【完結】町のはずれで小さなお店を。

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第22話 ロアン様の正体と婚約計画

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「え。それが復讐ですか?」

何の意味があるのかしら? 伯爵家の使用人と町の薬売りの組み合わせなんて、バリー家に何の関係もないじゃない。そもそもどこのダンスパーティに行くつもり?

「まずは準備が必要だな」

騎士様がニヤリと笑うと、どこかに合図した。

「モレル家のロアンが、ローズという名の美しい女性を連れて登場するんだ。もう間に合わない」

「モレル家のロアン?」

どっかで聞いたような名前だ。

私が首をひねっていると、騎士様はイライラした顔になった。

「俺だ、俺」

「騎士様?」

騎士様がますますイラついた顔になって言った。

「俺はロアン。前に名乗ったろ?」

「ああ。そういえば」

家にいた頃から知っている顔だけど、名前を聞いたことがなかったので、ずっと知らないままだった。初めてこのお屋敷に来た時、ロアンだと名前を教えてもらったっけ。

「バリー家に出入りするときもモレル様と呼ばれていただろう?」

「モレル伯爵のお使いなので、モレル様と呼ばせていただいていましたが?」

バリー商会の者が、バリーさんと呼ばれるのと似たような感じ? あまり知らない人の場合だと、個人の名前より組織の名前で呼んじゃうことってあるよね?

「俺の家名だ!」

もう、我慢がならないといった様子で騎士様が吠えた。

「俺が伯爵家の息子のロアンだ!」

え……。

全伯爵領でもっともイケメンで、寡黙でかっこいいと言われている?

「そう! そのロアンだよ! イケメンでかっこいい!」

口からツバを飛ばしながら、騎士様……ではなくてロアン様は怒鳴った。ツバ、汚い。

「これは大変失礼いたしました」

聞いてたのとイメージが全然合わない。
ひそひそ話によると、モレル伯爵家の一人息子ロアン様は御年二十一歳。沈着冷静、寡黙な美男子だと言う。

しかし、目の前の男は、黒髪青目で確かにイケメンだが、沈着冷静、寡黙ではない。
よくしゃべるし、しょっちゅう怒っている。本物?

「存じ上げませんで」

もちろんロアン様は適齢期なので、どこぞの侯爵家の令嬢やら、父親が大臣をやっている家の令嬢だのとのご縁談があるとかないとかで、領内では話題にならない日がなかった。私は関係ないけどね。平民ですから。

「なんで知らないんだ」

本気で騎士様……ではなくてロアン様は不満そうだった。

そりゃ何の関係もないですからね。知らないものは知らない。まあ、ご領主様の跡取りともなれば、領民は知っていて当たり前だと考えるのかもしれませんが。

「そのロアン様と一緒にダンスパーティに出るんだ。すごいだろう」

いささか興奮気味にロアン様は言った。

「そりゃすごいですね」

すごいことは間違いない。大誤解されそうだけど。

「未来の花嫁だ!」

……今、なんて言った?

「みんな、そう思うよね?」

ロアン様から、キラッキラした目を向けられた。

「それ、困りますよ」

「大丈夫だ」

大丈夫じゃないと思う。それに、それが復讐なの?

「無論だ。俺がお前を連れて行く。すると、ダンスパーティの参加者はお前に大注目する。みんな、お前の顔を記憶するだろう」

迷惑だなあ。

「当日、バリー男爵家のジェロームもローズ嬢という女を連れてくる。その得体のしれないローズ嬢を、バリー商会の一人娘のローズ嬢なのだと言いふらして、結婚する気だろう。バリー家の一人娘と結婚すれば、すべてがジェロームのものになるからな」

ダメだ、そんなこと。絶対に阻止しなくちゃ!

「同時に二人ローズ嬢がいれば、どちらかは偽者だ。もし、ジェロームたちが、バリー商会の会長が生きていることを知ったら、連れてこないだろうから、秘密にしたんだ」

今度は私の目がギラついた。
なるほど!

本物のローズは私なのよ!

「俺がついてる」

ロアン様が請け合った。

そうか。
伯爵家のご子息が保証してくれれば、絶対間違いない。バリー商会の娘は私だ。生きて、伯爵家の庇護のもとにいることになる。

「そして俺の婚約者だと発表する」

ちょっと、かなり嬉しそうにロアン様は続けた。

「あの、ロアン様、それは不必要なのでは?」

私はあわてて止めた。
大商会の娘とは言え、私は平民。身分が釣り合わないわ。誰が聞いてもおかしいので、そこまで大サービスしなくていいと思う。

「一緒に参加してくださるだけで、十分だと思います」

私は言った。
これは伯爵家のためにもなると思う。モレル伯爵家が本当の娘を連れてきたって事は、正義を貫いたことになると思うわ。

「伯爵様は清廉潔白で正しい方だと言われています。その息子のあなたが本物のバリー家の娘を連れてくれば、何が正しいかを示すために連れてきたんだなってみんなわかるでしょう」

だけど、婚約者なんて言う必要は全くありません!

「絶対に必要だ! これで、ジェロームはお前と結婚できない。偽物のローズと結婚するほかなくなる」

ロアン様は腹黒そうに言った。

「お前が社交界に出てくれば、ジェロームはお前と結婚すると言い出すに決まっている。すでに話は進んでいるのだと、戻ってきた両親に説明するかもしれない」

「そんなこと、私が否定しますわ」

私は叫んだ。
ロアン様は首を振った。

「バリー男爵家全員が口を揃えて、もう既に関係があるとか」

いやだああ。

「ローズ嬢は、ただのツンデレだとか」

意地悪そうにロアン様は続けた。

「言い出したらどうするんだ」

「両親は私のことを必ず信じてくれますわ」

「でもな、時間がかかるだろう。両親が帰ってくるのは2週間後だぞ。それまでの間に何が起こるか知れやしない。俺の婚約者になれば完璧だ。誰も絶対に手が出せないぞ」

それは確かに。確かにそうですけれども。

「さあ!」

ロアン様が合図した。







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