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第36話 アシュトン殿下が来た理由
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翌日、私は両親に久しぶりに再会できた。ものすごくうれしかったし、ほっとしたのだが、横には、一癖ありげなとても細い少年が一緒にいた。噂に聞く王子様か。
両親はその少年と、とても熱心に話をしていた。
「さあ、アシュトン殿下、娘のローズでございます」
うわあ……アシュトン殿下、変人。
一目でそれはわかった。
肩のところで切りそろえられた金髪は金属のように輝き、青玉のような目をしていた。それだけ聞くと、結構な男前のように聞こえるが、その目は落ち着きなくキョロキョロしていた。
さすが、親の反対を押し切って、貧民と旅に出るだけあるわ。
「ローズでございます」
私は王侯貴族に対する礼を取った。しかし、殿下はチラリと一瞥したに過ぎなかった。
「ホホホ。ローズはとても面白い目に合ってきたのですわ。親の私たちがいない間に、命を狙われたそうですのよ」
母は社交的でとても陽気な人だ。しかし、この王子様とは話が持たなかったと見た。娘の不幸を利用する作戦に出たに違いない。
「殺人事件まで発展したのですか?」
王子殿下はきらっと目を光らせると、一歩踏み出した。やべえ、こいつ。殺人事件好き?
しかたない。まあ、お茶でもと私は彼を誘ってみた。
「マズいものは要らぬ。それに私はコーヒー党だ」
さすがは王子様。言いたいことはハッキリ言う派ね。
しかし、機嫌を損ねる訳にはいかない。それはもう絶対ダメ。
だって、王侯貴族って、怖いじゃない!
こうなったら、背に腹は代えられない。
「殿下は、どんなものがお好きですか?」
「女性に、いろいろまとわりつかれるのは好まない。幼女と熟女は守備範囲外だ」
そんなこと聞いてない。
「お茶請けは、ギトギト背脂系ですか? それともアッサリ系?」
私は尋ねた。
殿下は悩んだ。
「えっとー、食いでのある方がいいかな?」
私はキティを呼ぶと、ヘンリー君を非常徴集した。料理人として。
(私)「脂ギッチョンで!」
(キティ)「何のことですか?」
(私)「そう言えばわかるわ!」
「おい。何をヒソヒソしゃべってる」
「お茶ではなく、コーヒーにいたしますわ。コーヒーは淹れ方が大事ですので」
この殿下の扱いは難しいと思うわ。
の機嫌を損ねたらたまらない。せっかくの親子の感動の再会がめちゃくちゃだわ。
王子殿下にとって、両親は命の恩人だそうだけど、ウチに来る理由はないでしょう。それに、ご両親の国王陛下はきっと無事な姿を見るのを楽しみに……していないかもしれない。
私は庭を案内し、ガゼボに陣取った。
王子殿下は、女性とガゼボに座るのは嫌いだそうだ。だけど、ベンチで日に当たるのも嫌なんだそうで、かといって室内で女性と二人きりは身の毛がよだつらしい。私は女性ですけど。
「女性嫌いだなんて、一体何があったのですか? 殿下」
しばし、アシュトン殿下は黙っていたが、色々な被害届を出し始めた。
曰く、二人きりになった途端に手を握られたとか、想いが伝わらなかったと自殺未遂を起こされたとか、媚薬を飲まされて3日間下痢でトイレから出られなかったとか、面倒くさいので婚約者を決めたが蛇蝎のごとく嫌われて浮気されて心中を図られたとか、とにかくいろいろあった。
「それでローズ嬢の殺人事件とは? 誰を殺したのだ?」
それだけいろいろあって、これ以上殺人事件に興味湧きますかね? それに私が殺人したのではなくて、私は被害者です。
「死体予定だったのか」
なぜ、そうなる? 私はウッカリ顔をしかめたらしい。
すると殿下は、懐から大切そうに何かを取り出した。
そして物々しく私に差し出す。
「なんですか? これは?」
「私は見知らぬ姉に会いに来た」
「はい?」
それは手紙らしく、宛名はアシュトン・バリー様になっていた。
「双子の姉ローズ嬢との結婚を願い出るヘンリー君からのお手紙だ」
はあ?
「差出人はヘンリー・マッスル。結納金は千フローリン」
「えっ!」
まさか、あの……
「年もぴったりあってるし、その時、私はアッシュ・バリーと言う偽名を使っていた。アシュトンと本名を言い当てられて、どんなに驚いたことか」
いや、これ、まずいわ。
「難破自体は面白い体験だった」
そんなことないでしょう!
「だが、下船して届けられたこの手紙には、ミステリアスな香りがした。奥に何かが隠されている。私は予感したよ! 絶対に君の両親について行くと決めたのだ。真相を確かめるために」
私は絶望した。
真相がくだらなさ過ぎる。
アシュトン殿下は頭はいい。だからか、この手の話になると、食いついて離れない。すごい期待してるよね。どうしよう。
すみません! 実もフタもないんです。全編、偶然のなせる技で……
しかし、芋蔓式にバリー男爵の陰謀の話に戻ると、王子殿下は別な希望に萌え立った。
「そうか! その男爵を見に行こう」
あかん。なんで見に行きたいんだ。私は見たくありません。
「そんなこと言わずに。お姉さま」
全身総毛だった。
「私は金髪。ローズの髪色は枯草色だ。どこまでもつじつまが合うな」
私は話の流れをぶった切った。
「私の従姉妹のエリザベスとリンダならいつでも見れますよ」
「ダメだ。そんなもの、見に行ったら関心があると思われるだろう!」
わかりました。お説ごもっともですわ。
仕方ない。私は使いをロアン様のところに走らせた。牢屋は伯爵家の管理下にある。
キティが耳元でささやいた。
「恋人を鬼のようにこき使う悪女のようですわ」
やめて、キティ。アシュトン殿下は耳がいいのよ?
「え? 悪女? 何のこと?」
殿下はまた目をキラキラさせながら乗り出してきた。
「殿下、キティは殿下のお嫌いな女性、しかも噂好きの侍女ですのよ?」
「どうでもいいよ。悪女ってどういうこと?」
キティが黙っていると殿下は言い出した。
「僕は隣国の王子だ。無礼があったと言えば、侍女の一人や二人……」
キティは震え上がって、洗いざらいしゃべってしまった。
「そうか! 二人とも、このローズ嬢にほれ込んで、言うことなら何でも聞くと。よくそういう話は物語の中では読むが、実物が見れるわけだな」
「恋人のローズ様に呼ばれたら、驚くべき速さでやってきます」
キティも余計な論説付け加えなくてよろしい。
「それを、わかってて呼んだんですのよ? しかも、お二人の恋心に気が付きませんでしたとかいうんですのよ」
「男心をもてあそぶ悪女という訳だなっ」
「お嬢様は悪女ではございませんわ。無心でやっておられるだけですわ」
「余計たちが悪いではないか」
キティ、その会話、やめるわけにはいかないの?
言ってるそばから、絶妙に淹れたコーヒーが届いた。
「ね? 殿下がガゼボについてからさほど経っておりませんでしょう? ほら、あそこに見えるブヨブヨしたのがヘンリー君ですわ」
やめて。その紹介の仕方。
両親はその少年と、とても熱心に話をしていた。
「さあ、アシュトン殿下、娘のローズでございます」
うわあ……アシュトン殿下、変人。
一目でそれはわかった。
肩のところで切りそろえられた金髪は金属のように輝き、青玉のような目をしていた。それだけ聞くと、結構な男前のように聞こえるが、その目は落ち着きなくキョロキョロしていた。
さすが、親の反対を押し切って、貧民と旅に出るだけあるわ。
「ローズでございます」
私は王侯貴族に対する礼を取った。しかし、殿下はチラリと一瞥したに過ぎなかった。
「ホホホ。ローズはとても面白い目に合ってきたのですわ。親の私たちがいない間に、命を狙われたそうですのよ」
母は社交的でとても陽気な人だ。しかし、この王子様とは話が持たなかったと見た。娘の不幸を利用する作戦に出たに違いない。
「殺人事件まで発展したのですか?」
王子殿下はきらっと目を光らせると、一歩踏み出した。やべえ、こいつ。殺人事件好き?
しかたない。まあ、お茶でもと私は彼を誘ってみた。
「マズいものは要らぬ。それに私はコーヒー党だ」
さすがは王子様。言いたいことはハッキリ言う派ね。
しかし、機嫌を損ねる訳にはいかない。それはもう絶対ダメ。
だって、王侯貴族って、怖いじゃない!
こうなったら、背に腹は代えられない。
「殿下は、どんなものがお好きですか?」
「女性に、いろいろまとわりつかれるのは好まない。幼女と熟女は守備範囲外だ」
そんなこと聞いてない。
「お茶請けは、ギトギト背脂系ですか? それともアッサリ系?」
私は尋ねた。
殿下は悩んだ。
「えっとー、食いでのある方がいいかな?」
私はキティを呼ぶと、ヘンリー君を非常徴集した。料理人として。
(私)「脂ギッチョンで!」
(キティ)「何のことですか?」
(私)「そう言えばわかるわ!」
「おい。何をヒソヒソしゃべってる」
「お茶ではなく、コーヒーにいたしますわ。コーヒーは淹れ方が大事ですので」
この殿下の扱いは難しいと思うわ。
の機嫌を損ねたらたまらない。せっかくの親子の感動の再会がめちゃくちゃだわ。
王子殿下にとって、両親は命の恩人だそうだけど、ウチに来る理由はないでしょう。それに、ご両親の国王陛下はきっと無事な姿を見るのを楽しみに……していないかもしれない。
私は庭を案内し、ガゼボに陣取った。
王子殿下は、女性とガゼボに座るのは嫌いだそうだ。だけど、ベンチで日に当たるのも嫌なんだそうで、かといって室内で女性と二人きりは身の毛がよだつらしい。私は女性ですけど。
「女性嫌いだなんて、一体何があったのですか? 殿下」
しばし、アシュトン殿下は黙っていたが、色々な被害届を出し始めた。
曰く、二人きりになった途端に手を握られたとか、想いが伝わらなかったと自殺未遂を起こされたとか、媚薬を飲まされて3日間下痢でトイレから出られなかったとか、面倒くさいので婚約者を決めたが蛇蝎のごとく嫌われて浮気されて心中を図られたとか、とにかくいろいろあった。
「それでローズ嬢の殺人事件とは? 誰を殺したのだ?」
それだけいろいろあって、これ以上殺人事件に興味湧きますかね? それに私が殺人したのではなくて、私は被害者です。
「死体予定だったのか」
なぜ、そうなる? 私はウッカリ顔をしかめたらしい。
すると殿下は、懐から大切そうに何かを取り出した。
そして物々しく私に差し出す。
「なんですか? これは?」
「私は見知らぬ姉に会いに来た」
「はい?」
それは手紙らしく、宛名はアシュトン・バリー様になっていた。
「双子の姉ローズ嬢との結婚を願い出るヘンリー君からのお手紙だ」
はあ?
「差出人はヘンリー・マッスル。結納金は千フローリン」
「えっ!」
まさか、あの……
「年もぴったりあってるし、その時、私はアッシュ・バリーと言う偽名を使っていた。アシュトンと本名を言い当てられて、どんなに驚いたことか」
いや、これ、まずいわ。
「難破自体は面白い体験だった」
そんなことないでしょう!
「だが、下船して届けられたこの手紙には、ミステリアスな香りがした。奥に何かが隠されている。私は予感したよ! 絶対に君の両親について行くと決めたのだ。真相を確かめるために」
私は絶望した。
真相がくだらなさ過ぎる。
アシュトン殿下は頭はいい。だからか、この手の話になると、食いついて離れない。すごい期待してるよね。どうしよう。
すみません! 実もフタもないんです。全編、偶然のなせる技で……
しかし、芋蔓式にバリー男爵の陰謀の話に戻ると、王子殿下は別な希望に萌え立った。
「そうか! その男爵を見に行こう」
あかん。なんで見に行きたいんだ。私は見たくありません。
「そんなこと言わずに。お姉さま」
全身総毛だった。
「私は金髪。ローズの髪色は枯草色だ。どこまでもつじつまが合うな」
私は話の流れをぶった切った。
「私の従姉妹のエリザベスとリンダならいつでも見れますよ」
「ダメだ。そんなもの、見に行ったら関心があると思われるだろう!」
わかりました。お説ごもっともですわ。
仕方ない。私は使いをロアン様のところに走らせた。牢屋は伯爵家の管理下にある。
キティが耳元でささやいた。
「恋人を鬼のようにこき使う悪女のようですわ」
やめて、キティ。アシュトン殿下は耳がいいのよ?
「え? 悪女? 何のこと?」
殿下はまた目をキラキラさせながら乗り出してきた。
「殿下、キティは殿下のお嫌いな女性、しかも噂好きの侍女ですのよ?」
「どうでもいいよ。悪女ってどういうこと?」
キティが黙っていると殿下は言い出した。
「僕は隣国の王子だ。無礼があったと言えば、侍女の一人や二人……」
キティは震え上がって、洗いざらいしゃべってしまった。
「そうか! 二人とも、このローズ嬢にほれ込んで、言うことなら何でも聞くと。よくそういう話は物語の中では読むが、実物が見れるわけだな」
「恋人のローズ様に呼ばれたら、驚くべき速さでやってきます」
キティも余計な論説付け加えなくてよろしい。
「それを、わかってて呼んだんですのよ? しかも、お二人の恋心に気が付きませんでしたとかいうんですのよ」
「男心をもてあそぶ悪女という訳だなっ」
「お嬢様は悪女ではございませんわ。無心でやっておられるだけですわ」
「余計たちが悪いではないか」
キティ、その会話、やめるわけにはいかないの?
言ってるそばから、絶妙に淹れたコーヒーが届いた。
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