15 / 47
第15話 時間稼ぎ
しおりを挟む
返事ができない。私はヘンリー君と並んでいる人たちに目を向けた。確かに薬屋は大繁盛だ。
ヘンリー君は「並んでくださーい! おひとり様三個まででーす!」と叫んでくれている。
夕べ、騎士様は言葉を選んで伝えてくれたけど、時が経つにつれ事情がわかってきつつあるんだ。
両親の生死がはっきりしないので、バリー男爵家はそこに付け込んでいるのだ。後見人とか言って。
両親が死んでいたら、相続が発生して、商会も家も私のものになる。ドネルさんも私も、男爵の口出しなんか絶対許さない。
もし、もし、生きていてくれたら、私は家に戻れる。前のように安心して暮らせる。その時にはどんな目に遭ったか包み隠さず両親に伝えなくては。
あれ?
でも、どちらの選択にも薬屋になる道はないな?
いやいや。新しい商品としてバリー商会で売り出す道がある。
町の市場で売り出すことだけが販売方法ではないだろう。
私はもっと本気で商売に励まないかと勧めるグスマンおじさんに向き直った。
「実は弟が帰ってくるのを待っているんです」
時間稼ぎのために、グスマンおじさんに向かって、私はデタラメな話を始めた。
「乗っていた船が難波して消息不明なんです」
「えっ? 最近、バリー商会の会長が難破したんじゃないかって噂になってたけど、もしかして同じ船?」
「そうなんです。弟が帰ってこないと、いろいろ決められなくて。それに心配で」
私はうつむいた。本当に心配。両親が。
「そうか。そんな事情があったのか。じゃあ何か噂を聞いたら教えてあげるよ」
ありがたい。
「それで生活費のために、この店を始めたんです」
うっかり言ってしまった。
「えっ? なんで? 弟のお金で暮らしてたわけかい。弟さん、あんたより年下でしょ?」
しまった。兄にしとけば良かった。
「双子なんです」
私は渋々言った。
「でも、仕事で稼げる年じゃないよね? ご両親は?」
「うっ……田舎住いで弟が学校に行くことになったので、私もついてきたんです」
「じゃあ、生活費、ご両親に頼めば?」
「貧乏なので……」
グスマンさんはますます変な顔になった。
「学費は出せたんでしょ?」
「しょ、奨学金が当たったんです」
奨学金は当たらない。優秀だからもらえるものだ。
「へー。弟さん、優秀なんだなあ」
グスマンさんは感心した。
これ以上突っ込まれなくて良かった。
もう何も思いつかない。
「ローズさん、ハゲ治療薬と水虫の薬、売り切れになります。看板出しときますね」
薄い金髪を頭にべったり貼り付けたヘンリー君が忙しそうに走ってきて、『……は、売り切れました。またのご来店をお待ちしております』と書かれた看板を持って行った。最後尾あたりに置くのである。『ハゲ』『水虫』などと書かれたプレートが用意されていて、看板に貼っておくと、売り切れた商品がわかる。
ヘンリー君すてき。
まあ、そのまま読むと『ハゲ、売り切れました』になるけど。ハゲ、買う人はいないけど。
ヘンリー君が看板を設置すると、ちぇーっとか言う不満の声が上がっていた。またお越しくださいとヘンリー君が宥めている。
お店が開く前から行列はできていて、ヘンリー君は客の注文を聞いて、数が足らないと開店前でも看板を出してくれるのだ。これで苦情がずいぶん減った。
ヘンリー君、えらい。
店が始まると雑談どころではなく、私たちは次から次へと売りまくった。
あっという間に売り切れて、あっという間に仕事は終わってしまう。
なので、グスマンおじさんは、本腰を入れて商品を増やせと言っているのだ。
ヘンリー君は「並んでくださーい! おひとり様三個まででーす!」と叫んでくれている。
夕べ、騎士様は言葉を選んで伝えてくれたけど、時が経つにつれ事情がわかってきつつあるんだ。
両親の生死がはっきりしないので、バリー男爵家はそこに付け込んでいるのだ。後見人とか言って。
両親が死んでいたら、相続が発生して、商会も家も私のものになる。ドネルさんも私も、男爵の口出しなんか絶対許さない。
もし、もし、生きていてくれたら、私は家に戻れる。前のように安心して暮らせる。その時にはどんな目に遭ったか包み隠さず両親に伝えなくては。
あれ?
でも、どちらの選択にも薬屋になる道はないな?
いやいや。新しい商品としてバリー商会で売り出す道がある。
町の市場で売り出すことだけが販売方法ではないだろう。
私はもっと本気で商売に励まないかと勧めるグスマンおじさんに向き直った。
「実は弟が帰ってくるのを待っているんです」
時間稼ぎのために、グスマンおじさんに向かって、私はデタラメな話を始めた。
「乗っていた船が難波して消息不明なんです」
「えっ? 最近、バリー商会の会長が難破したんじゃないかって噂になってたけど、もしかして同じ船?」
「そうなんです。弟が帰ってこないと、いろいろ決められなくて。それに心配で」
私はうつむいた。本当に心配。両親が。
「そうか。そんな事情があったのか。じゃあ何か噂を聞いたら教えてあげるよ」
ありがたい。
「それで生活費のために、この店を始めたんです」
うっかり言ってしまった。
「えっ? なんで? 弟のお金で暮らしてたわけかい。弟さん、あんたより年下でしょ?」
しまった。兄にしとけば良かった。
「双子なんです」
私は渋々言った。
「でも、仕事で稼げる年じゃないよね? ご両親は?」
「うっ……田舎住いで弟が学校に行くことになったので、私もついてきたんです」
「じゃあ、生活費、ご両親に頼めば?」
「貧乏なので……」
グスマンさんはますます変な顔になった。
「学費は出せたんでしょ?」
「しょ、奨学金が当たったんです」
奨学金は当たらない。優秀だからもらえるものだ。
「へー。弟さん、優秀なんだなあ」
グスマンさんは感心した。
これ以上突っ込まれなくて良かった。
もう何も思いつかない。
「ローズさん、ハゲ治療薬と水虫の薬、売り切れになります。看板出しときますね」
薄い金髪を頭にべったり貼り付けたヘンリー君が忙しそうに走ってきて、『……は、売り切れました。またのご来店をお待ちしております』と書かれた看板を持って行った。最後尾あたりに置くのである。『ハゲ』『水虫』などと書かれたプレートが用意されていて、看板に貼っておくと、売り切れた商品がわかる。
ヘンリー君すてき。
まあ、そのまま読むと『ハゲ、売り切れました』になるけど。ハゲ、買う人はいないけど。
ヘンリー君が看板を設置すると、ちぇーっとか言う不満の声が上がっていた。またお越しくださいとヘンリー君が宥めている。
お店が開く前から行列はできていて、ヘンリー君は客の注文を聞いて、数が足らないと開店前でも看板を出してくれるのだ。これで苦情がずいぶん減った。
ヘンリー君、えらい。
店が始まると雑談どころではなく、私たちは次から次へと売りまくった。
あっという間に売り切れて、あっという間に仕事は終わってしまう。
なので、グスマンおじさんは、本腰を入れて商品を増やせと言っているのだ。
157
お気に入りに追加
621
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる