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第41話 ギャルソンスタイルのイケメン
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(39話の続き)コーヒーが無事にテーブルの上に置かれ、給仕が去ると、殿下は面白そうに私を見た。
「ずいぶん反応するね。あなたも興味があるのか。モテる若い給仕だな」
いえ、そうではなくてロアン様がウチの使用人になっているから驚いているのです。
「なっ? 面白いだろ? さあ、マイラ王女が身をあやまるところを見に行こう」
「え? 身をあやまるんですか?」
「いいから、いいから」
ついて来いと身振りをして、王子はガゼボから移動を始めた。ロアン給仕が持ってきたコーヒーはどうなるの?
王女殿下は朝食の間に続く外のテラスでお茶をしていた。
いつもは私が付き添うのだが、今朝は一人がいいと言い出して、変だなと思ったのだが殿下に呼ばれてそちらに付き合っていた為、忘れていた。
「見つかってはならん」
殿下は、庭をほふく前進し始めた。朝露で服が水浸しになってしまう。夕べは雨だったし。
私はうんざりして、キティに合図した。二人の話を聞きたいなら、朝食の間の真上の部屋のバルコニーに行って、バルコニーから聞けばいいじゃない。
「なるほど。すばらしいロケーションだ」
殿下がヒソヒソ声でほめてくれた。
「濡れないで済むし、丸聞こえだ」
どうでもいいので無視した。下で繰り広げられている会話の方が強烈だった。
「ロアン、愛しているわ」
なんで、実名をそのまま使ったんだろう、ロアン様。
椅子がガタンという音がした。
「おやめください、殿下!」
「何してるんだろうね?」
アシュトン殿下がささやいた。
「いいこと? ロアン。私と一緒ならどんな身分やお金も思うままよ。一国の王女なのよ?」
「王女殿下、ご冗談を」
「あなたの婚約者は市場で売り子をしているんですってね。王女とどれ程の差があるかわかる? それともあなたは、そんなことも分からない美しいだけの男なのかしら?」
王女殿下、セリフがなんだかすごい。
「全然違う世界があるのよ。あなたが知らない世界。王家のパーティに王女の夫として君臨するのよ」
「絶対にそれはありません」
「マイラ王女、評判悪いもん。それに彼、バリー家の使用人だろ? まあ、君臨は無理だね。いいさらし者になるのがオチだよ」
コメント、いちいちありがとう。アシュトン殿下。
「父に、今朝、手紙を送りました。もう、決めたの。ここで私は真実の愛を見つけたのです」
何の手紙を送ったのかしら!
「真実の愛、十回目くらいらしいんだよね。そろそろ父王が根負けする頃じゃないかな。バリー家の使用人風情なら、王女もろとも、失踪しても問題ないよね。王女、本気でトラブルメーカーだから、王家もいなくなって欲しいくらいじゃないかな」
王子殿下、ほんとによく知ってるね! なぜ?
「あなたの婚約者の名前を教えて。その人と離れても不幸にならないように手配できるわ」
なんだか含みのある言い方だなあ。王女殿下、やっぱり怖いわ。
覚悟を決めたようにロアン様が言い出した。
「私はあなたとは結婚しません。私は……」
「あ、そんなこと言わない方が……マイラ王女殿下、こんなところでお目に掛かれるとは、嬉しい驚きです!」
アシュトン殿下が大声を出した。
「誰?」
金切り声が叫んだ。
「いやだなあ。僕ですよ。アシュトンです」
変わり身早いな、アシュトン王子。盗み聞きしてたくせに、さわやか笑顔でごく当たり前のようにバルコニーから身を乗り出して挨拶している。
「まああ。アシュトン王子殿下、あなたでしたの」
さすがの王女もアシュトン王子には穏やかな反応だわ。だけど、あのマイラ王女がこんな場面を見られて黙ってるはずがない。
とにかく、私はいない方がいいに決まっている。見られないように、バルコニーから部屋の中に飛び込んだ。
これ、マズい展開。絶対マズい。心臓がドキドキ言っている。
「どうして、こんなところにお越しになったのかしら?」
「面白い話をしているな―と思って」
私は下の修羅場はお構いなく、ソロリソロリと二階の部屋から抜け出そうとした。
ああ、町はずれの薬作りの家が懐かしい。
こんな騒ぎは何もなかった。
図書室にでもこもろうかしら。ヘンリー君の気持ちが今になってわかってきた。
この世に関わると労力を使うのだ。それに何一つ思うようにはいかない。
没我の境地に浸ろうと束の間の休息を求め、図書室のソファに身を横たえたところで……
ばたんと乱暴にドアが開き、目を血走らせたポーツマス夫人とキティと目が合った。
「いた!」
「みつけた!」
「え……何か御用でしょうか」
思わず、自分の家の使用人に敬語を使ってしまった。
「どこへ行かれるのです? アシュトン王子殿下がお呼びです」
下の朝食の間では、オールバックにかき上げた黒髪の青年がしょんぼり立っていた。
いつも偉そうにしてたのに、今回は相手が悪い。
薄いシャツを通して筋肉質なのがわかる。私、筋肉フェチではないけれど。確かにアシュトン殿下よりぐっとたくましいしイケメンだわ。
イケメンはチラチラと私を見てくる。
だが、私は首を振った。あんなの、手がつけられない。
二人の王族は、もうすごい早口で言い争っていた。さっきまでは友好的にあいさつを交わしていたのに。
何があったの?
「ずいぶん反応するね。あなたも興味があるのか。モテる若い給仕だな」
いえ、そうではなくてロアン様がウチの使用人になっているから驚いているのです。
「なっ? 面白いだろ? さあ、マイラ王女が身をあやまるところを見に行こう」
「え? 身をあやまるんですか?」
「いいから、いいから」
ついて来いと身振りをして、王子はガゼボから移動を始めた。ロアン給仕が持ってきたコーヒーはどうなるの?
王女殿下は朝食の間に続く外のテラスでお茶をしていた。
いつもは私が付き添うのだが、今朝は一人がいいと言い出して、変だなと思ったのだが殿下に呼ばれてそちらに付き合っていた為、忘れていた。
「見つかってはならん」
殿下は、庭をほふく前進し始めた。朝露で服が水浸しになってしまう。夕べは雨だったし。
私はうんざりして、キティに合図した。二人の話を聞きたいなら、朝食の間の真上の部屋のバルコニーに行って、バルコニーから聞けばいいじゃない。
「なるほど。すばらしいロケーションだ」
殿下がヒソヒソ声でほめてくれた。
「濡れないで済むし、丸聞こえだ」
どうでもいいので無視した。下で繰り広げられている会話の方が強烈だった。
「ロアン、愛しているわ」
なんで、実名をそのまま使ったんだろう、ロアン様。
椅子がガタンという音がした。
「おやめください、殿下!」
「何してるんだろうね?」
アシュトン殿下がささやいた。
「いいこと? ロアン。私と一緒ならどんな身分やお金も思うままよ。一国の王女なのよ?」
「王女殿下、ご冗談を」
「あなたの婚約者は市場で売り子をしているんですってね。王女とどれ程の差があるかわかる? それともあなたは、そんなことも分からない美しいだけの男なのかしら?」
王女殿下、セリフがなんだかすごい。
「全然違う世界があるのよ。あなたが知らない世界。王家のパーティに王女の夫として君臨するのよ」
「絶対にそれはありません」
「マイラ王女、評判悪いもん。それに彼、バリー家の使用人だろ? まあ、君臨は無理だね。いいさらし者になるのがオチだよ」
コメント、いちいちありがとう。アシュトン殿下。
「父に、今朝、手紙を送りました。もう、決めたの。ここで私は真実の愛を見つけたのです」
何の手紙を送ったのかしら!
「真実の愛、十回目くらいらしいんだよね。そろそろ父王が根負けする頃じゃないかな。バリー家の使用人風情なら、王女もろとも、失踪しても問題ないよね。王女、本気でトラブルメーカーだから、王家もいなくなって欲しいくらいじゃないかな」
王子殿下、ほんとによく知ってるね! なぜ?
「あなたの婚約者の名前を教えて。その人と離れても不幸にならないように手配できるわ」
なんだか含みのある言い方だなあ。王女殿下、やっぱり怖いわ。
覚悟を決めたようにロアン様が言い出した。
「私はあなたとは結婚しません。私は……」
「あ、そんなこと言わない方が……マイラ王女殿下、こんなところでお目に掛かれるとは、嬉しい驚きです!」
アシュトン殿下が大声を出した。
「誰?」
金切り声が叫んだ。
「いやだなあ。僕ですよ。アシュトンです」
変わり身早いな、アシュトン王子。盗み聞きしてたくせに、さわやか笑顔でごく当たり前のようにバルコニーから身を乗り出して挨拶している。
「まああ。アシュトン王子殿下、あなたでしたの」
さすがの王女もアシュトン王子には穏やかな反応だわ。だけど、あのマイラ王女がこんな場面を見られて黙ってるはずがない。
とにかく、私はいない方がいいに決まっている。見られないように、バルコニーから部屋の中に飛び込んだ。
これ、マズい展開。絶対マズい。心臓がドキドキ言っている。
「どうして、こんなところにお越しになったのかしら?」
「面白い話をしているな―と思って」
私は下の修羅場はお構いなく、ソロリソロリと二階の部屋から抜け出そうとした。
ああ、町はずれの薬作りの家が懐かしい。
こんな騒ぎは何もなかった。
図書室にでもこもろうかしら。ヘンリー君の気持ちが今になってわかってきた。
この世に関わると労力を使うのだ。それに何一つ思うようにはいかない。
没我の境地に浸ろうと束の間の休息を求め、図書室のソファに身を横たえたところで……
ばたんと乱暴にドアが開き、目を血走らせたポーツマス夫人とキティと目が合った。
「いた!」
「みつけた!」
「え……何か御用でしょうか」
思わず、自分の家の使用人に敬語を使ってしまった。
「どこへ行かれるのです? アシュトン王子殿下がお呼びです」
下の朝食の間では、オールバックにかき上げた黒髪の青年がしょんぼり立っていた。
いつも偉そうにしてたのに、今回は相手が悪い。
薄いシャツを通して筋肉質なのがわかる。私、筋肉フェチではないけれど。確かにアシュトン殿下よりぐっとたくましいしイケメンだわ。
イケメンはチラチラと私を見てくる。
だが、私は首を振った。あんなの、手がつけられない。
二人の王族は、もうすごい早口で言い争っていた。さっきまでは友好的にあいさつを交わしていたのに。
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