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第5話 大モテ
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王太子殿下との婚約が潰れてからと言うもの、私は大モテ状態になっていた。
山ほど申し込みが来ていた。
大体、妹に来ていたものがあて先を変えただけだけど。
殿下が若い令嬢たちに追い回されていたなら、私もまたいろいろな貴公子たちに追いかけられていた。
なぜなら、当家は姉妹が二人のみ。どちらかが王太子妃になるなら、残りが公爵家を継ぐことになる。
女公爵と言うのはいないが(事情によってはあるが)この場合、父が健在なので、私が早めに結婚し、男の子が生まれれば一代飛ばして継げばよい。子どもが大きくなるまでの間は、実権は私と夫が握ることになる。
公爵家の身分と莫大な富を手にすることが出来る。
私は、超優良物件になったのだ。
実は、社交界に出たばかりの頃のエレノアが、ものすごく多くの男性から追いかけまわされていた理由もここにある。
本人がかわいらしいと言うことも、もちろんあったのだが、それ以上に事情があった。大公爵家の跡継ぎと言う魅力。
エレノアは、素直でいい子なのだが、どっちかと言うと頭が回る方ではない。そのまま自分はモテるのだと思い込んだらしい。
相手の男に関心がある様子をすれば、相手は大喜びしてくれる、そんな成功体験が積み重なって、王太子殿下にしなだれかかることになったのだろう。
どんな男でも自分の魅力の前にはチョロイもんだと言う認識を持っていたのじゃないかと、私は疑っていた。
もちろん、その男の中に王太子殿下も含まれる。
姉の婚約者と言うことで、殿下に近づきやすい利点もあった。
ま、勘違いだけどね。でも、少なくとも途中まではうまく行った。
今、彼女は大変だと思う。
何しろ、殿下が、婚約者のすげ替えは利くものだと言うことを学習してしまったのだ。
教えこんだのはエレノア自身だが、その結果、彼女は苦労している。
婚約者をエレノアに変更するはずだったのだが、婚約者の選定は事実上白紙化してしまって、大量のライバルを呼び込んでしまったのだ。
美人に間違いないが、男に媚びるだけでは芸がなさすぎる。
「ツンもあっていいと思うけど、デレしかないしね」
私はつぶやいた。
また、公爵家の跡継ぎと言う看板を失ってしまった彼女に、以前のような栄光はない。男から熱心に言い寄られるようなことはないだろう。(そもそも王太子殿下に対して不敬だし)
残念ながら、その栄は私が今、担っている。
父が王太子妃にならないなら、後継ぎは絶対にオーガスタだと頑張っているからだ。
「オーガスタがその気になって、王太子殿下に甘えてくれれば、こんなことにならなかったのに……」
母はため息をついた。
「ですけれども、お母さま。あの時、殿下はエレノアに夢中でしたから。それにエレノアだって絶対に納得しませんでしたわ」
あの婚約破棄から数週間。
現在のところ、エレノアと殿下の婚約は、宙に浮いている。
別に家と結婚する訳ではないと言うのが国王陛下の言い分だ。むしろ、真実の愛を重視したいと。
もっともくさい言い分だが、現在のところ、王太子殿下の真実の愛は迷走中なのだ。
本来、エレノアのものだったはずなのに。
「心より愛する人を得て幸せな生活を送ることは、人生において大切なことだとよく理解している」
愛妾が五人いる国王陛下は重々しく語った。
国王陛下は人の五倍幸せなのかしら。
「だが、同時に王太子妃には果たすべき役割が多く、優れた資質が望まれる。オーガスタ嬢はそのすべてを満たしていた上、王太子も好意を抱いていたので迷うことなく婚約者として決定するところであったが……」
国王陛下は残念そうだった。
「オーガスタ嬢には信用が置けたが、正直、今の候補には……」
陛下は私を王宮に呼び寄せた。
一体何の用事だろう。今更私が国王陛下と話さなければならない用件など、何もないはずだ。
表向きは婚約破棄のお詫びと言うことだったが、ことの発端は当家のエレノアなので、王家だけに責任があるわけではない。
国王陛下だって、昔は王太子殿下だった。婚約者問題ではそれなりにもめたに違いない。
そして、有能な妃の必要性は身にしみてわかっている。
妃殿下が無能だと、国王陛下の遊ぶ時間が大幅に削られてしまうのだ。
「最終、周回回ってオーガスタ嬢で決着してくれるのもいいのではないかと……」
国王陛下が言いにくそうに持ち出したのは、再婚約の打診だった。
今日、呼ばれたのは、その用事なの!?
今まで、王太子妃になることしか考えていなかったけど、なってみると公爵家の跡取り娘の方が断然楽。天国と地獄くらい違う。
だって、好き放題にこっちが男を選ぶのですよ? 失礼があってはならないとか、ご機嫌を損ねてはいけないとか、常に下手に出て、気を使って暮らすことを考えたら、気を使ってもらう方が絶対楽に決まってる。
こうなってみるまで考えたこともなかったけど。
私は心の底で、エレノアに感謝していた。国王陛下のご希望なんか、絶対に聞かないんだから。
「願ってもかなわないこともございますわ。残念ながら、王太子殿下は真実の愛を探しておられます。尊いことだと存じます」
殿下の女遊びのどこが尊いのかさっぱりわからなかったが、別にこれくらい言ってもいいだろう。
「次回のダンスの時に、オーガスタ嬢を誘うようアレックスに命じておいた」
「とんでもございません。一度、婚約者候補から外れた身でございます。何より婚約者候補のリストの中には妹のエレノアが入っております。他家の手前もございます。はばかりながら遠慮させていただきとう存じます」
「一度命じた故、撤回はままならん」
「殿下も公爵家の姉妹なら、どちらでもよいとおっしゃられてエレノアを候補に入れられたので、ぜひともエレノアにお恵みをお願いしとう存じます」
要は殿下に責任を取れと言っているわけだ。
陛下は黙り、そばに一緒に控えていた母も頭を低く下げた。二人でエレノアを激推しして帰ってきた。
ここまでエレノアのために頑張ったと言うのに……家に帰るとエレノアがかんしゃくを起こしていた。
山ほど申し込みが来ていた。
大体、妹に来ていたものがあて先を変えただけだけど。
殿下が若い令嬢たちに追い回されていたなら、私もまたいろいろな貴公子たちに追いかけられていた。
なぜなら、当家は姉妹が二人のみ。どちらかが王太子妃になるなら、残りが公爵家を継ぐことになる。
女公爵と言うのはいないが(事情によってはあるが)この場合、父が健在なので、私が早めに結婚し、男の子が生まれれば一代飛ばして継げばよい。子どもが大きくなるまでの間は、実権は私と夫が握ることになる。
公爵家の身分と莫大な富を手にすることが出来る。
私は、超優良物件になったのだ。
実は、社交界に出たばかりの頃のエレノアが、ものすごく多くの男性から追いかけまわされていた理由もここにある。
本人がかわいらしいと言うことも、もちろんあったのだが、それ以上に事情があった。大公爵家の跡継ぎと言う魅力。
エレノアは、素直でいい子なのだが、どっちかと言うと頭が回る方ではない。そのまま自分はモテるのだと思い込んだらしい。
相手の男に関心がある様子をすれば、相手は大喜びしてくれる、そんな成功体験が積み重なって、王太子殿下にしなだれかかることになったのだろう。
どんな男でも自分の魅力の前にはチョロイもんだと言う認識を持っていたのじゃないかと、私は疑っていた。
もちろん、その男の中に王太子殿下も含まれる。
姉の婚約者と言うことで、殿下に近づきやすい利点もあった。
ま、勘違いだけどね。でも、少なくとも途中まではうまく行った。
今、彼女は大変だと思う。
何しろ、殿下が、婚約者のすげ替えは利くものだと言うことを学習してしまったのだ。
教えこんだのはエレノア自身だが、その結果、彼女は苦労している。
婚約者をエレノアに変更するはずだったのだが、婚約者の選定は事実上白紙化してしまって、大量のライバルを呼び込んでしまったのだ。
美人に間違いないが、男に媚びるだけでは芸がなさすぎる。
「ツンもあっていいと思うけど、デレしかないしね」
私はつぶやいた。
また、公爵家の跡継ぎと言う看板を失ってしまった彼女に、以前のような栄光はない。男から熱心に言い寄られるようなことはないだろう。(そもそも王太子殿下に対して不敬だし)
残念ながら、その栄は私が今、担っている。
父が王太子妃にならないなら、後継ぎは絶対にオーガスタだと頑張っているからだ。
「オーガスタがその気になって、王太子殿下に甘えてくれれば、こんなことにならなかったのに……」
母はため息をついた。
「ですけれども、お母さま。あの時、殿下はエレノアに夢中でしたから。それにエレノアだって絶対に納得しませんでしたわ」
あの婚約破棄から数週間。
現在のところ、エレノアと殿下の婚約は、宙に浮いている。
別に家と結婚する訳ではないと言うのが国王陛下の言い分だ。むしろ、真実の愛を重視したいと。
もっともくさい言い分だが、現在のところ、王太子殿下の真実の愛は迷走中なのだ。
本来、エレノアのものだったはずなのに。
「心より愛する人を得て幸せな生活を送ることは、人生において大切なことだとよく理解している」
愛妾が五人いる国王陛下は重々しく語った。
国王陛下は人の五倍幸せなのかしら。
「だが、同時に王太子妃には果たすべき役割が多く、優れた資質が望まれる。オーガスタ嬢はそのすべてを満たしていた上、王太子も好意を抱いていたので迷うことなく婚約者として決定するところであったが……」
国王陛下は残念そうだった。
「オーガスタ嬢には信用が置けたが、正直、今の候補には……」
陛下は私を王宮に呼び寄せた。
一体何の用事だろう。今更私が国王陛下と話さなければならない用件など、何もないはずだ。
表向きは婚約破棄のお詫びと言うことだったが、ことの発端は当家のエレノアなので、王家だけに責任があるわけではない。
国王陛下だって、昔は王太子殿下だった。婚約者問題ではそれなりにもめたに違いない。
そして、有能な妃の必要性は身にしみてわかっている。
妃殿下が無能だと、国王陛下の遊ぶ時間が大幅に削られてしまうのだ。
「最終、周回回ってオーガスタ嬢で決着してくれるのもいいのではないかと……」
国王陛下が言いにくそうに持ち出したのは、再婚約の打診だった。
今日、呼ばれたのは、その用事なの!?
今まで、王太子妃になることしか考えていなかったけど、なってみると公爵家の跡取り娘の方が断然楽。天国と地獄くらい違う。
だって、好き放題にこっちが男を選ぶのですよ? 失礼があってはならないとか、ご機嫌を損ねてはいけないとか、常に下手に出て、気を使って暮らすことを考えたら、気を使ってもらう方が絶対楽に決まってる。
こうなってみるまで考えたこともなかったけど。
私は心の底で、エレノアに感謝していた。国王陛下のご希望なんか、絶対に聞かないんだから。
「願ってもかなわないこともございますわ。残念ながら、王太子殿下は真実の愛を探しておられます。尊いことだと存じます」
殿下の女遊びのどこが尊いのかさっぱりわからなかったが、別にこれくらい言ってもいいだろう。
「次回のダンスの時に、オーガスタ嬢を誘うようアレックスに命じておいた」
「とんでもございません。一度、婚約者候補から外れた身でございます。何より婚約者候補のリストの中には妹のエレノアが入っております。他家の手前もございます。はばかりながら遠慮させていただきとう存じます」
「一度命じた故、撤回はままならん」
「殿下も公爵家の姉妹なら、どちらでもよいとおっしゃられてエレノアを候補に入れられたので、ぜひともエレノアにお恵みをお願いしとう存じます」
要は殿下に責任を取れと言っているわけだ。
陛下は黙り、そばに一緒に控えていた母も頭を低く下げた。二人でエレノアを激推しして帰ってきた。
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