8 / 16
第8話 グロリア、登場
しおりを挟む
アーノルド様は、私の顔の表情を読んで、ゆっくりと言った。
「そうだよね。あなたがそんなこと、言うはずないもの」
「どうして、そんなことに……」
「社交界のお誘い、一切を若い娘が断るだなんておかしい。みんながそう思っていた。特にあなたのことを知っている人たちはね」
「お誘いは一つももらっていませんわ。自分の妹を褒めるのはおかしいでしょうけれど、どんな殿方も、できることなら明るくて美しいグロリアとお知り合いになりたがるものでしょう? 当然、グロリアの方をお誘いになると義母が言っておりましたわ」
アーノルド様は、ちょっと妙な具合に唇を歪めて笑った。
「そうとばかりは限らないと思うよ。たとえば、この僕なんかね?」
「え?」
だって、グロリアは、アーノルド様は、私よりグロリアのことが気に入って非常な関心を寄せているって聞いたばかりなんですけど。
そういうと、アーノルド様は、突然、額の毛の生え際まで真っ赤になった。
アーノルド様、結構、怒りんぼなのよ……。子どもの時と一緒ね。
「僕はあなたのことが知りたかったんだよ。なんでこんなことになっているのか」
「あの……私については何もお尋ねにならないってグロリアは言っていましたけど」
「そりゃそうさ。あなたのことを聞いたら、変人のブス姉ですか?掃除をさせていますけど、それさえ満足にできないんですよって言われたんだ。あなたが掃除をするはずがないだろ? 満足にできるわけもない。した事ないんだから」
ご令嬢に掃除をさせるだなんて、確かにおかしいのだけど、洗濯よりマシだと思う。手荒れしない。
「でも、最近は多少は上手くなったと義母に褒められましたわ」
「一体、あなたのところの義母は……」
そう言いかけた時、パタパタと足音がして、華やかなピンクの衣装に身を包んだ女性が走ってやってきた。
「アーノルド様あ」
どう見てもグロリアだった。
しかし、私は凍りついた。
無作法この上ない。
ましてやここはバーガンディ家のパーティ。他人の家である。
父が、グロリアは招ばれていないと言っていたような気がする。大丈夫かしら……というか、絶対に大丈夫ではないわ。
私を突き飛ばしそうな勢いで、グロリアはアーノルド様に抱きつこうとしたが、アーノルド様がすっと身を引いたので、転びかけた。
「どうなさいました、ダラム嬢」
氷のように冷え冷えとした声で、傍のアーノルド様が聞いた。
グロリアは明るい調子で話しかけた。
「お姉様とご一緒だなんて、さぞご退屈でしたでしょう? 話題の選び方も話し方も、なってませんものね」
チラとアーノルド様のお友達と目が合った。
みんな、注視していた。
グロリアは、にっこりと彼らに向かって微笑んであいさつした。
「あら、ジョンがいたわ」
ジョン……と言うのが誰だかわからなかったが、声をかけられた男性が足早にやってきた。
グロリアは、元気よくその男の方に向かって歩き出した。
ジョンとグロリアから少し離れたところに座ったまま、アーノルド様が私にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「ジョン・スタンレーは、商家の息子だ。今日は父親の仕事の関係で参加している。遊び人だと噂らしいけど……」
「そうだよね。あなたがそんなこと、言うはずないもの」
「どうして、そんなことに……」
「社交界のお誘い、一切を若い娘が断るだなんておかしい。みんながそう思っていた。特にあなたのことを知っている人たちはね」
「お誘いは一つももらっていませんわ。自分の妹を褒めるのはおかしいでしょうけれど、どんな殿方も、できることなら明るくて美しいグロリアとお知り合いになりたがるものでしょう? 当然、グロリアの方をお誘いになると義母が言っておりましたわ」
アーノルド様は、ちょっと妙な具合に唇を歪めて笑った。
「そうとばかりは限らないと思うよ。たとえば、この僕なんかね?」
「え?」
だって、グロリアは、アーノルド様は、私よりグロリアのことが気に入って非常な関心を寄せているって聞いたばかりなんですけど。
そういうと、アーノルド様は、突然、額の毛の生え際まで真っ赤になった。
アーノルド様、結構、怒りんぼなのよ……。子どもの時と一緒ね。
「僕はあなたのことが知りたかったんだよ。なんでこんなことになっているのか」
「あの……私については何もお尋ねにならないってグロリアは言っていましたけど」
「そりゃそうさ。あなたのことを聞いたら、変人のブス姉ですか?掃除をさせていますけど、それさえ満足にできないんですよって言われたんだ。あなたが掃除をするはずがないだろ? 満足にできるわけもない。した事ないんだから」
ご令嬢に掃除をさせるだなんて、確かにおかしいのだけど、洗濯よりマシだと思う。手荒れしない。
「でも、最近は多少は上手くなったと義母に褒められましたわ」
「一体、あなたのところの義母は……」
そう言いかけた時、パタパタと足音がして、華やかなピンクの衣装に身を包んだ女性が走ってやってきた。
「アーノルド様あ」
どう見てもグロリアだった。
しかし、私は凍りついた。
無作法この上ない。
ましてやここはバーガンディ家のパーティ。他人の家である。
父が、グロリアは招ばれていないと言っていたような気がする。大丈夫かしら……というか、絶対に大丈夫ではないわ。
私を突き飛ばしそうな勢いで、グロリアはアーノルド様に抱きつこうとしたが、アーノルド様がすっと身を引いたので、転びかけた。
「どうなさいました、ダラム嬢」
氷のように冷え冷えとした声で、傍のアーノルド様が聞いた。
グロリアは明るい調子で話しかけた。
「お姉様とご一緒だなんて、さぞご退屈でしたでしょう? 話題の選び方も話し方も、なってませんものね」
チラとアーノルド様のお友達と目が合った。
みんな、注視していた。
グロリアは、にっこりと彼らに向かって微笑んであいさつした。
「あら、ジョンがいたわ」
ジョン……と言うのが誰だかわからなかったが、声をかけられた男性が足早にやってきた。
グロリアは、元気よくその男の方に向かって歩き出した。
ジョンとグロリアから少し離れたところに座ったまま、アーノルド様が私にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「ジョン・スタンレーは、商家の息子だ。今日は父親の仕事の関係で参加している。遊び人だと噂らしいけど……」
27
お気に入りに追加
2,926
あなたにおすすめの小説
彼女を選んだのはあなたです
風見ゆうみ
恋愛
聖女の証が現れた伯爵令嬢のリリアナは聖女の行動を管理する教会本部に足を運び、そこでリリアナ以外の聖女2人と聖騎士達と出会う。
公爵令息であり聖騎士でもあるフェナンと強制的に婚約させられたり、新しい学園生活に戸惑いながらも、新しい生活に慣れてきた頃、フェナンが既婚者である他の聖女と関係を持っている場面を見てしまう。
「火遊びだ」と謝ってきたフェナンだったが、最終的に開き直った彼に婚約破棄を言い渡されたその日から、リリアナの聖女の力が一気に高まっていく。
伝承のせいで不吉の聖女だと呼ばれる様になったリリアナは、今まで優しかった周りの人間から嫌がらせを受ける様になるのだが、それと共に他の聖女や聖騎士の力が弱まっていき…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっていますのでご了承下さい。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします
結城芙由奈
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】
「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」
私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか?
※ 他サイトでも掲載しています
【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……
しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」
そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。
魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。
「アリス様、冗談は止してください」
震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。
「冗談ではありません、エリック様ぁ」
甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。
彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。
「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」
この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。
聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。
魔法を使えないレナンとは大違いだ。
それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが……
「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」
そう言うレナンの顔色はかなり悪い。
この状況をまともに受け止めたくないようだ。
そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。
彼女の気持ちまでも守るかのように。
ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。
同名キャラで様々な話を書いています。
話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。
お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。
中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^)
カクヨムさんでも掲載中。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
婚約者に好きな人がいると言われました
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
姉に婚約者を奪われた可哀相な令嬢の私ですが、後に新しい愛を手にする事が出来ました。
coco
恋愛
私の婚約者を姉が誘惑し奪った。
そして二人は駆け落ちし…残された私は、可哀相な令嬢と呼ばれている。
だが、その真相は…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる