5 / 16
第5話 パーティ参加のチャンス
しおりを挟む
「あなたに最後のチャンスを与えなさいと、お父さまがおっしゃるのよ。無駄だと一生懸命、止めたのに」
数日後、義母が妙に鬼気迫るドレスメーカーを引き連れてやってきて、宣言した。
とても、嫌そうだった。
「伯爵がご自分で依頼されたのよ。ドレスを作ってやれって。男性がこういうことに口出しすると、ろくなことにならないのに」
私は父に感謝した。
「あなたみたいな男ばかり追いかける、下品な娘じゃどこでも通用しないと何回も言ったのよ。しかも、お話が下手だしね。話題の選び方がなってないわ。社交界の噂も知らないし、いつもみすぼらしいなりばかり。自分ではいいと思っているのかもしれないけど」
服を買ってもらったことがないので、みすぼらしい恰好になってしまうのは仕方ない。
「ドーソン夫人、この娘は何を着ても似合わないのよ。下品で。だから適当でいいわ。値段はできるだけ抑えてちょうだい。その分は、今度作るグロリアの分に回して」
ドレスメーカーのドーソン夫人は、かしこまりましたとだけ答えた。
「なんだったら、誰かのお古でいいのよ。どうせ伯爵にはわからないと思うの。その分はグロリアの支度に回るから、決して損はさせないわ」
自分の部屋に戻ればいいのに、義母はずっと付きまとって、その生地は高すぎるとか、リボンは要らないとか、古着はないのかとしつこく聞いていた。
その都度、うまいこと返事するドーソン夫人に私は感心した。
「古着でもよろしいのでしょうが、探すのに時間がかかりますのよ。やはりドレスはお高いですから、ご親戚の間でお直しして着回す方も結構おられまして、よほどくたびれないと、古着にならないんでございます。夜会に間に合わないと存じます。少なくともサイズは合っていないと、伯爵さまがさすがにお気づきになると思いますの」
「おリボンは、安くて結構と存じますわ。お花のコサージュなどで飾ると高くつきます」
似合わない色を選んで勧めてくるのには閉口したが、ほんとかウソか知らないが、ドーソン夫人が「今の最新流行の色でございますね」と答えたので、あっという間に撤回していた。
「まったくもったいないわ。何回、パーティに出ても同じだと言うのに。しかも、バーガンディ伯爵家主催のパーティに出すだなんて。婚約どころか絶縁だなんてことにならなければいいですけどね」
バーガンディ家は、当家と縁戚に当たる。だが、同じ伯爵家でも、格式はうちより高い。歴史の長さが違う。夫人は侯爵家の出身だ。
何とかそのパーティで挽回したい。
でも、もしダメだったら、どうしたらいいかしら。
最近では、悪い方にばかり頭が回ってしまう。
アーノルド様に会えなかったお茶会以来、家の中の雰囲気は相当変わってしまった。
それまでずっとおとなしく、はいはいと言うことを聞いていた私が反論したからだ。
あの時私のドレスの裾を踏んづけて破った侍女は、私の顔を見るとおびえたような表情をするようになった。
私が自分自身でドレスを踏んでいたと言う証言をした手前、私は嘘つきと言うことになっている。だから、被害者ぶるのだ。
本当に悲しかった。悔しいのもあるけど、この家に私の居場所はない。
真実を知っている者もきっといるのだろうけど、義母や義妹が怖いので、絶対名乗りでない。
義母は、私の反抗が嫌になったらしく、いずれどこかに奉公に出そうと方向転換を考えているらしかった。
ただ、まだ十七才の今、勤め人として家から出したら、伯爵家が非難される。
十分、嫁に出せる年頃なのに、伯爵家は何をしているのかと。
そこで、社交界で、結婚できないくらい変わった令嬢だと言う噂を撒いて、婚期を逃すまで家で飼い殺しにして、その後、家から追い出す。
貴族令嬢と言うことなら、噂を知らないどこかの商家の令嬢の家庭教師くらいなら務まるだろう。
侍女長と義母がそんな話をしているところに通り合わせてしまった。
「あんなに大きな態度の、曲がった性格だなんて、思っておりませんでしたわ」
メガネをかけた馬面の侍女長が、義母の機嫌を取っていた。
「だから、下手に嫁がせると実家の悪口を言いそうで怖いのよ」
義母が説明した。
「このまま、家に置いてやってもいいと思っていたのに。本当に、困った身の程知らずだこと。父親に向かって、自分のドレスを要求するだなんて」
「大きなパーティに出られるのですよね?」
馬面の侍女長が聞いた。
「そうなの。参加者も多いわ。その分、徹底的な粗相があれば、逆に、皆さまにわかっていただけると思うのよね」
義母がニヤリと笑っているのが見えるような気がした。
社交界、怖い。
特に私は会話術がゼロ。いろんな粗相をやらかしそう。
それに場慣れしていない。まったく男性にモテないのは、前回のパーティでよく分かった。
男の方って、もっと刺激的な体つきと華やかな顔立ちがお好きなのですね。
私のような顔立ちでは、顔を見せることもはばかられる。
でも、そうもいっていられないの。
このままだと、本当に飼い殺しになって、女中のようにこき使われ、花の盛りが過ぎるのを待ってから、どこかに売られるようなもの。義母の手が回った商家で働かされるとしたら、お給料ももらえないかもしれなかった。
「がんばらなくちゃいけない……」
頑張りようがないけど……
数日後、義母が妙に鬼気迫るドレスメーカーを引き連れてやってきて、宣言した。
とても、嫌そうだった。
「伯爵がご自分で依頼されたのよ。ドレスを作ってやれって。男性がこういうことに口出しすると、ろくなことにならないのに」
私は父に感謝した。
「あなたみたいな男ばかり追いかける、下品な娘じゃどこでも通用しないと何回も言ったのよ。しかも、お話が下手だしね。話題の選び方がなってないわ。社交界の噂も知らないし、いつもみすぼらしいなりばかり。自分ではいいと思っているのかもしれないけど」
服を買ってもらったことがないので、みすぼらしい恰好になってしまうのは仕方ない。
「ドーソン夫人、この娘は何を着ても似合わないのよ。下品で。だから適当でいいわ。値段はできるだけ抑えてちょうだい。その分は、今度作るグロリアの分に回して」
ドレスメーカーのドーソン夫人は、かしこまりましたとだけ答えた。
「なんだったら、誰かのお古でいいのよ。どうせ伯爵にはわからないと思うの。その分はグロリアの支度に回るから、決して損はさせないわ」
自分の部屋に戻ればいいのに、義母はずっと付きまとって、その生地は高すぎるとか、リボンは要らないとか、古着はないのかとしつこく聞いていた。
その都度、うまいこと返事するドーソン夫人に私は感心した。
「古着でもよろしいのでしょうが、探すのに時間がかかりますのよ。やはりドレスはお高いですから、ご親戚の間でお直しして着回す方も結構おられまして、よほどくたびれないと、古着にならないんでございます。夜会に間に合わないと存じます。少なくともサイズは合っていないと、伯爵さまがさすがにお気づきになると思いますの」
「おリボンは、安くて結構と存じますわ。お花のコサージュなどで飾ると高くつきます」
似合わない色を選んで勧めてくるのには閉口したが、ほんとかウソか知らないが、ドーソン夫人が「今の最新流行の色でございますね」と答えたので、あっという間に撤回していた。
「まったくもったいないわ。何回、パーティに出ても同じだと言うのに。しかも、バーガンディ伯爵家主催のパーティに出すだなんて。婚約どころか絶縁だなんてことにならなければいいですけどね」
バーガンディ家は、当家と縁戚に当たる。だが、同じ伯爵家でも、格式はうちより高い。歴史の長さが違う。夫人は侯爵家の出身だ。
何とかそのパーティで挽回したい。
でも、もしダメだったら、どうしたらいいかしら。
最近では、悪い方にばかり頭が回ってしまう。
アーノルド様に会えなかったお茶会以来、家の中の雰囲気は相当変わってしまった。
それまでずっとおとなしく、はいはいと言うことを聞いていた私が反論したからだ。
あの時私のドレスの裾を踏んづけて破った侍女は、私の顔を見るとおびえたような表情をするようになった。
私が自分自身でドレスを踏んでいたと言う証言をした手前、私は嘘つきと言うことになっている。だから、被害者ぶるのだ。
本当に悲しかった。悔しいのもあるけど、この家に私の居場所はない。
真実を知っている者もきっといるのだろうけど、義母や義妹が怖いので、絶対名乗りでない。
義母は、私の反抗が嫌になったらしく、いずれどこかに奉公に出そうと方向転換を考えているらしかった。
ただ、まだ十七才の今、勤め人として家から出したら、伯爵家が非難される。
十分、嫁に出せる年頃なのに、伯爵家は何をしているのかと。
そこで、社交界で、結婚できないくらい変わった令嬢だと言う噂を撒いて、婚期を逃すまで家で飼い殺しにして、その後、家から追い出す。
貴族令嬢と言うことなら、噂を知らないどこかの商家の令嬢の家庭教師くらいなら務まるだろう。
侍女長と義母がそんな話をしているところに通り合わせてしまった。
「あんなに大きな態度の、曲がった性格だなんて、思っておりませんでしたわ」
メガネをかけた馬面の侍女長が、義母の機嫌を取っていた。
「だから、下手に嫁がせると実家の悪口を言いそうで怖いのよ」
義母が説明した。
「このまま、家に置いてやってもいいと思っていたのに。本当に、困った身の程知らずだこと。父親に向かって、自分のドレスを要求するだなんて」
「大きなパーティに出られるのですよね?」
馬面の侍女長が聞いた。
「そうなの。参加者も多いわ。その分、徹底的な粗相があれば、逆に、皆さまにわかっていただけると思うのよね」
義母がニヤリと笑っているのが見えるような気がした。
社交界、怖い。
特に私は会話術がゼロ。いろんな粗相をやらかしそう。
それに場慣れしていない。まったく男性にモテないのは、前回のパーティでよく分かった。
男の方って、もっと刺激的な体つきと華やかな顔立ちがお好きなのですね。
私のような顔立ちでは、顔を見せることもはばかられる。
でも、そうもいっていられないの。
このままだと、本当に飼い殺しになって、女中のようにこき使われ、花の盛りが過ぎるのを待ってから、どこかに売られるようなもの。義母の手が回った商家で働かされるとしたら、お給料ももらえないかもしれなかった。
「がんばらなくちゃいけない……」
頑張りようがないけど……
24
お気に入りに追加
2,920
あなたにおすすめの小説
破滅した令嬢は時間が戻ったので、破滅しないよう動きます
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、破滅寸前だった。
伯爵令嬢のベネサの思い通り動いてしまい、婚約者のダーロス王子に婚約破棄を言い渡される。
その後――私は目を覚ますと1年前に戻っていて、今までの行動を後悔する。
ダーロス王子は今の時点でベネサのことを愛し、私を切り捨てようと考えていたようだ。
もうベネサの思い通りにはならないと、私は決意する。
破滅しないよう動くために、本来の未来とは違う生活を送ろうとしていた。
王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る
リオール
恋愛
子供の頃に溺れてる子を助けたのは姉のフィリア。
けれど助けたのは妹メリッサだと勘違いされ、妹はその助けた相手の婚約者となるのだった。
助けた相手──第一王子へ生まれかけた恋心に蓋をして、フィリアは二人の幸せを願う。
真実を隠し続けた人魚姫はこんなにも苦しかったの?
知って欲しい、知って欲しくない。
相反する思いを胸に、フィリアはその思いを秘め続ける。
※最初の方は明るいですが、すぐにシリアスとなります。ギャグ無いです。
※全24話+プロローグ,エピローグ(執筆済み。順次UP予定)
※当初の予定と少し違う展開に、ここの紹介文を慌てて修正しました。色々ツッコミどころ満載だと思いますが、海のように広い心でスルーしてください(汗
【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います
黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。
美人で聡明な長女。
利発で活発な次女。
病弱で温和な三女。
兄妹同然に育った第二王子。
時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。
誰もがそう思っていました。
サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。
客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
婚姻破棄された私は第一王子にめとられる。
さくしゃ
恋愛
「エルナ・シュバイツ! 貴様との婚姻を破棄する!」
突然言い渡された夫ーーヴァス・シュバイツ侯爵からの離縁要求。
彼との間にもうけた息子ーーウィリアムは2歳を迎えたばかり。
そんな私とウィリアムを嘲笑うヴァスと彼の側室であるヒメル。
しかし、いつかこんな日が来るであろう事を予感していたエルナはウィリアムに別れを告げて屋敷を出て行こうとするが、そんなエルナに向かって「行かないで」と泣き叫ぶウィリアム。
(私と一緒に連れて行ったら絶対にしなくて良い苦労をさせてしまう)
ドレスの裾を握りしめ、歩みを進めるエルナだったが……
「その耳障りな物も一緒に摘み出せ。耳障りで仕方ない」
我が子に対しても容赦のないヴァス。
その後もウィリアムについて罵詈雑言を浴びせ続ける。
悔しい……言い返そうとするが、言葉が喉で詰まりうまく発せられず涙を流すエルナ。そんな彼女を心配してなくウィリアム。
ヴァスに長年付き従う家老も見ていられず顔を逸らす。
誰も止めるものはおらず、ただただ罵詈雑言に耐えるエルナ達のもとに救いの手が差し伸べられる。
「もう大丈夫」
その人物は幼馴染で6年ぶりの再会となるオーフェン王国第一王子ーーゼルリス・オーフェンその人だった。
婚姻破棄をきっかけに始まるエルナとゼルリスによるラブストーリー。
バカ二人のおかげで優秀な婿と結婚できるお話
下菊みこと
恋愛
バカ二人が自滅するだけ。ゴミを一気に処分できてスッキリするお話。
ルルシアは義妹と自分の婚約者が火遊びをして、子供が出来たと知る。ルルシアは二人の勘違いを正しつつも、二人のお望み通り婚約者のトレードはしてあげる。結果、本来より良い婿を手に入れることになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました
柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。
「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」
「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」
私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。
そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。
でも――。そんな毎日になるとは、思わない。
2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。
私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる