【完結】目立つ妹に婚約者を取られそうになった地味姉だけど、婚約者が意外に気が強かった件

buchi

文字の大きさ
上 下
6 / 16

第6話 アーノルド様

しおりを挟む
パーティの当日、珍しく、父が家にいた。

「あの、あなた、今日はお仕事は?」

義母がうろたえて父に聞いていた。

「今日は休みだ」

父は宮廷武官の仕事をしていた。仕事熱心で寡黙な人物だった。誰彼構わずじゃれつくグロリアでさえ、父には多少遠慮があった。

だが、私はほっとした。

正直、パーティに出られるかどうかよくわからなかった。

この前アーノルド様が来られた時、私はアーノルド様の顔を見ることさえできなかった。三階の狭い部屋に閉じ込められてしまったのだ。

父がいれば、パーティに出してもらえる!

ドーソン夫人が遅くなりましたと言いながら、数人のお針子と共に、ドレスを搬入してきた。

「まあ、伯爵様ご自身がわざわざドレスを運ばれるなんて……あの……ドレスは重うございます」

父が、自ら足早に使用人口に向かっていく。そしてドーソン夫人から、大事そうに箱を受け取った。

「アマリアの部屋へ持って行こう。ドーソン夫人、付いてきてくれ」

伯爵たる父が荷物を運ぶなんてありえない。

下男と執事が大慌てで走り寄って来た。

「旦那様、私どもが代わりに」

「いや、いい」

箱を父とドーソン夫人と一緒に開けると、夢のようなドレスが入っていた。

私の髪は亜麻色だ。ドレスは青だった。細かいレースやリボンが飾られていて、色調は穏やかで派手なところはなかったが、可憐で大人っぽいと言う矛盾した仕事をやってのけていた。

「すてき……」

私は思わず言った。

でも、これ、ドーソン夫人と打ち合わせしていたドレスの案とは全然違いますけど?

ドーソン夫人は、私の不思議そうな質問には何も答えず、コロコロとにこやかに笑って、一緒に来た針子たちを呼び寄せた。

着付けは彼女たちがしてくれるらしかった。

そして私は、その日、義母や義妹が何をしているのかわからないまま、父と同じ馬車で一緒にバーガンディ家のパーティに向かった。


バーガンディ家のパーティは華やかだった。

「これはこれは、ダラム伯爵がお越しとはお珍しい。お嬢様とご一緒とは更に珍しい」

父の知り合いが声をかけてきた。

「娘のアマリアだ」

「アマリア・エリナー・ダラムでございます」

私は、震え声であいさつした。

「マーチン男爵だ。昔の部下でね」

父がにっこり笑うのを見て、私はびっくりした。

家ではいつも仏頂面なのに?

次から次に、色々な人にお目にかかり、その都度丁重に挨拶はしたけど、どうしよう、覚えきれないわ。

人が多すぎる。

「そうでもない。一度覚えてしまえば、大丈夫。アマリアはほとんどパーティに出ていないから、知らないだけだ」

「私は、会話がまずいですし、人の気を悪くするようなことばかり言ってしまうんです。義母によく注意されています」

父は私の顔を見た。

「そんなことはない。普通の話しかしていないよね? もちろん、言葉尻だけを捉えてしまうとケチのつけようはいくらでもあるけれど」

義母の話が出たので、私は周りを見回した。

義母と義妹はどこかに紛れているのではないかしら。

「今日は呼ばれていない」

父が衝撃的なことを言い出した。

「え?」

「ジョアンナ(義母の名前だ)とグロリアが出てきては、まとまるものもまとまらない」

私は父の顔をまじまじと見つめた。

「今日はアーノルドが来ているはずだ。お前は本当は気に入らないそうだな。だが、私としては、こうするしかなかったのだ。私の知っているアーノルドなら、お前は好きではないかもしれないけれど、十分、お前を任せられると思った。だから、安全にあの家から出ていくことが出来ると思ったのだ」

私は父の顔を一生懸命見つめた。

私の味方がいたのだ。

ざわざわと人の多い会場で、アーノルド様を探すのは至難の業だった。

「でも、アーノルド様が気に入ってくださるかどうか。アーノルド様には五年くらいお目にかかっていません」

え? と父が目をむいた。

「最初のパーティで会っているはずだぞ?」

「いいえ。あの時は義母がアンダーソン夫人を紹介してくれて……夫人のお相手をするのに精いっぱいで」

私は父が舌打ちするのを初めて聞いた。

「なんでまた、あんな変わり者の面倒くさい女を。社交妨害で有名じゃないか」

「そうなのですか?」

「捕まってしまったのかと思った。紹介されたのか」

「ええ。義母に。お話し相手にちょうどいいでしょうって」

父はあきらめたのか、その話を打ち切ると、首を巡らせてアーノルド様を探し出したらしかった。

「すごい。どうしてわかるのですか?」

「アーノルドの交友関係は知っている」

父が指示した辺りには、黒服の正装に身を固めた数人の男性が立っていた。

「一緒に行こう」

「でも、お父さま、私はアーノルド様には嫌われていると思うんです」

私はあわてて言った。

「なぜ?」

父が不機嫌そうな顔になって聞いた。

「先日、自宅でお茶会を催した時、私が出られなくて……」

「閉じ込められたらしいな」

どんどんアーノルド様のところに近づいていく。

「グロリアが言うのには、私がアーノルド様を毛嫌いして、仮病を使ったのだと、アーノルド様に伝えたそうなんですの。だからきっと、アーノルド様は……」

父の手に力がこもった。

そして、足は一段と速くなった。

「リンカン殿」

父はアーノルド様向かって大きな声で呼びかけた。

ひときわ背の高い、黒髪の青年が振り返った。

アーノルド様だ。

私にはわかる。

その灰色の目は見覚えがある。

とても仲が良かったのに。

でも、グロリアが言った言葉の数々を思い出すと私は泣きたくなった。

「あなたの婚約者だ。相手をしてやって欲しい」

父が言い、私はあわてた。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

妹のおねだりにはうんざりでしたが…婚約者を奪われた事で、私は不幸にならずに済みました。

coco
恋愛
妹のおねだりで、婚約者を譲る事になった私。 彼女のおねだりにはうんざりしてたけど…でも、彼を奪われた事だけは、良かったかもしれないわね─。

処理中です...