【完結】町のはずれで小さなお店を。

buchi

文字の大きさ
上 下
26 / 47

第26話 対決! 修羅場ってる!

しおりを挟む
ロアン様は平然と、堂々と挨拶した。

「ロアンでございます。この度、婚約が決まりましたことを皆様方にご報告申し上げたく」

私に対する時の声よりツートーンくらい低い声できわめて落ち着いた調子でロアン様が話し始めた。

「バリー商会のご令嬢ローズ嬢でございます」

おおうっと言った様なざわめきが会場から広がった。

私は、その場で深く礼をしたが、体が小刻みに震えていた。

こんな派手な紹介の仕方ってどうなの?

「本来、もっと早く婚約を発表する予定でしたが、お聞き及びのようにローズ嬢のご両親が現在不幸なこととなっておりますゆえ、この時期となりました」

それって、ウチの両親が死んだってこと?

「また、あまり派手な発表も差し控えなくてはならず、このようなお知らせだけの会を私の名前で開催させていただきました」

冷静になってよく見ると、確かに大パーティではなかった。

もし本格的に伯爵家の令息の婚約発表なら数百人が参加するはずだ。
だが、この場にいたのは数十人どまりだった。

よかった。まだマシだ。

「さあ、皆様にご挨拶を」

え? 挨拶あるの?

この場合、あるに決まっていた。私は、参加者全員と、ロアン様の婚約者として一言、二言交わす羽目になった。

私はバーバラ嬢とは違う。私の家は、平民とはいえ、大商家だ。ここにきている全員の家と顔くらいわかる。
逆に向こうも分かると思う。
この状態で、ジェロームがバーバラ嬢をローズ嬢だと名乗らせて押し通すのは無理だと思うのだけど。


「最近、お目にかかれず、どうなさっていたのか心配しておりました」

「両親のことが心配で、気落ちしておりましたので、自宅を離れて別邸におりました」

あの家、自宅を思うと、あばらやだけど。ものは言いようだよね。

「それはそれは。ご両親におかれましてはお気の毒なことに」

生きてるんだけどね。多分、全速力でこっちに向かっていると思う。
だが、ここは萎れておく方がいいかな。

「ご婚約おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

どうしよう。この誤解。今、否定したら、どうなるの?

横目でロアン様を眺めると、がっしりと手を握られた。

「おかげさまで。バリー商会のあれこれが片付き次第、式をあげたいと思っております」

勝手ゆーな。どの口がデタラメを。
後でどう収拾するつもり?

大体この2パターンで話が進んでいく。

そして、ついにジェロームのところへ。

ジェロームは傍のバーバラ嬢には目もくれず、ずっとこちらを睨んでいた。

何か言われる先に、ロアン様が声をかけた。

「バリー殿。あなたのところもつつがなく婚約が決まったそうですね。おめでとう」

ロアン様の声が大きい。会場中に響く。

「奇しくも同じローズという名前の方なのですね」

私はバーバラ嬢をこっそり観察しないではいられなかった。

髪の色だけは私と同じ枯れ草色だけど、確かに染めてるっぽい。目を伏せているので
顔はよくわからないけど、体つきは豊満でスタイルがいい。ジェロームさんの趣味か。

ジェロームは私の顔を見なかった。
ボソボソとロアン様に向かって言った。

「いえ、実はまだそこまで決まっていなくて。従姉妹のローズと結婚されるのですか?」

「もちろん」

「こう言ってはなんですが、ローズはいくら美人でも平民です。あなたなら、国中のどんな貴族の娘とも結婚できるのでは」

この失礼な言い分に周りは静まり返った。

「従姉妹に両親はおりません。ですので、代わって私どもが言わねばならないかと」

いつの間に私の保護者に!

「平民である従姉妹のローズの失礼は重々お詫び申し上げます。厚かましく婚約者を名乗るなど、身分不相応にもほどがあります。さぞ、お気にさわったことでしょう。実家が富裕だからと驕り高ぶったところがございます。当家で引き取り、再教育いたします」

ジェロームが私に手を伸ばした。

「バリー殿」

氷のように冷たい声が響いた。

「我が婚約者に何をしようとした」

「おお。騙されてはなりません。この者は、きれいな顔をしていますが、性根は腐っております」

なんだと? 私は顔には自信ないけど、性根には自信があるわ!

「私は従姉妹としてよく知っています。気の毒に思って結婚してやろうと考えていましたが、親がいなくなった途端、誰か他の男とどこかに行ってしまいました」

ロアン様の額に青筋が立ってる。

「私どもが引っ越してくる前、誰だかわからぬ男の手引きで自宅を出て行ってしまったのです」

あれ? なんだか真実なの?

私は隣に立つ、誰だかわからぬ男の顔を見た。

「その後は町中のあばら屋で暮らしていました。何人も男が出入りしていたようです」

おお。ヘンリー君もいるしね。二人だね。複数になるね。

「夜は特に不在でした」

合ってる、合ってる。それだけ聞くと、すごい悪女みたいだけど。
てか、ジェロームさん、ストーカーなの? 私、監視されてたの?

ちょっと顔色が悪くなったと思う。
気持ち悪い。

「一体、どこに泊まっていたのやら」

ジェロームはため息をついた。

「図星ですな。顔色が悪い。ふしだらな娘で残念です」

ではなくて! ジェローム、気持ちが悪い。確かにあの家は危険だったのね!

しばらく黙っていたロアン様がおもむろに口を開いた。

「ローズ嬢だが、私の母が心配して、夜は伯爵家に引き取っていた」

ロアン様が言い出した。

「特に夜が不安だ。あなたのところの一家が、ローズ嬢の屋敷に引っ越してきて、年頃のご子息がいると聞いて心配なのでな。夜は我が家に。昼間は護衛をつけた」

護衛ってヘンリー君のことか。

「マッスル家の者が護衛していた」

一家をあげて、筋肉隆々で有名なマッスル家。あのマッスル体操で有名なマッスル家の一員なら、護衛として抜擢されてもむべなるかな。実はヘンリー君だけど。

「バリー家の始末は私がつける。差し当たっては、屋敷を返して欲しいものだな。それはさておき、ジェローム君、婚約おめでとう。君の婚約者も平民だろう。私の婚約者に誤解があるようだが、私の婚約も祝福してくれたまえ」






しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜
恋愛
伯爵令嬢フランシーナ・アントンは、真面目だけが取り柄の才女。 将来の夢である、城勤めの事務官を目指して勉強漬けの日々を送っていた。 その甲斐あって試験の順位は毎回一位を死守しているのだが、二位にも毎回、同じ男の名前が並ぶ。 侯爵令息エドゥアルド・ロブレスーー学園の代表、文武両道、容姿端麗。 学園の貴公子と呼ばれ、なにごとにも完璧な男だ。 地味なフランシーナと、完全無欠なエドゥアルド。 接点といえば試験の後の会話だけ。 まさか自分が、そんな彼と取引をしてしまうなんて。 夢に向かって突き進む鈍感令嬢フランシーナと、不器用なツンデレ優等生エドゥアルドのお話。

喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~

浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。

処理中です...