から考えると、王太子殿下を押し付けられる危険性があった。ダンスを踊って来いとか。
まあ、リリアン嬢とお泊りまでしているなら、殿下はきっと私とダンスなんかお断りでしょうけど。
でも、私は初めて見た王太子殿下のさっきの表情を思い出した。
あれは妙な顔つきだった。何を考えたのだろう?
ラルフは満足そうにうなずいた。
「あなたが出れば、訳の分からない大勢の男が寄ってくるでしょうしね。王太子殿下まで鞍替えでもしてこようものなら、厄介極まりないし、ぜひご自宅でじっとしていただきたいです」
ん? どういう意味?
「でも、ラルフ、あなたもパーティに出て、殿下に見つかったらまずいのではないかしら?」
「殿下は私には関心がないから気が付かないと思いますね。私にはパーティには他の用事があるんです。ダンスの相手を探すのではなくね」
「それはそうね。わかったわ」
まるで、大きな政治のうねりの中に身を置いているようだった。
そんなことがあってはいけないのだろうけど、なんだかワクワクした。
「殿下は王家主催のパーティですから出席しないわけにはいかない。きっとベロス公爵令嬢も、何食わぬ顔で出席されるでしょう」
行かない方がいいと言われているから行かないけど、一体パーティでは何が起きるのでしょうね?
行かないと約束したから行かないけど、ちょっと見てみたいものだわ。
_______________________
サブタイトルが、ラルフさんの怪行動の理由。
「どういう意味なの?!」
ラルフは彼らの姿が見えなくなると、まわしていた腕を外した。
「オーガスタ嬢、急いで王都へ帰りましょう。このことを早くお父上の耳に入れなくては」
このことって、どれ?
王太子がリリアン・ベロス公爵令嬢に捕まってるってこと?
それとも、ラルフと私がただならぬ関係だと思われたこと?
「エレノア様にはぜひとも頑張ってもらわねばなりません。ベロス公爵令嬢に負けるわけにはいきません」
ラルフは強い調子で言った。
そ、そういうことね。
確かにとても重要だわ。
「抱きしめるだなんて、失礼いたしました。でも、あれでベロス様と殿下は私たちが秘密の恋人同士だと思ってくれるでしょう」
「困りますわ!」
私はラルフをにらんだ。冗談ではない。
「何のメリットがあるとおっしゃるの?」
ここはひとつ、小一時間は問い詰めたいところだが、時間がないらしい。ラルフはあっという間に馬上の人になった。そして、あごをしゃくって私にもウマに乗るよう促した。
公爵家令嬢をあごで使うんじゃない!
「早くウマに乗ってください。急いで別邸に戻って、馬車の支度をさせましょう。早く王都に戻らねば」
別邸に戻ると、ラルフは執事に言って馬車の準備をさせた。待つ間に大急ぎで手紙を口述させ、先に父に早馬を走らせた。私と一緒に馬車で王都に戻ると言う。
「あなたが一人でウマを走らせるのかと思っていましたわ。馬車よりウマの方が早いでしょう?」
「ですけれど、万一、見とがめられたら困ります。私とあなたは人知れずこっそり密会を楽しんでいる設定ですから」
狭い馬車の中でラルフは真面目な様子で言った。
なんじゃそりゃ。それに密会って……。
どういう設定なの。それにどうしてそんなものが必要なの?
いつも冷静で、王太子妃候補と言う身分を尊重して、私とは距離を置いて手さえ取らなかったラルフがいきなり抱いてきたので、どう考えていいのかわからなくなってしまった。
でも、馬車の中のラルフは全くいつも通りだった。
「ラルフ、私はあなたの恋人ではありませんし、勘違いされるのは困るわ」
ラルフは平然としている。私は余計に腹が立った。
「でもあの二人はあなたの嘘を真に受けたと思うわ。恋人同士だなんて噂になったら……」
「大丈夫ですよ。あの人たちの方が秘密は守りたい。殿下があんなに朝早く岩場なんかをうろついていたと言うことは、前の晩から二人で泊まっていたに違いない」
「私たちだって、同じ時間にウマに乗っていたわ。泊まったとは限らないと思うわ」
私は反論してみた。
「オーガスタ嬢と私は、王都の城砦の開門と同時に、出立したでしょう? 今日の出立なら、私たちより先に出た者はいないはずです。誰も私たちを追い抜いた者はいなかった。殿下は、おそらく夕べ、ベロス公爵の別邸に泊まったのだと思います」
さああっと、私の頭の中に地図が広がった。
ベロス公爵の別邸は、うちよりずっと先、岬の先の方にある。眺めは素晴らしいが、街道からは遠い。着くのに時間がかかる。この場所に来るのにも、時間がかかる。
ちなみに、王家もここに別邸を持っているが、王家の別邸にベロス嬢を連れ込んで泊るはずがない。
そんなことをしたら、あたかもベロス嬢が婚約者に内定したかのように受け取られてしまう。当然、王妃様にもバレるわけだし、そんなこと、あの王妃様が許すはずがない。
と言うことは泊るなら、ベロス家の別邸だ。
「ベロス家の別邸はずっと奥にあります。時間的に考えて、昨晩、彼らは泊っている」
はい。結論出ました。そう言うことですね。
私みたいな妙齢の女性とする話題なのかどうか、微妙だったが、私は今、誰かの恋愛関係を噂してるんではなくて、国家の参謀になったような気分だった。うんうんとうなずいた。
「それから、あなたの名誉の件について言えば、私は別邸なんか持ってません。あなたを私の別邸に誘い込んだなら大事かもしれませんが、あなたが自分の家の別邸にいたところで、誰がとがめるんです?」
ものすごくつまらなさそうに、ラルフが言った。
余りにもつまらなさそうだったので、魅力のない女性を抱きしめまでして、恋人のふりをしなくてはならなくなったラルフに申し訳ない気がしてきた。
王太子殿下はふんわりとしか抱きしめてくれたことがなかったから、なんだかゴリゴリ密着されて、赤面してしまった自分が恥ずかしい。
そもそも、王太子殿下が私にメロメロになっていれば、婚約破棄なんか起きなかったわけだし。(嫌だけど)
「一体、どうして殿下たちに私たちが秘密の恋人同士だと思い込ませたかったのですか?」
「エレノア嬢が悪いのですよ」
ラルフは怒っているようだった。
「リッチモンド家の地盤を危うくするような危険な行動だった。人望厚く、王太子妃にふさわしい姉上を陥れ、妃になるだけの能力もないくせに、かき回すだけかき回して、挙句の果てに今は王太子の寵を失っている」
……姉としては一言もありませんわ。
「そこを狙ったリリアン・ベロス嬢が女性の魅力を最大限に使って、殿下を虜にしようと画策しているところへ運悪く私たちが出会ってしまった。二日ほど前から殿下は姿を現していない」
さすがラルフ。王太子殿下ウォッチャーか。隠密みたいだわ。
「リリアン・ベロス嬢はまだ婚約者として認められたわけではないので、これがバレるとマズイ。評判が落ちて、王太子妃選びに不利に働くかもしれない。私たちに言いふらされるのはまずいと思っているはずです」
おお。なるほど。
「一方で、私たちと出会ってしまったのは、王太子殿下にとっても大失態。王太子ともあろう方が、警備の厳重な王城を離れて、女と泊まりに出かけた。王太子にふさわしい行動ではない。それも、身分の低い侍女が相手なら簡単になかったことに出来ますが、大公爵の令嬢が相手では、逆にベロス公爵に娘を傷物にしたと詰め寄られる可能性が出てきます。殿下も言いふらされたくはないでしょう」
なるほど。ラルフ、鋭いわ。
うっかり感心した。
でも、ベロス嬢より、王太子殿下の方が傷は深そうだけど。
ラルフは解説し続けた。なんとなく得意そうに見えるのは気のせいかしら。
「私たちは、あの二人の弱みを握ったわけですが、このままだと警戒され敵視されます。彼らも私たちの弱みを握ったと勘違いさせて油断させた方がいい。私たちの方はなんらやましいこともないから、自由に脅せます」
そういう訳か。
ラルフはちょっと愉快そうにクツクツと笑った。
一体、何するつもりなの?
私は何とも言えない顔でラルフを見つめた。
誰が王太子妃になるかは、政治力のバランスの問題だ。
どこかで見染めた男爵令嬢と成婚だなんて、夢のまた夢だ。現実にはあり得ない。
リッチモンド家の娘が婚約から遠ざかり、ベロス家の娘が妃になるなら、当然ベロス家の発言権が強まる。
だから、妃になる娘が優秀で美しいほど、実家は有利になる。王太子、のちの国王に対する影響力が大きいからだ。
「オーガスタ様なら、誰しもが納得の選択でございました」
本人以外はね。
「リリアン嬢など論外でした。ベロス公爵が狙っているなんて思っていませんでした。王太子妃の地位は、勢力争いの縮図です。オーガスタ様で決まっていたものを」
苦々しげにラルフは舌打ちした。
「つまり、お父さまの方の勝利のはずだったと」
残念そうに彼はうなずいてみせた。
「その通りです。エレノア様さえ、余計なことをなさらなければ……」
私はうつむいた。
私の魅力不足という意味合いもあるかも知れない。
「それに王太子殿下はなにも考えていらっしゃらない。姉から妹へいきなりの婚約破棄から、さらにリッチモンド家からの乗り換えです。裏切りです。どれだけの貴族が、どちらの陣営に付くか。見極めが必要です。それから説得も。殿下とベロス嬢が、私たちがしゃべらないと思って油断している間に急ぎましょう。オーガスタ嬢」
王都に自邸に近づくとラルフは言った。
「オーガスタ様は公爵邸に残ってパーティには出ないでください。私はパーティに参加して、及ばずながら様子をうかがってまいります」
「パーティに興味はないわ。だから出ません」
最初からその予定だった。国王陛下と王妃様の未練がましい様子から考えると、王太子殿下を押し付けられる危険性があった。ダンスを踊って来いとか。
まあ、リリアン嬢とお泊りまでしているなら、殿下はきっと私とダンスなんかお断りでしょうけど。
でも、私は初めて見た王太子殿下のさっきの表情を思い出した。
あれは妙な顔つきだった。何を考えたのだろう?
ラルフは満足そうにうなずいた。
「あなたが出れば、訳の分からない大勢の男が寄ってくるでしょうしね。王太子殿下まで鞍替えでもしてこようものなら、厄介極まりないし、ぜひご自宅でじっとしていただきたいです」
ん? どういう意味?
「でも、ラルフ、あなたもパーティに出て、殿下に見つかったらまずいのではないかしら?」
「殿下は私には関心がないから気が付かないと思いますね。私にはパーティには他の用事があるんです。ダンスの相手を探すのではなくね」
「それはそうね。わかったわ」
まるで、大きな政治のうねりの中に身を置いているようだった。
そんなことがあってはいけないのだろうけど、なんだかワクワクした。
「殿下は王家主催のパーティですから出席しないわけにはいかない。きっとベロス公爵令嬢も、何食わぬ顔で出席されるでしょう」
行かない方がいいと言われているから行かないけど、一体パーティでは何が起きるのでしょうね?
行かないと約束したから行かないけど、ちょっと見てみたいものだわ。
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