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第4話 グロリアの告げ口
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振り返ると、グロリア付きの侍女が私のドレスの裾を踏んでいた。
「あらあ」
彼女はケロリとしていた。
「これでは、お茶会には出られませんわねえ」
出たい。
お茶会に出たいのではなくて、この家から出たい。
アーノルド様との結婚はチャンスなのだ。
「このままでも出ます!」
もう一人侍女が現れた。義母と一緒だ。義母は怒った顔をしている。
「冗談ではないわ。引っ込んでいてちょうだい。こんな格好では人前に出られないでしょう! そもそもあなたの裁縫の腕が悪いのでしょう。こんな変な裾上げをするだなんて」
「裾を踏まれたからですわ」
私はグロリアの侍女をにらみつけたが、彼女は世にも悲しそうな顔をして、義母に言った。
「ひどい嘘ですわ。私、何もしていないのですよ? 言いがかりも甚だしい」
あまりのことに、私の方があっけに取られた。
びっくりしてその侍女の顔を見つめてしまった。
「奥様、怖い。アマリア様が睨みつけていますわ」
「自分の失態を弱い立場の使用人のせいにしようだなんて、アマリア、あなたは人間の屑だわ」
私は驚いて義母の顔を見た。
「それにそのドレスで人前に出ようだなんて、レディのすることではないわ。貴方には恥ずかしいと言う気持ちはないの? 慎みとか」
ドレスは、裾が少し解けただけだ。ごまかせないこともないと思う。
だが、義母たちは、私を取り囲んで、私を三階の狭い部屋に閉じ込めて、鍵をかけた。大声を上げても聞こえないような場所だ。
「家の恥になりますからね」
後になってわかったのだけれど、義母たちは『私が具合が悪くなったから』お茶会に出られないのだと言い訳したらしい。
アーノルド様はさすがに気になったらしく、具合が悪くなったとは、どう言う意味かと尋ねられたそうだ。
熱があるとか体調が悪いと言う意味なのか、それとも他の何かなのか確認したかったらしい。
夕食の席で私は、父の前で義母に散々叱られた。
口をはさむ余地がないくらいだった。
「お父様、でも、私は本当に裾を踏まれたのです。それにドレスがお母さまのお古のドレスしかなくて、生地が弱っていたんです」
「お母さまの形見のドレスを着たいと言ったのはあなたでしょう! しかも裁縫は下手なのに。針子を呼びなさいとあれほど言ったのに!」
別に形見のドレスを着たかったわけじゃない。
「新しいドレスを買ってください! みっともないからって、部屋に閉じ込めないで。アーノルド様にご挨拶も出来なかったではありませんか」
ついに私は叫んだ。
「まあ、この人は本当にひどい嘘つきになってしまったものね」
義母は、当惑したと言った様子で言いだした。
「踏んだと言う侍女はそんなことは全くないと、ずっと泣きどおしでした。かわいそうだったわ。他に見ていた者もいるのですよ。あなたはアーノルド様の声を聞いた途端に、走り出したそうじゃありませんか。そして自分で裾を踏んで、ドレスが裂けてしまって人前に出られない格好になってしまったと」
義母は頭を振った。
「良家の子女として、ひどい醜聞になりますわ。そんな恰好で表にでたら」
義母は気取ってお茶を飲み、義妹は面白そうに笑っていた。
そして父はむっつりと黙り込んでいた。
義妹のグロリアが、夕食のあと、私のところにやって来た。
この世で二番目に会いたくない相手だと言うのに。
「アーノルド様には、教えておいてやったわ。お姉さまは実はアーノルド様のことを嫌っているんだって」
「そんなこと!」
「ふふふ。お姉さまは相当な変人で、お茶会に出たくなくてずっと閉じこもっていて、アーノルド様との婚約も嫌で嫌で仕方ないのだって。今日もそれで、体調が悪いとか、下手な言い訳をしているのだって、教えておいてあげたわ」
多分、私は呆然として、妹の顔を見ていたのだと思う。
もう、私はこの義母と義妹が何を目指しているのかわからなくなってきた。
私が憎いの?
「お母さまは、昔、若い頃、リンカン様のお屋敷を訪問したことがあるらしいわ。素晴らしいお宅だって。私がアーノルド様と結婚すれば、あのお屋敷が全部、自分のものになるって喜んでらしたわ」
意味が分からない。
たまに訪問くらいはできるようになると思うけど、それくらいだろう。
それに、リンカン伯爵夫人は義母を嫌っている。親友の亡くなった後の後妻はあまり好きになれないだろう。まあ、それより、そもそもタイプが全く違う。そりが合わないだろう。
「この家とそう変わらないと思うけど?」
「違うんですって。それは素晴らしい貴族のお屋敷だっておっしゃるの。それに、アーノルド様は私にぞっこんだし」
妹は舌を出して見せた。
そのしぐさは、かわいいと言われているのかもしれないけど、お茶会では決してしてはいけないと思うのだけど。
「それはそれは、いろんなことを聞かれたわ。きっと気になるのね。お姉さまのことなんか話題にすらならなかったわよ」
義妹は笑いが止まらないと言った様子で付け加えた。
「かわいいって、本当に得よね? そんな地味で陰気で、お姉さまは本当にお気の毒だわ」
「あらあ」
彼女はケロリとしていた。
「これでは、お茶会には出られませんわねえ」
出たい。
お茶会に出たいのではなくて、この家から出たい。
アーノルド様との結婚はチャンスなのだ。
「このままでも出ます!」
もう一人侍女が現れた。義母と一緒だ。義母は怒った顔をしている。
「冗談ではないわ。引っ込んでいてちょうだい。こんな格好では人前に出られないでしょう! そもそもあなたの裁縫の腕が悪いのでしょう。こんな変な裾上げをするだなんて」
「裾を踏まれたからですわ」
私はグロリアの侍女をにらみつけたが、彼女は世にも悲しそうな顔をして、義母に言った。
「ひどい嘘ですわ。私、何もしていないのですよ? 言いがかりも甚だしい」
あまりのことに、私の方があっけに取られた。
びっくりしてその侍女の顔を見つめてしまった。
「奥様、怖い。アマリア様が睨みつけていますわ」
「自分の失態を弱い立場の使用人のせいにしようだなんて、アマリア、あなたは人間の屑だわ」
私は驚いて義母の顔を見た。
「それにそのドレスで人前に出ようだなんて、レディのすることではないわ。貴方には恥ずかしいと言う気持ちはないの? 慎みとか」
ドレスは、裾が少し解けただけだ。ごまかせないこともないと思う。
だが、義母たちは、私を取り囲んで、私を三階の狭い部屋に閉じ込めて、鍵をかけた。大声を上げても聞こえないような場所だ。
「家の恥になりますからね」
後になってわかったのだけれど、義母たちは『私が具合が悪くなったから』お茶会に出られないのだと言い訳したらしい。
アーノルド様はさすがに気になったらしく、具合が悪くなったとは、どう言う意味かと尋ねられたそうだ。
熱があるとか体調が悪いと言う意味なのか、それとも他の何かなのか確認したかったらしい。
夕食の席で私は、父の前で義母に散々叱られた。
口をはさむ余地がないくらいだった。
「お父様、でも、私は本当に裾を踏まれたのです。それにドレスがお母さまのお古のドレスしかなくて、生地が弱っていたんです」
「お母さまの形見のドレスを着たいと言ったのはあなたでしょう! しかも裁縫は下手なのに。針子を呼びなさいとあれほど言ったのに!」
別に形見のドレスを着たかったわけじゃない。
「新しいドレスを買ってください! みっともないからって、部屋に閉じ込めないで。アーノルド様にご挨拶も出来なかったではありませんか」
ついに私は叫んだ。
「まあ、この人は本当にひどい嘘つきになってしまったものね」
義母は、当惑したと言った様子で言いだした。
「踏んだと言う侍女はそんなことは全くないと、ずっと泣きどおしでした。かわいそうだったわ。他に見ていた者もいるのですよ。あなたはアーノルド様の声を聞いた途端に、走り出したそうじゃありませんか。そして自分で裾を踏んで、ドレスが裂けてしまって人前に出られない格好になってしまったと」
義母は頭を振った。
「良家の子女として、ひどい醜聞になりますわ。そんな恰好で表にでたら」
義母は気取ってお茶を飲み、義妹は面白そうに笑っていた。
そして父はむっつりと黙り込んでいた。
義妹のグロリアが、夕食のあと、私のところにやって来た。
この世で二番目に会いたくない相手だと言うのに。
「アーノルド様には、教えておいてやったわ。お姉さまは実はアーノルド様のことを嫌っているんだって」
「そんなこと!」
「ふふふ。お姉さまは相当な変人で、お茶会に出たくなくてずっと閉じこもっていて、アーノルド様との婚約も嫌で嫌で仕方ないのだって。今日もそれで、体調が悪いとか、下手な言い訳をしているのだって、教えておいてあげたわ」
多分、私は呆然として、妹の顔を見ていたのだと思う。
もう、私はこの義母と義妹が何を目指しているのかわからなくなってきた。
私が憎いの?
「お母さまは、昔、若い頃、リンカン様のお屋敷を訪問したことがあるらしいわ。素晴らしいお宅だって。私がアーノルド様と結婚すれば、あのお屋敷が全部、自分のものになるって喜んでらしたわ」
意味が分からない。
たまに訪問くらいはできるようになると思うけど、それくらいだろう。
それに、リンカン伯爵夫人は義母を嫌っている。親友の亡くなった後の後妻はあまり好きになれないだろう。まあ、それより、そもそもタイプが全く違う。そりが合わないだろう。
「この家とそう変わらないと思うけど?」
「違うんですって。それは素晴らしい貴族のお屋敷だっておっしゃるの。それに、アーノルド様は私にぞっこんだし」
妹は舌を出して見せた。
そのしぐさは、かわいいと言われているのかもしれないけど、お茶会では決してしてはいけないと思うのだけど。
「それはそれは、いろんなことを聞かれたわ。きっと気になるのね。お姉さまのことなんか話題にすらならなかったわよ」
義妹は笑いが止まらないと言った様子で付け加えた。
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