15 / 16
第15話 幸せな結婚と義母と義妹のその後
しおりを挟む
婚約は発表され、私はアーノルド様に伴われて、夜会に出るようになった。
リンカン伯爵家も父も、ほっとした様子だった。
「収まるところに収まったわ」
リンカン伯爵夫人はとても嬉しそうだった。
「一時はどうなる事かと思ったけれど、これでもう安心ね」
でも、一番ほっとしたのは私だった。
アーノルド様なら安心だ。
世界中に私しかいないと言っているみたいな彼の目を見ると、とても恥ずかしい……けれど、ドキドキふわふわした不思議な気持ちになる。
アーノルド様を結婚申込に走らせた伯母のギブゾン夫人には、感謝している。
あれって、はっきりしない私たちに喝を入れたってことよね。
あんなことのあった我が家から、嫁を欲しいだなんて思う人はいないと思う。だから、私は遠慮気味で、結婚に向けて積極的に動けなかった。伯母様はそんな私のために、アーノルド様を、いわば煽ってくださったんだわ。
「違うよ。僕が頼んだんだよ。あなたの意向を聞いてほしいって」
婚約者のアーノルド様が身をかがめて囁いた。
「だって、本当に結構な数の家から、あなたとの婚約の打診があったらしいんだ」
本当なの?
あら、でも、なぜ、知っているの? 私が知らないのに?
「だってハンナが教えてくれるんだもん。伯爵の書斎に申込書が積んであるって」
ええ?
流れるように結婚式まで順調に運ばれていって、なんだか順調過ぎて夢のようだった。
「愛しているよ。アマリア。よかった」
婚約後は、毎日のようにアーノルド様は私の邸に来てくれたし、二人で街で買い物やレストランの食事やお芝居も見に行った。
娘の幸せな結婚は、父の評判に良い影響があったと思うし。
自己満足かな。
そうこうしているうちに、結婚式の日を迎えた。
「おめでとう! アマリア!」
「よかった! 本当に良かったわ」
みんなから祝福された結婚が、こんなにも嬉しいとは思っていなかった。
ハンナを始めとした使用人たちも心を込めて、世話をしてくれた。
リンカン伯爵家の人たちは、手放しで喜んでくれていたし、あまり感情を表に出さない父も、これまでのことを思ってか複雑そうだったが、よかったと言ってくれた。
「いや、あれは娘を手放したくないだけだ」
アーノルド様が言った。
「僕にはわかる。それくらいなら、もっと大事にすればよかったんだ」
「でも、アーノルド様」
「アーノルド」
優しく訂正された。
「様はいらない。前も言ったよね」
「でも、アーノルド様。父は出来るだけ頑張ったのですわ。自邸にいることも少ないし、不器用な方ですもの」
「いーや。ダメだ。あなたに嫌な思いをさせたのに。今日からは僕が君を守る」
一方で、義母のジョアンナは詐欺罪で、北のはずれの刑務所に入れられた。厳しい刑務所なのだと聞いた。これまでの暮らしとは、雲泥の差だろう。改悛してくれればいいと思う。
ただし、娘のグロリアは無罪だった。
彼女は、このなりすましについては、何も知らなかったし、何か企んだり実行したわけではないからだ。
釈放されたグロリアは、早速、ダラム伯爵家にやってきたけれど、ハンナが家に入れなかった。
「あなたが、この家になんの関係があるって言うんですか? よくこの家に顔を出せたものですわ!」
グロリアは元の使用人のところにも行ったらしい。だが、もっと酷いあしらいを受けたらしかった。
グロリアをチヤホヤしていた元の使用人たちは、グロリアを恨んでいた。
グロリアのせいで、本当の女主人の私から悪意を持たれてしまい、仕事を失ったのだ。
本気で私の悪口を言って回った連中は、もう貴族の家でなんか雇ってもらえなかった。主人の悪口を好んで言う使用人など、雇えない。
彼らがグロリアを歓迎する理由なんかない。
どこでも、冷たいあしらいを受けたらしく、リンカン伯爵家を頼ってやってきたのには驚いた。
完全な赤の他人である。
それどころか、正直、加害者なのだ。
「家に入れてはいけません」
私は言った。
「ご姉妹だと言ってますが?」
事情を知らない新しい門番が伝えにきて、古参の女中に張り飛ばされていた。
「追い払いなさい!」
その後、どうなったのか知らない。
どこかで一生懸命働いて、幸せになればいいと思う。
リンカン伯爵家も父も、ほっとした様子だった。
「収まるところに収まったわ」
リンカン伯爵夫人はとても嬉しそうだった。
「一時はどうなる事かと思ったけれど、これでもう安心ね」
でも、一番ほっとしたのは私だった。
アーノルド様なら安心だ。
世界中に私しかいないと言っているみたいな彼の目を見ると、とても恥ずかしい……けれど、ドキドキふわふわした不思議な気持ちになる。
アーノルド様を結婚申込に走らせた伯母のギブゾン夫人には、感謝している。
あれって、はっきりしない私たちに喝を入れたってことよね。
あんなことのあった我が家から、嫁を欲しいだなんて思う人はいないと思う。だから、私は遠慮気味で、結婚に向けて積極的に動けなかった。伯母様はそんな私のために、アーノルド様を、いわば煽ってくださったんだわ。
「違うよ。僕が頼んだんだよ。あなたの意向を聞いてほしいって」
婚約者のアーノルド様が身をかがめて囁いた。
「だって、本当に結構な数の家から、あなたとの婚約の打診があったらしいんだ」
本当なの?
あら、でも、なぜ、知っているの? 私が知らないのに?
「だってハンナが教えてくれるんだもん。伯爵の書斎に申込書が積んであるって」
ええ?
流れるように結婚式まで順調に運ばれていって、なんだか順調過ぎて夢のようだった。
「愛しているよ。アマリア。よかった」
婚約後は、毎日のようにアーノルド様は私の邸に来てくれたし、二人で街で買い物やレストランの食事やお芝居も見に行った。
娘の幸せな結婚は、父の評判に良い影響があったと思うし。
自己満足かな。
そうこうしているうちに、結婚式の日を迎えた。
「おめでとう! アマリア!」
「よかった! 本当に良かったわ」
みんなから祝福された結婚が、こんなにも嬉しいとは思っていなかった。
ハンナを始めとした使用人たちも心を込めて、世話をしてくれた。
リンカン伯爵家の人たちは、手放しで喜んでくれていたし、あまり感情を表に出さない父も、これまでのことを思ってか複雑そうだったが、よかったと言ってくれた。
「いや、あれは娘を手放したくないだけだ」
アーノルド様が言った。
「僕にはわかる。それくらいなら、もっと大事にすればよかったんだ」
「でも、アーノルド様」
「アーノルド」
優しく訂正された。
「様はいらない。前も言ったよね」
「でも、アーノルド様。父は出来るだけ頑張ったのですわ。自邸にいることも少ないし、不器用な方ですもの」
「いーや。ダメだ。あなたに嫌な思いをさせたのに。今日からは僕が君を守る」
一方で、義母のジョアンナは詐欺罪で、北のはずれの刑務所に入れられた。厳しい刑務所なのだと聞いた。これまでの暮らしとは、雲泥の差だろう。改悛してくれればいいと思う。
ただし、娘のグロリアは無罪だった。
彼女は、このなりすましについては、何も知らなかったし、何か企んだり実行したわけではないからだ。
釈放されたグロリアは、早速、ダラム伯爵家にやってきたけれど、ハンナが家に入れなかった。
「あなたが、この家になんの関係があるって言うんですか? よくこの家に顔を出せたものですわ!」
グロリアは元の使用人のところにも行ったらしい。だが、もっと酷いあしらいを受けたらしかった。
グロリアをチヤホヤしていた元の使用人たちは、グロリアを恨んでいた。
グロリアのせいで、本当の女主人の私から悪意を持たれてしまい、仕事を失ったのだ。
本気で私の悪口を言って回った連中は、もう貴族の家でなんか雇ってもらえなかった。主人の悪口を好んで言う使用人など、雇えない。
彼らがグロリアを歓迎する理由なんかない。
どこでも、冷たいあしらいを受けたらしく、リンカン伯爵家を頼ってやってきたのには驚いた。
完全な赤の他人である。
それどころか、正直、加害者なのだ。
「家に入れてはいけません」
私は言った。
「ご姉妹だと言ってますが?」
事情を知らない新しい門番が伝えにきて、古参の女中に張り飛ばされていた。
「追い払いなさい!」
その後、どうなったのか知らない。
どこかで一生懸命働いて、幸せになればいいと思う。
48
お気に入りに追加
2,917
あなたにおすすめの小説

バカ二人のおかげで優秀な婿と結婚できるお話
下菊みこと
恋愛
バカ二人が自滅するだけ。ゴミを一気に処分できてスッキリするお話。
ルルシアは義妹と自分の婚約者が火遊びをして、子供が出来たと知る。ルルシアは二人の勘違いを正しつつも、二人のお望み通り婚約者のトレードはしてあげる。結果、本来より良い婿を手に入れることになる。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】賢く立ち回ったと考えているのかもしれませんが、信用を失ったらどうなるのか想像できなかったのでしょうか?
白草まる
恋愛
領地の発展のために共同で事業を行うことになり、両家の繋がりを深めるために婚約することになったアマーリアとモーリッツ。
しかしモーリッツは別の女性を選びアマーリアに婚約破棄を告げた。
事業は履行するが婚約破棄した場合のペナルティは決められていないから問題ないという言い分だった。
いいように扱われたアマーリアは、このまま何もせずに済ませるはずがなかった。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

この国では魔力を譲渡できる
ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」
無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。
五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる